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ゼロの輝き  作者: 遼明
第Ⅰ章 変わる世界
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第7話 カップラーメンのワタル

「君達は何かい? 僕のファンかい? 困るなぁ。今、僕を追っかけされると困るんだ」


 カップラーメンのワタルはカップラーメンを片手に近付いていく、ただ近付いているだけなのに恐怖を感じざる得ない俊秀と健は声を振り絞る。


「いえ……俺達はファンじゃありません」

「そうそう、俺達は追っかけじゃありませんよ」

「へぇ、追っかけじゃない。最高にナウいこの僕を? …………確かにこの空中大陸まで来るとは思えないな」

「(なぁケンさん、コイツ何もんだよ。一言一言、めんどくせぇんだけど)」

「(さっきも言ったけど、この男はカップラーメンのワタル。全世界にあるカップラーメンを食べ歩いた動画で一躍有名になった。自称、最高にナウい男……。まぁ、アホ男って事だな)」

「そこ、僕に対して喧嘩売っているのかい?」

「イエイエ、トンデモナイ」


 こそこそと話している内容がばれたのか『カップラーメンのワタル』は健を凄い剣幕でにらみつける。しかし、健はしらばっくれるかの如く、棒読みで返答した。

 それで納得したのか、今度は自分がいかにナウいのか、世界はどれだけ遅れているのかを説明しだした。俊秀と健から言わせてみるとそんなものどうでもいい話であったがこのまま話を聞いているわけには行かない。ここには有り難味の欠片もない『カップラーメンのワタル』の話を聞きに来たのではない、ドラゴン退治に来たのだ。つまらない話を聞いている暇などない。

 それに俊秀が今いるのは飛竜の巣であり、この男が今回の件で無関係とは思えない。

 そして、余りにつまらない話を聞いていたためか、俊秀が痺れを切らし『カップラーメンのワタル』の話をぶった斬る形で話を切り出した。


「ところでカップラーメンさん、貴方はここで何をしているんですか?」

「おうおう君ぃ、僕の名前はワタルだ。けしてカップラーメンではない。間違えないでくれよ? で返答に関してだが勿論ここでカップラーメンを食べていたんじゃないか、君達も食べるかい? お勧めはトロピカル☆マンゴーラーメンだ」

「マンゴッ!? いりませんよそんなもん!! 後、ラーメン食べる為に洞窟の中にいるって思いっきり不自然ですよね!?」

「えぇー、今最高にナウいのにぃ、美味しいのに…………ズルズル」

「今食うなぁぁぁあああ!! 質問に答えろよ!! ケンさんも何か言ってくれ」

「む!? このトロピカル美味い!? 俊秀、これなかなかいけるぞ」

「お前もかぁぁぁあああ!?」

(くそっ……俊秀よ、相手に乗せられちゃ駄目だ。落ち着け、相手はきっとアホ男だ。上手く乗せる事ができれば、情報を聞き出すことが出来る……はず。こう言う心理的なものは得意じゃないけど、頑張るんだ俺!!)


 強い意志の力で心を奮い立たせる俊秀は心理戦に持ち込もうとするものの、カップラーメンは己がいかにナウいのかを永遠に語り続け俊秀に付け入る隙を見せない。

 ……と言うか、カップラーメンの独壇場でまったく聞く耳を持たなかった。結果として一時間以上の心理戦は俊秀の心に大きなダメージを残し、もう俺もトロピカル☆マンゴーラーメンを食べようかなと本気で思い始めた頃、救いの手が現れたのだった。


「出雲殿、やっと見つけた。急に走り出すものだから道に迷って…………。ところで飛竜はいましたか?」

「おお! フィオーネ、良いところに来てくれた。実は飛竜はここにはいなくてな、変わりにこのカップラーメンがいたわけだが、コイツかなり怪しいんだ。上手く情報を聞き出せないか?」

「なるほど、心理戦を挑むわけですか。いいでしょう、ここは私に任せてもらおう」


 深く頷くとフィオーネはカップラーメンに近付いて声をかけようとした時、カップラーメンは大きく反応した。


「つまり、僕は世界で最高にナウくて…………ヴィーナス!? 銀髪美少女…………僕のファンだね!」

(もうわけわからん)

「え? ええ、私ファンなんですよ」


 突然の切り返しに一瞬唖然としたフィオーネだったが、相手に上手く乗ることで情報を聞き出す事にしたようだった。


「ま さ か 、こんな辺境まで追っかけが来てくれるなんて……嬉しいね。ここまで来てくれたってことはつまり君は知りたいんだね、気になるよね。 こ こ で 、僕が何をやっていたのか? 教えてあげよう!!」

「はい、教えてください」

「僕はこの国、空中大陸のみ存在する産物、命の根源だと言われるマテリアルの採集の独占。その為に、この空中大陸の空中要塞都市『レティシア』を落とすこと。最初は実に簡単な任務だと思ったんだけどね…………。思うように落ちないんだよねぇ。でもそれも今日で終わり、今日で肩がつく」

「!? フィオーネ、伏せろ!!」

「え? きゃあ!?」


 カップラーメンの雰囲気が変わった。とっさにそれを感じ取った俊秀は彼女の頭を無理矢理押さえつけ、自分自身も地に伏せる。するとどうだろうか俊秀とフィオーネのいたちょうど後方、その壁が爆砕し、洞窟全体を大きく揺らしたのだ。


「え? え? な、何なんだ!?」


 ラーメンを真剣に食べていた健は何かが爆砕されたことに気付くが、会話に参加していなかった為、状況が全く理解できておらず、若干パニックに陥っていた。


「ほう、今のを避けるか。流石は僕のかわいい飛竜を切り殺しただけはあるね」

「お前は何者だ?」

「そうだね。まだ僕の自己紹介はしていなかった。『カップラーメンのワタル』は表の顔。そして、本当の名前は八神将の一人に仕える神兵『ドラゴン使いのワタル』だ。今後よろしく」

「カップラーメンじゃあなかったのか!?」

「ケンさん、そこ驚く事じゃないから!?」

「ドラゴン使いのワタルッ!! お前はマテリアルを独占して何がしたい」

「凄い剣幕だね、ヴィーナス? 僕には特に考えなんてないさ。ただある人から頼まれちゃったしさ、それに従っているだけだよ」

「なるほどねぇ、それじゃあ教えてもらおうか。お前の後ろにいる奴」


 やっとパニックから開放された健は、大胆不敵に笑いながらワタルを睨んだ。そして、負けじと笑いながらワタルはこう言うのだ。


「無理☆」

「なら実力行使だ! いけぇ俊秀! 捨て身タックルだ!!」

「俺はモンスターか!? けど今回はまぁいい。ケンさんとフィオーネは安全な場所まで逃げな!!」


 俊秀は一声かけると捨て身タックルを本気で繰り出すかのように突っ込んでいくが、ワタルの堂々とした構えに違和感を覚える。しかし、それに気づいたのは接触するコンマ一秒程の時だ。最早止まる事などできない。


「君達、忘れてないか。ここがどう言う場所なのかを?」

「は? ――――ッ!?」


 突然、俊秀の足元から閃光が現れ巨大なハンマーで叩かれたような衝撃が襲う。全力で喰らいにかかっていた俊秀は突然の攻撃を捌く事が出来ずに壁に叩きつけられた。


「ここはある意味僕の砦。簡単に攻略出来ると思ったら大間違いだ」

「げほごほ…………マジかよ。ここで登場とか聞いてねぇよ」


 俊秀の眼前には、巨大な樹木が根を生やしたようにどっしりと大きな四本足が巨体を支えいた。その足から伸びる爪は鍵爪のように鋭く、敵対した相手を切り刻むであろう。そして、体と同様に巨大な口から鋭い牙を見せ、怒りの咆哮を上げた。まさに己がこの世界の王者だと誇っている。

 この存在感、間違いなかった。ドラゴンである


「竜種の土竜(モグラ)だよ。大地で生活する事を選んだこの竜種は翼が無い。でも地上を動く速度、樹木のように太い四本足の力は飛竜よりも上だ。君で一人で勝てるかい?」

「ちっ…………ケンさん。すまんが――――」

「いやいや無理無理無理! こっちもドラゴンに囲まれたって! そっちでなんとかしてくれ」


 俊秀が言おうとした事を感じ取ったのか、健は声を上げて拒否する。もう既に健とフィオーネも、閃光と共に現れた土竜に囲まれ、戦闘が始まっていた。

 健達に群がる土竜は大きさはない。しかし、竜種特有の特性は引き継がれ鋼のように堅い鱗は並みの攻撃は傷一つ付けられないのだ。

 数々の兵器を創作し、暗器の如く隠し持っているそれを自分の腕のように扱う健はともかく、フィオーネの持っている対人用の細身の剣では、いくら剣技があろうと竜の鱗を傷つける事も叶わない。


「くっ……私の剣では皮膚さえも裂けんぞ。瑞浪殿、何とかならないか?」

「まかせろ、こんな時にはコレッ! 荷電粒子ブレード! コレのボタンを押せば、荷電粒子ブレードが形成され、どんな生物もサクッと逝っちゃうよ。ただそれ単三電池2つで動いているから三十分程しか動かないけどねッ!」

「十分だ! 感謝する」


 健はポケットからサランラップの筒状のブツ。荷電粒子ブレードを取り出し、フィオーネに投げ渡す。それを掴んだフィオーネはボタンを押して、青白い粒子を纏う荷電粒子ブレードを形成した。


「はぁッ!!」


 そして、突進してきた土竜をそのまま流れるように一閃。文字通り真っ二つにしたのだった。


「凄い、これが科学の力なのか!?」


 青白い粒子で形成させた刃は土竜の鋼のように硬い鱗を豆腐のように切り裂いた。それに驚きを隠せないフィオーネ。しかし、その驚きは一瞬にして確信に変わる。


「これなら、私も戦える! すぐに援護に向かうぞ!!」


 持ち前の身軽な剣技で次々に土竜を両断していき、相手する数をどんどん減らしていった。しかし、そんな気合十分なフィオーネに健は水をさした。


「おーい、フィオーネ。それは無理だと思うぜ」

「何? そんな弱気でどうする」

「どうするもこうするも、あれ見て言えよ」


 健はある場所に指を差した。その場所は一定時間の間隔で地面がぼんやり光ると土竜が地の底から這い現れ、きりのないエンドレスレースを作り上げていた。


「む、無限増殖だと」

「そう言う事だね。俊秀、悪いけど一人で頑張ってくれ――――!?」

「グアッッッシャァァァァアアアアアア!!」

「ぬぉぉぉ!? コイツ、図体わりに機敏すぎなんだよ!?」


 健は不意に視線を俊秀が戦っている場所に向けるのだが、一方的な戦いが繰り広げられていたのだ。

 俊秀が相手にしている土竜は、まさに獲物を追うが如く恐ろしく速い動きで地面を抉り喰らいついていた。俊秀も土竜の勢いを利用し、カウンターを狙うが鋼の鱗とその巨体には全く通用してない。それどころか氣で纏われているはずの拳や足が軋み出して来ているのだ。

 それはどう言うことを意味しているのか。

 単純に考えるならば俊秀の持つ氣の枯渇、氣をコントロールする為の精神力が衰弱しているとこの二つが有力候補であるが、この大地は俊秀の持つ理と相性がいいので氣の枯渇は考えにくく、また精神的にもかなり余裕があるのだ。ならば、俊秀の身に一体何が起きているのか?

 全てはある原因から始まっていた。


(クソッ、出血が止まらない。もっと氣を回す必要があるのか! だがこれ以上回せば、戦闘に支障が出る…………。どうする?)


 そう最初の交錯の時、受けた怪我が原因だった。それも通常の人間ならば、重傷で意識を失うほどのものだ。しかし、俊秀はなぜ戦闘を行うことが出来るのか、それには彼が行う氣の操作にあった。

 俊秀の行う気の操作は十八番の技である『百仙錬磨』により成り立っている。その理由を挙げるのであれば、『百仙錬磨』の技そのものが究極の肉体コントロールと氣の操作を可能としているからである。つまりこの技が発動している間ならば、身体能力の向上は勿論、身体の硬質化。負った怪我を氣の操作で早く治す事は可能であるし、出血が激しい時は部分的に筋肉を縮小させる事で傷口を無理矢理塞ぎ戦闘を持続させる事も可能であるのだった。

 ここまで言うとかなり使い勝手のいい技である。しかし、それ故今回の事を引き起こしていたのだ。

 俊秀は今、重傷を受けているため流れる血を止めなくてはならない。受けた重傷は俊秀の動きを妨げるので、痛覚をある程度シャットアウトしなくてはならない。さらに相手は格上のドラゴン、その身体能力のスペックを埋める為『百仙錬磨』による肉体コントロールは必然的に使わなければ対抗できず、種族差はあるが全ての竜種が持つ鋼の鱗を攻略する為には素手では対抗できないのである。

 これら全てを俊秀は正確にコントロールしなければならないのだ。当然、処理する事が多くなればなるほど、処理するのは難しくなる。それによって氣は全く枯渇はしていないが上手く配分が出来なくなっていた。

 つまり俊秀はキャパシティーオーバーしているのだ。

 最初の奇襲さえ受けなければ、このような事になってはいなかっただろう。だが受けてしまった以上、俊秀が機能する歯車は狂いだし、一方的な戦いを強いられてしまったのだ。


「さぁ、君達は生きてここから出られるのかな?」


 俊秀の陥っている状況を知っているのか、ドラゴン使いのワタルは人を馬鹿にするような笑みを浮かべ、ただ戦闘を傍観するのであった。

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