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第8話~日常への帰還~

その後、死神軍の奮闘が功を成し、此度の集団戦は死神軍に軍配が上がり、天使達は逃げるように撤退していった。

かくいう俺は、初めての戦闘に身体的にも精神的にも完全に疲れ切ってしまい、情けなくも地べたに横になっている。

俺が視線を虚空に彷徨わせ、ボーっとしていると僅かな微笑を浮かべたアウラが俺の顔を覗きこんできた。

「お疲れ様」

そして、労いの言葉を一言。……あぁ、本当に疲れたよ。口にこそ出さないものの、内心で愚痴るように呟いた。

瞬間、俺はアウラに訊かなければならない事の数々を思い出し、バネ仕掛けの玩具さながらの勢いで上半身を起こし、アウラに迫った。

「なぁ、ここに来る前に俺がお前に訊こうとしていたこと……今なら話してもらえるか?」

半ば凄みを利かせて俺が言うと、しかしアウラはそれに対してまったく物怖じする様子すらなく、相変わらずの人を食ったような笑みを浮かべて言葉を述べた。

「別に話してもいいけど、時間は大丈夫なの?」

「時間? ……何のことだ?」

「幼馴染さんが待ってるんじゃない?」

「待ってるって……あっ!」

そうだ。俺がアウラと邂逅し、そしてこの戦闘を終えるまでどれほどの時間を食った?

体感的には、2時間は経過していてもおかしくないのだが……。

「……今、何時かわかるか?」

俺は震える声でアウラに訊ねる。するとアウラは右手の指を5本、左手の指を3本ばかりピン、と立ててそれを弄しながら淡々と俺に告げた。

「8時よ。8時。正確には8時12分だけどね」

……一瞬で俺の顔面が蒼白になるのが、自分でも痛い程に感じられた。

まずい、かなり遅い時間になってしまった。希美のやつ、怒ってるかな……。

何にしても、死ぬ気で急いで我が家に帰宅しなければ。あぁ、それと慰め程度に希美に説教される覚悟も自身の身体に植え付け刻みつけ……って、ちょっと待て。

「……何でそんなこと、訊くんだ?」

俺は一生、この死神界で暮らすことになったんじゃないのか? ならば人間界にいる希美のことはもう関係ないんじゃないか……? 

俺が頭上にクエスチョンマークを浮かべていると、アウラは露骨なほどに深い溜め息を吐きだし、出来の悪い生徒を叱る教師のように俺にビシッと指さし言葉を発してきた。

「もしかして自分がここで一生暮らすことになった、とか勘違いしてる? そんなことするわけないじゃない。まぁ別にそれがお望みなら好きにすればいいけど」

え……? いや、待て……。それってつまり……?

「俺のこと……人間界に帰してくれるってことか?」

「だからそう言ってるじゃない。さすがにそこまで拘束しないわよ。

貴方は貴方の日常を謳歌して、精一杯生きなさいな。そして貴方にとっての現在(いま)……つまりこの非日常は、貴方の日常を守るためにあるものと思いなさい。だからこそ、けじめはしっかりつけてね」

「……あぁ」

判っている。この非日常(たたかい)は、他の誰でもない、俺が俺のために行っていることだ。

だからこそ、それを俺の日常に持ち込み、誰かに迷惑をかけてはいけない。逆もまた然りだ。

非日常に、日常の感覚を持ち込んではいけない。そこのけじめをしっかりとつけなければいけない。

あぁ、そうだ。だからこそ、俺が今すべきことは――

「帰れると判れば話は早い! アウラ、すぐ人間界に帰してくれ! 希美……幼馴染に殺される!」

俺は涙を声に含ませながらアウラに懇願する。いや、冗談とかじゃなくてマジでやばいんだって。あいつ普段が優しい分だけにその反動なのか怒った時がくっそおっかねぇんだよ。

こんな時間まで何してたの真矢ちゃんと私ほっぽらかして夜遊びか散れやオラァナイフ投擲グサッ俺終了、とか冗談抜きでマジでありえるんだって!!

俺のあまりにも切迫した様子がアウラにも伝わったのか、アウラは若干引いたように表情を引き攣らせながらも「はい」と言って、俺達が人間界から死神界へ来る時にも使用した黒い穴を再び出現させた。

「ここ入れば、戻れるんだよな?」

「えぇ」

「よし、なら可及的速やかに帰還を……。っと、そうだ、今日訊けなかったこと今度絶対洗いざらい訊き出してやるからな!! 覚えとけよ!」

「大丈夫よ。約束してあげるから。……というか、すぐ会えると思うわよ?」

「……すぐ?」

「ほら、行かなくていいの?」

「あぁそうだった! じゃぁ、またな、アウラ!」

「うん、バイバイ」

俺に向けて微笑を浮かべ手を振るアウラ。俺はそれを背に受けて、人間界へと帰還していった。


……

………



「…………ッ、つ」

未だ僅かな浮遊感を感じながらも、俺は確かに地へと足を着けた。……これは、病院のタイルか?

前方を確認する。そこには、静かに寝息をたててスヤスヤと何とも心地よさそうに眠っている真矢の姿があった。……とすると、俺は真矢の病院まで帰ってきたことになるのか。

「…………んっ、ぅん……」

真矢がむずがるように寝返りを打った。このままここに長居したら、いずれ真矢を起こしてしまうやもしれない。こんなにも心地よさそうに眠りについている真矢を起こすのは余りにも忍びなかったので、俺は早々にこの場を退散しようとするが――

「……じゃあな、真矢。明日も来るから」

最後に一言だけ真矢に声をかけ、頭を一撫でしてから、俺は病院を後にした。



……

………




俺はそのまま寄り道をせず、まっすぐ我が家に帰宅した。 我が家に着くと、時計は既に八時半をまわっていた。……さすがに遅くなりすぎたな。希美、怒ってるかな……。あいつ普段はマジ怒りすることあまりないんだが、マジ怒りすると、こちらがドン引くくらい恐いんだよな……。

「ただいまー……」

「あ、おかえり、圭介」

恐怖心を殺しながらも、震える声で帰宅を告げると、希美がいつも通りの温かい笑顔で迎えてくれる。よかった……怒ってはないみたいだ。

「結構遅かったね。真矢ちゃんと喋りこんでたの?」

「あぁ……まぁな」

まさか天使達と命をかけた死闘を繰り広げて、挙句死にかけていたなんて言えるわけがない。

服は着替えたから大丈夫だとして、血の匂いとかが不安だったのだが……そちらも問題ないようだな。希美は何も言ってこないし。

「さっすがシスコン」

「褒め言葉としてとっておこう」

「うわ、開き直った」

希美が苦笑いしながら、キッチンの奥に姿を消した。俺も靴を脱いで希美の後ろに続く。

「また料理温め直すから、その間に着替えてきて」

「はいよー」

……あぁ。帰ってきたんだな。俺のあるべき、日常(いま)へと。


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