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ボー  作者: RENPOO
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【麻袋の話】

昔々、まだアイエイアに国が三十もあったくらいの昔、ある国に名を馳せた歯医者がいました。

ひとかどの財を成し、優しい妻と一人の息子と仲良く暮らしていましたが、悪い病気が流行った年に奥さんは死んでしまいました。

歯医者は周囲の薦めもあって、同じように病で旦那を亡くした後添えをもらいました。

ところが後家さんは自分の連れ子だけをかわいがり、義理の息子にはつらくあたりました。

その上、歯医者自身もある日体調を崩して寝込んだかと思うとほんの数日で死んでしまいました。


歯医者の忘れ形見の名前はペンと言いました。

歯医者の家と財産は、国の決まり通りにペンの物となりました。

しかし義理の母親もその息子もそれを面白く思いませんでした。

「同じ兄弟なのに何で私の子供が家の主人にならないのさ」

ある日母親はペンを隣町へ使いに出して、息子と先回りをして待ち伏せをしました。

ひとけの無い森に差し掛かったところで、息子が棍棒で頭を殴って気絶をさせて、二人がかりでペンの身体をじめじめした木の根元に埋めてしまいました。


しかし、ペンは息が詰まる前に意識を取り戻し、どうにか地面からはいずり出ました。

全身は泥だらけで頭はひどく痛みました。

「ああ、母親と弟に殺されかけるなんて」

痛む頭をさすると、不思議な事に一つのきのこが殴られた傷をふさいでいました。

ペンの命が助かったのはきのこの神ジョルキアハのお慈悲だったのかもしれません。

ペンは足を引きずり家へと向かいました。


しかし大して歩かないうちにみすぼらしい老人が倒れているのを見つけました。

ペンはひどく驚き、自分自身が泥だらけの大怪我な事も忘れ、行き倒れの手当てをしました。

なんとか意識を取り戻した老人は咳き込みながらお礼を言いました。

「ありがとよ。一体お前は誰だい」

老人はもう立ち上がれませんでした。

ペンは死にかけの老人に自分の身の上を話して聞かせました。

全てを聞くと老人は言いました。

「そうか、きのこの真似をしてふざけている愚か者ではないのだな。ならば親切への礼に一つ助言をしてやろう、お前は家へ戻ってはいかん」

「いいえ、父の遺した財産もなにもかもが家にあるのですから戻らないわけにはいきません」

老人は濁った目でペンを見つめました。

「戻れば母親と弟が今度こそお前を殺すだろう。お前は若く健康なのだから財産などくれてやるがいい、お前は自分の幸運を探せ」

老人はまたひどく咳き込みました。

そして薄笑いを浮かべると、

「俺には悪い奴の考える事がわかるのさ。ああ、三十三日が三十三回訪れるより早くこの坊主が幸運にめぐり合えますように」

それだけ言い切ると老人はあっさりと息絶えました。

ペンは老人を丁重に葬ると、迷った挙句に家とは逆の方向へ歩き出しました。


汚れた服は洗えばきれいになりました。

しかし傷が治り痛みが引いても、頭のきのこだけはそのままでした。

きのこは、強く引っ張れば頭ごと取れてしまうほど深くペンの頭に根をはりました。

命が助かった代わりにきのこが付いて回る事になったのです。

行く先々で人々がペンの頭を笑いました。

「何ふざけた物を頭に乗っけているんだい」

困ったペンは頭に布を巻いて旅を続けました。

何週間も東へ向かううちに、髪の毛は一本残らずきのこに吸い取られてしまい、太っていたペンは次第に痩せていきました。

きのこはそれまでにペンが見たどのきのこよりも大きく育ちました。

きのこが布や帽子では隠し切れないほど大きくなると、ペンは芋を運ぶ丈夫な麻袋を拾い、覗き穴をあけて頭からかぶりました。

人々は麻袋をかぶったペンを奇異な目で見ましたが、それでも頭にきのこが生えているよりはましな扱いでした。

「どこまで行けば幸運にめぐり合えるだろう」

ペンは東へ東へと旅を続けました。

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