第8話 思惑
ここは藤林宅、俊秀は三日掛けて捕まえた健をロープでぐるぐる巻きにして殺そうとした理由を聞き出していた。
「――――つまり、敵に『天空の勇者』の力を渡したくなかったんだな」
「はい……、そうです」
俊秀は呆れていた。健のした行動は元を正せばセレスティナの差し金のようだった。健の『正義の判決』の力を逆手に取ったセレスティナは、話術で俊秀を殺すような形に持って行った様だった。
「はぁー……、お前も使い慣れてない力、乱用すんなよ」
「カタジケナイ」
健は片言で言う。俊秀はそんな事は気にせず、朝御飯を頂く事にした、と言っても時刻はもう昼であり朝御飯とは言えなかった。
「おっ!! やっと帰ってきたか少年捜し、……って誰だそいつ?」
藤林が帰ってくるが、俊秀の傍らにロープでぐるぐる巻きとなった健を見て思わず気になったのだった。
「ああ、こいつは俺の親友、瑞浪健です。どうやら旅をしていたらしく偶々出会ったんですが、なぜか逃げてられたんでロープでぐるぐる巻きにしました」
「どーも、瑞浪健です。よろしくー」
俊秀はまだ呆れているのか少し投げやりに健を紹介する。しかし、そんな事を気にせず藤林は、親友と言う言葉に反応した。
(!! ……親友…………なのか?)
藤林は驚いた表情で一瞬健を見て思った。健の有様を見れば当然の反応だが、とりあえず俊秀を信じることにした藤林である。
「俺は藤林だ。よろしくな」
「ところで藤林さん、俺を捜していたんですか?」
「そうだ。すまんが俊秀、この村の村長に会ってくれ」
「えっ? 俺が?」
俊秀は驚きを隠せなかったが、藤林に従うことにした。ちなみに健の縄を解いてやって一緒に行く事になった。
特に何もなく村長宅に着き、中に案内される。村長宅は立派な家で時代劇に出てきそうな造りであった。村長が居る部屋の襖の前まで案内されると藤林が口を開く。
「んじゃ少年、俺はここで待っているから失礼がないようにな」
「わかりました。ケンさんは付いて来るのか?」
「ん? 勿論だ!! なんか面白そうなことが起きそうだしな!!」
健は満面な笑みで答えた。しかし、俊秀はその笑みを見て嫌な予感がした。大抵、健が笑う時は何かを企んでいるか何か確信を持った時ぐらいである。この状況では後者の方で恐らく元々ある直感と『正義の判決』の力によって、これは付いて行った方が面白いと思ったのだろう。
「まぁいいや、――すぅ…………失礼します!!」
俊秀は少し深呼吸をしてから大きな声で言う、中から入ってくれと声がしたので襖をゆっくり開ける。部屋の奥の方に村長こと不知火半蔵が座っていた。
「おお!! やっと来たか!速く入ってここに座りなさい」
「失礼します」
俊秀は再度礼を言ってから座る。健もお辞儀だけして俊秀の横に座る。半蔵は健を見て驚いた表情を見せるが俊秀が親友ですと一言言うと半蔵はなぜか納得した。
「まぁ、茶でもどうぞ」
半蔵は俊秀と健に茶を差し出す。俊秀は湯飲みに入ったお茶を一口だけ飲んで半蔵に言う。
「ところで村長、俺に何か用件が……?」
「そうじゃ、遠回しの言い方は苦手だからの単刀直入で言わせて貰う」
半蔵の顔が真剣になる。俊秀も釣られて真剣な顔をする。そして、半蔵は静かに口を開ける。
「我が孫娘、雅を貰ってほしい」
「………………は?」
半蔵の言った事が全く理解できず唖然としている俊秀。
「は、話が唐突過ぎて訳が分からないんですが…………?」
「む? 藤林から何も聞いていないのか?」
「はい、全く何も聞いておりません」
「そうか、この村は昔から戦闘民族として影ながらこの国を支えて来たんじゃ、しかしのぉ最近少子化が問題となっておろう。ここの村でも未婚の者が多くて…………このままじゃ跡継ぎがおらんと困っている時に御主が現れた。これは、チャンス!! と言う事で頼んでおる」
(そんな理由で突然現れた何処の馬の骨か分からない人間に自分の孫を渡すなぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーー!!)
と俊秀は心で突っ込みを入れる。とりあえず俊秀は心を落ち着かせてから半蔵に言う。
「その話はお断りします」
「何故じゃ?」
「理由は三つあります。まず一つ目は両者の気持ちを考えていない。二つ目はまだ俺は小学校にも入っていないクソガキです。今後活動に支障が出てくると思います。そして三つ目、俺はこの命を差し出してでもやるべき事がある。ここで腰を落ち着ける訳にはいかないんです」
「…………そうか、まぁここは引き下がるがわしは諦めんぞ?」
「……失礼します」
俊秀は一礼だけして部屋から出た。そして半蔵は再び口を開く。
「して俊秀君の親友君はどう思う?」
半蔵は部屋に残っていた健に質問をする。
「実に面白い話だが、爺さん独りで決める事ではないな…………。やはりお互いの気持ちを大切にしなければならない。つまり両方その気にさせれば良い」
「ほう・・・なるほど、つまり御主は賛成と言う訳か」
健は静かに頷き、話を続ける。
「と言っても、俺が賛成しても駄目なんだけどね。そこで策を講じようと思う」
「策? 何をするんじゃ」
「作戦名『城攻めるなら堀埋めろ作戦』!! ちなみにこの作戦は俊秀の行動を先読みする事が重要になってくる。何故なら――――」
「ふむふむ…………ほうほう…………」
半蔵は健の説明を聞いて納得する。そして、近い内に作戦を実行するため、明け方まで話し合う二人であった。
「おい少年、親友は置いて行って良かったのか?」
藤林は健をおいて先に出てきた俊秀に言うが、俊秀は笑いながら答える。
「大丈夫ですよ。あいつはその辺は考えあってやってますから」
「そうか……、ところで村長と何話したんだ?」
「自分の孫娘を貰ってくれって言われましたがすぐ断りました」
藤林は半蔵がこんなにも早く話を持ち掛けるとは思っていなかったため、呆れてしまう。
「すまんな少年。あのジーさんはこの村に子供が少ないのを気にし過ぎなんだよ、少年が来る前、大変な事になりかけて…………あーーーー、頭が痛い」
この先が不安過ぎて頭を悩ます藤林を見た俊秀はふと思った事を藤林に聞く。
「ところで、村長の孫娘ってどんな奴なんですか?」
「!? …………不知火雅、あいつが村長の孫だ」
俊秀はフリーズした。そして…………。
「うっっっっそーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
この声は村全体に響いたそうだった。
ここは、俊秀が以前住んでいた町。藤林達の活躍により壊滅は免れたものの謎の生物の出現により破壊された建物や死体がまだ放置されたままとなっており、生き残った人たちも逃げるように町から少しずつ去り廃墟になるのも時間の問題だった。
その町で一番高いビルの屋上にに少年は町を見渡していた。まるで町を我が物にしたかのように。
「おい、餓鬼。お探し物が見付ったぜ」
屋上に登って来た青年が少年に話しかける。しかし、少年は青年を睨み付けて怒りを込めながら言う。
「貴様、神兵の分際が八神将にそんな口を叩いて良いのか?」
「ああ、すまんかった。八神将さんよー」
「ふん、まあいい。で本当に見付ったのか?」
「もちろんだ。ただ、めんどくさい場所だからな。少し準備が要る」
「そうか、なら200程お前に渡そう。それで十分だろう」
にやついた顔で少年は青年に言う。それに答えるかのように青年も笑いながら言う。
「十分だな。少し待ってろ。準備が出来次第潰しに行ってやる」
青年は言葉だけを残して少年の前から消えていた。
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