第四十二話 魔法列車の旅
氷で出来た柱に施された神獣の数々、その先に一際豪華な椅子に鎮座する王は向かってくる兵士を確認するとゆっくりと立ち上がる。
「ギナルド王、騎士団たちを列車に乗せることに成功しました」
「そうかそうか、良くやったな。お前には報奨金としてこれをくれてやろう」
王の足元に突如出現した袋には大量の金貨が入っていた。
「ははっ。ありがたき幸せ、今後とも精一杯頑張らせてもらいます」
帰っていく兵士と入れ替わりに1人の男が王の前にて跪く。
「おお、お前か、どうだ最近は?」
「はい。とても調子がいいもので、奴等はやすやすと列車へと向かっていきました」
「クククッ。これから起きることも知らずに愚かなものだ。……ふむ、今回で報奨金ランクはAに昇格か、関心、関心。この調子で頑張ってくれ」
「勿論ですとも、これからも期待にこたえられるよう全力で頑張らせてもらいます」
「楽しみにしているぞ、オーファン。それとザヴィを知らないか?」
「単独で列車に乗り込んだと思います」
「そうか、奴らしいな。どのように場を乱すのか見ものだな」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
『氷の大国シュビル・エ・ヴェニーバの街で作られている暖かいミルクココルアはいかがですか』
『この魔法列車の2階には大きなカジノがありますので是非とも遊びに来てくださいね』
『レイヴンの武器屋では只今全商品を20%引きで販売しております』
観光客や大会に出場する者、案内人や店の呼び込み声など賑やかな魔法列車に乗ったブレイクたちは出発までの時間を姫様誘拐に疑われていることを忘れたかのように優雅なひと時を過ごしていた。
魔法列車の中は幅が広く、日本の電車と比べると横幅が10倍ほど、高さが30mくらいあり縦には20両とかなり巨大。まるで動く商店街のように見えた。動力とか技術が半端ではない。
列車に乗る前の話だが、ピロクが氷の上をこんな巨大なものが通って大丈夫なんですかとギフェアさんにかなりしつこく聞いていたが止まらない限り橋が崩れることが無いと言っていた。
―――あまり聞きたくない話だった。
「それにしても日本の電車と比べると、もはや違う何かだなぁ~」
「ブレイクさんの国の電車にも乗ってみたいです!」
アイシェス姫が目を輝かせながらそういうが、ここと比べると雲泥の差だ……
ところでこの広さ、乗車時間が三日という事を考えればこれだけいろいろな施設があるのもよく分かる、だがしかし距離の謎が気になる。一体どれだけ遠いのだろうか。
「隣、失礼するのじゃ」
ブレイクたちが座る席は6人が向かい合う席で、窓際から順にギフェア、アイシェス姫、ブレイク。テーブルを挟んで同じく窓際からタミン、レクセル、エクシアとなっている。シルクシャシャや他の騎士団達はとなりの部屋で座っていた。
―――のだが
「ここは3人用の椅子だぞ!」
3人用の席だというのに無理やり座ってこようとするのでかなりきつい状態となっていた。
「酷いではないかブレイク、先に席をとって置いたのにそこに座らぬとはまるで夫婦ではないのじゃ」
「なんだかんだで魔法列車にはしゃぐアイシェス姫、シルクシャシャ、エクシアに朝早く起こされ一番最初に列車に乗り込んだんだからそこらじゅうが空きだらけだっただろ?」
もはや夫婦だといわれたことにいちいち突っ込むブレイクではなかった。
そして、ぐぬぬぅ~と唸るシルクシャシャににこやかに笑うアイシェス姫、その笑顔の憎らしさにさらに強引に座ろうとする。
「シ、シルクシャシャ姫。私が、私がどきますのでその辺で……」
かなり体勢的に無理な状態になっているギフェアはそう言うがなかなか収まらず
「ブレイクさん、そんな強引な……ポッ」
特に何かしたわけでは無いブレイクだったのだがアイシェス姫の好感度を上げ
「ぅ~ぎゃーーーっ!」
ついに耐え切れなくなったシルクシャシャがダイビングするという強行に出たりと城にいる時と変わらない雰囲気にみんなが笑顔で楽しい時間が続いた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
『ご乗車ありがとうございます。この魔法列車は***行きの列車でございます。当列車は魔力を言動に動いていまして最高時速の≪天速≫はおよそ1000㎞にまでおよび乗り物の中では世界最速と言われています。列車内の施設の案内に関しては―――』
動き出し始めてアナウンスが入る。景色は一面氷か海、空は雲の無い青空が広がる一枚絵になりそうな景色で気分を落ち着かせてくれる。のだが……今はまだいいけど3日も乗ってたらこの景色にも飽きるだろうな。
「凄いですね。それならあっという間に着いてしまいます」
アナウンスを聞いて感心したようにうなずくアイシェス姫は少し残念そうだった。
「そんなことはありませんよ。どのくらいの距離があるかわかりませんが3日はかかるそうですので」
そう。紹介にはされているが《天速》は今現在の魔力では到底不可能だそうだ。だったら紹介するなよとか思ったけどしょうがない。そして壁に魔力で映し出される電光掲示板的なものに《通常》と書かれているのは変わらないそうだ。この電車に乗る前に渡されたパンフレットを見る限りでは《通常》の上に《高速》《超速》《天速》と続くらしいのだが《高速》すらならないのは残念だった。
結局は残念ですらあったがせっかくだし電車内の観光でもしようといろいろ回ってみることに決めた。
あのシルクシャシャはお手洗いの方に向かったとか聞いたので行くなら今だ。
「どちらに行かれるのでしょうか」
ブレイクが席を立つときにはアイシェス姫も移動の準備バッチリ状態にしてこちらを見ていたので連れて行くことにした。
なにやらギフェアさんも来たそうな目をしていたように見えたので誘ってみれば席を立ち、こちらに歩みを進めながら断るというなんとも「行きたい」という感情が溢れ気味だったギフェアさんは何に遠慮しているのかはわからなかったけど結局はついてこなかった。
「フフフ……」
「ティーナ、今笑ったか?」
「えっ!? い、いえいえ、そんなことはありませんよ。行きましょうブレイクさん♪」
気のせいだったのだろうか顔に影を作りながら笑っていたように見えたのは……
そういえば、この魔法列車に乗る数日前から……最初に症状が現れたところとしてはシルクシャシャの狂騎士事件のあたりから咳をするのをみる。出発前に風邪なら無理をしないほうがいいと入ったのだが言うことを聞かずついてきてしまった。大丈夫なのか心配なところはあるが今はとっても元気そうであり、そんなに気にかけることは怒らせる原因にもなりかねない。まあ、アイシェス姫を怒らせたところで可愛いものだが、気分を悪くさせるわけにもいかない。
「あ! ブレイクさん、あの店に入ってみましょう」
アイシェス姫が指差す先はかわいらしい人形がたくさん置かれた店だった。俺からしてみれば日本の動物が1つもないので不思議な感覚にはなったがゲームにも出てきそうな動物が多い、そしてなんといってもこれらの人形はこの世界で実際にいるそうだから凄い。実際にこんなものが動いているとなると感慨深い。
それからしばらく人形を見て回っているとタミンを見つけた。
「タミンはやっぱりその人形を見てたんだな」
「うわわっ!? もう驚かさないでくださいよ。ブレークさん」
タミンの友達的存在であるパピルピは城でお留守番らしい、というのも治療をする人が誰一人いなくなってしまうからだ。タミンの飼う……(飼うだと怒られるな)タミンの家族であるパピルピは特別で、野生のと比べるとまず言葉が聞けるらしい、表現能力が高く、理解力もあるとのこと、共に学んできた治療学が生きたのか、もはや凄腕の医者とも呼ばれる。だから心配は要らないそうだ。むしろあの子の凄さをもっと解ってほしいのだとか。
「タミンは寂しくないようにパピルピの人形を買うのか?」
「ふぇっ!? そ、そそそそんなわけないじゃないででですか!! 寂しくなんかありません!」
凄い動揺っぷりであった。
「欲しいのであれば買ってあげましょうか? タミンさんには前々から御礼をしたいと思っていたのです」
アイシェス姫はどうやら城の兵たちの治療を頑張るタミンに何かしてあげられないかと考えていたようで今回は絶好のチャンスだった。
「姫様からのプレゼントだなんてお受け取りできません。私はただ当たり前のことをしたまでですから」
小さい割りにアクティブなタミンは両手をぶんぶんと顔の前で交差させる。
「ですが、その役目はあなたしか出来ません。私や城の者たちはとても助かっているのです。私個人からの直接的な感情ですから遠慮なんていりませんよ」
国からのお金じゃないから気にしないで欲しいといいたいのだろうが、タミンにとっては姫様から貰うものに抵抗がある。
「ここは感謝の気持ちを受け取ったほうがいいと思うぞ」
「う~ん、でも…………わ、わかりました。ありがたく受け取ります」
控えめに嬉しそうに会計に人形を持って行くタミンの姿はなんともほほえましかった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ブレイクさん、どこか行きたいところはありませんか?」
行きたい所と聞かれると、特には……となってしまうのがいつものことなのでアイシェス姫に任せることにした。
次に向かった先は魔法を取り扱う店だった。
「ミステリアスショップ?」
アイシェス姫は首をかしげながらその店に入っていく、ブレイクはその店の中を見渡すと魔法を取り扱う店というわけではないことが解った。
「手品の店か、しかも魔法を使ったより高度な手品か……」
魔法を使った手品が果たして手品と呼べるのかどうかというところに疑問を持ちつつ店内で自動操作されていた手品を見てみる。内容は空中に浮く赤い球が5つの宝箱に入り最終的には1つの宝箱に移動しているというものだった。
なんとも胡散臭い。……いや、これが普通なのだろうか? う~ん、判断しかねる。
そもそも手品は魔法でもつかったんじゃないかと思わせるように出来ているもので、本当に魔法を使って見せられては面白くもなんとも無い。
が、どうやらアイシェス姫はとてもお気に入りの様子。
「これ、欲しいです♪」
「なぁ、ティーナ」
「はい♪ なんでしょうか?」
「その手品、俺が見せてやるよ。テーブルにあったごく普通のコップでこれと同じようにできる」
「それは本当ですか!!」
「こう見えても昔はこういう手品っていうのを結構やっててな」
「テジナですか?」
「そう。俺が住む日本だと魔法を使わずにさっきみたいなことをしてみせるというのを手品っていうんだ」
「そうなんですか。今までもそうでしたが、今回でさらにブレイクさんの国に行きたくなってしまいました」
「まあ行かなくても俺が教えてやることはいくらでも出来るからな」
歩きながら話しているとあっという間にもといた席に戻ってきた。6人分のコップを貸してもらい硬貨を使ってさっきと同じことをしてみせる。
「すげぇーな兄ちゃん。俺はあの店で長いことやってきたが、魔法の使わない芸を初めてみたぞ」
知らないうちに結構な人が集まってきていた。それにさっきいた店主にも話しかけられ、しまいにはお礼にと金貨をテーブルに置いていく……
「いえいえ、お金だなんていりませんって」
「遠慮するなって、貰っとけ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「そ、そんなことがあったとは何事じゃ!! なぜ妾に教えぬのじゃ」
話を聞いては騒ぎ出すシルクシャシャはあまりにうるさかったので間近で違う手品を見せてやった。
「おおぉっ!? こ、これはどういう原理なのじゃ! 魔法を使わずとは考えられぬ……」
とりあえずこれで満足するだろうと思いきや、まだあるのだろうまだあるのだろうと迫ってくるのでため息をつきながらみせてやった。
「魔法を使わずこのような不思議なことをやってのけるとは、やはり妾の見込んだ結―――」
「ブレイク様、私も手品なるものが出来ました」
シルクシャシャの話を途中で遮りながらエクシアが手品を見せようとした。
―――――その時だった。
『魔法動力室に何者かが侵入しました。イエローシグナル、部屋を隔離します』
突如再生された音声はそのことを伝えると各両をつなぐ扉を硬くロックし始めた。
「ちょっ! 何が起きた!?」
列車は止まることなく走り続けているが、ドアは硬く閉ざされてしまった。シルクシャシャやエクシアが扉をこじ開けようとするがびくともせずダロットも自慢の筋肉を生かすことは出来なかった。
「ちくしょーなんてかてぇ~扉なんだ……」
「とりあえず今は事態が収まるまで待ちましょう」
ギフェアがみんなを落ち着かせるようになるべく平常心を保って話しかける。そんななかブレイクは気付く
「アイシェス姫はどこへ?」
「アイシャちゃんならさっき向こうに……って!」
扉の向こうを指差すエクシアはいいながら気付き目を丸くする。
しかし、ギフェアはこの事態が収まれば扉も開放されて無事戻ってきますからと冷静に話し聞かせる。
「ま、まさかこんなところで止まったりしないよね? そ、外は何も無いんだよ」
相変わらずのビビリのピロクは顔色を悪くしながらそういったが直後にシルクシャシャにげんこつを喰らう。
みんなは席について扉が開くのを待つ。そんななか再び音声が流れた。
『侵入者を拘束しました。グリーンシグナル、扉を開放します』
カチャッという音と共に扉がゆっくりと開きアイシェス姫が歩いてきた。何が起こったのか良く理解できていない様子で特に慌てた様子も無かった。
「侵入者ですか? それは物騒ですね……1人だけならいいんですが」
「セキュリティ対策は万全ですから危険なことには一切ならないと思いますよ。この列車は氷の国であるルイントヴェクタスが管理してますから。ちなみに、ルイントヴェクタスは魔法管理の中核ともいわれている場所でかなり有名です。」
「ギフェアさん、100年以上も行き来できなかった場所なのに良くご存知ですね」
「ん? あ、あぁ…書物でな」
「そうじゃブレイク!!」
何を思い立ったのか結構大きな声で言葉を発し、タミンやアイシェス姫はビクッと体を硬直させた。
「何だよ一体」
「妾は動力室に向かいたい。一緒に来てくれぬか?」
「はぁ? なんでよりにもよって動力室なんだよ」
今さっき侵入者がどうたらこうたらで捕まった場所に行こうと思うなんて一体何を考えているのか全く理解できなかった。
「どうしても確認しておきたいことがあるのじゃ」
「嫌だ」
「………。 なら!」
「断る!!」
「っ!? ま、まだ何も言っておらぬというのに……。この間言ったムフフな隠し物を最大限に利用させるという願いも今回で最後じゃから頼む」
「本当に今回で最後なんだな?」
「もちろんじゃ!」
「はぁ~今回で最後だからな」
結局ブレイク同伴で動力室まで向かうことになった。何をそこまでして動力室へ行きたいのか、面白半分なのかどうなのか顔をニヤかしているのだろうとシルクシャシャの顔を見てみると以外にも真剣な表情をしていた。
「おい、柄でもない表情してどうした?」
「ん? 確かめたいことがあってじゃな」
「確かめたいこと?」
「さっきギフェアはセキュリティが万全だからとか言っておったが、だとしたら部屋自体に入れるはずが無いなのに侵入者警報がアナウンスされたというのは何か変だとは思わんか?」
確かに、危険な場所なら簡単に入れるはずが無い。
「何かの拍子で開いたとか誰かの閉め忘れだとか」
「その可能性は低そうじゃな。セキュリティの万全性に関わってくる。管理局とやらもそんなヘマをやらかす奴等じゃなかろう」
そうこういっているうちに問題の動力室に着いた。現場は野次馬が多かった。そして部屋の扉は簡素な扉だが、その扉には目には見えない強力なバリアが張られているらしい、シルクシャシャが言うのだから間違いないだろう。でも、これならなんで警報なんか……
「大体じゃな、バリアというものは一度無理やり解いてしまうと掛けなおすのに時間がかかるはずなのじゃ。それなのにこうも何事も無かったようになっていては原因が解らぬ」
そうこう考えているうちに、他のメンバーたちもやってきた。
「確かに短時間で直りそうではありませんね。見たことも無いバリアです
「な、なにか嫌な予感がするから戻ろうよ」
「掛けなおすのに時間がかかってしまうというのならあのアナウンスは嘘だったり、なーんてそんなことないか」
エクシアの言葉にみんなが固まる。
「え、何? 私何か変なことといった?」
そして突如アナウンスが流れる。
『動力室の前に不審な人物を確認。先ほどの仲間と判断しました。シグナルカラーをイエローからレッドに変え…ザザッ………訂正シます。イエローからパープルに変エ20両目かラ順番ニ列車カラ切り離してイキマす。繰リ返シマス動力室ノ前ニ不審ナジンブツ…ヲカ……クニン―――』
ガチャリ。ガチャリ。ガチャリ。と不吉な音が両を繋ぐ繋ぎ目から音が聞こえる。
「これ、マジでやばくないか?」
数泊おいて観光客が前の両に進もうと押し押せてきた。人間なだれのようなそれは人々の恐怖の顔とあいまって恐ろしい光景となっていた。
「みなさん、観光客の救助をお願いします」
ギフェアさんの声とともに散らばっていく騎士団たち、ブレイクは最後尾目指して走った。
「まだ時間的には余裕がありそうだ」
侵入者を排除するのにこの対処はおかしい。何かが起きてる……
ブレイクはいろいろ考えながら20両目の1つ手前、19両目に到達した。18両目には人ごみが酷いありさまになっているため通り抜けるのに苦労した。誰も残っていないかと確認すると幼い子供が倒れていた。
「くつひもがひっかかってうごけないよ~」
必死に訴えてくるその子は一生懸命に足を動かそうとしていた。焦っていて冷静に考えられないのか、ブレイクはくつを脱がそうとするがその子は首を横に振る
「おかあさんからもらったくつだからいや」
そのときお母さんが近くにいないことに気付いたブレイクはその事を聞くと「わからない」と首を振るだけだった。
案外簡単にくつ紐はほどけその子をつれてその場から急いで脱出する。
「おかーさーん、おかーさーん」
「ここよ!!」
人ごみに紛れながらも再開できた親子にホッとしながら安全な場所へと移動させる。
しかし、お母さんに連れながらその子はポケットを探りながら不安げな顔をする。
「どうしたのユリナ?」
「おにんぎょさんおとしてきちゃったみたい」
「お父さんからの? う~ん……しょうがないわね。戻るのは危険だし諦めなさい。欲しいなら向こうで似たようなの買ってあげるから」
「……うん」
駄々をこねない幼気な子供にどうにかしてやりたいという親切心が芽生えてしまったブレイクは来た道を戻ろうと後ろを向く
「ちょっと! そっちは危険よ!」
「大丈夫です。直ぐに戻ってきます!」
さっきの場所に戻ると20両目が消えていた。19両目のこの場所も首の皮一枚でとどまっているというような感じでためらいそうになったが思い切りでさっきの場所まで走った。探す間にもガタガタという危険な音は大きくなっていく
「ここの隙間か!!」
何か光る者に手を掛けた瞬間、大きな揺れとともに19両目が外れてしまった。
「ブレイク!!」
「ブレイクさん!!」
アイシェス姫やシルクシャシャの声が聞こえるが気にしていられない。せめてこれだけは届けないとっ!!
「これをっ……受け取ってくれっ!!!」
思い切り投げた光る物はなんとか無事に届けることが出来た。結構遠く離れていたのに届けられたことに満足したブレイクは徐々に速度を緩める切り離された列車の中にたたずむ。
そして列車に乗る前に聞いた例の話を思い出す。
『ぎ、ギフェアさん……氷の上をこんな大きい列車が走るんですか?』
『ああ。そうだが、どうかしたか?』
『氷が崩れて落ちたりしませんよね』
『かなりのスピードで走るから力が分散されて崩れないようにできている。万が一にも橋の真ん中あたりで止まったとすれば崩れる可能性はありえるがな』
『僕、安心して眠れないんですが……』
「はは、まさかな」
後ろを振り向くと結構遠い所で切り離された列車が止まっている。
「はぁ~本当に崩れるはずが」
しばらくその列車を見ていると急に氷の橋が砕け列車が落下していくのを目の当たりにする。もうじき橋が崩れるのだと確信したブレイクはさすがにこんなところで死ねるはずが無いと周りを見渡す。
「なーんにもないっ! 素晴らしく綺麗な列車だなぁ!! って、うわっ!!?」
落下していく時間がとても長く感じられた。あー死ぬのかと考えながら落ちていく…………
その日、氷の橋は10分の3が崩壊。
ブレイクの消息は不明となりギフェアたちはブレイクとの連絡が取れなくなってしまった。