第7話 蘇る力
「いやー……しかし、ケンさんも転生していたとは思わなかったぞ!」
「ふふふ、驚いただろ? 俺もまさかこんな事になるとは思わなかった」
世界を超えて久しぶりに出会った俊秀と健はお互い笑顔で話し合っていた。健は空を見上げて言った。
「今思えば、良く最後まで生き残れたと思うぜ」
「そうだな。色々と戦ってきたが良く死ななかったよ……。ところでケンさん、今の名前は何なんだ? まさか竹内のままか?」
「いや、今は瑞浪健だ。そんなことより俊秀はここに住んでんのか?」
健の質問に少し顔を曇らせながら俊秀は言った。
「ああ、最近ここに住み始めた。…………血の雪事件で家族が――――」
俊秀は先の言葉は言えなかったと言うよりも言わなかった。言ってしまうと何かが崩れそうな気がしたからだった。
「そうか……。でも俊秀、ゆっくりしている暇は無いぜ? 敵さんが動きをチラつかせて来ている」
健の表情が真剣になったので俊秀も真剣な顔をする。
「……何があったんだ?」
「世界の様々な所でほんの少しだけだがバランスが崩れて来ている。敵は何を考えているかは知らないが、この調子だと世界は良く持って15年かな」
「!! ……何故そんな具体的な判断が出来る?」
何か得体の知れない力を感じた俊秀は健に警戒する。
「俺も俊秀と同じようにセレスティナから八神将の力を貰っているからな、簡単にわかる」
「八神将? 何だそれ?」
聞いたことの無い言葉が出て来たので俊秀は表情を崩した。健は驚いた表情になったがいつも通りの口調で言った。
「えっ? セレスティナから何も聞いていないのか……。えっと、天界も昔争いが絶えなかったらしくて、長き戦いを終わらせる為、神は力ある8人を将として選び戦い、その8人は戦いの中で八神将と呼ばれる様になったんだって」
「へぇー……。なるほど、ケンさんも俺と似た様な力を持っていると言う事か」
「まっそう言う事だね。…………では、俊秀そろそろ始めようか」
腰を下ろしていた健は立ち上がった。しかし俊秀は健の言った意味を理解出来る筈も無く、健に聞き返した。
「? 何を始めるんだ?」
「ふふふ、こう言う事だよ!!」
健は素早く何かを懐から取り出し俊秀に向けた。瞬間的に危険を感じた俊秀は左側に飛び込み物陰に隠れる。
「ケンさん! 何がしたい!?」
健が懐から取り出した物は、改造された拳銃だった。俊秀は間一髪で避けられたが、油断していた為動揺が隠せなかった。
「俊秀、お前がこの世界での存在理由は忘れた訳じゃないだろう?」
「もちろんだ。だから今まで鍛錬を続けてきた」
健は真剣な顔をしていた。淡々と健は俊秀に言う。
「確かにお前の身体能力はかなり高いと思う。しかし、お前は前世程の強さが無い。何故だか解るか? 八神将の力も使えない上に前世で使っていた技が使えなくなり、更にお前の十八番だった『百仙錬磨』の練度が落ちている。このままだと正直世界がやばい」
健の話を聞いた俊秀は、自分が置かれている立場を再度理解した。自身が強くならない限り世界は敵の手に落ちてしまう。俊秀は静かに深呼吸をして健を見る。
「成る程、俺に少しでも戦って強くなれって事か?」
「そうだ。まぁ実際お前は、実戦で強くなるタイプだからな。本気でいくぜ!!」
俊秀はまぁ確かにそうだなと一言呟いてから、物陰から出て相手を見据える。
「なら、尋常に勝負!!」
「今のお前で勝てるかな? 俊秀!!」
俊秀は一気に前に出る。氣を使い身体能力を上げ一撃で仕留めるつもりであった。右ストレートを健に打つが健は軽やかに避ける。続けて左の回し蹴りをするも健は避ける。その後も俊秀は健に打撃技を繰り出すが全て避けられるのであった。
「ちっ……当たんねぇ」
「ふふふ、俊秀打撃は当てなきゃ意味無いぜ?」
健は攻撃を避けつつ隙を見て攻撃を仕掛けた。俊秀は反応する事が出来ずにまともに腹部に鉄球の様な物が重く食い込み吹っ飛ばされる。吹っ飛ばされつつも健の右拳が鉄球になっていた。
「がはっ――――その右腕…………! 変身が使えるのか!?」
「俊秀、俺は前世の能力を使うことが出来るんだぜ」
健の使った技は、氣を変換して自身の身体を変化させるもので、氣が続く限りあらゆる物を変化することが可能である、故に全身武器と言っても間違いではない。
俊秀は体勢を立て直し再び健に仕掛ける。
「こいつは厄介だな」
俊秀は苦い顔をした。もし健が前世の能力が使えるのならあの技も使えると言う事になる、だとすれば、俊秀の技『百仙錬磨』が勝つためには必要となってくるが、完璧に使えない技に縋っても使えないのであれば、今の状態で勝つしかない。
(しかし、あれだけ攻撃を仕掛けたのに掠りもしないのはおかしいぞ?)
俊秀は一つの疑問が浮かんだ。今の健の戦い方は相手の動きを読んで避けるような感じ、いや相手の動きがわかって避けている様に見えた。前世ではもっとトリッキーな戦い方をしていた様な気がする。この世界に来て健の戦い方を変える様な事があったのだろうか。
「俊秀ー!! 動きが悪くなってるぜー!!」
「くッ!? …………!!」
健は改造拳銃で俊秀を狙う、俊秀は弾を避けるため物陰に隠れようとするが健に尽く行く手を拳銃から放たれる弾により潰されていた。それにより俊秀は何発か被弾していた。かろうじて致命傷は無かったが健の言う通り動きが少し悪くなっていた。
(くそー、前世なら傷一つ付かないんだが…………)
「俊秀、お前の使っている仙術は術師としての基本しか使っていない。それでは、何時まで経っても上に行けないぜ!!」
健は左腕を剣に変化させて、近距離戦に切り替える。俊秀は近付いて来た健を見て、氣を更に練り肉体を硬質化させる。前世の時の様にうまくいかないのは先ほど健から受けた傷で解っていたが、気休め程度にはなった。
「くぁ…………ちっ!!」
「硬質化がまだ甘いぜ!! それじゃあ世界の命運を賭けられんなぁ」
俊秀の身体に切り傷が増えていく、思い切って健に蹴りを入れようとするが地面につま先が引っかかり、土を巻き上げてしまう。だが、巻き上げたものが運よく健の目に入り一瞬の隙を生んだ。このチャンスを物にするため攻撃を仕掛ける。
「どりゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
しかし、俊秀の攻撃は虚しく避けられた。
(えっ!? 完全に隙を突いたのに何故!?)
「くっ危なかった……」
健はよろけながら俊秀と距離を取る。俊秀は色々と考えながら健に攻撃を仕掛け続けた。
(あいつは俺の一手先まで読んでいるのか…………? 未来予測の能力? それなら色々と納得できるが、俺が誤って巻き上げた物は避けられなかった。つまり単なる未来予測ではないと言う事になる。あいつの予想外の事は予測出来ないのか?)
俊秀は、勘付き始めた。健が昔の戦い方を変える事があるなら何か理由があるはずだと。
(ケンさんは結構手堅く行く方だからな。そう言えば八神将の力を手に入れたって言ってたな…………。まさか、その力を試しているのか!? だとすればその能力は自分が予測できる範囲で未来予測が出来る……見たいな感じか?)
俊秀は少し笑ってしまった。相手は使い慣れていない力を使っているつまり勝機がある。
「目潰ししても俺は一撃も貰っていない、それで世界が救えんのかぁ?」
「ああ、救って見せるさ!!」
健は俊秀の攻撃を避けつつ切り込んでいく、俊秀は切り傷が増えていくが攻める事を止めない。しかし、一瞬だけ俊秀は動きが止まった。血が少し流れすぎたのだ。
(!? まずい)
「貰ったーーー!!」
健は右腕をハンマーに変え、俊秀を殴った。俊秀はそのまま吹っ飛ばされる。
「悪いな、俊秀。いくら頑丈でも、それだけでは俺に勝てないよ」
健は吹っ飛ばされた俊秀の元にゆっくりと歩いていくのだった。
吹っ飛ばされた俊秀は少しだけ変な夢を見ていた。そこは真っ暗で一つだけ鎖で止められた扉があった。その扉を開けようとするがなかなか鎖が取れずに開けられない。ふと自分の首に何かが掛かっているのに気付くとそれは鍵だった。その鍵を手にするも鍵穴が見つからず困っていると、その鍵は突然光を放ち消え去っていた。扉のほうを向くと鎖が無くなっており扉が開いていた。その扉の向こうからは光の粒子が飛んで来て俊秀を包み込んだ。
「俊秀、今のお前の力なら間違いなく敵にやられるぞ」
健は気絶している俊秀に語りかける。
(気絶しているのか…………ならここで終わりにしよう)
健は右腕を剣にして大きく振りかぶる
「さらば、わが友!!」
俊秀の胸に突き刺した。
――――ガギン
なぜか金属音が鳴り響いた。
「…………ギリギリ間に合ったぜ」
俊秀は健の右腕を掴んでいた。そのまま武器(腕?)破壊をする。
健が右腕の痛さで隙を見せたのを逃さず、足技を混ぜた重い三連打を食らわし、ぶっ飛ばした。
「ゴフッ…………その身体の硬さ、百仙錬磨か?」
健は変身能力は使って右腕を再生させる。
「おうさ!! やっと思い出したぜ!! しかし、まさか親友に殺されそうになるとはなぁー…………。ケンさん分かってやったんだろうなぁ!!」
俊秀の顔を見て健は冷汗をかいた。そして前世でのトラウマが蘇る。あの恐ろしい顔……俊秀は本気で切れている。直に健は弁解する。
「いやー、こ……これには、深い訳がっ…………!!」
「ふふふふふ…………、弁解無用っっ!!」
俊秀は突っ込んでいく、健は何処から取り出したのかわからないがマシンガンを打ちまくる。しかし、百仙錬磨を思い出した俊秀にはまったく意味の無い代物だった。
俊秀の使う仙術『百仙錬磨』は究極の肉体コントロールと氣の操作を可能とした技である。この技を使用中であれば肉体を金剛石並みに硬質化する事も可能であり、物理的な攻撃を弾く事が出来るようになるのだ。
「クソーやっぱり駄目か!! ビーム兵器造っとくべきだったなぁ……」
「今更後悔しても無駄だぁ!!」
俊秀は健に連続で攻撃を仕掛けるが、全て避けられてしまう。
「ふふふ、攻撃は当てなきゃ意味無いぜ」
「ああ、もちろんだ。だから今から当てる」
俊秀は左足の回し蹴りをした。それを健は避ける。
(次はそのまま勢いに乗って右の裏拳が……)
「がふ…………!???」
健に俊秀の攻撃が当たっていた。健は予測していた攻撃を避けれなかった事に驚きを隠せない。それを見た俊秀は口を開く。
「ケンさんもちろんまぐれじゃないぜ?」
「一体何を…………?」
「答えは俺が勝ってからのお楽しみだっ!!」
俊秀は次々に攻撃を当てていく、健はこのままだと負けると思い賭けに出る。
(!! 氣の流れが変わった……。あれが来る!!)
俊秀も距離を取るため健に背を向けて走り出す。健の発動しようとしている技、『無の境地』、変身能力の応用技である。
この技は周囲に漂う氣を変換して特殊な結界を作り出すことにより、結界内ではあらゆる特殊攻撃、能力が封じられる。結界の外ならば、完全とはいかないが攻撃は防ぐ事が可能なのだ。
「俊秀これを受けろっーーーー!!」
健は無の境地を発動させる。この結果内に俊秀が入ればこの勝負は勝ちだろうが、逆に外であれば恐らく負けである。
結界はどんどん広がり俊秀を包み込もうとしていた。
(勝った!!)
「ケンさんもまだまだだねぇーーーー!!」
俊秀は振り向き、いつの間にか溜めていた氣を右腕に乗せて放つ、広がっていた結界は割れる。その瞬間俊秀は健へ突進して行った。
「俺の勝ちだーーーー!!」
健は俊秀の行動を予測はしていたが、避けきれずに思いっきり殴られた健は気絶した。
「ん? ここは……」
「おっと!? ケンさん、やっと目が覚めたか!!」
健は身体を起こし、辺りを見る。どうやらどこぞの村の近くにある川らしい。
「ところで俊秀、何で攻撃が当てられたんだ?」
「ん? ああ、答えか!! 簡単だ、お前の予想を上回る攻撃をしただけよ」
俊秀はにっと笑いながら続けて言う。
「俺が誤って砂を巻き上げた辺りから気付いた。最初は未来予測か何かの力かと思っていたが、相手が思っていない様な事が起こると対処出来ない辺りを見ると完全な未来は見えない事がわかった。そこで俺は手を抜きながら戦っていたんだが、ドンピシャだった様だ。……それでも百仙錬磨が無かったら危なかったが」
健は唖然とするまさか八神将の力を完全に見破った訳でもないのに勝った事に驚きを隠せなかった。
「…………俺の八神将は『正義の判決』。予知能力ではないが、常に正しい判断を下せると言う力があるそうだ。しかし、そんな穴があるとはなぁ」
健はここでこの力は余り戦闘向きではないなと思うが直に考えを改める事となる。
「ところでケンさん…………。何故、俺を殺そうとした? 前世の恨みか?」
健は『正義の判決』の力を使い、俊秀が次、何をするのかを判断した。
「いやぁあ…………。あのぉお…………、ごめんなさいッ!!」
「ぬ!! 逃がさんぞ!! ケンさん!!」
俊秀から逃げる健その顔はかなり必死だった事は言うまでもない。
戦闘シーンうまく書けているかなぁ・・・不安だ。
誤字があったら、報告お願いします。