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『狂犬お市様』 〜転生八回目、戦国を生活で支配した姫〜   作者: イサクララツカ


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第71話 狂犬お市様の狂犬式攻城戦

西暦1553年4月1日

和暦:天文二十二年 四月一日

 正月元旦。

 ――大高・常滑・緒川・刈谷、四城撃破。

 それ以後、狂犬お市様は、

 戦を「奪う」ことをやめた。

 代わりに――

 鍛え、稼がせ、任せ、診る。

 それが、狂犬流であった。

狂犬家中の現在

 直轄武士団――

 愛部 二百。

 水陸機動部隊――

 犬かき衆 八百六十

(戦闘隊八百/兵站六十)。

 数は増えた。

 だが、驕りはない。

 朝は修行。

 昼は訓練。

 午後は――鳴海の診療所。

 狂犬お市様は、

 武具を脱ぎ、白衣をまとい、

 医師として、民を診ていた。

 傷、病、栄養失調、産後の熱。

 城主でありながら、

 いや、城主だからこそ、

 「腹を診る」。

 藤吉郎は、それを見ていた。

(……戦の前に、腹を整える)

(姫様は、ほんとうに、そこから始める)

利家・慶次

 前田利家は、変わった。

 かつての脳筋ではない。

 算盤を弾き、兵の配置を読み、

 部隊を“生かす”指揮をとる。

 副部隊長――前田慶次。

 型破りだが、勘が鋭い。

 二人は、狂犬家臣団幹部として、

 日々、愛部と犬かき衆を鍛えていた。

 そして――

 今日。

訓練内容

 大高城・攻城訓練。

 鳴海城から早船に乗り、

 伊勢湾へ。

 西から回り込み、

 大高城西の砂浜へ上陸。

 そこから城を「落とす」。

 ――ただし。

 守備兵は、一人。

 狂犬お市様、ただ一人。

狂犬様(守備側)

 大高城。

 天守ではない、櫓の上。

 お市様は、空を見ていた。

「風、よし」

「潮、よし」

「雲、流れ早し」

 弓を取り、鏑矢を番える。

「では、遊ぼうかの」

 ヒュゥゥ――。

 鏑の音が、伊勢湾に響いた。

上陸直前

「鏑矢!?」

「見つかったか!?」

 犬かき衆に緊張が走る。

 だが、矢は来ない。

 当たらない。

 ――音だけ。

 慶次が、低く笑った。

「……一人やな」

「は?」

「音が、増えとる」

 利家は、はっとした。

(移動しながら、角度を変えて――)

 次の瞬間。

 ヒュン。

 ヒュン。

 ヒュン。

 三方向から、鏑の音。

狂犬式・翻弄

 浜に降りた瞬間、

 潮が変わる。

「浅い!」

「舟が取られる!」

 昨日まで、なかった干潟。

 それは――

 姫様が、事前に調べ、潮を読ませた場所。

 鏑矢が、止まらない。

 前。

 横。

 背後。

 当たらぬ。

 だが、進めぬ。

「止まるな!」

 利家が叫ぶ。

 止まった瞬間、

 音が、真後ろに来る。

利家の理解

(……これは、攻城じゃない)

(――“狩り”でもない)

 利家は、歯を食いしばった。

(これは……心を折る訓練)

 慶次が、楽しそうに言う。

「利、これな」

「わかっとる」

「姫様、最初から勝っとる」

終了

 二刻。

 誰も、城に近づけなかった。

 その時。

 鏑の音が、止んだ。

 城楼から、声。

「そこまでじゃ」

「全員、生きておるな?」

 お市様が、笑っていた。

「では、帰るぞ」

「夕方じゃ。診療所が待っとる」

 兵たちは、呆然とした。

 ――これが、狂犬式。

藤吉郎・内心

(……一人で、八百六十を止める)

(しかも、殺さず、傷つけず)

(戦の前に、終わっている、とは)

(こういうことか……)

◉狂犬記

祐筆・桃 日記

本日は、大高城攻城訓練。

ただし、守備は狂犬様お一人。

結果、城は落ちず、兵は倒れず、

ただ、心だけが、完全に折られた。

鏑矢は当たらぬ。

だが、逃げ場を奪う。

狂犬兵法とは、

「勝ってから戦わぬ」こと。

なお、訓練後、姫様はそのまま診療所へ。

子の腹痛と、老女の咳を診ていた。

この人を敵に回す者は、

戦場に立つ前に、

すでに負けている。

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