第10話 逃走
深い闇の中1人の青年が村を見ていた。怪物が次々に民家を破壊して行くのが見える。村を攻めるのにそれなりに時間を浪費してしまった分、怪物は溜まっていたものが一気に開放されている様に見えた。
進軍してここに着くまでは時間が掛からなかったが、村に張ってあった結界が頑丈で、崩すのに一ヶ月ほど掛けてしまった事が少し誤算であるが、奇襲は成功した。
「絶対に炙り出してやるぜ・・・!!」
その時の青年の目は空から獲物を狙う鷹の様な目付きをしていた。
「ちっ・・・・数が多すぎる。こんな事なら模擬戦にマシンガン、使うんじゃなかった」
「ケンさん!! 弱音を吐くなっ!! 今度こそ守りきって見せる・・・・」
俊秀と健は怪物に囲まれないように倒しつつ村長宅に向かっていた。
そこはまだ火が上がっておらず、何かあったらまず村長の所に行けときつく藤林に言われていたので、その言葉に従っていた。
「それにしても、血の匂いが全く無いな・・・。他の人は逃げ切ったのか?」
「それならそれで良いじゃないか。・・・・・一気に駆け抜ける!!行くぞ、ケンさん」
俊秀と健は走るスピードを上げ怪物の間を抜けて目的地まで急ぐ。
しかし、怪物が増える一方、村長宅は見えない。その焦りもあってか怪物に囲まれてしまう。
道を切り開こうと俊秀は氣を練り、氣を乗せた拳を怪物に打ち込み、吹っ飛ばすが約3秒後にまた立ち上がってこちらに向かってくる。健も腕を鈍器に変化させ、一撃を狙うが数が多過ぎて思う様に動きが取れない。
「くっ・・・・こいつら一体何体いるんだ!?」
「こいつ等・・・致命傷を与えないと倒れないのか!?手間の掛かる・・・」
「俊秀、コレを使うぞ!!」
健は懐からお手製の閃光弾を取り出し、地面に思いっきり叩きつける。健を中心に閃光が暗き闇を切り裂く、怪物達は突然光が現れて一瞬怯んだ。閃光をサングラスで防いだいた俊秀と健はその隙を逃さず、逃げていた。
「ケンさん!! 持っているなら早く使えよっ!!」
「ごめんごめん、忘れてた」
怪物の群れを何とか切り抜け、村長宅付近に着く。家の入り口前には藤林がいた。
「おっ!? 少年、無事だったか!?」
「何とか無傷でここまで来れました。・・・・・ところで足元に散らばっている・・・・この肉片は?」
俊秀の視線の方に目線を向ける藤林はいつもの口調で言う。
「これ? コレはお前らを助けに行こうと村長の家から飛び出たんだが、怪物が俺の行く手を邪魔をするんでな、5体ほど、蹴散らした」
「・・・なるほど、だからここの周り怪物がいないんですね」
「まぁ・・・少年たちがこっちに来てくれて助かった。行く手間が省けたし、色々と言わなくてはならん事もあるが、まずは村長の家に入るか。しばらくは、ここは安全だからな」
少し疑問もあったが家の中に入る藤林の後を付いて行くのだった。
俊秀と健は藤林と共に半蔵がいる部屋に入った。
半蔵は部屋で座布団に座りながら、刀の手入れをしていた。隣では雅が座っていつもの拳銃とは違うものを手入れしていた。藤林達が入って来たのに気付いた半蔵は刀を横に置いてから言った。
「おお!! 御主ら無事に良く来た。藤林、良くやった」
「ジーさん、喜んでいるところ、すまんが事態はあんまりよろしくないな」
藤林の発言で半蔵の目は真剣になった。
「・・・やはりそうか、結界を破られた時はもしやとは思ったが、まさか怪物の大群が押し寄せてくるとはの」
「結界? そんな物が張ってあったら、俺達は入れなかったんじゃないの?」
健は思わず話に入ってしまう。その疑問に藤林は答える。
「結界と言っても、先祖が昔、退治していた妖怪の邪気避けの結界だ。人間や普通の動物には全く害の無い物であるが、邪気の持った者が無理に入ろうとするとそいつは消滅してしまうシロモノだ。本来あのような訳の分からない生物には反応しない筈なんだが、さっき外に出た時にこの結界が効いているのを確認している」
「ふーん・・・つまり、家にも同じような結界が張ってあるからしばらくは安全と言う事か」
健の納得した表情を見た藤林は再び口を開ける。
「奇襲されて怪我人及び死者が出ていない事は奇跡だが、問題が俺を含め五人しかいない事だ」
「ウムー、そうじゃのー」
「は? 五人? どう言う事ですか?」
俊秀は藤林の言っている意味を理解できなかった。半蔵は俊秀に言う。
「村の者はわしと藤林、雅以外、全員任務に行っておるよ」
「・・・・これからどうするんですか?」
「ここに立て篭もりたいと言っても、わしの家に張ってある結界はあんまり強くないしの・・・・・そうじゃ!! 導きの井戸に入るのはどうかな?」
「導きの井戸?」
聴き慣れない言葉が出てきた為、首を傾げる俊秀と健。藤林は真顔になり、半蔵に怒鳴る。
「ジーさん、本気か!? アレは下手すれば何十年間も外に出られないんだぞ!!」
「わしはいつでも本気じゃ、アレを使う以外わしらが助かるとは思えんのじゃがな。それとさっきから敬語がなっとらんぞ」
「くっ・・・村長、しかし・・・」
「だまれ藤林!! わしはお前に意見は聞いておらん。俊秀君、健殿どうかな?」
半蔵の視線は俊秀と健に向けられる。俊秀がゆっくりと口を開く。
「・・・・・導きの井戸とは何ですか?」
「導きの井戸とは、この家からちょっと山に入った所にあっての。その井戸の中に入った者を擬似空間に飛ばすのじゃ。昔は修行の場として使われていたそうじゃが、いつ出れるか分からない上にやっと出られたと思ったらジャングルのど真ん中や砂漠のど真ん中だったり、無人島だったり・・・・・・。散々だったので100年以上使われなくなったのじゃ」
「ほー・・・・・面白そうな井戸だな。勿論行くだろ、俊秀?」
健は半蔵の話を聞き俊秀に聞く。
「そうだなぁ・・・ここにいても敵の数が分からない相手と戦うよりはまだ良いか。よし、村長その井戸に入ろう」
半蔵は目は真剣であったが口だけ笑う。そして、横に置いていた刀を持ってから立ち上がり。
「よし決まったな。雅!! 準備は出来ておるの?」
「はい、抜かりなく!!」
半蔵たちが話している間手入れをしていた銃を持って雅も立ち上がり、それに釣られて俊秀と健も立ち上がる。
藤林もゆっくりと立ち上がり一言言う。
「まぁ少し不本意だが、少年達が決めたなら良い」
藤林は半蔵と向き合う。
「村長!! これより脱出作戦の指揮を取らせて頂きます!!」
「うむ、頼むぞ藤林!!」
「先陣を切って出るのは私と俊秀、後衛には健をその間に村長と雅はいて下さい」
「ふむ・・・・・健殿1人で大丈夫かの?」
「それは問題ありません。この一ヶ月、模擬戦で実力を見るに十分任せるに足りるものだと思います」
「うむ、それでルートの方は?」
「ここから導きの井戸までに怪物が何処に潜んでいるか分からないので最短ルートで行きたいと思います。先陣を切って私と俊秀が蹴散らし道を切り開け、倒し損ねた怪物は健が倒す、これでどうでしょう?」
「良いじゃろう。それでは行くぞ!!」
半蔵は勢い良く襖を開け部屋を出て家の門まで歩いていく、その後を雅、藤林、俊秀、健は付いて行く。
「んじゃ、準備は出来たか、少年?」
「勿論だ!! 藤林さん」
藤林に笑いながら答えた俊秀は、健の方に目を向ける。
「ケンさん、後方からの援護期待しているぜ」
「ああ、任せとけ!!」
そのやり取りを見ていた雅は悔しそうな顔で健に言う。
「いつかお前に勝ってやる!!」
「・・・・・?」
健はなぜ宣戦布告されたのか分からず首を傾げてしまうが、自分にとってはどうでも良い事なので取り敢えずスルーすることにした。
藤林は俊秀の方を見て同時に出る為の合図を送る。俊秀はその合図の3秒後、藤林と共に家を飛び出す、その後を半蔵、雅、健と続いた。
村長宅の周りには怪物が群がっていたが、俊秀と藤林は怪物を吹っ飛ばして道を切り開いていく、彼らで対処し切れなかった怪物は後ろにいる健、半蔵、雅が確実に退けていく。
「ちっ・・・一体何体いるんだ!? これではきりがない」
俊秀は焦って来ていた。以前妹を守れなかった様にまた守れないんじゃないかと、ただ道を切り開く為に怪物を出来るだけ吹っ飛ばすだけ良い筈なのに、心の中にいるもう1人の自分がそれを許さず怪物一匹、一匹に力を込めて、倒すつもりで攻撃を打ってしまう。そのせいで無駄に体力を使い、攻撃が荒くなり集中力も切れていているのだ。
俊秀の集中力が切れ始めて来ているのに気付いた藤林は激を入れる。
「少年、もうすぐそこだ!! 踏ん張れ!!」
「はい!! ・・・・・・・ん? あれは・・・?」
舗装されていない林の中に井戸らしき物が俊秀の目に入る。目的地は目と鼻の先にあったようだ。井戸の周りには怪物は見えずここを切り抜けたら何とか逃げ切れそうだった。
藤林は先行して、目の前にいた最後の怪物を蹴り飛ばした。
「よし、このまま振り切る。少年は・・・・ってあぶねぇ!!」
「ゴフッ!?」
俊秀は藤林に足払いされてこける。俊秀は何事かと思いすぐに顔を上げる。目の前にあった木にはナイフが4本刺さっていた。
「・・・・・・・!?」
俊秀の額から汗が流れる。あのまま走り抜けていたら間違いなく首に刺さっていた。
藤林は暗闇を一点だけ見据えて深呼吸をしてから大きな声で叫ぶ。
「闇討ちとは卑怯なことしやがる。出てこい!! そこにいるのは分かっている相手してやるぜ?」
「ふん、完璧な不意打ちだったんだが避けられてしまったか・・・・」
暗闇の中から歩いて出てきたのは青年だった。青年は俊秀を睨んで来る。俊秀も睨み返そうとするが、後ろから追いついて来た雅がヘッドスライディングをするような勢いで俊秀に飛び込んで来た。
「俊秀っ!! 大丈夫か怪我はないか!?」
「!!・・・ああ、大丈夫だ」
雅は俊秀に怪我をしてない事を確認し安心した表情になる。どうやらナイフを投げられていたのを見ていた様だった。
雅に遅れて半蔵が息を切らしながら走って来る。
「俊秀君!! すまんが健殿の援護に向かってくれんかの?わしでは手に負えん」
「わかりました。では村長達は先に井戸に入って下さい。では・・・・」
俊秀は健の援護に行こうとしたが雅に腕をつかまれて止められる。
「俊秀、ちょっと待ってくれ」
「ん? どうした?」
雅はポケットから何かを取り出した。
「これは父さんの物なんだけど・・・・受け取ってくれ」
雅が差し出した物それは首に掛けられるように紐を通してある指輪だった。
俊秀は直感的に雅に取って大切なものと分かってしまった。
「これは大切な物じゃないのか?」
「良いんだ。私には母さんのがある。お互いがこれを持っていれば、いつかまた会うことができる」
そう言って首に掛けていた指輪を見せる。俊秀に渡そうとしている指輪と良く似た物だった。
「この先、ずっと会わないみたいな言い方すんなぁ。・・・・・・・分かった、ありがたく受け取る」
「それと・・・次あった時は雅って呼んでくれ・・・・」
「わかった。じゃあ後でな、雅!!」
雅に貰ったものを首に掛けてから走って健の援護に向かう俊秀を見送り、雅と半蔵は導きの井戸に先に入った。
その頃、青年と藤林は戦っていた。俊秀に雅が飛び込んで来た辺りから戦いは始まっている。
両者一歩も譲らない戦いをしており、攻防が続いていた。
「貴様・・・なかなかやるな」
「本気で来てないお前には言われたくないな。何か隠してんだろ?」
藤林は蹴りだけの3連続攻撃を仕掛ける。青年は1発目と2発目は避けられだが、最後の一撃だけ避けられず、まともに食らう。
(ちっ・・・・・。ただの人間がここまでやるとはな。そろそろ本気になるか)
「おっ!?やっと本気になったか?」
藤林は青年の表情で本気で掛かってくることを察した。
青年が何かを唱えながら地面に手をおくと、藤林の目の前に巨大な何かが地面から現れそのまま藤林を包み込もうとする。
「何じゃ!? こいつ!?」
藤林は辛うじて避け、距離を取る。目の前に現れた巨大な何かは邪気を放っていた。藤林は思わず呟いてしまう。
「それが、お前の力か・・・」
「いくぜ!! ただの人間」
青年は巨大な何かに指示を与え、巨大な何かは雄叫びを上げて、ものすごい勢いで藤林を襲う。
藤林は巨大な何かの攻撃を避け続けていた。
(・・・・このままだと不味いな)
藤林は焦っていた。巨大な何かの攻撃は避けられても攻撃を当てるのことが出来ない。
焦りはミスを生む。攻撃を避け続けて来た藤林は体勢を崩す。巨大な何かはそれを見逃さず藤林に攻撃しようとするが、その前に巨大な何かが爆発する。
青年は予測していない事が起こったために顔を歪ませる。
「!? ・・・・・・一体何が」
巨大な何かは爆発した所が弱点だったのか、もがき苦しんでいる様に見えた。
藤林は巨大な何かから離れると、聞きなれた声が後ろから聞こえてきた。
「間に合った!! 藤林さん、大丈夫ですか!?」
「少年達!? 何かしたのか?」
「俊秀が50メートル先で手榴弾を投げました。ナイスコントロールでしょ?」
「確かに当てた場所は良かったが・・・・。今まで何をしてた」
「ケンさんが怪物に取り囲まれたんで助けてたんですよ」
俊秀と健は傷だらけであった。相当無理をしたのだろう。しかし、ここに怪物が現れなかったのは形は違うが、俊秀と健が暴れていたおかげである。
青年は俊秀を睨みつける。
「おっと!! 獲物が帰って来たねぇ。次は逃がさん」
「・・・さっきは不意を衝かれたが、今度はそう簡単に・・・・」
「すまんが、俊秀。お前は導きの井戸に入ってもらう」
藤林はそう言うと俊秀と健を両腕で抱え込み。導きの井戸の前まで移動した。
「えっ? 藤林さん、ちょっと!?」
「お前はあいつに狙われてるんだぜ?逃げる以外にないだろ?」
藤林はいつもの口調で笑いながら言った。青年は藤林の後を追って来ていた。
「やっと見つけた獲物を逃がす訳にはいかない」
「おっと、来たか! じゃあ少年達、またどこか出会おう!!」
「え? まさか!? ここまま投げ入れないでぇーーーーーーー!!」
健の叫びも虚しく、藤林は俊秀と健を井戸に投げ入れた後、青年と向き合う。
青年は藤林を睨みつけていた。
「貴様・・・・擬似空間に飛ばしたな?」
「わかるのか? なかなかの手練だな。追いかけないのか?」
「ふん!! 出来るならそうしている。ただ収穫ゼロでは、あのクソガキが何言うかわからんからな。ここで、お前だけでもやる」
青年は何かを唱えながら地面に手をおき、巨大な何かを呼び寄せる。
それを見た藤林は笑い出す。
「何がおかしい」
「青年・・・・いい事を教えてやろう。俺に同じ手は2度も通用しねぇ」
一体の怪物が藤林に襲い掛かり倒されたのを合図に青年と藤林は再び戦い始める。
彼らの戦いはどちらが勝利したのかは知られる事はなかった。
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