【戦士】
広場は騒然となりました。
それと同時に、広場から見える丘の上に歩兵や騎馬が次々に現れました。
軍隊は見る間に膨れ上がり、丘の上には二百頭以上の騎馬が陣取りました。
広場の人々は慌てふためいて逃げ出しました。
王様は男たちに武器を取り女子供を逃がすように命令を出しました。
でも男たちのほとんどは武器を持っておらず、しかも半分以上は酔っ払っていました。
兵たちは走り回ったりお互いぶつかったりと大騒ぎです。
敵軍はわざと祭りのこの日に攻めてきたのです。
戦太鼓が打ち鳴らされると、両翼に旗手を従えた主将を先陣に、大軍が列を成して丘から真っ直ぐ王様のいる天幕を目指してなだれ込んで来ました。
ペンは槍の鞘を解いて投げ捨てると乗り手のいなくなった馬にまたがりました。
ペンは襲い来る大軍にペンは単騎で立ち向かいました。
ペンが稲妻のような速さで大群の目の前を駆け抜けると、敵軍の旗は二本とも地に落ちました。
ペンが走る馬の上から旗竿を叩き折ったのです。
怒った隊列からは三頭の騎馬が進み出てペンを迎えうちました。
しかしペンは馬に乗ったまま、この兵隊三人の鉄兜だけを串刺しにして見せました。
何百もの軍勢を前にヘケー帽をかぶり槍を振るうりりしいペンは、まるでヘケー神その人が戦っているかのようです。
敵の主将はふがいない兵隊を叱責して前に進み出ました。
しかしペンは瞬く間に主将の鉄兜も串刺してしまいました。
ペンの槍には鉄兜が四つも串刺しになりました。
この戦士がその気にれば、鉄兜の中身も串刺しにできるのは疑いようもありません。
怖気づいた敵の大軍は尻尾を巻いて逃げ出しました。
「ヘケー帽の戦士!ヘケー帽の戦士!」
広場の人たちは砂埃を残して逃げ帰る馬たちを見送りながら歓声を上げました。
逃げた女子供たちも広場に戻ってきてヘケー帽の戦士を褒め称えました。
当のペンは、「試合も中止だよね」騒ぎにまぎれて厩へと帰ってしまいました。
「ヘケー帽の戦士はどこじゃ」
遅ればせながら王様はヘケー棒の戦士を探しました。
しかしもうその時にはヘケー帽の戦士はいませんでした。
「誰か呼び戻してまいれ。ここに連れてくるのじゃ」
「どこだ」
「どこだ」
家来たちが探しても見つかりません。
「あの者は国を救ったのだ。あの者が居らねば今頃わしの命も無かっただろう。きちんと褒美を取らせねばならん」
広場にいた民たちも四方を探し回りました。
それでも見つかりません。
「一体あの者はどこの誰じゃ?」
しかし誰ひとりとしてヘケー帽の戦士の顔を知る者は居ませんでした。
「さっきまでここに居た者が消えてなくなる筈もあるまい」
「いやそれが、なんとも、どういうわけか……」
家来たちは困りました。
「ええいお前たちは敵軍を迎えうてぬばかりか人探しもできぬと申すのか」
ついに王様は家来たちにじれ始めました。
「本人が身を隠しているとどうにも難しいかもしれませぬ」
「どうしても見つけるのじゃ。今すぐに連れてまいれ」
王様の無茶な言いように、家来たちはちょっとあきらめて欲しくなりました。
「もしかしたら身分の低い者なのかもしれません」
「そんな事はかまわん、人探しもできないような家来よりは重く取り立ててやろう」
「でも、そもそもこの国の民ではないかもしれません」
「そんな事はかまわん、むしろ望むところじゃ。それなら姫たちの婿にすれば良いのじゃ。
わが息子としてわが国に招き入れようぞ」
すると妹姫様が王様に訊きました。
「たとえ頭にきのこが生えていても?」
「そんな事はかまわん、頭にきのこでも背中に風車でもかまわん、見た目などどうでも良いではないか」
妹姫様はにっこり微笑みました。
「それならここに私の馬を連れて来てください。私ならきっとヘケー帽の戦士をご紹介できますわ」
王様はさっそく家来に言いつけて、広場に妹姫様の白馬を連れて来させました。
広場の人々が見守る中、妹姫様は白馬の手綱を握っている麻袋に近づき、かぶっている麻袋を剥ぎ取りました。
麻袋の中から現れたのはあのりりしいヘケー帽の戦士の顔でした。
しかもきのこは麻袋と一緒に痛みも無く抜け落ちて、ペンの頭にはつやつやした黒髪が生え揃っていました。
広場の人たちは再びヘケー帽の戦士をたたえました。
王様はヘケー帽の戦士のペンを妹姫の婿に迎え次の王としました。
さて、打ち捨てられたきのこはずんずん育ち、家よりも大きく育ちました。
あなたがこの国に行くことがあれば、今でも広場の大きなきのこに登ることができますよ。