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非現実的な人生  作者: ゆうさん
氷の大国
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第四十八話  氷点下の大会

 

「さて、大会が始まるの」


 既に受付を済ませたアイシェスとシルクシャシャはギフェアとエクシアを見送った後、待機室へと移動した。

 二人は大会に出る気は無かったようでエクシアにいたっては頭をブンブン振って断った。

 あんなに大会に出たいと張り切っていたのにどうしたものか……


「あの……私も出来るなら大会に出る気はなかったのですが」


 体を震わせながらアイシェスもそういう。

 

 -10℃……さすがに寒い。ベールを覆っているからといって寒さを完璧に防げたわけではないからだ。

 それは確かに大会に出たいという気持ちも薄れるのだが

 なんていっても優勝商品を見てしまってはそんな気分も吹っ飛ぶ。

 アイシェスの体調は安定しているようで宿を出る前までは「召喚獣を出せは優勝できるのですね! これでブレイクさんは独り占めです」などと張り切っていた。この力を利用すれば……


 「クククッ」


 おっと思わず声に出して笑ってしまった。

 どうやらアイシェスには聞こえてないようだった。

 よし、ベールの効果をなるべく上げてアイシェスのやる気を上げておこう。

 しかしアイシェスとリリア姫とかいうやつの繋がりはやはりといったところだった。 

 

 少し時間を遡り、大会開催まで5時間を切った頃

 朝早く宿を出た3人はギフェアたちはアイシクルディエーリヴァ城の跳ね橋に来ていた。

 ちなみにエクシアは熟睡中のためおいてきた。


「ここに何か用があるのですか?」


 ギフェアが聞く

 シルクシャシャは顎に手をあて、思考を凝らしているようだ。


「んじゃの、どうしても調べたいことがあって来てみたのじゃが……とりあえずアイシェスはこれでも被ってるのじゃ」


「ひゃぁっ」


 短い悲鳴と共にアイシェスの体を覆い顔を隠す服を着させる。

 全く理解できていない二人をよそに跳ね橋を渡りきると二人の門番に槍のような物で道を閉ざされた。


「何用だ?」


「この城の姫に会いに来た。ザヴィからの言伝もある」


 ザヴィという名前を聞いた途端ざわざわし始める門番

 なにやら話し合っている様子だが、これで通してくれるのならそれでいい。


~~~~魔法列車内での出来事~~~~


「ザヴィとやら、そのリリア姫はアイシクルディエーリヴァ城の姫なのか」


「知ってるのか?」


「まあいろいろあってじゃな、そういう結論にたどり着いたのじゃが」


「そうか、だとしたらここにいるあの子はクロ――――いや、一体誰なんだ?」


「おそらくそのリリア姫とやらの姉か妹のどちらかであろう」


「っ!? そうかそういうことだったのか!!」


「ん? なんじゃ何かわかったのか?」


「あ……いや、こっちの話だ。とりあえず城に行ってみたらどうだ? 何かわかるかもしれない。ちなみに俺からの伝言を授かっているとでも言えば城の中に通してくれるだろう」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「なんだか氷で出来ているようなお城ですね」


 アイシェスが周りを見渡しながら言う。

 城の中は案外暖かいためベールは解除してある。


「そうですね、この近くで取れる鉱石をおもに使って城を作ったのでしょう」


 見知らぬ地でありながら博識であるギフェアは流石といったところだろうか

 兵に案内されながら謁見室まで案内されるまでの道、シルクシャシャも辺りを見回す。


「こちらで少しお待ちください」


 ベールを解除した後、確かに暖かいと思える。

 のだが氷の空間にいるような感じにさせるこの城の中では気分的に寒くなるので自分だけ再びベールを使う。


「おぉ。これはこれは……遠いところからわざわざご苦労であった。私はこのアイシクルディエーリヴァ城の王、ギナルド王だ。外は寒かったであろう、オーファン、ミルクコルアをこの人たちに淹れてあげてくれ」


 王と呼ぶに相応しい体型、ギフェア2人分ともいえるほど大きいその人はゆっくりと椅子に腰を下ろす。

 オーファンと呼ばれた男は、一度ヴェセア城を訪れた例の使者だったなとシルクシャシャは目を合わせる。

 オーファンは軽くお辞儀をするとココアを淹れこちらへと運ぶ。


「いえいえ、こちらこそ。 おーこれは美味しそうです。ありがとうございます」


 ギフェアはミルクコルアという飲み物を手に取り香りを楽しんでいるようだ。

 同じくアイシェスも会釈をするとそれを手に取る。

 だが、何かおかしい。私が受け取ったミルクコルアは美味しそうな香りなどしない。

 

 シルクシャシャは飲むふりをしてそっとテーブルに置く、ギフェアとアイシェスはまだ飲んでないようで

 同じくテーブルに置く。


「それで、一体どんな用件でこの城に来たんだ」


「この城の姫についてです」


その問いかけに深く頷く、なるほどなどと声に出しながらギナルド王はその姫について語り始めた。


「この城の姫、リリア姫は知っているとは思うが今は行方不明だ。有力な情報は部屋が荒らされていたということ、誘拐と捉えるべきだろう。それに『俺は必ず大会に出場する。姫を助けたいなら俺との交渉に応じろ。内容は大会当日に話す』などという置手紙もあったそうだ。そしてその新たな情報が先ほど届いた。それについては後ほど話そう。……それで姫のことだが、生まれたときからこの城から外へ出たことが無い。まあ深い事情はあるのだが、それが影響してか大きくなるにつれ、外に出たいという気持ちも表に出始め、事あるごとに抜け出そうとした。私は、城の者たちがリリア姫を退屈しないよう、剣技についていろいろと学ばせた。それは、リリア姫が外に出たいと思う気持ちの次にやってみたいと相談を持ちかけていたからだ。物心ついたころから今までそれだけに力を入れてきたためか、この城ではもはや敵無しとなってしまった。まあ私としてはもっと女の子らしいことを学んで欲しかったとは思っているがしょうがないこと、そろそろ外に出してやっても平気だろうと思っていたそんなときにこんな事態に陥ってしまった」


 うなだれるギナルド王にギフェアが大丈夫ですと声を掛ける。

 しかし、城から出たことが無いのなら、出たいという気持ちがあるのも当然だろう。

 

「それで新たな情報とはなんのことじゃ」 


「『今回の大会の優勝商品を俺に譲れ』という手紙が届いた。それについていきなりで申し訳ないとは思っているのだが協力してはくれないか」


「協力してもいいのじゃが、一つ聞きたいことがあるのじゃ」


「協力してくれるの言うのであれば是非とも何でも応えよう」


「そのリリア姫とやらに姉妹はいたのであろうか」


「私自身そのことを聞いたことは無い、だがメイドの何人かは姉がいるという情報を聞いたことがあるらしい。一人っ子のはずなのだが何を言っているのかは不思議だったな」


一回目の対戦相手を確認したシルクシャシャはアイシェスと共に会場へと移動する。


「大丈夫でしょうか、少し不安です」


「なに不安なことなど何も無かろう。妾がついておるのじゃ。それに頼もしい召喚もあるしな」


『さて、いよいよグラソンシュターディオンが始まります。会場は熱い熱気でこの寒さもろとも吹き飛ばす勢いです。こちらはAグループ、第一回戦は魔法使いリエナ、剣士シェイウス対、魔法使いシルクシャシャ、と……これは! 伝説の召喚使いが登場だ!! 召喚師アイシェス 一試合目から期待が高まります!!!』


「よろしくねお二人さん」


「よろしくっす」


 黒と紫の服に身を包んだ大人な女性と鎧を着込んだ若い剣士がアイシェスとシルクシャシャに挨拶をする。


「こちらこそじゃ」


「お手柔らかにお願いします」とアイシェスは深いお辞儀までする。


「あらあら、かわいらしい子ね。私、手加減しちゃうかも」


「そ、そんな! それは駄目っすよ」


「うそうそ冗談よ」


 などということを話しながらお互い位置に着く。


「ブレイクさん大丈夫でしょうか」


「気にはなるが今頃この会場のどこにいることじゃろう」


 そしてついに一回戦目が始まった。


 アイシェスは後方で召喚待機、シルクシャシャは前衛で寄せ付けないよう守る

 逆に相手チームは剣士が前衛、魔法使いが後衛となっている。

 とはいっても近距離の剣士と、主に魔法を使うシルクシャシャでは完全不利な状態であったため

 剣士の猛攻を見切りながらも詠唱していく

 

「接近戦で詠唱とはなめられたものっすね」


「腕の立つ剣士相手に長々詠唱する気はないのじゃ」


「馬鹿にされたっす……って、え? も、もう詠唱終わったんすか」


 すでにシルクシャシャは赤い刀身の剣を2本生成していた。


「だから言ったであろう。長々詠唱する気は無いと」


 剣士はニッと笑うと自身のスピードに身をまかせ件を振る

 そしてシルクシャシャは片方の剣でその剣をはじき、もう一方の剣で相手の懐を狙う

 相手はバックステップでそれを回避すると再びシルクシャシャめがけ剣を振るう。


 一進一退の攻防戦、細かいところをみればシルクシャシャの方が確かに有利であった。


「リエナ、今っすよ」


 剣士の掛け声とともに魔法使いは氷の刃のようなものでアイシェスめがけ放った。

 すかさずシルクシャシャはそれを障壁で防ぎ同時に剣士の攻撃も防ぐ。


「手ごわいっすね。んでも二人に対して一人じゃあまりに不利っすよ」


 それは考えていたことだとシルクシャシャは思う。

 しかしこれを防いでいるうちに召喚獣さえ呼び出せれば勝利も同然

 シルクシャシャはアイシェスに声を掛ける。


「召喚のほうは順調か」


「あ、あのっ……しょ、召喚出来ません。どうしても召喚ができないんです」


 さすがに予期していなかったことに集中が途切れるシルクシャシャは相手の剣の軌跡を一瞬見逃してしまった。

 そのずれが原因か、腕に傷を受けてしまう。


「恐れていたっすけどー、なんとかなりそうっすね」


 魔法使いが今度は長い詠唱をしているという様子を確認したシルクシャシャはそれにともない障壁を張る準備を始める。しかし剣士の次の攻撃に意表を付かれることになる。


「今度はそう簡単にやらせないっすよ」


 そういうと次に繰り出した剣が揺らいだかのよう見えた。

 それを剣で防ごうと防御体制をとったのだがまったく的外れの場所に痛みが走る。

 そして相手の連携により魔法の攻撃も受けてしまう。


「詠唱相手にはうってつけの攻撃っすよ」


「まさかそういう類の攻撃方法を持っているとは予想外じゃった」


 横腹から流れる血が足を伝って黄劣血の少女としての証拠が地面を黄色く染める。

 錆びた臭いが鼻につく……

 とりあえず相手との間合いを開けるため大きく後ろのジャンプするとアイシェスの様子を確認する。

 

「シルクちゃん……ち、血が……今すぐ手当てしないとっ!!」


「はぁ~召喚は無理そうじゃの。それよりアイシェスは治癒魔法が使えぬじゃろう。それに、これくらいのことは自分でどうにかなる」


 しかしその治癒魔法も効かないことに気付くのはそれから数分経たないうちだった。


「シェイウス、一気に畳み掛けるわよ。下がって!」


 シルクシャシャが治癒魔法を使っている間に剣士は魔法使いの傍により次の攻撃の準備をしようとする。

 

「どうやら治癒術が効かないようじゃ。もしやあの時の剣の揺らぎの時に当てられたダメージの無い魔法にそういう効果があったのじゃろう。とりあえずあの攻撃を防がなくてはならぬのじゃ」


 アイシェスを守るように盾になるよう少し距離を置いて障壁を張る詠唱を始める。

 しかしこれもまた予想が外れることになる。

 相手が準備していたのは魔法剣撃、つまりは物理攻撃に属性が足された攻撃。

 対してシルクシャシャが唱えていたのは魔法体性の障壁。

 それもかなり高度な詠唱をしたためか腕の立つ術者が全力を放ってもビクともしないものが完成した。

 しかし魔法防御に特化するほど物理に対する防御が下がる。

 つまりは相手に対しては紙装甲も同然だった。

 相手の強力な魔法で仲間を巻き込まないように後ろに下げたのだと早計な判断したのが原因だったと、相手の剣に雷が纏うのを確認して思った。

 だが、相手の残撃がこちらに飛んで来る寸前で瞬時に物理体性に変更出来る限りの抵抗を試みた。


 結果、シルクシャシャは致命的な怪我を負い,もはや勝負はついたかに見えた。

 しかし相変わらず動くことの出来ないアイシェス姫をよそにシルクシャシャはゆらりと立ち上がる


「これ以上怪我を負わす必要は無いわ。吹き飛ばしてやれば意識も失うでしょう」


「了解っす」


 しかしその剣士がシルクシャシャに近寄ろうとした直後

 シルクシャシャを中心に真空派のような、まるで空間がよじれたようだと錯覚を起こすほどの風がアリーナ全体に走る。

 そして1秒も待たずに剣士は物凄い勢いで吹き飛ばされ壁に背中を叩きつける。

 壁にひびが入るほどの威力を体に受けたが、剣士はまだ意識があるどころか平気に歩くことさえ出来た。

 それに対し魔法使いもシールドを張り風を防いだ。

 観客席は高さからの関係か被害は無く、アリーナ自体が大きく揺れただけで済んだ。


「その鎧、だてじゃないわね」


「そりゃ最高峰の防具っすからね~。とはいっても物理のみってところが痛いんすけど……」


「危ないシェイウス!!」


 いきなり怒鳴られた声に硬直するもその理由はすぐさま知ることになる


「ちょ、ちょっとこの威力……無詠唱で放ったの……」


 苦笑いするリエナに緊張が走る。


「だ、大丈夫なんすか」


「大丈夫よ。なんとかなるわ」


 大嘘である。何とかなるはずがない。これほどの威力を受けて、もはや障壁で精一杯。

 燃え滾る灼熱の炎が地面を覆っているこの場所で障壁を解いたとしたら水蒸気となって消えそうだ。

 それなのにさらに魔法を唱えている相手をどうにかできるはずがない。

 しかしリエナはしっかりと見た。相手が自我無くただただ魔法を使おうとするのを……


「これは、第一回戦から白熱した戦いになりそうね。シェイウス、全力であの子を助けるわよ」



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