第四十四話 忍び寄る危機
「これをっ……受け取ってくれっ!!!」
ブレイクから何かを受け取った
これは……人形?
それよりも切り離された魔法列車はどんどん減速しブレイクから遠のいてしまった。
「ブレイク!!」
「ブレイクさん!!」
さけんでもどうにもならないが橋が崩れた時にはさすがに心臓が止まるかと思った。
アイシェスは気絶してしまうし、いくらブレイクだからといって氷の海に落下して助かっているかと考えると……それでも信じるしかない。
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「ブレイクなら大丈夫だろ。そんな気にするなって」
騎士団ダロットやその他の人たちも特に心配している様子がかなった。
ブレイクの許可さえ下りれば今すぐにでもこいつらを八つ裂きにしていたというのに……
それにしても、どういうことか狂騎士のことがあって以来、魔力の容量が異常にも高まっている
そんな計り知れない魔力が少し怖かったりもするが……
「とりあえずシュビル・エ・ヴェニーバまでいってブレイクを待とうか」
「た、助けに行かぬのか」
「シルクちゃん。ブレイクさんなら大丈夫だって、私も心配だけど絶対戻ってくるよ」
「うぬぬ~。エクシア……まさか敵に回るとは」
どうやら話し合った結果助けに行かないことになった。
おのれギフェアめ、多数決など結果の見えたことを……
それにいくらブレイクだからといってあんな場所に落ちたら無事かどうか……
「まあ、今は信じて待つしかないということじゃな……」
自分に言い聞かせるようにアイシェスのいる場所まで戻る。
「そろそろ目を覚ましたらどうじゃ。……ん?」
アイシェスの首筋辺りに見覚えのないアザのようなものがあった。
正確に言えば何かの紋章のようなもの
「まさか……召喚……いや違うか……しかしここ最近の体調の悪さは召喚士が初めに召喚術を得る時に見られる傾向……うむ。このアザが紋章であるならば調べる必要があるな。とはいいつつも本がある場所は20両目、とっくに切り離されて確かめるすべがない。これは向こうについてからじゃな」
「あの、そのお嬢さんは熱か何かでしょうか?」
いきなりかけられた声に驚いて素早く振り返ると背丈の高い青髪の青年が立っていた。
女性からは持てそうな顔立ちではあるがブレイクには到底かなうまい。
「ああ、大丈夫じゃ。少し寝ていれば治るだろう。それよりもお主は誰なんじゃ」
「あ、僕ですか。僕はザヴィと申します。治療術専攻で先ほど怪我をしている人たちの治療をしていました。怪我以外にも病気などもある程度の範囲なら症状を直せますので」
妖しい奴……には見えぬか。しかし警戒はしておくべきじゃろう。
「そうじゃったか。まあ治療に関しては妾も出来るのでな、心配せんでもよい」
「それなら良かった。もし何かあった時はいつでもお声かけください。力になりますので――――なぜだ」
「わざわざどうもじゃ」
ザヴィの最後の言葉を聞き取ることが出来ずその場を去っていくザヴィと入れ替わるようにギフェアがこちらに向かってくる。
「ここにいましたか。……と、アイシェス姫!!?」
突然顔色を変えアイシェスに迫るギフェアの頭に拳骨を食らわせる。
ギフェアは短い悲鳴とともに気を失った。
「……ついついやってしまった。まあ仲良く眠ってくれ」
とりあえず二人を眠らせたまま先ほどまでみんなで相談していた場所まで戻る。
しかし今ここにはエクシアしかいなかった。
「他のみんなは?」
「ギフェアさんの提案で他のお客さんの保護に向かいましたよ」
すでに5両が切り離されたが、それっきり何の動きも無い。
被害はブレイク一人という自分にとっては酷な話だが、他の人が巻き込まれていないというのは良かったと思う。 だが、こんな車両を切り離すなんておおそれたことをやるとは、一体誰が……
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「一体どういう事だ……姫様はさらわれたわけではなかったのか?」
男は壁に寄りかかり目を閉じる。
しかし、城にこもりっきりだったリリア姫に人脈があるとは思えない
だがあれはどうみてもリリア姫そっくりだった。
「ったくあの屑王の命令さえ聞けばあの姫を俺の好きにしていいって言うから、言われたとおり愉快犯やってたってのに消えちまったら元も子もないだろ」
再び歩みを進める男はリリア姫によく似る少女の部屋へ向かった。
次回更新 6月7日