第四十七話 無名の天才剣士
「や、やっとついた」
「でもここはまだヒルルト駅だ」
「だよな。もうひと頑張りか……」
ブレイクたちはただひたすらに歩き続けようやく氷の橋を抜けることが出来た。
その間、飲まず食わずで体力も限界に近かった。
そんな時、ヒルルト駅の広場でなにやら騒ぎが起きていた。
「ですから代金を戴かないわけには……」
「うるせーな、こっちはな街の安全を守るためにモンスター倒してやってんだぞ、サービスって事でいいだろ」
大柄な男数人に対して細身の男1人でなにやら話し合っているようだ。
「いえ、しかし決まりでして」
「あぁん? てめぇ少し黙っとけよ。そうじゃなけりゃ少し痛い目に遭ってもらうぜ」
手をポキポキ鳴らしながら数人の男が細身の男に近寄っていく
ユーゼが「そのくらい払えって……ったく」と小声でいいながら前に進み出る。
「申し訳ありません。それは止めてください」
「ならタダにしろ。そして二度と俺たちに逆らうな。わかったか!」
細身の男の返答を聞く前にユーゼが数人の男たちのほうへと歩いていく
「おいおい、いい加減に「街の人々を守る人が、街の人に手を出してはいけません」……誰だ」
ユーゼの話に被せて俺は聞き覚えのある声を聞いた。
野次馬の人だかりをかき分けて広場に現れた声の主はどこからどう見てもアイシェス姫?だった。
「ブレイク、あのあからさま姫みたいなやつは一体誰なんだ?」
「誰と聞かれてもな……確かに俺の知っている人かもしれないが。でも何かが違うような……」
「それはどういう意味だ?」
確かにどうみてもあれはアイシェス姫……なのだが人だかりを怖がらないのはおかしい。
見間違いだったのか? それともこの短い期間に克服したのか?
どちらにせよ、あの大柄の男と争いになるのは避けられそうに無い。
「おい、誰だか知らないが、俺に向かってそういうことを言うってことは、この後どうなるかわかってんだろうな?」
「えぇ。結果は見えてます。私の圧勝というところでしょうか」
大柄の男数人を目の前にしてあの余裕、やはりアイシェス姫ではない……のか?
小柄な少女は背中に2本の剣を背負っていた。
日本刀のように細い幅、刀の全長は少女の身長よりも大きく見える。
背中にクロスするように斜めに取り付けてあることからかなり長そうだ。
「あんな刃をむき出しであの人だかりを通ってきたのか?」
「確かに、よく気がついたなブレイクは」
重さからしても結構な方だとは思うが、その少女は自身の身長よりも高く宙返りしながら軽々と鞘から剣を引き抜き、大柄の男性にそのうちの一本の刃の先を向ける。
「運が良くて10秒、悪くて5秒といったところでしょうか……さあ戦うのなら貴方たちから来てください」
「ははっ馬鹿にしてやがる。なぁお前ら」
大柄の男が一斉にゲラゲラと笑い出す。
「怖気づいたのですか? 折角貴方たちに先制のチャンスを与えたというのに」
「はぁ~。そんなに死にてぇのかよ。だったらそのチャンスとやらを有り難く使わせてもらおうじゃねーか」
大柄の男の内3人が少女に攻撃を仕掛ける。
相手のパンチを回って交わすとそのスピードを利用して相手の足を切り落とさない程度に肉に刀を食い込ませる。
男が悲鳴を上げると同時に上からの別の男が落下しながら攻撃を繰り出した。
それを地面を転げ交わし、すぐにジャンプ、そして刀を利用してさらに上空に飛び上がる。その上空でいきなり凄いスピードで急降下し、男の肩に刀を突き刺す。
重力を無視した攻撃に反応できず周りは唖然となる。
相手のひるみを利用しさらに素早く動くと少し離れた男に向かって剣をクロスさせ思いっきり振り下ろしその流れで手首のスナップを利かせ自身の背後上空に剣を投げ、回転しながら再び前に飛んできた剣を華麗に飛び上がりながらキャッチした後、相手に切りかかる。
初撃の振り下ろしで何らかの術にかかった男は身動きがとれず、宙を舞う刀はいつの間にか妖気を纏ったように紫色のオーラが出現しその色をただただ見て、残りの男たちは皆倒れた。約8秒の出来事であった。
「夢を見て苦しみ、起きた時には店主に頭を下げるくらいには矯正するでしょう」
そういうといつの間にか柄だけになっていたそれを背中の鞘の中に入れてその場を立ち去った。
「なあブレイク。あの剣いつのまにか柄だけになってたよな。しかも柄が鞘の中に収納可能ってどういうことだ」
「そうだな。刃の部分がいきなり消えたように見えたが、あれも魔法なんだろうか」
どう考えてもアイシェス姫ではないことは確かなのだがアイシェス姫のような雰囲気を漂わせるなんとも不思議な少女を目撃したブレイクはユーゼと共に再び歩き出すと、シュビル・エ・ヴェニーバへと向かった。