第5話 王の依頼
辻原仁。
前世、彼は俊秀と健の親友であり、共に戦った戦友でもある。
健がこの世界に現れたのでまさか辻まで転生しているのではと考えていた俊秀にとっては衝撃的な事実だった。
「出雲殿、仁様とはどの様なご関係で?」
「フィオーネさん・・・顔が怖いぜ」
フィオーネは俊秀を睨みつけるような視線を向ける。まさに刑事ドラマで言う、犯人を捕まえ事情徴収している刑事の目だった。さらに頭を掴まれ無理やり目線を合わせられていた。
「えーとな・・・アイツは俺の友達なんだ」
本当は「前世からの友達なんだ」と言いたい俊秀であったが、そんなこと言ったらただの痛い子にしかならないだろう。それどころかフィオーネを変に刺激したくは無かった。
しかし、俊秀の願いもむなしくフィオーネは俊秀の方をがしっと掴み。
「出雲殿ッ!! 仁様が今何処で何をしているか教えてくれませんか? 私は仁様が旅立って、彼の安否が気になって気になって・・・最近では夜も眠れず、ああこうしている間にもフラグをどんどん立てているのでしょうね。仁様はかっこいいですから・・・きっと私よりも素敵な人と出会い恋に落ちて私の思いは知られずに終わってしまうんでしょうね」
「あ、あのーフィオーネ・・・さん?」
「でものそんな事はいいのです。私はただ彼の幸せを一番に・・・」
「おーい、戻ってこいフィオーネ・・・」
「・・・・だから・・・・・素敵で・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まだ終わらんのかぁ?」
俊秀はもはやフィオーネを止める事をあきらめた。
彼女の目は恋する乙女そのものだった。それを止めるにはかなり労力が必要になるだろう。
いつになったら、今に戻ってくるのだろうか?
「む? 誰か人が来るな」
馬がこちらに向かってくるので、きっとこの身なりの良い娘を迎えにきたと思っていた俊秀であったが、良く見ると物凄い勢いで突っ込んでくる。
「私の娘を誑かすなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーー!!」
「?! なに!?」
「エドワード様、どうなされたのですか?」
「馬を貸せ、私が先行して直接話をしてくる」
エドワードは鞍に跨り、物凄いスピードで駆けて行った。
(今、はっきりと見えたぞ・・・!! わが娘を誑かす狼がッ)
エドワードは距離にして約900メートル先にいるフィオーネを見つけた。
それは良かったのだが・・・。
(何処の馬の骨かは知らんが娘は渡さんッ!!)
エドワードはフィオーネは見知らぬ男と接吻しているように見えた。その為、エドワードは怒りと嫉妬で顔はまさに鬼となっていた。
「私の娘を誑かすなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーー!!」
「?! なに!?」
「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
エドワードは馬から華麗に飛び降り、空中で回転しながら、わが娘を誑かす男に渾身の右ストレートを食らわすのだった。
「申し訳ありませんでした・・・」
エドワードはボロボロになりながら、土下座で謝っていた。
完全に不意打ちを受けた俊秀は気絶し、その間エドワードの娘、フィオーネはエドワードを折檻していたそうだ。そのせいでボロボロになっているらしいのだが、折檻の過酷さを物語っていた。
「お父様、心配してくれるのは嬉しいですが・・・もう少し冷静になって下さい」
「わかった・・・青年よ。君の名前は?」
「・・・出雲俊秀です」
「そうか・・・では出雲君―――いや俊秀君!! 私の娘を頼ん」
「そういうことを言っているんじゃありません!!」
「ゲバッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!」
フィオーネの回し蹴りが炸裂し、飛ばされたエドワードは木にぶつかり、数秒はビクビクしていたが停止すると共に地面に寝転がった。
「とりあえず、俊秀殿! わが城へ招待するのでこの馬車に乗って下さい」
「飯はあるのか?」
「・・・勿論、用意させていただく」
「わかった。ケンさん、行くぞ」
「了解・・・おっさん、どうすんの?」
健は食べるのを止めて立ち上がり、傍に倒れていたエドワードを見て言う。
「わ・・・私は大丈夫だ・・・先に城へ・・・・・・行っているといい」
(・・・こいつ、意外とタフだな)
健はエドワードのタフさを見て、そのままエドワードを見捨てていく事にしたのだった。
馬車に揺られる事、数十分空中要塞都市『レティシア』の城へ辿り着いた俊秀と健はフィオーネによって玉座に案内されていた。その時、彼女の後ろを付いて歩いていた訳だが、彼女の髪について分かったことがあった。彼女の髪は銀色に見えるが良く見ると黒い毛と白い毛が交じり合うことで銀色になっている事に気付いたのだった。
その歳で苦労してるんだなぁと考えていたせいで俊秀は曲がり角に気付かず、そのまま壁にぶつかったのは言うまでもなかった。
「ようこそ!! 空中要塞都市『レティシア』へ!! 私はここの王、エドワード・レティシアだ。飛竜を撃墜してくれた事、感謝しているぞ」
玉座に案内され待っていたのは、玉座に座るエドワードだった。あの時、馬は馬車に連れて行かれいかれたのにどうやって馬車を追い越したのは置いといて、なぜボロボロの服のままで玉座に座るのか。この人は王の威厳と言うものを大切にしないのかと思った俊秀と健だが、よく考えてみると前世でも似たような奴がいた事を思い出し、無理やり納得する事にした。
「いえ、自分は自分の目的を果たしたまでですから」
俊秀はとりあえず、今いるのは玉座なので、丁寧に返答した。しかし、先ほどとエドワードの雰囲気はガラッと変わっていた。さすが一国を預かる王と思うがボロボロの服が台無しにしている。非常に残念だった。
「いやいや、謙遜などいい。早速、持て成そう付いて参れ」
エドワードは立ち上がりさっさと歩いていく、俊秀と健はエドワードの後を追う。すると一つの部屋に辿り着いた。
「俊秀・・・飯の匂いがするぜ」
「ああ・・・それも上玉だ!!」
エドワードは俊秀達を見てから、扉に手をかける。
「さぁ、客人よ! 思う存分食べるが良い!!」
扉の向こうに広がっていたのは、今の俊秀と健にとっては桃源郷であったのは言うまでもない。
「ふー、いいもん食ったー!!」
「何年ぶりだ? この飯は」
俊秀と健はいい顔をしていた。久々に味のある飯、一口入れただけで涙が止まらなくなりそうだった。満足そうな彼らの顔を見たエドワードは話を切り出すのだった。
「俊秀殿、健殿少しよろしいですか?」
「ん? 何ですか?」
俊秀と健はエドワードを見る。ちなみにエドワードが健の名前を知っているのは飯を食べている最中、フィオーネから聞いていたからである。
「君達の腕を見込んで、飛竜の討伐を頼みたい」
「飛竜? あれはもう倒したが・・・? まだいるのか?」
完全に緊張の糸が切れたのか俊秀はいつも道理に返答する。エドワードはそのまま話を続ける。
「ああ、報酬の方もしっかり払う。やってくれるかな?」
「・・・報酬は何だ?」
健はエドワードを見て言う。
健はこの依頼は受けたくないと思っている。めんどくさいからだ。だが、報酬によっては受けてみてもいいかなっと思っている。
「そうだな・・・情報提供と金20kg、そして・・・美味い飯」
「やります!!」
俊秀と健は同時に言うのだった。
ちなみに依頼を受けるの決め手となったのは、美味い飯だった。
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