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『狂犬お市様』 〜転生八回目、戦国を生活で支配した姫〜   作者: イサクララツカ


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43話 鳴海城に狂犬が歌う!魂のライブ三日目 ――血を吐く岡部/城から使者/公開・外交戦(=公開処刑)――

西暦一五五二年(天文二十一年)五月下旬 初夏

尾張・鳴海城外(城から見える位置/土嚢封鎖陣地/野外“ステージ無し”)

――狂犬記/作者:桃(お市様祐筆)

■桃視点:三日目、歌が終わったら「使者」が出てきた

 三日目の昼。

 魂のライブ――その最中から、鳴海城の空気が変だった。

 矢が飛ばない。

 怒号も少ない。

 城壁の上の兵の動きが、まるで“見学”みたいに鈍い。

「……折れてる」

 寧々様が小声で言った。

「城が……心から」

「やめて、そういうの」

 まつ様が口元を押さえる。

「怖いのに、なんか……勝ってる感じするやん」

 藤吉郎様は、光る頭に汗を浮かべながら、土嚢の列と民衆の流れを見ていた。

 戦場なのに、祭りの導線だ。

 狂犬堂の売り場が詰まれば、握手会へ。

 握手会が詰まれば、煎餅で散らす。

 煎餅で散らなければ、茶で落ち着かせる。

 そんな中――城内から、どよめきが上がった。

「殿が倒れたぞ!」

「岡部様が……血を……!」

 城壁の上で、兵が慌てて走るのが見えた。

 次の瞬間、城門の内側が騒がしくなる。

「……血を吐いて倒れた」

 私が筆を走らせると、横でさくらが首を傾げた。

「胃?」

「たぶん胃」

「あ、狂犬堂の胃薬、効くよ?」

「今その話ししてない!」

 せつながニヤッとする。

「姫様の歌、胃にくるって評判やし」

「評判にするな!」

 その時。

 城門が、ギギ……と少し開いた。

 民衆が一斉に、息を止める。

 一万の静寂。

 怖い。すごい。胃が痛い。

 出てきたのは――白旗を掲げた使者。

 鳴海城からの使者だった。

■鳴海使者:公開の場で、頭を下げる

 使者は土嚢の前まで来て、恐る恐る膝をついた。

 目線の先にいるのは、床几に座る姫様。

 深紅の鎧。凶悪なガントレット。背に津軽三味線。

 足元には――簀巻きの山口親子エサ

 使者が震える声で言う。

「……鳴海城、岡部元信様は……先ほど血を吐き倒れました」

「ほう」

 姫様はあくびを噛み殺し、笑った。

「で?」

 使者がさらに頭を下げる。

「城内、動揺しております……よって、狂犬お市様と……お話がしたいと」

 民衆がざわつく。

「うわ、外交や!」

「城が折れたんか?」

「岡部、負けそうやん!」

「姫様、今ここで決めるんか!?」

 姫様は、民衆のざわめきを“風”みたいに受け流して、ひとこと。

「藤吉郎」

「はい」

 そして、めちゃくちゃ雑に言った。

「使者がきたぞ。わらわは何も話さぬ」

「えっ」

「お主が話せ」

「ええっ」

「お主の舌と知恵で――無血開城してみよ」

「ええええっ!?」

 藤吉郎様の声が裏返った。

 民衆が「おおー!」と盛り上がる。

 やめて、実況しないで。

 姫様はさらに畳みかける。

「よいか、藤吉郎」

「は、はい……」

「山口の家族は確保せよ」

「は?」

「人手が足りぬ」

「それは、まあ……」

「面接して、狂犬堂に採用じゃ」

「面接……」

「給金も出す」

「……給金」

「心配させぬようにせよ」

「……慈悲?」

「慈悲ではない、労働力じゃ」

「正直!」

 まつ様が横から小声で突っ込む。

「姫様、言い方ぁ……」

寧々様も額に手を当てる。

「“人材確保”を戦場でやる人、初めて見た……」

 姫様はニヤリ。

「鳴海の兵も、わらわの兵になりたいなら――面接のあと採用じゃ」

「採用!?」

「家族も採用じゃ」

「家族まで!?」

「何なら岡部も採用するぞ?」

「岡部まで!?」

 民衆が爆笑した。

 笑いが波になって、城壁にぶつかる。

「岡部、就職先ここやん!」

「狂犬堂、ブラックやけど給料ええぞ!」

「面接官、姫様やぞ!死ぬ!」

 私は胃を押さえた。

 この戦、戦じゃない。

 就職説明会が付いてる。

 姫様が、最後にズバッと宣言する。

「鳴海城まるごと、丸飲みしてやる」

「……」

「よいか藤吉郎!」

「は、はい!」

「調略じゃ!」

 藤吉郎様は、青い顔で一歩前に出た。

 光る頭が、太陽を反射して眩しい。

 これ、ほんとに外交戦?

■藤吉郎視点:公開面接の前に、公開調略が始まった

 藤吉郎は思った。

(姫様……俺に丸投げしながら、城まるごと採用する気だ……)

 使者が恐る恐る顔を上げる。

「……ど、どのようなお話を……」

 藤吉郎は、深呼吸した。

 これは戦場。

 民衆が見ている。

 城兵も見ている。

 姫様は見ている(ニコニコ)。

 ――舌と知恵。

 ここで失敗したら、胃が死ぬ。

「まず、岡部殿に伝えてください」

藤吉郎は穏やかに言った。

「“後詰めは来ない”」

使者がびくっとする。

「……すでに、わかっております」

「次に、“今川は今、内側が燃えている”」

「……!」

「三河、遠江、駿河。鎮圧で手が回らない」

「……なぜ、それを……」

「こちらは、狂犬家臣団です」

 さくらが後ろでドヤ顔した。

 あやめが腕組みで無表情。

 せつながニコニコしてる(怖い)。

 藤吉郎は続ける。

「岡部殿が倒れたなら、城は“判断”を失っています」

「……」

「城兵は疲れています」

「……」

「あなた方が守っているのは、鳴海城ではなく――岡部殿の“体面”です」

 使者の喉が鳴った。

 民衆が「おお……」と低く唸る。

 藤吉郎は、優しい声で言う。

「体面は、買えます」

 背後で寧々が小声で言った。

「買えるんや……」

まつが囁く。

「狂犬堂、何でも買うな……」

 藤吉郎は使者に、はっきり言った。

「鳴海は“無血開城”できる」

「条件は?」

使者の声が震える。

 藤吉郎は、姫様を見た。

 姫様は床几で、足を組んで頷いた。

 (……合図が雑に重い)

「条件は三つ」

藤吉郎は指を立てる。

「一つ。城兵の命を保証する」

「二つ。岡部殿と家臣の家族を保証する」

「三つ。鳴海の働き手は、狂犬堂が“採用”する」

 使者が固まった。

「……採用?」

「はい。給金、食事、住み込み、湯浴み、教育」

「戦に負けて……就職?」

 後ろで姫様が楽しそうに言う。

「そうじゃ、人生は次が大事じゃ」

「姫様、軽い!」

桃が思わず叫んだ。

「戦が……戦が……転職フェアになってます!」

 姫様はケラケラ笑った。

「よいではないか。鳴海の民が困らぬ」

「優しいのか雑なのか分かりません!」

「両方じゃ」

 藤吉郎は、最後を締めた。

「岡部殿に伝えてください」

「今、城門を開けば、兵も家族も助かる」

「閉じれば――姫様は毎日ここで歌い続ける」

 使者の顔が青ざめる。

「……毎日……」

「ええ」

藤吉郎は微笑んだ。

「胃にきます」

 民衆がドッと笑った。

 笑いが鳴海城を揺らす。

 使者は土下座して叫んだ。

「……伝えます!!今すぐ!!」

 城門へ走って戻っていった。

◉桃の感想(祐筆)

岡部元信は血を吐き倒れた。

城は「後詰めが来ない」と理解した。

そして城は、狂犬お市様の歌と民衆の熱で、心から折れ始めている。

今日の外交は、公開処刑のようだった。

姫様は話さない。藤吉郎様に投げる。

藤吉郎様は、舌と知恵で城を飲み込む。

恐ろしいほど、合理的だ。

◉桃の日記

・鳴海城から使者が出た。民衆一万の前で土下座。胃が痛い。

・姫様「わらわは話さぬ。藤吉郎、調略せよ」→丸投げの王。

・条件が「命の保証」+「就職」。戦が転職フェアになった。意味がわからない。

・藤吉郎様の言葉が刺さった。「体面は買える」怖い。

・次回、岡部が決断するか、義元が動くか、胃が先に死ぬか。私は筆が折れそう。

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