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始めましてよろしくです。
初のSF物の投稿です。
――ゆき過ぎた科学は魔法のようだ……昔、誰かがそう言った――
――科学は使いようによっては善にも悪にもなる……これも昔の言葉だ――
――記憶とは何か、私は魂によって修正された外部からの情報だと思う。個人の脳内のデータだけではない、それは失ってはならないものだ――
「あ、飛行機だ」
私の彼女が指差す先には空が広がっていた。
無限に引き伸ばされた青い光しか反射しないスクリーンのような、どこまでも平らでどこまでも突き抜けそうな空だ。
傍にいる私は、彼女の小さくて丸く柔らかい指先に込められた想いが、そこにあるよという意思が出す、見えない線が伸びた先を辿る。
どこかから、地を這うような空気を割る騒音が聞こえる。きっと飛行機の音だろう。
「あぁ、飛行機だ」
――カウント5・目標地点まで残りカウント4――
青に水蒸気の色が混ざって水色に輝く空に、水だけを浸した筆先で横に引いたら、そこの色が薄れたような雲が横一直線に見事な達筆で模様を描いている。
「あぁ、飛行機だ」
私には飛行機が見えない、彼女とは見え方も感じ方も違う。
現実的には残された視力がめっきり弱ってしまったからだ。
手の中のお守りを、ニューロン接続が劣化しベアリングの油も切れかけた、震える手の平でゆっくりと転がす。
カタカタとモーターで走る玩具のような音を発して、随意神経から擬似延髄を通じて指令が下る。
私の左手の上で、コネクタを接続され、耐衝撃シリコン硬質処理された眼球が転がる。
大事な宝物を扱うように、小指に引っ掛け、中指を曲げ、人差し指と親指で挟むようにお守りを止めた。
飛行機雲の先にはきっと飛行機があるのだろう。
私の残された心霊部、魂というのか、もしくは人間らしさが、未来予測ではないあやふやな観測を強引に弾き出した。
「これが、見たかったのかい?」
私はゆっくりと彼女に振り向く。
水晶体の映像が、情報から記号変換され脳内で処理可能な映像に変わる。
物体を処理するまでの間、一瞬だけ、彼女の姿は背景のようにも只の板のようにも私には見えた。
脳デバイスの同調処理が遅れている、記憶容量が残り少ない、側頭葉に残されたメモリはあとどれくらいだろうか。
そこには健康的な焼けた肌をした、ショートカットの彼女が私を見上げていた。
青い空を背景に、眩しいばかりのエフェクトが掛かる空の下、海の底を泳ぐ人魚のようだ。
私と目を合わせると、世界が輝くような笑顔で笑った。
「うん、空は大好き。落ち込んだりした時に見るとね、何だか悩みが小さく思えて元気になれるの。空を飛べる飛行機も好き、地上よりずっと空に近くて、飛んでいる間は嫌なこと忘れられそうと思わない」
――カウント4・目標地点まで残りカウント3――
「思うよ。私は君がそう思うのなら、空を君にあげよう」
「冗談ばっかり」
「ここで二人で見た空は、私と君の記憶に残る。だから、永遠に私たちのものだ」
「こじつけだー……でも、いいなそれ」
「空の見える場所で、式を挙げようか」
「うん」
曖昧さを許さない電子の姿は、私の記憶以上に鮮明な姿で、精神の甘い箇所が上気して染まった彼女の頬を映し出す。
――カウント3・目標地点――
脳内ガイドが途切れ、視界がコンマ1秒以下でクリアになる。
カットされた風景が彼女ごとメモリに収まり、非随意神経に埋め込まれたコードにより、網膜の視覚情報の入力を変換させる。
――Enemy encounter・戦闘モード――
敵レーダーを警戒し、発電、発熱を抑え低速移動をしていた現実世界の私たちは、歩く亡霊から凶悪な死神へと変化する。
節電モード下でスタンバイされていた肩甲骨下の二基マイクロダイナモが、随意筋を縮小させる命令により発電を開始。
私は、人から、殺戮マシンを補佐するただの蛋白質の塊に陥る。
擬似回路が開き、味方とのリンクが繋がった。網の目のように互いのリンク情報が視覚神経にアウトプットされた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
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