第四十五話 初召喚
「あれ……ここは……」
目を覚ますと隣にはギフェアが居た。
でもなにやら痛そうな表情をしながら気絶をしているようだった。
「何で私……そういえば、ブレイクさんを」
ハッとした私は最後尾に向かい走った。
しかし扉を開けたとたん強い風が当たり、そこは列車の外だった。
あやうく落ちかけ扉を掴む。
「橋が崩れてる……ブレイクさん」
もはや帰りのことなどどうでもよかった。
とにかくブレイクの無事を願いしばらく外を見続けた。
そして結構体が冷えてきたため一度列車の中に戻ろうと向きを変えると知らない人が目の前に立っていた。
「あ、あの……」
「あなたはリリア姫ですか」
「い、いえ、人違いかと」
なにやら考え込んでいる若い男
私に似た人もいるんですかねと思い「失礼します」といい横を通り過ぎようとしたら
「待て」
急に手首掴まれビクッと体を硬直させる。
ブレイク以外の人に体を触れられた事に対しアイシェスは驚愕の表情を男に見せる。
「本当に違うんだな」
「は、離してくださいっ!! 私はアイシェス・ティーナという者です。リリア姫なんて人は知りません!」
「そうか」
今度こそその男のそばから早足で離れる。
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「一体なんだったのでしょうか…………う~ん落ちたでしょうか」
「元気そうでよかった。いきなり倒れちゃうから心配したんだよ。それにしてもその男の人シルクちゃんも話してた」
大量の石鹸を使い、およそ10分ほどの手洗いを済ませている間にエクシアといろいろな話を交わす。
「シルクちゃんが?」
「そうそう。倒れてるアイシェちゃんを見て、その例の男の人がね、大丈夫か? って尋ねてきたみたいなんだけど、シルクちゃんは警戒はしつつも特に害はなさそうだって。でもそんなことがあったんじゃちょっと気をつけた方が良いかもね」
「そうですよね。私、ちょっとシルクちゃんのところに行ってみます」
「そうだね。このことを話したらシルクちゃんもいろいろ力になってくれると思うし」
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「それで妾のところにきたのじゃな」
「はい。そうなんですけど……シルクちゃんお腹空いてるんですか?」
「ん? まあそうじゃな」
こんがり焼けた肉、栄養価の高い野菜、色とりどりのフルーツなどが並べられているほか
既に食べ終えた空き皿が10皿ほど積まれていた。
一段落着いたところでナフキンで口を拭くと先ほどの男について話す。
「リリア姫と言ったのじゃな? それも疑われるほど似ていた……となると」
「となると?」
「アイシェスは双子という可能性が考えられるのじゃが」
「私は双子じゃありませんよ」
「そうじゃろうな。まあ世の中には何人か自分と似ている人物がいるとも言われておるしな」
シルクシャシャの答えにあんまり納得しないアイシェス。
そんなアイシェスの様子をみるシルクシャシャはそう深く考えるものじゃないと言う。
「まあ警戒は強めておくべきじゃろう。この後はしばらく妾も一緒について行こう」
と、また食べ物に手を付けようとした時。
「し、シルクちゃん……」
「貴様! 妾が見ていないからってさっきは良くもやってくれたな」
シルクシャシャとアイシェスの前に現れたのは先ほどの男、ザヴィであった。
「やはり別人だとは思えない。なぜ嘘をつく、なぜ避けようとする」
素早い動きで再びアイシェスの腕をつかむ。
「心配はしていた。さらわれたなどという噂が広がっていたからな。でももう大丈夫だ。もう帰ろう」
「………ぃ……ゃ……」
「アイシェスにきやすく触る出ないっ!」
「邪魔だ! お前は引っ込んでろ!!」
「さあ早く」
といいながらぐいぐいと引っ張る男に対しアイシェスは俯いたまま何も話そうともせず動こうともしない。
次にその男が大丈夫かと声をかけたがその言葉を言い切る前にアイシェスは発狂した。
「きゃああああああああああああああ!! また、また触られましたっ!!!! ゆ、許しません。もう許しませんよ」
「あ、アイシェス? これはもしや……」
先ほど確認していた紋章がひかり耳をつんざく様な鳴き声が聞こえてきた。
「ぐっ……なんだこの声は……」
男は腕を離し耳をふさぐ。
そして空模様が赤くなり黒い影が魔法列車を覆う。
「やはり召喚じゃったか、それにしてもアイシェスにそんな潜在的魔力があったとは驚きじゃの」
「リリア姫が召喚……だと……それはありえない」
冷静にザヴィが言う。何か意味ありげな発言にシルクシャシャは疑問に思う。
「何を言っておる、今まさに召喚しておるじゃろう」
いや違うんだとザヴィは言う。どうやらリリア姫とやら人物は魔法より剣術派らしい
シルクシャシャの頭の中ではすでに双子説が浮かび上がっているが本人が否定している。
だとすると記憶がないからなのかなどと自分も体験した記憶喪失の線を考える。
「ザヴィとやら、そのリリア姫はアイシクルディエーリヴァ城の姫なのか」
「知ってるのか?」
やはりそうだった。シュビル・エ・ヴェニーバの街に着いたら大会よりもそちらを優先させようかとシルクシャシャは思った。その頃アイシェスはというと
「あ、あのシルクちゃんこの子はどうしたら……」
召喚獣リンドヴルムの迫力に怯えながらその場を一歩も動けずに助けを求めていた
次回 6月16日