第四十六話 白銀の街
「さて着いたのじゃ」
「そ、そうですね。ですが……さ、寒いです……」
何処を見渡してもまーっしろ、パラパラと降り続ける雪は見ていてとても綺麗だけどやっぱり寒い。
ヴェセア城も雪が降ってて寒かったけど、ここはそこよりも寒い。とっても寒い。
寒いけど綺麗。だけどどうせならブレイクさんと、この街を見て回りたかったな。
あれから魔法列車は無事リベア駅という駅に到着した。
途中、列車が切り離されたり橋が壊れたりという事故なのか事件なのかが発生したが、行方不明者1名だけだった。
騎士団の活躍により被害はとても少なく抑えることが出来た。ギフェアはリベア駅に着き次第駅長にそのことを話、橋の修復をお願いしたり道中の出来事を余すことなく話した。ギフェア以外の騎士団達はしばらく列車に留まると言い、ギフェア、アイシェス、シルクシャシャ、エクシアの4人は宿屋へ向かった。
しかしその宿屋へ向かっている最中、シルクシャシャただ一人が寒さをものともせず平然と歩いていた。
その様子が気になったのかアイシェスはシルクシャシャにそのことを聞く。
「シルクちゃん寒くないの?」
「妾か? 体の回りに薄いベールを纏っておるからな。特に寒さは――――」
「シルクちゃんだけずるい!」
「あー、私にも出来たらお願いしたい。このままだとあの時の熱を出したことを思い出す」
やっぱりそういうことだったのかとアイシェスは思う。
エクシアやギフェアの言葉に続きアイシェスも頼もうとするが
「そうじゃなー。宿屋の夕食に妾の好きな食べ物を一つもらえるのなら考えてもいいかも知れんな」
「まるで子供の――――」
「な・に・か 言ったかギフェア?」
シルクシャシャの体から赤色のオーラが出て周りの雪を溶かしていく
「っ!? いえいえ私は何も」
そんなことがありながらも無事宿屋に到着。
宿屋の中は人がたくさん集まっていた。……怖い。
どうも人がたくさんいると怖く感じてしまう。
話の内容からどうやらグラソンシュターディオンに参加する人たちのようだけど大会を見る目的もブレイクさんがいなければ意味が無い。
とにかく今は無事を願っていないとダメですよね。
人だかりの中をかき分けながらフロントで部屋を決める。
「ギフェア、お主は別の部屋じゃな。この部屋なんかどうじゃ? 妾たちはこの部屋にするが」
ギフェアは安っぽい木造の部屋に対しシルクシャシャたちは広々とした高級感あふれる部屋、さらに高級食材使用の郷土料理や露天風呂付き、これにはさすがに反対したギフェア。なるべく同ランク尚且つ納得できるようギフェアが話しなんとか口承成立。普通の部屋だが郷土料理が食べられるセットに決定、しかしギフェアの料理に関しては全てシルクシャシャが戴くという結果に。
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「まあ少しは分けてやろう」
ギフェアは宿屋の中にある小さな店で弁当を買って部屋に戻り一人食べていた。
そんな中、シルクシャシャがやってきて食材を分けてくれた。ちなみにアイシェスもギフェアに渡す。
「二人とも私のために申し訳ありません」
「ほんとじゃ。アイシェスのポケットマネーでどうにでもなったじゃろうに……」
「あれは城の金です。無駄遣いは出来ません。姫様も、その箱は何度も出し入れするようなものではありませんよ」
アイシェスの持つ手のひらサイズの箱は魔法箱という不思議な箱でありアイシェスがギミックを解除すると
人が3人ほどは入れるぐらい大きくなりその中には驚くほどの金貨がつめられている。
「そうじゃ! アイシェスに聞きたいことがあったのじゃ。内容は風呂で話そう」
「え、一緒に入るんですか?」
「何を言っておる。当たり前じゃろう。あとはエクシアも誘っとくかの」
「わかりました。いってらっしゃいませ」
シルクシャシャはアイシェス、エクシアとともに風呂へと向かった。
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「アイシェス、何故隠すのじゃ」
開放感あふれるシルクシャシャに対しアイシェスは露出が少なくなるよう長いタオルを巻いていた。
「恥ずかしいじゃないですか! シルクちゃんはどうして平気なんですか?」
「同姓なら問題ないんじゃがな。なぁエクシア」
もちろんと頷くエクシア。
そんなエクシアも元は庶民的な暮らしをしていただけであって
おしとやかというよりは断然活発な女の子である。
「アイシェちゃんも、ほら♪」
エクシアとシルクシャシャがじりじりとアイシェスに近寄る。
「二人とも……なにか目が輝いているように見えるのですが」
「何も気にするでない。心配は何もいらんのじゃ」
目を閉じゆっくりと相手を諭すように言葉をかけるシルクシャシャ
そんな言葉を聞き、ため息をつくアイシェスはもっと清楚でおしとやかにするべきだと
シルクシャシャを説得する
「もう少し恥じらいというのを――――」
「恥らうのはブレイクと混浴に行った時にあざと~くやればいいのじゃ」
しかし説得を試みたアイシェスの言葉はあっさりと遮られ、尚且つアイシェスにとっては耳に障る言葉を言われムッと頬を膨らます。
「そ、そういうことはすぐに……み、見抜かれますよっ!」
「なんじゃ動揺しておるのか? いつまでも恥らっていてはブレイクも愛想を尽かしてしまうかも知れぬな」
「なっ…………そ、そんなことはありません!!」
「まあよい。エクシア、アイシェスを捕らえるのじゃ」
いつの間にかアイシェスの背後に回っていたエクシアはアイシェスを捕まえ身動きをとらせないようにした。
そしてシルクシャシャはタオルを無理やり奪い取る。
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「あんなに無理やりやること無いじゃないですか、少し痛かったです」
「悪かったと言っておるじゃろう」
調べたかったからとはいえ、少し無理やりすぎたかもしれない。
列車の中で見たとおり、アイシェスの首筋には確かに召喚の紋章があった。
召喚一族のなかでは最強を誇っていたリンドヴルム家、その紋章が……
召喚獣の大きさからしても半端ではない魔力が使われているはず、体の小さく体力の無いアイシェスがこのまま召喚獣のことを放っておくと、いつかは召喚獣の力にとらわれるかもしれない。
現に背中の肩甲骨あたりにあざのようなものが出来ていた。これはきっと、召喚獣の力がアイシェスに干渉しているということだろう。この程度のものならいいが、酷くなったら危険だ。
だが、この力をアイシェスのものとして扱えるようになれば、大会での戦力は何倍にもなる。
「どうしたんですか? シルクちゃん。そんな真剣な顔して」
「ん? あぁ、なんでもないのじゃ」
今は大会よりもアイシェスの身の心配が先だ。
と考えるのを止めてシルクシャシャに襲い掛かる
「きゃっ、や、止めてください。くすぐったいですー!!」
「私もまぜてまぜてー」
しばらくの間、3人は風呂で有意義な時間を過ごした。