街外れの死霊術師
メーアネーゼン王国に位置する辺境の領地グレンゼ。
その街は辺境でありながらも活気のある地域。そんな場所のはずれにある森に、一軒の館があった。今日はそんな館の扉を叩くものが居る。何故なら、年に一度の催しがあるから。
「ノスタルジア様ぁーー!お時間だから迎えに来たよ!」
「ノスタルジア様ー!早く出てきてー!」
ドンドン、と扉を叩きながら1人の男の名を呼ぶ子供達。そうしているうちに、ドアが音を立ててゆっくりと開く。
「……朝っぱらから元気なガキ共だなあ」
「「ノスタルジア様ー!」」
「落ち着け……。飯はもう食ったか?」
「私はまだ!」
「俺はパン1つ食べた!」
「いつも来る時はちゃんと食ってから来いって言ってんだろ?ほら上がれ。まだ時間はあるし飯食わせてやるよ」
「「やったあ!」」
「あと、俺はノスタルジアなんて名前じゃないし様を付けられるような人間でもねぇよ」
「「??」」
中から出て来た右目が薄紫、左目が淡い水色のオッドアイを持った青年は、首を傾げる子供に苦笑しながら椅子に座らせる。そうして、テーブルに用意されていく朝食に目を輝かせる子供達。
「…わあ!綺麗!宝石みたい!」
「甘い匂いがするよ!」
「なんだ、フレンチトースト食ったことないのか。なら切り分けるからこっち食べてみろ」
「んっ…?!おい、しい…!」
「美味しい!たくさん食べれる!」
「あんま食い過ぎたらお母さんに怒られるぞー」
こんな感じに緩く朝食を済ませて子供達とともに街の中心部へ向かう。街中が彩りに包まれ、色々な店が出ている。
「メル!またノルスタジア様の家に押しかけたの?!迷惑掛けちゃダメでしょ?」
「うげ、ママ…」
「あんたもだよ、ハル。毎回言ってんだろう?朝から行くのはダメだって。おかげでメルちゃんママと街中探すハメになったんだから」
「ひ、ひゅ〜るる…」
「じゃあ2人のこと頼みますね」
「「えっ…?」」
すごい絶望の顔をした2人を母親達に託して先へと進む。中心部に着くと、そこにはいくらか人が集まっていた。
「おはようございます」
「おや、これは早いご登場ですな」
「ガキ共を送るついでですよ。一応確認しておこうかと」
「ノルスタジア様は本当に子供の扱いが上手いなあ。どうやったらあんなに気に入られるのやら」
「うちの子も次にいつ遊びに行ける?って、そればっかり聞いてくるよ」
「いやあんたらも大概おかしいですよ?俺、一応死霊術師なんですから。普通子供に近づけたくないでしょう?」
「「「…まあ、ノルスタジア様だし」」」
「ええ……。じゃ、とりあえず打ち合わせ始めますか」
今夜は年に一度の、死者への弔いを捧げる告別祭なのだから。そして夜。
「これより、告別祭を始めます。ノルスタジア様、お言葉を」
「はい。今夜は年に一度の告別祭。死者に安心してもらい、天国へ旅立ってもらうための祭りです。心ゆくまで楽しんでください。それから今年、ご家族がお亡くなりになられた方は順に俺のところへ来てください。これで、俺からの言葉は終わります。最後に皆さん、死者へ祈りを。」
その一言で人々は目を閉じ、手を握る。中には泣いている人もいる。本来、こういう事は聖職者の仕事だが、この街には教会がないため、聖職者がいない。だから、代わりにこの青年が出ている。こうして、告別祭…アプシートが始まった。
「ノルスタジア様。よろしくお願いします」
「…じゃ、始めますかね。少し離れといてくれ」
青年がそう言うと、足元から優しい光が差し込む。その光はやがて円になり、複雑な紋様を描く。
「ルーフェン」
ただ一言、それだけをつぶやく。すると、足元にあった光がゆっくりと空中へ形を作っていく。しばらくすれば、人型になり、1人の女性になった。
「……ルリィ、なの、か?」
『ええ。先に居なくなってごめんね』
「時間は有限。あとは2人で過ごすといい」
青年が言った言葉は彼の耳に届かない。だって、目の前に居るのは今年、病で死んでしまったはずの彼女だから。
彼は時間いっぱいまで彼女と話した。そして時間が切れると彼女はゆっくりと光の粒子となって消えた。
「一通り終わったか。……」
「火は必要ですか?」
「領主様ですか。遠慮しときます。自分で付けられますから」
そう言いながら指先に火を灯して咥えた煙草に火をつける。そして、街を見下ろすように橋へと寄り掛かって一息をつく。
「景色を見ながらの煙草は、どんな味がしますかな?」
領主からの問いに青年は
「相変わらず、不味いし煙たい、初キスの味がします」
青年は領主の顔を見ずに、ただ色とりどりの鮮やかな灯りが灯された街を眺めるのだった。




