表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『狂犬お市様』 〜転生八回目、戦国を生活で支配した姫〜   作者: イサクララツカ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

110/148

108話 いたち捕物帖 ――伊賀上忍くの一の技――

西暦:1554年5月10日 夜

和暦:天文二十三年(1554年)四月十五日 夜

場所

堺・藤屋(伊賀忍び商家)/蔵

 本日、藤屋にて始まった

「香水・お市」予約販売。

 堺の女たちは、噂に敏い。

 香りは刃より鋭く、欲は血より赤い。

 昼より藤屋の敷居は擦り切れ、

 豪商の妻、茶人の娘、南蛮商人の妾までが名を残した。

 帳簿を閉じ、藤林長門は静かに息を吐く。

「……これは、戦やな」

 お市様は、淡く笑った。

「値を下げれば、価値が死ぬ。

 欲しがる者に、待たせる――それでよい」

 藤屋の蔵。

 桐箱に納められた香水「お市」。

 朱印は本物、だが中身は――餌。

 屋敷は、もはや商家ではない。

伊賀上忍

 藤林長門

 百地こゆき

 藤林つらら

 服部みぞれ

中忍

 百地さくら

 藤林あやめ

 服部せつな

 全員が、呼吸を殺して夜を待つ。

 奥座敷には

 狂犬お市様

 景虎姉上

深夜

 ――風が、止んだ。

 梁の上。

 影が、影であることをやめる。

 いたち。

 女とも男ともつかぬ肢体。

 音も気配も残さず、蔵に“現れた”。

 戸は開いていない。

 鍵も壊れていない。

 だが――

 いたちは、すでに中にいた。

 桐箱へ、指が伸びる。

「……」

 その瞬間。

伊賀、動く

 音が消えた。

 百地こゆき。

 床を蹴らず、踏み込まず、すでに間合いの内。

 居合――

 神速。

 刃は喉を裂かず、肩口を掠め、

 逃げ道だけを正確に削ぐ。

 いたちは笑った。

「伊賀一か……面白い」

 次の刹那。

 藤林つらら。

 火薬封じの印を投げる。

 発火前に、すべてを殺す間合い。

「火も煙も、今宵は要らん」

 いたちが後退した瞬間――

 消えた。

 否。

 消された。

 服部みぞれ。

 気配そのものを刈り取る踏み込み。

 視界に映った時には、すでに背後。

 神速無双。

 衝撃。

 空気が鳴る。

 いたちは宙を舞い、柱に叩きつけられた。

 だが、まだ動く。

「……くく、さすが伊賀」

 印を結ぼうとした、その瞬間。

終わり

 百地さくら。

 藤林あやめ。

 服部せつな。

 三人同時。

 動きは揃わず、間合いは完璧。

 足を縛り、腕を封じ、呼吸を止める。

 一拍。

 簀巻き。

 夜は、何事もなかったかのように静まった。

露見

 奥座敷。

 頭巾が外される。

 現れたのは――

 息を呑むほどの美貌。

 その目を見て、

 景虎姉上が凍りついた。

「……まさか」

 いたちが、かすかに笑う。

「久しぶりだな、景虎」

 沈黙。

 景虎姉上の声が、震える。

「……飛び加藤?」

 お市様が一歩、前に出る。

「姉上の心に鎖を掛けていた者――

 そなたか」

 飛び加藤は、目を細めた。

「監視だ。

 愛でも忠義でもない。

 管理だよ」

 景虎姉上の拳が、音もなく握られる。

◉狂犬記・お市様日記

天文二十三年四月十五日 夜

いたち、捕縛。

伊賀上忍の技、まこと恐ろしきもの。

忍びは刃で殺さず、心で縛る。

それを断ち切るのが、わらわの役目。

姉上は、もう独りではない。

妹は、ここにいる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ