黒龍様に両親を喰べられた子ですが、黒龍様に両親を捧げた伯母が自罰的過ぎます
婚約者がわたくしの実妹と不貞行為を働いて、妊娠までさせたので責任を持って『贄』となっていただきましょう
という過去の短編作品を見てから読んでいただくとわかりやすいかもしれません。
黒龍の国シリーズから探せます。
ティムとティア。
双子の子。
それが私たち。
私たちの実の両親は亡くなったらしい。
名誉の死だと、聞いていた。
「ティム」
「ティア」
「「やっぱりなにかありそうだよねぇ…」」
伯母様の話ぶり的に「名誉の死」にはなにかありそうだ。
伯母様は私たち双子を引き取って、分け隔てなく愛してくれる。
そんな伯母様は、マナーや教養や貴族としての道徳のお勉強にはうるさい。
でもそれ以外の時間は、私たちを抱きしめて優しくしてくれる。
でも、お母様とは呼ばせてくれない。
それはきっと。
「僕たちの」
「私たちの」
「「実の親がなんかやらかしたんだろうね…」」
察しがいいところは、誰に似たのか。
顔立ちは、私もティムも伯母様によく似ている。
隔世遺伝という奴だそうだ。
ならば性格は誰に似た?
人はみんな性格まで伯母様そっくりだと言う。
あの裏切り者たちに似なくてよかったと。
「裏切り者たちって、僕らの両親だよね?」
「あんなに私たちにまで優しい使用人たちや領民たちにまでそう言われるのよ。やっぱりよっぽどだったのね」
こう言ってはなんだが、伯母様に育てられてよかった。
実の両親が〝裏切り者〟なだけでも不名誉なのに、そんな奴らに育てられて伯母様と敵対していた未来があったなら…考えただけでゾッとする。
やっぱり私たちは、伯母様がなんと言おうが伯母様の子なのだ。
「ティム、ティア」
「伯母様!」
「伯母様どうしたの?改まって」
「お話があります。来なさい」
冷たい顔。
なかなか見られない伯母様のその表情に、とうとう真実を知るのだと覚悟した。
我が国には生贄制度がある。他国の人間には、なんてことをするのかと言う人もいる。けれど、我が国はその生贄制度で栄えてきた。そのおかげでみんな飢えずに済むのだ。
黒龍様の好む『魂の穢れた者』を毎月数人捧げるだけで、黒龍様のお力で不毛の大地であったこの国でも沢山の農作物が実るようになった。
罪人なんて国中探せば毎月幾人も見つかるので生贄探しにも困らない。特に、公には裁けないが罪を重ねたワケあり貴族の断罪にはぴったりだ。
一応、表向きには国の為に身を捧げた尊い命とされるので残された者たちにとってはむしろ名誉となる。残された者たちに金銭の報酬もある。アフターケアもばっちりだ。王族や貴族は生贄制度の真実を知っているから、影では色々言われるが。
しかも、冤罪だった場合黒龍様の好む『魂の穢れた者』判定から外れるので食べられない。むしろ身の潔白を証明して生還できる。
「だから父と母のことを名誉の死と言っていたんですね、伯母様」
「ええ、そうよ」
「伯母様は浮気した父と母を黒龍様に捧げたのですね」
「ええ、その通り」
「「だから自分も、恨まれて復讐される覚悟があると」」
咎めるような言い方をしてしまったのは、どうか許して欲しい。
だって、許せなかったのだ。
自分を悪者のように宣う、伯母様が。
「伯母様」
「ええ」
「今から僕らは伯母様に文句を言います。良いですね?」
「…もちろんよ」
私たちは顔を見合わせて、頷いた。
「伯母様は教育熱心だと思ってました」
「ええ」
「でもそれは、伯母様が居なくなった後のことを考えてのことだったんですね」
「そうよ」
「ふざけないでください」
伯母様に掴みかかる勢いで私たちは詰め寄った。
「ふざけないで、伯母様。私たちを育ててくれたのは伯母様よ。顔も知らない実の親なんかのために伯母様を恨むわけないじゃない」
「え、でも」
「でもも何もないよ、伯母様。僕たちに伯母様を恨む理由なんてない。父と母は話を聞く限り自業自得だ。そんな人たちより伯母様の方が大事だ」
「そんな…」
「「父と母を本当の親って伯母様は言うけど、本当の親は伯母様だと思ってる」」
ここまで言ってまだ伝わらないなら、引っ叩いてやろうかと思ったが。
「…、……っ、………我が子と思っていいの?」
「僕たちはそもそもそのつもりです」
「伯母と呼べと言われるから伯母様と呼んでるだけで、お母様と呼びたいと何度も言いました」
「ティム、ティア…」
伯母様の迷子の子供のような表情は、初めて見た。
だから。
「復讐なんてあり得ません」
「お母様は私たちのお母様だもの」
「ティム、ティア!今までごめんなさいっ…」
「これからは容赦なくお母様と呼びますので」
「そのおつもりで」
こくこくと頷いた〝母〟に、ようやく私たちは安堵した。
お母様には、初恋の人がいる。
元婚約者だった、私たちの実の親のことではない。
幼馴染として過ごしたらしい、親友だ。
もちろん浮気なんかをしたことはなかったようだが。
その親友は今でもお母様と交流がある。
そして独り身だ。
「というわけで」
「おじさんにはお母様と結婚して婿入りして欲しいなぁ」
「伯爵家の三男のおじさんなら、婿入りも難しくないと思うんだよなぁ」
「おじさんもお母様を憎からず思ってるのはバレバレだしぃ」
「「そろそろお母様とくっついて欲しいなぁ」」
私たち双子を見つめるおじさんは、困った顔をして笑う。
「全部お見通しか、さすがだな」
「そりゃもう」
「お母様の子だもの」
「なるほどな、わかった。だが、アイツはお前たちの実の親…元婚約者たちから受けた仕打ちで恋愛に臆病になってる」
「「だからこそ押せ押せで行かないと靡かないでしょ!」」
「わかったわかった」
ということで、お母様とお父様(候補)をくっつけよう大作戦が始まった。
「お母様ー、お父様と四人でピクニックいこー」
「お、お父様って、ごめんねビリー」
「いや?俺は子供達の親になってもいいぜ?」
「ちょっとビリー!」
「お母様とお父様、ラブラブー!」
お父様(候補)をお父様呼びして既成事実を作ったり。
「お母様、お父様眠そうだから膝枕してあげなよー」
「な、何を言って」
「リズの膝枕か、嬉しいな」
「ちょっとビリー!」
イチャイチャの機会を作ったり。
「お母様、お父様が指のサイズ教えてだって」
「え」
「そろそろプロポーズされるだろうから、その時は素直になるんだよ」
「う、うぅ………」
アドバイスをしたり。
その甲斐あって、お母様とお父様は。
「ご婚約おめでとうー!」
「おめでとうー!」
「ありがとう、ティム、ティア」
「本当にありがとう。おかげで初恋が叶ったぜ」
「え」
「初恋の思い出は、お前だけのものじゃないってことだ」
ぼんっと音がしそうなほど真っ赤になるお母様。
そんなお母様とお父様の幸せそうな様子に、私たちはひどく安堵した。
そして。
「「お父様、お母様、結婚おめでとうー!!!」」
お父様は、本当に私たちのお父様になってくれた。
はたからみても二人はラブラブで、これは弟か妹が生まれる日も近いなと思う。
「お父様、お母様を幸せにしてね」
「お母様、お父様と幸せになってね」
「もちろんよ」
「お前たちも一緒に、な」
「「うん、みんなで幸せになろう!」」
弟や妹が出来たら、きっともっと賑やかになる。
それを楽しみに、僕たちは新しい日々を歩み出した。
「…これが、実の父と母のお墓」
「なんとも寂しいお墓だね」
私とティムは、お父様とお母様には内緒でこっそり両親のお墓参りに来ていた。
花を手向けて祈りを捧げる。
「あなた方がお母様にした仕打ちは、正直許せません」
「でも、その過ちのおかげでお父様とお母様の子になれた。それには感謝しています」
「せめて死後の世界で安らかに」
「そのくらいは、祈ってあげますよ」
…これで、最初で最後だ。
これで決別、私たちは戸籍上も正真正銘お父様とお母様の養子となるのだから。
「さようなら、顔も知らないお父様」
「さようなら、顔も知らないお母様」
もう、違えた線が交わることはない。




