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第3話~邂逅~

キーン……コー……ン


授業終了のチャイムの音と共に教室全体が解放感に包まれる。……さて、俺はいつも通り真矢の見舞いかな。

そう思い、机の中身の物を適当に鞄に突っ込み、席を立ちあがった瞬間――

「圭介ー。一緒に帰ろー」

希美がパタパタと俺の机に寄ってきた。

「おぉ、いいけど……俺、いつも通り見舞いに行くけど」

「うん、もちろん私も行くよ。じゃあ、いこっ」

「おう」

俺は希美と共に、真矢の待つ病院を目指すのだった。



……

………



いつもの帰り道……というと語弊があるかもしれんが、まぁ要は、いつも通り病院に向かってるわけで。

仲良く希美と2人、横に並びながら病院への道を歩く。

「あ、そうだ圭介。冷蔵庫の中って何入ってるかわかる?」

「えー……。どうだったかな……悪い、覚えてねぇや」

「そっか……。じゃあ、帰りに適当に材料買って夕ご飯作ろうかな。圭介、夕ご飯何食べたい?」

「ん、なんでもいいよ。別に」

「えー……そういうのが一番困るよぉ……」

希美がプクーっと頬を膨らませる。俺がその膨らんだ頬を突くと、プシューと音をたてて、含んでいた空気が放出していった。風船かお前は。

「じゃあ……エビグラタンで」

「ん、了解」

希美は、任せておけと言わんばかりにその場で軽い敬礼をする。その姿が可愛くも頼りある姿に見えるのは俺がこいつの幼馴染だからだろう。こいつの料理は超がつくほどうまい。なのでこんなちょっとした仕草でも頼りある、なんて思ってしまうのだ。……っと、色々言ってるうちに着いたな。

「よし、入るか」

「うん」


……

………



「あ、お兄ちゃん!希美ちゃん!」

扉を開けた瞬間、真矢がはじけるような笑顔を浮かべ、俺達を出迎えてくれた。

「よー、お前の愛しのお兄ちゃんだぞー」

「そのお兄ちゃんの幼馴染だよー」

「わーいっ!」

真矢が非常にわかりやすい形で、身体をぴょんぴょんとうさぎのように跳ねさせ喜んでくれる。

うむ、こんな喜んでる姿が見れただけでも来た甲斐があったってもんだ。

「わー、圭介……。真矢ちゃんの顔見てニヤニヤしてるー」

「しょうがないよ。お兄ちゃんシスコンだもん」

「褒め言葉どうも、ブラコン」

「どっちもどっち」

希美が苦笑いして、俺と真矢の顔を見比べた。

「おっしゃる通りで……」

それに対して、俺は返す言葉も無く、ただ希美と同様に苦笑いを浮かべるのだった。


……

………



2人と話している時間は飛ぶように過ぎ去り、気付けば窓の向こう側は、綺麗なオレンジ色に染まっていた。

「わ、もう五時半……。ごめん、私そろそろ買い出しに……」

「あ、そうだった……。じゃあ、俺も」

と、椅子から立ち上がろうとしたが、寸でのところで希美に制止されてしまった。

「私はいいから。真矢ちゃんの側にいてあげて、ね?」

「……さんきゅ」

「どういたしまして。じゃあ、ご飯作って待ってるから」

「あぁ、頼む」

俺の言葉をを聞き届け、最後ににこっ、と笑うと、希美は病室から出て行った。

「ひゅ~!ラブラブ~!」

「そ、そんなんちゃうわっ!」

「もしかして2人の間に進展あり?」

「んなもんねぇーっつの……」

「本当~?新婚さんみたいだったよ?」

……まぁ確かに 俺と希美がよく恋人同士に間違われるのは否めない。

一番仲のいい親友だというのも認めるが……。まぁ、しょうがないか。

いつも一緒にいる、長年付き合ってきた幼馴染の宿命なのかもしれないな。

「どうしたの?黙りこくって?……もしかして、2人の未来でも想像してた?」

「ばっ……そんなの想像するわけ……」

……でも、アイツのエプロン姿ってすごく様になってるんだよな。

家事も完璧だし、客観的に見てあいつは可愛い。将来嫁さんになるとしたら、あいつ自身も、あいつの旦那さんも安泰だろう。そう考えるとあいつの未来の旦那さんが少し羨ましいかもしれない。

しかし……俺が希美の旦那さん……か。


……妄想中……


「ほーら、あなた?そろそろ起きないと遅刻するよ?……え?おはようの……?

う……うぅ……。しょ、しょうがないなぁ……。んっ……」


「朝ごはん……食べないの?……え?食べさせてくれって……。もう……甘えん坊なんだから……。

はい、あーん」


「あなた、今日も頑張ってね。いってらっしゃいの……」





「……最高だな」

「お兄ちゃん、鼻の下」

「っ!……すんませんでした」

真矢に指摘されて初めて気付いたが、俺はどうやらだらしなく鼻の下を伸ばしていたらしい。

くっ……兄として情けない姿を見せてしまった……。

「まぁ、男の子だしね。しょうがないんじゃないかな」

「それ、フォローになってない……」

「お兄ちゃん、希美ちゃんのこと好きなら早めに行動に出た方がいいと思うよ?希美ちゃんってなんでもできて可愛いから人気高いと思うし……」

「いや、別に……恋愛感情としての『好き』っていう気持ちは無いよ。まぁ、でも確かに……人気は高いな、希美は」

容姿端麗、成績優秀。家事もできて人当たりも良く……なんて、ここまで完璧超人なら男子共もほっとかないだろう。現に希美は何回も男子から告られてるし。俺の記憶が正しければ軽く10回は超えてるはずだ。

しかし希美はその告白を全て断ったそうだ。……希美は恋愛ごととか興味ないのだろうか、と一人の幼馴染として少し不安になってしまう。

「うん。だから、狙うなら早めにね?」

真矢は悪戯っぽく、くすっ、と笑い、俺をからかってくる。

「だから、狙ってねーっつの……」

それにあいつとは家族みたいなもんだし……。それに、多分向こうからしたら俺は手間のかかる弟みたいな感じだろう。互いに、今更そんな感情を抱くこともないだろう。

「むしろ、俺が狙っているのはお前だ。真矢」

「おぉ、何それプロポーズ?」

「真矢、俺と結婚してくれ」

「……!お兄ちゃん……そんなに真剣に私のこと……。ううん、でも駄目!私達は兄妹よ、兄様!」

「それが何だと言うんだ、妹よ!2人なら……どこまででも行けるはずだ!例えどんな困難が待ちかまえていようとも……! 真矢……君の気持を聞かせてほしい」

「……兄様、私は――――」

日常を象徴する、真矢とのふざけた小芝居。平和な一時。永遠にこの平和が続けばいいと、心の奥底で無意識に願っている自分がいた。――――しかし。俺のそんなささやかな願いを嘲笑わんばかりに、この平和を象徴する刹那を切り裂くように――真矢の顔面が一瞬にして蒼にそまった。


「……ゲホッ、ゴホッ、ッア、ハッ……ゲホッ!!ゴホッ!!ッ……!」

息苦しそうに、まるで気管に異物か何かが詰まり、それを必死に吐き出さんとばかりに咳き込む真矢。

喘息のようにひさすら咳を繰り返し、酸素を求めるかのようにヒューヒューと気管を笛のように鳴らしている。……まずい、発作だ!

「真矢っ!!」

俺は激しくせき込む真矢の背中をさすりながら、半ばぶん殴るようにしてナースコールのボタンを押した。

くそっ、この発作で死なないとは判っていてもやはり本能からか、吹き出る冷や汗は止まることを知らない。

――――真矢……!

「真矢!!しっかりしろっ!!真矢ぁっ!!」

俺の必死の叫びは空しく、ただ白が広がる空間に響くのみだった。




……

…………

………………



「いつもの発作です。現在は安静に寝かせてありますので……」

医師は「どうします?」といった感じの視線を俺に送ってくる。

「少し……側にいてやっても、いいですか?」

「もちろんです」

医師は優しく微笑み、俺を病室へ通してくれた。


……いつものことなのだ。真矢の発作が不定期で起こり……対処法がないため、落ち着くのを待つことしかできない。つまり、一方的に体力を削られているだけなのだ。

医師は俺が部屋に入るのを確認すると、静かにそっと、病室の扉を閉めてくれた。

そして、医師の足音が遠ざかっていくのが、俺の耳でも感じられた。俺たちに気を遣ってくれたのだろう。

俺は心の中で医師に礼を述べながら、静かに、しかし半ば急くように真矢のベッドへと駆け寄った。

「真矢っ……」

搾りだした掠れ声は、しかし、行き場を無くし、ただこの無機質な空気に溶けていくのみだ。

「頼むよ……真矢……生きてくれよ……。俺と……俺と、ずっと……」

無意味な願い。無駄な哀願。きっと多くの者はこの光景を見てそう言うことだろう。

あぁ、俺だって判ってる。こうやってただ、世界を嘆くように泣いてるだけじゃ何も解決できないって。

できることなら俺だって、いますぐこの涙を拭い去り、真矢を救うために奔走したい。

しかし俺にはその手段がないのだ。如何として、如何として……真矢を救えるというのだ?

方法がなければ行動に移すこともできない。あぁ、何て無力。判ってはいたが俺はなんて無力な存在なんだ。

できることなら俺自身を虐殺してやりたい。何故貴様は無力なのかと。何故大切な者一人も守れやしないのかと。そして何より――今こうやって真矢の目の前でこうしていることしかできない自分が何よりも、真矢を侵す『何か』よりもずっとずっと憎い――――……!!


「誰でもいいから……真矢を助けてくれよ……。なんでも……何でも捧げてやる……だからっ……!!!」


激情に駆られ、哀しみを咆哮する。あまりにも情けない叫び。あまりにも痛すぎる叫び。

あまりにも哀しすぎる叫び。しかし、そんな叫びは何の意味も成さない。真矢を救うこともできなければ俺自身を奮い立たせることもできやしない……。

あまりにも情けないことを叫んでしまった自分がやりきれず、途方もない絶望に身を沈めそうになった――――その刹那だった。






「その言葉に、二言は無いわね?」





「っ!!」

瞬間、聴こえたのはあまりにも聴き心地の良すぎる声。一瞬、天に召されたのかと錯覚してしまった。

俺は、反射的に声の聴こえた方を振り返る。

俺の瞳のレンズに映るは……紛れもない少女。しかし、最も少女とかけ離れている存在とも言えた。

蒼を映した透き通った瞳。百合の花のように凛と綺麗な白髪。

人間にしては少し色素の薄い肌。人間離れした美しすぎる顔立ち。

そして何より……そいつから放たれている、化け物じみた妖艶な『気』。


瞬間、察した。


こいつは人間じゃない――――――と。


これが…………俺と運命(かのじょ)の、初の邂逅だった――――。


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