表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『狂犬お市様』 〜転生八回目、戦国を生活で支配した姫〜   作者: イサクララツカ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/89

47話 狂犬お市様の狂犬式城下町整備 ――深紅の同心、鳴海に立つ――

西暦一五五二年(天文二十一年)六月中旬 初夏

尾張・鳴海城下

――狂犬記/作者:桃(お市様祐筆)

■桃視点:鳴海が“城下町”になっていく音

 鳴海は、変わった。

 いや、変えられたと言うべきか。

 岡部元信が狂犬様に“採用”されてから、しばらく。

 あの人の胃は、奇跡的に回復した。

 理由は単純だ。

「姫様が怖すぎて、他のストレスが誤差になった」

 ――本人談である。

 胃薬より、狂犬療法。世の中は理不尽だ。

 だが、仕事ぶりは文句なしだった。

■城下町整備:銭で殴る、力技(※合法)

 まず始まったのが、外堀の拡張。

「浅いのは嫌じゃ」

 お市様は一言で切った。

「深く、広く、船が入れるようにせい」

 銭が飛んだ。

 いや、滝のように流れた。

 外堀は掘り直され、深くされ、

 側を流れる扇川と連結。

 そこに早船が出入りできるよう整備され、

 鳴海は“城”であり“港”になった。

 港化、である。

 藤吉郎が頭を抱えた。

「姫様、これ、軍事拠点であり商業拠点であり……」

「うむ。戦と商いは同じ道を流れる」

 まつが横で呟いた。

「……経済と兵站を同時に押さえた……」

 寧々は静かに言った。

「これ……落ちない城になりますよ」

 狂犬様は、にこり。

「最初から落とさせぬ」

 ……こわい。

■岡部奉行、誕生する

 城下町の中心に建ったのが、

岡部屋敷――否。

火付盗賊取締役屋敷

(取締・裁判・留置・教育・港警備 兼務)

 名前が長い。

 仕事も重い。

 岡部は頭を抱えた。

「姫様、これ、奉行の仕事量では……」

「安心せい」

 お市様、即答。

「銭で解決する」

 結果。

岡部元信

 月給 八十貫/賞与 夏冬

同心 五十名

 月給 四十貫/賞与 夏冬

 城下町、港、村、漁村に同心詰所を配置。

 三百六十五日二十四時間、

 一勤二休の交代制。

 藤吉郎が震えた。

「……尾張の武士より、待遇いい……」

「そりゃそうじゃ」

 お市様は平然。

「命を張らせるなら、銭を払う」

 この人、ほんとに戦国の価値観を壊しに来ている。

■岡部の職権(多すぎ問題)

 岡部奉行の権限は、こうだ。

裁判機能

治安維持(同心指揮)

刑務官機能

刑務所管理

犯罪者教育

鳴海港の警備

船舶出入りの監視・調査

 岡部、紙を見て固まる。

「……姫様」

「わし、寝てよい時間ありますか?」

「ある」

「一勤二休じゃ」

「……その間に全部起きたら?」

「その時は、わらわを呼べ」

 岡部の顔が引きつった。

「それは、それで怖いです……」

■鳴海同心心得の条(狂犬布告)

 数日後。

 鳴海城下、広場。

 同心五十名と岡部が整列する。

 民も集まり、空気が張りつめた。

 お市様は、高台に立ち、布を広げた。

 鳴海同心心得の条である。

わが命 わが命と思わず

常に弱きものの立場に立ち

民の声を聞き

民の声なき声に 耳を傾け

治安の儀

おこたるべからず

死して花実が咲くものか

死して花実が咲くものか

 ――場が、静まり返った。

 岡部が息を呑む。

 同心の一人が、拳を握る。

 お市様は続けた。

「死んで英雄になるな」

「生きて、町を守れ」

 民の間から、すすり泣きが聞こえた。

■深紅の同心、授与式

 寧々が徹夜で仕上げた、

深紅に白のダンダラ模様の同心服。

「派手すぎます!!」

 寧々、泣きながら抗議。

「目立たねば意味がない」

 お市様、即却下。

 五十一着。

 岡部含め、全員分。

 お市様は、一人一人に手渡した。

 そして武具。

刃引きした太刀

小太刀

十手

 同心たちは、息をのんだ。

 お市様は、静かに告げる。

「いかなる時も、命を殺めるな」

 場が引き締まる。

「捕らえ、殴れ、縛れ、裁け」

「だが、斬るな」

 そして、例外。

「ただし――」

 指を二本、立てる。

「一、子どもを殺そうとした時」

「二、妊婦、女性、老人、弱者を殺そうとした時」

「その時だけは、ためらうな」

「小太刀を抜け」

 岡部が深く頭を下げた。

「……承りました」

 同心五十名、声を揃える。

「ははっ!!」

 鳴海の空気が、変わった瞬間だった。

■桃の祐筆感想

 狂犬お市様の城下町整備は、

 “支配”ではなく、仕組みだった。

 銭で雇い、休みを与え、

 責任と誇りを持たせ、

 命を粗末にするなと、はっきり言う。

 岡部元信は敵将だった。

 今は、鳴海を守る奉行である。

 同心たちは、今川の兵だった。

 今は、鳴海の民を守る盾だ。

 殺さず、使い、育てる。

 それが狂犬様の流儀。

 信長様が“厳しさ”で織田を守るなら、

 お市様は“仕組み”で尾張を変えている。

 私は祐筆として、

 この城下町が、後にどう語られるかを知っている。

 ――これは、狂犬による統治の始まりだ。

■桃の日記(丁寧)

天文二十一年 六月中旬 晴れ

一、鳴海城下町、港化完了。外堀と扇川連結。早船出入り可。

一、岡部元信、火付盗賊取締役(町奉行)として正式始動。胃、回復。

一、同心五十名配置。月給・賞与あり。勤務体系が未来。

一、鳴海同心心得の条、布告。内容が深く、民が泣いた。

一、深紅の同心服、寧々が泣きながら完成。似合っている。

一、姫様、「死して花実が咲くものか」を二度言った。忘れられない。

――祐筆 桃

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ