第2話 ――東京、歓迎されざる力
東京の夜は、明るすぎた。
ネオン。
広告。
人の波。
秋田とは違う。
静寂がない。
少年は駅の出口に立ち、思わず空を見上げた。
(……近い)
空が、近い。
建物が高く、視界が切り取られている。
それだけで、胸がざわついた。
「――地方から来た?」
声をかけられたのは、横断歩道の手前だった。
年は同じくらい。
ブレザー姿の男子生徒が、笑っている。
「顔に出てるよ。
“初めての東京”って」
「……まあな」
少年が答えると、相手は軽く肩をすくめた。
「なら忠告しとく。
この辺りじゃ――」
言葉が、途切れる。
理由は、すぐに分かった。
ドォンッ!!
爆音。
交差点の向こう側で、車が宙を舞った。
「……っ!?」
悲鳴。
人の波が、一斉に崩れる。
アスファルトが砕け、白煙が立ち上る。
「能力者同士か……」
隣の生徒が、舌打ちする。
「歓迎会みたいなもんだ。
東京に来た能力者への」
次の瞬間、煙の中から人影が飛び出した。
――速い。
空気を裂く音。
ビュオッ!!
追いかける影。
拳が振り抜かれる。
ズガァンッ!!!
衝撃が爆ぜ、街路樹が根元から折れた。
「……は?」
少年は、動けなかった。
これが、東京。
止める人間はいない。
警告もない。
「見てないで、下がれ!」
ブレザーの生徒が叫ぶ。
「巻き込まれるぞ!」
だが、その時――
飛ばされた一人が、こちらに向かって吹き飛んできた。
「――っ!」
反射的に、少年の身体が動いた。
踏み込む。
ズンッ。
地面が沈む。
次の瞬間、少年は宙にいた。
バァァンッ!!
吹き飛んでくる身体を、真正面から受け止める。
重い。
だが、止まる。
「……な」
受け止められた男が、目を見開いた。
「止めた……?」
少年は答えない。
ただ、前を見る。
煙の向こうから、もう一人――
加害者の方が、ゆっくりと歩いてきた。
「おいおい……
新顔か?」
楽しそうな声。
「地方の能力者?
なら、試させてもらおう」
男が地面を蹴る。
ドンッ!!
弾丸のような突進。
少年は、考えるより先に――
踏み出した。
ズンッ!!
真正面から、拳を振る。
ズガァァンッ!!!!
衝撃波が交差点を吹き飛ばす。
アスファルトが抉れ、街灯が倒れ、
男の身体が、後方のビル壁に叩きつけられた。
ゴガァンッ!!
静寂。
……一瞬。
「――マジかよ」
背後で、ブレザーの生徒が呟いた。
「今の、一年生レベルじゃねぇ……」
少年は、自分の拳を見る。
痛みはない。
疲れもない。
ただ、心臓が少し速く打っている。
(……戦える)
それが、分かってしまった。
「名前、聞いていい?」
背後の生徒が、笑いながら言った。
「うちの高校、
そういう力――大好きなんだ」
少年は、夜の東京を見渡した。
壊れた交差点。
逃げ惑う人々。
遠くで鳴るサイレン。
ここは、戦場だ。
「……俺は」
少しだけ、言葉を選んで。
「この国を、取り戻しに来た」
ブレザーの生徒は、一瞬黙り――
そして、笑った。
「いいね。
最高に、東京向きだ」
――
こうして少年は、
能力を磨く場所へと足を踏み入れた。
東京は、
彼を拒まなかった。
むしろ――
歓迎していた。




