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『狂犬お市様』 〜転生八回目、戦国を生活で支配した姫〜   作者: イサクララツカ


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第151話 二日目の宴と、三河の未来


西暦1555年1月2日(天文24年 正月二日)

尾張国・鳴海城

夕方。

昨夜――正確には深夜を越えて明け方まで続いた大宴会が、ようやく終わった。

鳴海城の廊下には、戦の翌朝よりも静かな空気が流れている。

「……生きてるか?」

誰かが呟いた。

大丈夫か、狂犬堂。

大丈夫か、狂犬家臣団。

帰宅できた者、城内の部屋に転がり込んだ者、なぜか台所で朝を迎えた者。

状況は様々だが、共通点は一つ。

全員、顔色が死んでいる。

「酒を飲むのも修行やな……」

布団に転がったまま、藤吉郎が天井を見つめて言った。

「ほんま、狂犬式や」

利家がかすれ声で同意する。

「修行って言うには、命の危険が高すぎるぞ」

慶次は縁側で大の字。ピクリとも動かない。

「おい、生きてるか」

利家が足で突く。

慶次は、ゆっくり親指を立てた。

「……たぶん」

「たぶん言うな!」

一方、岡崎勢。

松平元康は正座したまま、膝の上で拳を握りしめていた。

昨夜の無礼講。

誰もが好き勝手に言い、笑い、突っ込み、姫様に絡んでいたあの場で――

自分は、何も言えなかった。

「……情けない」

元康が低く呟く。

隣で酒井忠次も、同じく正座のまま息を吐いた。

「無礼講と言われるほど、口が重くなるもんだな」

「今日は聞く」

元康は顔を上げた。

目に、はっきりとした決意が宿る。

「今日の宴で、姫様に聞く。三河の先を」

「……その前に、これだ」

忠次が差し出したのは、ぐつぐつ煎じられた漢方薬。

「何だそれ」

「効くらしい」

「……それ、ウコンか?」

「たぶん」

2人は無言で飲み干した。

同時に顔が歪む。

「効く前に死ぬ味だな」

「姫様の宴よりは、まだ優しい」

そして――

夕刻。

再び鳴海城に火が入る。

狂犬家臣団・狂犬堂、2日目の宴会が始まった。

「……今日こそ」

桃は筆を握りしめ、内心で気合を入れる。

「今日こそ、姫様に」

寧々の目が燃える。

「うちもや」

まつが深く頷いた。

昨日は流された。

今日は、流されない。

……たぶん。

その頃、台所。

狂犬お市様と景虎姉上は、朝から遊んでいた。

「姉上、火が強すぎじゃ」

「おまえが粉を入れすぎだ」

「これは甘さの暴力じゃな」

「暴力を自覚してるのが怖いわ」

焼き上がったパオンと、切り分けられたカステラ。

甘い匂いが台所に満ちる。

「今日は来るぞ」

景虎姉上がぽつりと言う。

「来るな」

お市様は即答。

「来る」

「来るな」

2人は顔を見合わせ、同時に笑った。

やがて宴会場。

料理が並び、盃が配られる。

昨日より胃に優しそうに見せかけて、最後に必ず火鍋が控えている布陣だ。

「姫様!」

元康が一歩前に出た。

場が静まる。

「三河の未来を、お聞きしたい」

お市様は盃を置き、元康をまっすぐ見た。

「無税じゃ」

短い言葉だった。

「換金作物を作らせる。元康、水野、おだいが指導する」

「狂犬堂が全部買い取る」

「加工して、堺のポルトガル商館で売る」

「銀に替える。金でもよいがな」

元康は息を呑む。

「そうすればな」

お市様は続ける。

「信濃、甲斐、相模から、女子が狂犬領に入ってくる」

「給金は払う」

「働く場所はいくらでもある」

「……女子が売られぬ」

元康が小さく呟いた。

「そうじゃ」

お市様は頷いた。

「子も売られぬ」

「親は三河に来る」

「狂犬堂で働く」

少しだけ、声が低くなる。

「わらわはな、女や子が売られぬ国を作りたいだけじゃ」

「だから無税にしておる」

「晴信や氏康は、キレ散らかすじゃろうがな」

場が、どっと笑った。

元康は深く頭を下げた。

「……背負います」

「よし」

お市様はにやりと笑う。

「なら、飲め」

「そこですか!」

笑いが弾け、2日目の宴会は再び熱を帯びていった。

桃の日記(狂犬記/作者:桃)

宴会2日目。

昨日より質問が飛ぶ。胃も飛ぶ。

元康さま、ちゃんと聞けてよかったと思う。

姫様の言葉は短いけど、重い。

「女や子が売られぬ国」

それをさらっと言うのが、狂犬お市様。

なお、火鍋は今日も強敵。

胃薬は必須。

明日、3日目。

筆より胃が先に折れそう。

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