第3話 ――能力高校
校舎は、異様だった。
新築のはずなのに、
壁には無数の亀裂。
床には補修跡。
天井には、焼け焦げたような染み。
(……これ、本当に学校か?)
少年――秋田から来た新入生は、正門をくぐった瞬間に察した。
ここは、
壊れる前提で作られている。
「ぼーっとしてると、死ぬよ」
背後から声。
昨日、交差点で会ったブレザーの生徒だ。
肩に手を置かれる。
「今日が初日だろ?
ラッキーだな」
「何が?」
「実戦授業の日だ」
嫌な予感しかしなかった。
⸻
体育館――
いや、闘技場と言った方が正しい。
観客席。
分厚い防護壁。
床は金属と特殊素材。
そこに、新入生が集められていた。
「静かにしろ」
教師が一歩前に出る。
スーツ姿。
だが、纏う空気が違う。
「ここでは、能力の使用を禁止しない。
むしろ――」
教師は、淡々と言った。
「使え。
使えない奴は、要らない」
ざわめき。
少年の隣にいた生徒が、震えた声で呟く。
「……聞いてない」
「聞いてない方が悪い」
教師は指を鳴らす。
パチン。
「一対多。
ルールは簡単だ」
床の中央に、光が走る。
「最後まで立っていた者が、合格」
――次の瞬間。
ドォンッ!!
床が爆ぜた。
「開始だ」
⸻
炎が噴き上がる。
氷が走る。
衝撃波が交錯する。
ガァァンッ!!
ズガァンッ!!
バァァンッ!!
悲鳴と、歓声。
「うおっ!?」
「ちょ、待っ――」
吹き飛ばされる新入生。
壁に叩きつけられ、動かなくなる。
(……本気だ)
少年は、静かに息を吸った。
能力が、自然に立ち上がる。
――考える必要はなかった。
正面から、槍のような氷塊が飛んでくる。
踏み込む。
ズンッ!!
地面が沈む。
拳を振る。
ズガァンッ!!!
氷が砕け散り、
そのまま向こうの生徒ごと吹き飛ばした。
「なっ――!」
横から、雷撃。
少年は振り向きざまに、蹴る。
バァンッ!!
雷が弾かれ、
発生源の生徒が転がる。
「……止まらねぇぞ、あいつ!」
誰かが叫ぶ。
少年は、気づいた。
自分を中心に、
円ができている。
誰も、近づいてこない。
(……これが、東京か)
抑えない。
遠慮しない。
止めもしない。
だったら――
「来いよ」
少年は、静かに言った。
「全員まとめて、相手してやる」
一斉に、能力が解き放たれる。
炎、氷、風、重力。
少年は、踏み出す。
ズンッ!!
ズンッ!!
一歩ごとに、床が沈む。
拳を振る。
ドォォォンッ!!!!
衝撃波が、闘技場を覆う。
生徒たちが、次々と宙を舞う。
ガシャァン!!
バキバキッ!!
壁が割れ、
防護壁が悲鳴を上げる。
――数秒後。
中央に立っていたのは、少年一人だった。
息は乱れていない。
姿勢も崩れていない。
「……終了」
教師が、初めて笑った。
「合格だ。
それも――上出来」
観客席が、ざわつく。
「一年で、あの火力……」
「地方から、怪物が来たぞ」
少年は拳を下ろし、天井を見上げた。
(ここなら……)
能力を磨ける。
戦える。
強くなれる。
――そして。
(この国と、
ちゃんと殴り合える)
その瞬間、
誰かの視線を感じた。
観客席の最上段。
フードを被った人物。
目が合う。
笑っていた。
まるで――
駒が動いたのを、確認するように。
少年は、知らない。
この日から自分が、
東京能力高校最大の問題児として
記録されることを。
そして――
革命の歯車が、
本格的に回り始めたことを。




