【神話】
ダンクさんは言いました。
「そうそう、そんな話だったかもしれない」
ボルドさんはカグーの話を褒めました。
「とてもお上手でしたよ」
ボーも感想を言いました。
「怖い話なんだね」
「あ、そうですね。もっと楽しいお話のほうが良かったですよね」
「ううん、月の話だからもっときれいな話かと思っただけだよ」
「アーララの出てくるもっと美しいお話もあったのに。そっちにすればよかったわ」
「そんなことないよ。初めて聞けて良かった。僕はアーララもダリアも名前しか知らなかったもの」
「そうだね。今は神話が語られることも少ないらしいよ。昔より知っている人も減っているそうだ。実は私もあまり神話は得意ではないんだ。テイアなんて言う名前はすっかり忘れていたよ」
ダンクさんも言いました。
「神話ってちょっと難しいよね」
「そうだね、神話はちょっと怖い難解なものが多いね」
「カグーさんはきちんと勉強していてえらいですよ」
ボルドさんは再びカグーを褒めました。
ダンクさんは一口お茶をすすると思い出したようにボルドさんに言いました。
「そうだ、ボルドさん、ボー君はレムールから一日程西にある大きな農場で奉公していたそうです。ボー君のいた農場ではジャガイモやとうもろこしや麦、それに牛がたくさんいるようです。カグーさんからの話でも、やはりこの地方ではそれらの生産がさかんなようですね」
「うんうん、そうだね。おおよそは御者台にも聞こえていたよ」
そのやりとりを聞いたカグーは感心しました。
「あらダンクさんはすごいわ。ただおしゃべりをしていたのじゃなくて、商売のねたを聞き出していたのね」
ダンクさんは笑いました。
「わお、カグーさん、聞き出すだなんて人聞きが悪い。まるで下心があったようじゃないか」
「だって、きっとそれが目的でおしゃべりをしていたのでしょう?」
「いやいや、商売に関係のありそうな事を覚えておいてまとめて伝えただけだよ」
すると今度はボーが感心しました。
「へえ、すごいんだね」
ダンクさんはすっかり楽しんでいるように見えてちゃんと必要な事を覚えていたのです。
ボーは牧童頭のように常に抜け目無くしている人がよそにもいる事を初めて知りました。
「私は商売に全く関係ない話だって大好きなんだ。そうだな、例えばおととい泊まったレーニングランデの宿屋では、料理人がとても不思議な話を聞かせてくれたよ」
ダンクさんはお茶をもう一口飲むとその話を語りだしました。