第四十一章 城内地下探検
グラソンシュターディオンという大会は1~4人まで参加可能な大会です。
のちに他の情報も加えて天界で授業を開くと思います。
結果から言えばブレイクはグラソンシュターディオン大会に出ることになった。
あのときの姫様は素だったのか策略だったのか……と頭を悩ませながらブレイクは食堂へと向かっていた。
―――その時だった。
「おおっ! いいところで会ったなブレイク、妾と一緒に来い!」
やっと食堂の入り口が見えてきたところで猛ダッシュで近寄ってきたシルクシャシャによって逆方向に走らされる。
「ったくなにすんだよ! 俺はこれから昼を」
「妾はもう食べた、心配するな」
「俺がまだなんだよ!!」
まあよいとどこかへ向かって走らされる。
こんなに急ぐ理由は一体なんなのだろうか……そうこう考えているうちにシルクシャシャは足を止め俺をまじまじと見つめる。
「なんだよ?」
「これじゃ、これに出場するぞ!」
見せられた紙にはグラソンシュターディオンとついさっきみたような言葉が書かれていた。
シルクシャシャはペンを渡してきて早くしろといわんばかりにわたわた動く
「これ、もう書いたぞ」
「……な、なんじゃと?」
返された紙を力なく受け取りしばらく黙る……その後、突然声をあげた。
「いや、まだじゃ! それはいつのことじゃ! 誰にその紙を渡したのじゃ」
俺は数分前にあった事を話すと「まだ間に合う」と再びダッシュでどこかへ消えてしまった。
嵐のようにいきなり現れ嵐のように去っていく、まさにそんな感じだった。
ブレイクとしては無駄に相手をする時間がなくなって良かったとホッとしていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「私は、あんなにも姫様に嫌われていたのか」
城の中庭のベンチに1人孤独に座るギフェアの体には結構な雪が積もっていた。
あまりの落ち込みさからなのかこの寒さに震えることなく、まるで石像の様に固まっていた。
「最近は事件が全くないせいか姫様のそばに結構付き添っていたからかしつこく思われたのだろうか……。私自身、護衛を理由にしてそばにいようなどとは決して考えていない。兄であるがゆえいろいろと心配なだけだ。特にここ2週間は風邪気味だからなおのこと」
自分に言い聞かせるように独白を続けるギフェアはとりあえず自室に戻ろうと中庭を後にした。
「ぎ、ギフェア隊長!? どうしたんですか、その恰好は……」
廊下に出たところでこの城の衛生士でもあり看護師でもあるタミンに見つかってしまった。この状態で見つかってしまってはいろいろうるさく言われそうだとギフェアは溜息をつく。
「中庭のベンチに座ってた? あの、失礼ながらギフェア隊長はアホですか? 面倒見るこっちの身にもなって下さいよ、風邪でも引かれたら騎士団員さんたちも困りますよ」
呆れた声を出しながら今すぐにでも治療室へ行きましょうとギフェアの手を引っ張る。そのあまりに強引な行動に心配するなと声を掛けるが、全く聞く耳を持っていなかった。
「はい、ここで安静にしていてください。廊下よりは断然暖かいですし、これも飲んで温まって下さい」
差し出されたのはホットミチャンという飲み物だった。自然な甘みとほのかな酸味がホッと落ち着かせてくれる飲み物で、ブレイク曰く『エヒメのミカン』と似ているとのことだった。
ギフェアは「わざわざすまない」と一言いうと「義務ですから」と背が小さいながら胸を張る。幼いながらしっかり者だとギフェアは感心している。
タミンは小動物のペット、パピルピとともにこの城で過ごす。そんな彼女に両親はいない。小さな村が盗賊たちの群れに襲われて、そこで暮らしていた人たちは皆殺されてしまっていたが彼女だけが生き残っていた。それは両親の懸命な判断で我々騎士団に連絡をしてくれたからである。彼女を助けられたのは不幸中の幸いだったが両親を救えなかったことだけは心残りだった。
「私は他にも健康に悪い事をしている人が居ないかどうか見て回ってきますのでよく温まったら自室にお戻りください」
暖かそうな赤いコートを羽織ると扉をあけて出て行ってしまった。
ギフェアは天を仰ぎみるようにベッドに寝っころがる。そして例の大会の事を思い出す。
「確か、大会に出場するためには大会公認のエンブレムを持参することだったな」
城に送られてきた招待状に書かれていた注意事項にはそのような事が書かれていた。
「100年前に使ったものがしまわれる場所と言えば……」
この地下の宝物庫、そこにエンブレムがあるだろうと考えた。
すぐさま行動しようとしたギフェアだったが妙に頭がくらくらして動くに動けなくなってしまった。
「これはタミンを困らせる結果になってしまったな……エンブレム探しはブレイクたちに頼むとするか、それにはもう少し無理をしなければならないか」
ギフェアはゆっくりと体を起こし治療室から出て行った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そのころブレイクはシルクシャシャから解放されて食堂へと向かっていた。
―――だが
「さて、解放されたことだし食堂に……ってエクシア?」
「あ、ブレイク様! 丁度良い所へ」
エクシアは手首をつかむと走り出した。なにかデジャブを感じるブレイク、先ほどと同じ景色を見ながらある場所にたどり着く
「これはもう書いたぞ」
「え、えぇ~~!? それはいつごろの事で……ふむふむ、そうですか、まだ間に合いますっ!!」
エクシアはブレイクを置いていくとアイシェス姫の部屋へと向かった。
ブレイクは今度こそ解放されたかと食堂へと入って行った。
「あれ? シルクちゃん?」
エクシアはアイシェス姫の部屋に向かっていたがそこには先客がいた。
「お、お前は、なぜここにいるのじゃ」
「それは……その……シルクちゃんこそどうしてここに」
「うっ……そ、それはじゃな」
シルクシャシャが口を開きかけた瞬間のことだった。今すぐにでも倒れそうな騎士団の隊長、ギフェアがフラフラしながら姿を現した。
「どうした、何があった!? 今にも倒れそうではないか!」
「いや……そんなことはどうでもいい。それより頼みがある。この城の地下に保管されているエンブレムを探し出してきてほしいんだ」
「あの……それはどういった意味が?」
とぎれとぎれに話すギフェアに2人が耳を澄ます。ところがたまたま見回りをしていたタミンがギフェアを発見してしまう。
「ど、どどどどうしたんですかっ!? うわっ、ひどい熱! すぐに手当をっ 『テレポート』」
「おい、タミン! と、とにかく……エンブレムは大会出場の絶対条件だ!」
その言葉を最後にその場から姿を消した。消える直後のタミンの顔はまるで鬼の形相のように見えた。ギフェアの無事を祈った2人はともに地下に行こうと決心した。
決心した後の話、丁度昼飯を食べ終わったブレイクを半拉致状態に捕らえ、ギフェアに言われたことを全て話した。
しかし、大会に……それ以前に外に出る気のないブレイクにとってわざわざエンブレムを探してまで大会に出る気など滅法なかったのだが……
「行かぬというのなら、ブレイクの部屋に仕込んでおいたムフフな物を最大に活用させ貰うのでな。覚悟しとくのじゃぞ」
ムフフな物っていうのは何だか知らないが、汚い…やり方が汚すぎるぞ! おそらく脅しの可能性はほぼ0で断れば彼女の思うつぼになる。かといってここで行動しても彼女の思惑。これがお前のやり方か……。
しかし、シルクシャシャがどうしてそこまでして大会に出たいのか、ブレイクは疑問を感じた。
「なあ、シルクシャシャ、そこまでして大会に出る理由は何だ?」
「そ、それは秘密じゃ!!」
何を顔を赤らめる必要がある。
ブレイクはシルクシャシャのことで結局何もわからずに宝物庫へと向かうこととなった。
「えっと、ギフェアさんに教えてもらった場所はここかな?」
エクシアが地図を頼りに進んだ先にはアイシェス姫の部屋の前だった。
「なんじゃと! ここに入るのか……。これまた厄介じゃな」
「そうですね。これ以上敵を増やしたくはありません」
こいつらは一体何を言っているのだろうか。仮に姫様を敵呼ばわりしたところでお前らの役回り的に一撃で首が飛んでいると思う。でもそれは万に…いや億に一つありはしないだろう。こいつら二人に合わせて姫様とは関係的に仲良し3人組といえる。
「シルクちゃん。この場所を見るとアイシャちゃんの部屋の暖炉から行けるみたいだよ」
エクシアはアイシェス姫の事をアイシャちゃんと呼んでいるようでアイシェス姫もそれを気に入っている様子だった。
「そうか……これは長い戦いになりそうじゃ……まずはじゃな。慎重に扉を……いや待て、この作戦はどうじゃ」
「入るぞティーナ」
2人がコソコソ話しているすきにブレイクは扉を開けてしまった。
「なっ何をしておる! というかその呼び方はなんじゃ!!」
「私もフェイナと呼んでください!」
「わ、妾はユイナーレ……ユ、ユイナと呼んでくれ!」
(おいおい、最初の目的はどうなった)
とにもかくにも3人は部屋の中に入った。しかし、そこにアイシェス姫の姿は無かった。思いっきり安堵した溜息をつく2人だったがアイシェス姫を探そうとするブレイクを見て顔を青くする。
「だ、駄目じゃ! さあ早く行くぞ!」
どうやらアイシェス姫は眠っていたようで、まるで天界の物かのように思わせる真っ白なふかふかベッドで気持ちよさそうにしていた。流石に起こすのはまずいだろうとその場から離れるが、本当にこれで良かったのだろうか。
「あっ! ありましたよシルクちゃん」
こちらでいろいろやりとりしている間にエクシアは暖炉から宝物庫へとつながる道を見つけ出していた。興味が生み出す潜在的能力なのか、数百年の歴史を誇る部屋を普通なら場所を教えてもらって簡単に見つけられたところで開けることは出来ないと思う。
「中は結構暗いんじゃな『フラッシュ』」
懐中電灯の役割を果たすフラッシュという光属性の魔法はなかなかに便利だった。複雑な魔法で無いこれはエクシアでも簡単に唱えることが出来た。そもそもエクシアも魔力ではシルクシャシャに劣るものの騎士団の中ではトップクラスだとテスト結果から判断できる。安全、精度の2つを考慮しない場合に限るが……
「かなり昔の物のように見えますね。埃がかぶっているからとか、そういう事じゃなくてもそう感じます」
不気味な置物の数々、時代遅れの絵画、用途の分からない部品等、宝物庫とはいえず、ただの倉庫のように感じる。途中でシルクシャシャが服の保管室でウエディングドレス的な物を着てこちらを見てきたが見なかったことにした。
「無視は酷いのじゃ……無視は……」
とぼとぼと後ろについてくるシルクシャシャを見失わないように確認しつつ最奥と思われる場所についた。
「この部屋の奥にエンブレムがあるのか」
「そのようですね。さっさと手に入れて戻りましょう。何か嫌な予感がするので」
最奥にボス、そんなRPGよろしく的な展開にならないよう祈りつつ、ゆっくりと扉を開けた先には緑色の光を放出するこの城の紋章をかたどった銅版を見つけた。
「どうみてもこれじゃな……これで大会に出場できるのか」
ウキウキしながら取りに行こうとしたシルクシャシャはそれを手に取ろうとする瞬間、ピタッと固まるとそこから素早く後退する。
「―――っ!! 上から来るのじゃ!」
人の形をした石像が上から降ってきた。地面着陸時に魔法か何か使ったのか音1つ立てずに上手く着陸した。その石像は両手に剣を空中に盾を6つ漂わせている。そしてそいつは閉じていた眼をカッと開くとこちらに襲いかかってきた。はぁ~フラグ回収どうもです。とブレイクは心底思った。
「固いものには固いものを『ダイヤモンドレイン』」
石の中で最強を誇る固さであるダイヤモンドを尖らせたものが何処からともなく現れた石造の上空から降り注ぐ
しかし、石像は驚く行動に出た。
「こ、これはっ……剣の先が水みたいになっておるぞ」
石像は降ってくるダイヤモンドをいとも簡単に切り刻みダメージを与えるのはもちろんさらにおこらせてしまったようだ。
「ぐぬぬ……妾の魔法が効かぬとは『シュテルンブレイク』」
目の前に星の紋様を描くと自分の剣でそれを切り刻み手の合図とともに閃光となって敵の体を貫こうと発射される。
しかしそれは6つの楯でガードされてしまう。盾には傷1つ付くことは無かった。
「どれも耐性があるようですね。一先ず退散しましょう」
エクシアの言葉通りブレイクたちは扉へと走る。だが、石像はそれを見かねて魔法で扉を封印してしまう。
「これはかなりやばい状況なんじゃないか?」
「そ、そうじゃな……」
襲い掛かってくる石像に対しこれまでかと思ったその時だった。
「止まりなさい!!」
誰かの声が響き渡ると石像はピタリと動きを止めた。目先10cmくらいで止まった剣先を見て思わずからだを振るわせる。一体誰なのかと振り返ると扉を開けて入って来たのはアイシェス姫だった。その右手に持っている彼女の背丈ぐらいのある大きな杖は一体どこから持ってきたのだろうか
「アイシェス!? なぜここにお主が」
「どうしてもこうしても騒々しくて起きて見たら誰かが通った痕跡があったのでこの地下に来たらブレイクさんたちがいたわけです」
「ティーナ。それはなんなんだ?」
「え? あ、これですか! これはこの城に代々伝わる秘伝の杖です」
にこにこしながら答えるアイシェス姫、にこにこしていたのはティーナという名前を呼ばれたからである。
そして彼女が持っている杖、その杖の周りを絶え間なく回り続ける水色の光、杖らしいうねうねした木、その先に付いている真珠を巨大化させたような玉。それを見る限り物凄い魔法が使えそうなそんな気がした。この石像に対して使ったらどうなっていたのか凄い気になるブレイクであった。
「なにはともあれ無事にエンブレムをゲットしましたね!」
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無事に宝物庫から出てきた4人はアイシェス姫の部屋で止まる。
「さて、妾はギフェアのもとにこれを届けに行って来るがお主たちはどうするのじゃ?」
その答えに、とりあえず全員でギフェアのもとに向かうことになった4人は治療室を覗き誰もいないことに気づく
「誰もいらっしゃいませんね。どうしたのでしょうか」
アイシェス姫が辺りを見渡すが何処へ向かったのかという情報は全くなかった。
それから廊下を歩いてしばらくたったころだった。
「アイシェス姫、こんなところにいましたか」
2週間前に狂騎士によって体中を打撲し倒れた低身長のピロクは今となっては元気になっていた。ゼロ距離でリミッターの外れた炎魔法を直で受けたのに火傷ひとつせずに身を守り、その魔法から城も守った。今となっては守護神とまで呼ばれるようになっていたそんなピロクは何やら慌ただしかった。
「なにかあったのですか?」
「はい、なにやら氷の大国の使者が謁見室にお見えになっているとか」
「氷の大国?」
エクシアの頭にクエスチョンマークが5個ほど出現した……ように見えた。
「最近降る雪のせいでジェキア地方の北東に氷橋が出来たんです。そこから遠く離れたところにその氷の大国というのがあるそうで」
「とりあえず行きましょう。私を待っているならなおさらです」
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謁見室に入るとそこにはギフェアを含む騎士団全員が居た。ギフェアはまだ少し体調が悪そうに見えたがふらふらしている様子は無く、さすがはタミンだなと思った。
「私は氷の大国からの使者、グリーテス・オーファン。このたびはいきなりお邪魔するようなかたちとなってしまってもうしわけない」
若そうな風貌とは裏腹に声はかなり低かった。彼は丁寧にお辞儀をするとアイシェス姫も同じように頭を下げる。
「いえ、お気になさらずに、今日はどういったご用件でしょうか」
その言葉に対し騎士団の1人ダロットは「例の大会の話だろ? 俺、結構楽しみにしてんだ」などと言っている。
雪が降らなければ氷の橋は出来ずそこで開催される大会もまた開かれることはないということだったのだろう、それでそこからこうして人が来ているのだからそう考えるのは当然といったところだろうか。
だが、話の内容は穏やかではなかった。
「先日の話です。我々の城、アイシクルディエーリヴァの姫が何者かによってさらわれてしまったのです。王は橋が出来てからさらわれたというのなら向こうの国の人たちが犯人の可能性があると言い、疑いを掛けました。あなたたちは今、容疑者となっているのです」
空気が一変した。正直いきなりのことで何が何だか理解できなかったのだがグリーテスは話を続ける。
「しかし、姫をさらった者は置手紙を残していきました。その内容は『俺は必ず大会に出場する。姫を助けたいなら俺との交渉に応じろ。内容は大会当日に話す』だそうです」
ギフェアはその話を静かに聞いて何も反論したりはしなかった。それに比べてダロットはふざけるなと暴れる始末。ヴェスティの魔法でどうにか静かにはなった。
「その疑いはどのようにすれば晴れるのでしょうか?」
「はい。私とて王に言われて行動したまでで、あなたたちを疑っているわけでは無いので」
テーブルの上に数枚のチケットを置いた。それは大会に出場するチケットと大会までの道のりを魔法列車で移動するチケットだった。
「今回の失礼とお詫びにこの魔法列車の特等席チケットを差し上げています。どうぞ使って下さい」
「どうもありがとうございます。何分急なもので、わたくしからは何もご用意できなくて――――」
「いえいえ。構いませんよ。では今日はこれで、失礼しました」
丁寧なお辞儀をすると部屋から出て行った。
「なにか怪しいですね。一体どういう事なのでしょうか、しかもあの様子だと他の城にも訪れていますね」
アイゼーンの言葉を聞いて少なからずグリーテスに一律の不安を感じた騎士団達。そもそもエンブレムの件はどうなったのか? それを取ってきた4人の不安は加速する。しかしその大会に出なければ怪しまれるのは当然の事だった。騎士団達はその魔法列車に半強制的に乗車することになる。
――――ブレイクたちは疑いを晴らすことが出来るのだろうか。
次回はEXです。