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ボー  作者: RENPOO
14/61

【銀貨】

農場から持って出た食べ物は次の日の朝には全部なくなってしまいました。

それでも昼を過ぎた頃にはまたおなかが減ってきました。

でも僕はお金を持っていたので、手近な農場に入っていきました。

まだその辺りは街道も広くて両脇には畑や建物がいくらかあったんです。

その家の庭ではおじさんが一心に大鎌を研いでいました。


「こんにちは」

「ほい。すごいだろ、ここの刃こぼれでいつも草が引っかかっちまうんだよ」

声をかけるとおじさんは大鎌の刃こぼれを僕に見せました。

「前にな、石に当てちまったんだよ」

大鎌に付いている大きな刃こぼれは、長年繰り返し研がれてすっかり丸くなっていました。

「そんで若えの、何か用事かい?」

「食べ物を売ってもらえませんか?」

「お、旅人さんか?じゃあ家の中にお袋が居るから訊いておくれ」


木でできた古い家の扉を叩くと、頭に白い布を巻いたおばさんがでてきました。

「すみません、食べ物を売ってもらえますか」

「どんな物が欲しいんだい?今食べたいのかい?」

「ううん、持ち運べるものが良いんだ」

僕は家の中に招かれ台所に連れて行かれました。

「何か良いものがあったかねえ。ああ、そこに座って待っておいで」

僕は木の丸椅子にテーブルを背にしておばさんの方を向いて座りました。

のんびり屋そうに見えるおばさんは、あちらこちらと戸棚やつぼを開けて、芋やチーズをテーブルの上に並べ始めました。

「お兄ちゃんはお金は持っているのかい?」

僕はかばんから銀貨を出しました。

「これで買えるだけ欲しいんだ」

銀貨を手に乗せると、おばさんは匂いをかぐように目の前で一枚づつひっくり返して眺めました。

「アーララ銀貨だね」

「そう言うんだ。うん、片方の面に女神アーララが描かれているよ」

「すごいね、お兄ちゃん」

「同じのが六枚。もらったばかりだから全部まだぴかぴかだよ」

おばさんは僕にお金を返すと、戸棚からどんぶりを出しました。

ふたを開けて僕に差し出してきました。

「一枚だけお食べ」

「クッキーだ!ありがとう」

クッキーはとても硬くてほんのり甘い味がしました。

僕はそれを少しずつかじりながら、おばさんが食べ物を捜すのを眺めました。

「お兄ちゃんは……あー、どれくらい食べ物を欲しいんだい?」

「それがさ、初めての里帰りだからどのくらい日にちがかかるかわからないんだ。なるべくたくさん欲しいな」

おばさんはテーブルに燻製と芋を並べました。

「全部使っていいのかい?」

「え?」

「銀貨六枚で買えるだけたくさん欲しいんだよね?」

「そうそう。どのくらい買えるのかな?」

「そうだねえ、お兄ちゃんはこれでどのくらいになると思う?」

聞き返されても僕にわかるはずがありません。

「わかんない。でも家までもつと良いな」

おばさんはまた背中を向けて食べ物を捜しました。

おばさんはつぼのふたを開けて訊きました。

「そうそう豆なんかもあるね」

「そのまま食べれる物が良いな」

「そうかい。豆や芋や粉なんかは旅には便利なんだけどね」

「うんとね、僕は鍋を持ってないんだよ」

僕がそう言うとおばさんは親切に教えてくれました。

「よっぽどお兄ちゃんは旅慣れていないんだねえ。今度からは鍋くらいは準備しなさいよ。煮炊きもできるしお湯も沸かせるよ」

「そうだね。次からはそうするよ」

おばさんはさっき出した生の芋も引っ込めてしまいました。

「そうしたら後は何があったかねえ。大して蓄えちゃいないんだけど、お兄ちゃんのためならたくさん売ってあげなきゃねえ」

「わるいね、おばさん」

テーブルの上にはいくつかの燻製の魚と燻製の肉と、チーズが半かたまり並びました。

「そうだ、夕飯のために焼いたパンがあるよ」

おばさんは大きなパンを一斤出してきました。

「今晩の分なんでしょ、持って行っちゃってもいいの?」

「いいともさ。今朝焼いたばかりだからまだ香りがするよ。これで銀貨をもらえるかい?」

「うん。ありがとう、おばさん」

僕は銀貨をおばさんに渡しました。

「これなら二、三日はもつね」


僕は買った食べ物を全部かばんに詰め込んで家を出ました。

庭では、鎌を研ぎ終わったおじさんが今度は鋤を研いでいました。

「お袋は何か食い物を分けてくれたかい?」

「うん、たくさん売ってもらったよ」

僕は太ったかばんを見せました。

「おお、そうかい」

おばさんは僕を追いかけて家から出てきました。

「おにいちゃん、これも持って行きなさい」

おばさんは持ってきたのはさっきの焼き締められたクッキーでした。

僕はどんぶりの中身を全部かばんにあけてもらいました。

「ありがとう」

「おいおい、お袋さん。そりゃとっておきのやつだろ」

どんぶりに見覚えのあるおじさんは文句を言いました。

でもおばさんは息子にあまり口を挟ませませんでした。

「良いんだよ。あとでいくらでも焼いてやるよ」

僕はとっておきだと聞いたクッキーを一枚取り出しておじさんに差し出しました。

「へへ、ありがとよ」

両手の塞がっているおじさんは口でくわえて受け取りました。


「どこまで帰るのか知らないけれど、大事に食べるんだよ」

おばさんはおじさんと一緒に僕を見送ってくれました。


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