第三十八章 暴走騎士と魔人の思惑Ⅲ
自分の中であの人を確実に連想させる面影を追いに森の中に入った。
「ここは全く思い当たりがないところじゃな……それにしても一体どこへ」
かすかに見える少年の跡を追っていく
見失わないように走っているが近づいているのかどうか全くわからない
不思議なことにいつになっても疲れないことは良かったと思う
「なんじゃ……出口か?」
徐々に眩しくなっていくその先には何があるのか
目を細めながらも追い続けた。
『なぜここにいる?』
なれている声より少し高い感じ
少年の声は疑問形だった。
「まだ目がチカチカしておる……っとなぜここにいるかといえば」
両目をこすり再び目を開けると少年はいなかった。
あたりを見渡すとみすぼらしい小屋があり、そこに少年はいた。
そして、そのさらに奥にもうひとり。
なんじゃ、私ではないのか。それにしても誰にその言葉を……ん?
見慣れぬ顔じゃな、女の敵が多すぎるのじゃ。まったく。
『だってもう行っちゃうんでしょ?』
少年は何も言わずにその小屋の近くにある木の椅子に座る。
『それ、誰から聞いたんだ?』
『お母様だよ。それにしても何も言わずになんてひどいよー。今まで知らなかったんだよ?』
『これは永遠の別れじゃない。いつかまた逢える』
『でも一度向こうに行ったらもう戻れないって』
近くのがれきで二人の会話を聞いていたがまったくもって理解できなかった。
「何を話しておる……別れ? また逢える? 向こうに行く? どういうことじゃ?」
『はぁ~。少しは信じろよ。っていうかなんだその手に持ってるのは』
『あ! これはね……お守りだよ~♪ 向こうでも無事と安全と元気と健康と~』
『あはは…意味合いが同じようなのばっかだな』
『ちょっと笑わないでよ! 真剣に作ったんだから。それとあの約束覚えてる?』
『あの約束? なんだっけ? って待て待て殴ろうとするな! あれだろ? 世界を一緒に旅するってやつ』
『なんか適当に言ってない? とりあえず忘れないように本にしたから』
『本? なんだって本に?』
『別にいいでしょ? ちなみにフィクションとノンフィクションが混ざってます。いつまでも帰ってこないとその 物語の中の女の子と同じ行動するからね』
『時巡る神秘説? なんじゃこりゃ』
『私が考えた設定をもとにした題名。まあ向こうに着いたら読んでみてね! んじゃ私そろそろ行くから』
その少女はそう言うと走ってどこかへ行ってしまった。
「あれは本と言っておきながらラブレター的なやつに決まっておる。なんとウブな奴じゃ。これは絶対に私がものにしないとだめじゃな。元の世界に戻ったらすぐそうしなくてはならぬ」
ひとりそんなことを考えているとその少年は何かをつぶやいた。
『俺ってやつは信じろとか嘘までついて彼女を笑わせて……叶わない夢の約束話をして。馬鹿だな~俺』
「これはまた……どういうことじゃ? 向こうというところに行ったらここには戻れないということか?」
『このままでいいのか?』
「なにやら考え込んでいるようじゃな、聞きたい事もあるし話しかけてみるか」
シルクシャシャは空を見上げながら悩んでいる少年に話しかけた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
『君は!? なんで君がここにっ!?』
なぜにそんなに驚いているのかよく理解できない。
どういうことだろうか?
「そんなに驚かなくともいいだろう。とにかく聞きたいことがあるんじゃ」
『第一印象とはかけ離れているけどそれはそれでいいのか……いやこのチャンスを逃さずに伝えないと』
「何をブツブツ言っておる、大丈夫か?」
『あ、えっと聞きたいことって?』
「名前を聞かせて欲しいのじゃが」
『俺の名前は、あ――』
とその時すごい形相で走ってきたキラキラ輝くあの男は魔人ジュビアだった。
「お前、何をやった! 記憶世界の中が大変なことになってるぞ!」
「な、なんじゃいきなり! っておい、引っ張るな!」
『貴様! 彼女から手を離せ!!』
「今、お前に構っている暇はない。あっちに行っていろ!」
ジュビアは手を軽く動かすといとも簡単に少年を遠くへ投げ飛ばした。
「何をしておる! あれは、もしかしたら将来――」
「うるさいぞ! とにかく話を聞け。俺は現実世界で何をやろうとしていたんだ!」
「なぜ慌てておる、というかじゃなー、何をやろうなどとと今更じゃが狂騎士の薬の開発じゃろ?」
「そんなことはわかっている。それを使って俺は何をしようとしているんだ」
「そこまでは知らぬ。じゃが魔人をも脅かすとか言っておったな」
何か様子がおかしい、こいつは一体何をそんなに慌てているのか
「確かに、俺はギーヴァの功績に勝つために一人で研究していた。いつかはその結果をみせて驚かせてやろうとも考えていた。それが今となっては至るところの城を破壊し邪魔する人々を殺している。これはどういうことだ?」
「どういうと言われても、お前がそれを望んだのじゃろ?」
「いや、そんなことは一切望んでなんかいなかった。俺はただギーヴァだけにその結果を見せようとしただけなはず。今の俺は世界征服でも企んでいるようなそんな感じだ」
まるで見ていたかのような口ぶりだがどういうことだ
「もしや、現実世界の様子が見えるのか?」
「俺が寝ていたら鮮明にその光景が映った。あれは夢とかそういう類のものじゃなかった」
「何故見えたのじゃ?」
「それはわからない。なあ、俺と協力して現実世界に戻らないか? 今ならどうすればいいのか分かる気がするんだ」
言っている意味が理解できない。こいつは現実世界でのあいつとは別人なのだろうか
「いや、協力は出来ぬ。向こうのお前とは性格が違うようじゃが信じたわけではない」
「まあそうだろうな。んじゃせめてお前だけでも向こうに行けるよう勝手にやらせてもらう」
そういうとジュビアはシルクシャシャのみぞおちに拳を打ち込もうと加速する。
しかし、一度隙を取られて痛い目に現在進行形で遭っているシルクシャシャは軽やかに交わし
相手の服を掴むと軸足で回りながらもう一方の足の膝で腹部に直撃させる。
「うっ……。魔法だけかと思っていたが近接もなかなかだな」
「甘く見られては困る。鉄○5で鍛え上げられたからの」
「でも、今はのんびりしている場合じゃない。一刻も争う状態だ」
再びシルクシャシャに直進。何度やっても同じだと言いながらシルクシャシャは同じ構えをする。
そして同じようにみぞおちに拳を打ち込もうと手を動かしそれを交わすシルクシャシャ。
だが、それはジュビアが作り上げた幻影。本物の拳はしっかりとシルクシャシャを捉えた。
「なにっ!?」
吸い込まれるようにみぞおちに拳が入りその場に倒れこむシルクシャシャ。
立ち上がろうとするがなかなか立ち上がることはできない。
「いろいろと仕組ませておいたからそう簡単には立ち上がることはできない。というわけで……」
ジュビアはシルクシャシャの頭に手をかざした。
・ブレイクside・
―――――――――パダルコドル・合成屋―――――――――
「も、申し訳ありませんでち――イタッ! とにかく私一人では助けることもできず……」
さらわれたときのことを言っているのだろう。
アエリナ・ピルヴィーは一生懸命謝罪をしていた。
とくに悪くもないのに何度も頭を下げるものだから対処に困る。
それにしても自分を混ぜて、アイシェス姫、エクシア、騎士団員、緑目の子供たち
総勢32人が合成屋の中にいるためものすごい混雑している。
「そういえば、牢獄から出してもらった時に見張りの奴らがいなかったけどどうしたんだ?」
「それはヴェセア城に向かったからだよ」
しばらくぶりの声が聞こえてきた。
いや、だいぶ前から気づいてはいたが
「なんでミーレがここにいるんだ?」
「だってブレイクが大変そうだったから」
どう言う意味だと聞くとかなり前に渡されたお守りに魔法がかけられていたようだった。
「危険な状態になると光るようにしておいたからそれで助けに来たんだ」
いや、その前にもいろいろ危険な状態になったことがあるんだが……
「あの、ブレイク様とはどんなご関係で?」
エクシアが不安そうな表情でミーレに聞く
「う~ん、友達? まあとにかく同居してたよ」
その言葉にエクシアはフリーズしてしまった。
アイシェス姫はなにか慌ただしかった。
そんな中、ピルヴィーが口を開く
「ところでみなさん、凄い音と地響きに気づきましたか?」
その質問に遠くの方でソファーに座っていたダロットが答える。
「あれは凄かったな。おかげで地下水路のガレキの下敷きになるところだったぜ」
「はい、その事なんですが、今現在大変なことになっていまして」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「エクスシア国の城が壊されてる!?」
みんなが驚き大声を上げる。
「そうなんです。私はあの地響きが一度しかこなかったので何が起こったのか気にはなっていたのですが工房を離れるわけには行かなくて、しかもそれっきり何もなかったものですから特に気にはしていなかったのです。私、噛まずに言えまち――痛ッ!」
「ギフェアさん、これはどういうことでしょうか?」
ブレイクがそう聞くと治療を受けて既に元気になっていたギフェアは衝撃を押さえ込んでいるのではと答えた。
「そんなことが可能なのですか!」
アイシェス姫は目を見開き驚いた。
「はい。多分可能だと思います。一度目は予想以上の出来事だったことや対処していなかったからだと思いますよ姫様……姫様? どうかしましたか、体調が優れないのですか」
「大丈夫ですよ。ギフェア。気にしないでください」
そう言うアイシェス姫はどこか気分が悪そうだった。
ブレイクが声をかけようとしたところに聞きたいことがあると今まで口を閉ざしてきたリエラが口を開く。
「もしかして今現在、城を破壊して回っているというのが魔人なのか?」
「それまではどうだかわかりません。でもここまで爆発音や地響きを伝えることができるほど強力な攻撃なのでもしかしたらと」
ピルヴィーが話し終わる前にリエラが工房の出入り口に歩き出した。
「ちょっと待てって、一人で行くのか?」
ブレイクの質問に振り向くと子供たちが心配そうな顔でリエラを見ていた。
「……できれば協力して欲しい。大丈夫か?」
その質問にみんなが頷く。既にみんなの気持ちはまとまっていた。
「えっと、ブレイクさん。これをどうぞ」
渡されたのは牢獄に送られる前に頼んだ対魔人用の剣だった。
刀身が淡い青色で光っていて試しに降ってみると軌跡と共にフィンという音を出した。
「見るからに強そうな剣だな。ありがとう、これで魔人とも対等にやりあえる」
ピルヴィーはこちらこそいい勉強になりましたと深々と頭を下げていた。
合成屋をあとにして静かな道に出てきたみんなはエクスシア国へと向かった。
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「アイシェス姫、大丈夫ですか?」
アイシェス姫に近づいたブレイクは心配そうに声をかける
「大丈夫ですよ。先ほどのこと、心配してくれたのですね。ありがとうございます。でも気になさらないでください」
平気だと言っているのにあまり心配をするのもどうかと思いそれ以上は何も聞かなかった。
それから、しばらく歩いていると空高いところにミヴィを見つけた。
久しぶりに会ったミヴィに思わず声をかけたブレイクだったが、ミヴィの表情の暗さに不安になる。
「どうした? 何かあったのかミヴィ?」
「ブレイク、私は、私は一体どうしたらよいのでしょうか」
あの無表情だったミヴィの頬には涙が伝っていた。
「ちょっ、本当に何があった!? とにかく話してみろって」
そう言うとミヴィは両手にたくさんのかけらを乗せて見せてきた。
形からして剣だろうかと予想した瞬間に嫌な予感がした。
「も、もしかしてこれって」
「はい。私の友達だったルーナです。……いえ、今はこのことで悲しんでいる暇はありません。今はそれよりも大事な話をしなければならないのですから」
何か言ってあげようとしたが何も言葉が出なかった。
かける言葉が見つからなかった。
「話しにくいことなのですが…………ヴェセア城が半壊しました」
騎士団たちがミヴィの周りに駆けつける。
「その情報は本当なの?」
アイゼーンが冷静に聞くがミヴィはうなづくだけだった。
その頷きを見て先を急ごうとするダロット、だが、ミヴィは話を続ける。
「あと、ある場所を境に時間軸がズレています。明らかに明るさが違いますので」
「部分的な時間操作なんてふざけた事ができるのは魔人だけだ! 急ぐぞ」
リエラが走りだすとともにみんなもリエラについていった。
「ブレイク、自分を見失わないでください。どんなことがあっても」
急なミヴィの言葉にどうしたものかと考え、自分なりに答えを出す。
「大丈夫だって、何があってもその城を荒らしてるやつを倒せば良いんだろ?」
その言葉に対しての返事は無かった。
・シルクシャシャside・
「ったくなんて奴じゃ……一度ならず二度までも勝手なマネを――――ん?」
周りがやけに暗く、遠くの方には街明かりが綺麗に見えていた。
見下ろす感じのところここは高台だろうか、少し先は崖なのか真っ暗でよく見えない。
だけど、いきなりこんな状況に置かれてどうすればいいのか全くわからない。
しかし、それから数秒も経たずに男の声が聞こえてきた。
「命令です。目の前に見えているこの地形をすべて焼き尽くしなさい」
口調は違うが声の特徴、トーンからしてジュビアだとわかった。
「そんなことが出来るわけがなかろうが」
「なにっ!? 狂騎士の力が弱まっているのか……研究の結果からしてこんなことになるわけがない」
「お前の望みはなんじゃ、うっ……何をしようとしている」
体中が焼けるように熱く、ひどい痛みが襲い意識が飛びそうになるがなんとかこらえる。
「どういうわけかわかりませんが、その様子ならそう長くは持ちそうにありませんね。いいでしょう答えますよ。答えたところでどうこうなるわけでもありませんしね」
そう言ってため息を着くと再び口を開く。
「狂騎士の力があれば、私は地上界で最強の座を奪うことができる。もちろん魔界だって、両方を制圧すればもはや私は神の存在、誰からも恐れられ思いどうりに動かすことができるんです。素晴らしいと思いませんか? 狂騎士の薬だって捉えた連中に投与すれば最強軍団の誕生です。神だって恐るかもしれません。クククッ……これからは私の時代なんです。私の望みは神になること、それだけです」
そう話すジュビアの目はもはや目の前のことが何も見えておらず、自分に酔いしれていた。
「見てください、あの城やあそこの城はすべてあなたが壊したのですよ? 人々の血肉が飛び交い炎に焼け死ぬ姿を冷酷な目で見ていたではありませんか、あなたにはその光景が見えていなかったのですか?」
「私が、城を壊し人を殺した…じゃと? そんなことがあるわけ」
「それがあるんですよ。というかそれが狂騎士の力なんです。そうですね。私が見ていた記憶をあなたに見せてあげましょうか? 真実を知った顔というのはとっても面白そうでワクワクしますよ」
ジュビアはじょじょにシルクシャシャに近寄り彼女に頭に人差し指を当てる。
「逃げることなんてできませんよ、既に精神的にも肉体的にも限界でしょう。何があったかわかりませんが、しばらくすればまた狂ったように殺す殺人鬼と化しますよ。安心してください」
「安心など……できる…はず……が………」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
『頼む、殺さないでくれ、何でも出す、金だっていくらでも』
男が言い終わる前に赤い髪の少女が血のように紅い剣で男の首を切り裂き絶命した。
彼女の目は生気がなく、ただただ剣を振り城の内部を破壊、逃げ惑う人々に炎魔法で焼き尽くしたりしていた。
「これはどういうことじゃ……私が人を? こんなの幻想じゃ、現実にはありえん」
「残念ながら、本当の出来事なのですよ。クククッ……これからあなたはまたこのようになり人々を殺し世界を焼き尽くすのです」
「……嘘じゃろ。なんでこんな」
「あはは、目の前の光景が信じられないのならそれはそれで構いません。どうです見た感想は?」
「最悪じゃ……こんなことブレイクが知ったら生きていけぬ」
私のことを人として見てもらえなくなってしまう。
もうブレイクには会えない。
「愛する人に嫌われる絶望ですか、それもまた見ものですね」
ジュビアは手を地面に当てると光る道を作り上げた。
「それと、あなたに私が見せた記憶を、触れた者に見せれるよう細工しておきましょう」
・ブレイクside・
「これだけ探しても見当たらないなんて一体どこに隠れてるんだ」
あれから時間軸の境目を超えて夜の道を走り、手分けして探すことになった。
とりあえず燃えている場所に向かっているのだがなかなか見当たらない。
何かしようとしているのならすぐわかるのに一体どういうことなのか……
「みんな無事かどうかもわからない。そう簡単に死ぬほどみんなは弱くないと思うけど心配だ」
オクマーサさんやクア騎士団のウェズペスさんアカ騎士団のアイナさんゼロ騎士団のルイセスさん
ほかのみんなだって無事かどうか不安が襲う。すべての城が壊されたという情報を聞いたときにはどうにもならない悔しさがこみ上げてきた。みんなとてもいい人なのに、その人たちが一体何をしたのかそいつに問いただしてやりたい。
「一体どこにいったんだああああ!」
そう叫ぶと自分の足元が光に照らされていた。
実際には叫んだからではなかったのだが
その光はどこかに繋がっているようでこの先に探している奴がいるんだと
知らないうちに判断し気づいたときには走り出していた。
「必ず倒してやる」
ピルヴィーに作ってもらった対魔人用の剣を取り出し光の先に見える人影に切りかかろうとスピードを上げる。
だが、その先にいたのは思いもよらぬ人物だった。
「さて、ブレイク君の登場ですかな?」
見知らぬ男とともにいたのはかなり前から姿を消していたシルクシャシャだった。
「え?」
思わず出した言葉、頭が真っ白で思考回路が混乱する。
「ブレイク、来てしまったのか。会えて嬉しいはずなのに、全く嬉しくないな……」
「まてまて、一体これはどういうことなんだ?」
「私から説明しましょう。この光景はすべてこいつがやったんです」
目の前に見える光景は城や村が燃え上がっていて微かにもくもくと煙が出ているのが見えた。
「お前は誰だ! ていうか服のセンスがおかしいぞ」
「これは失礼致しました。私はジュビアといいます。服については理解されなくても構いませんよ」
「けほっ……気をつけるのじゃ、そいつは魔人じゃぞブレイク」
咳き込みながらもブレイクに伝えるシルクシャシャ
「大丈夫か? ったく魔人ってやつはどいつもこいつもふざけた奴ばっかりだな」
「まあ何とでも言ってくれて構いません。ですが、もうじきその少女は狂騎士というものに変わり、あなたを殺すでしょうね。これが嘘かどうかはすぐにわかるはずです。最後に別れの時間でもあげましょうか、しばらく私はこの場を離れます。連れて逃げようだなんて思わないでくださいね。そんな時間はありませんので……では。あ、ちなみに一時的に体調不良も消してあげます。感謝してくださいね」
そう言うと跡形もなく魔人は姿を消した。
「何がなんだかよくわからないけど、とにかくここを離れよう」
しかし反応がなかった。
「シルクシャシャ?」
「なあブレイク、私を殺してくれぬか? 全部あいつの言った通りなのじゃ、これが真実なのじゃ」
うつむいていて顔の様子は見ることはできないが
たとえシルクシャシャがそんなヤツだとしてもそれは本当のシルクシャシャとは思えない。
今まで俺たちと過ごしてきたシルクシャシャがそんなことをするわけがない。
「だからなんだ? 俺はシルクシャシャを殺すことなんてできない」
「だからそれではダメなのじゃ!! 狂騎士化してしまったら自分を制御することなんてできなくなってしまうのじゃ、それでブレイクを襲ってしまったら、私は……」
「なんの冗談か知らないけど、お前が俺を襲うなんてありえないだろ? とりあえずここから逃げよう」
そう言ってブレイクはシルクシャシャの手を掴もうと伸ばすがシルクシャシャは後ろに下がった。
何をそんなに逃げたく何のか分からないブレイクは半ば無理やり手を掴む。
その瞬間、ジュビアに見せられていたあの記憶がブレイクに流れ込んだ。
「……見えたのか? ……見えてしまったのじゃな」
「なあさっきの記憶はなんだ? お、お前に似た奴が城の人たちを殺して」
「どうやら私が見たものと同じものを見たようじゃ」
「どういうことだ」
「見たまんまじゃよ。あれは全て私がやったのじゃ。私は人を殺したのじゃ、人殺しなんて最悪じゃろ? 嫌いになるのは当たり前じゃな」
「本当だったんだな。でもな、シルクシャシャがどう思おうがが俺には関係ない。たとえ殺したんだとしてもあいつに操られたからだ。気に病む必要なんてない」
「それでも、私には時間がないのじゃ! このままではブレイクまでこ……殺してしまうかもしれないのじゃぞ!」
「その、狂騎士ってのは治せないのか?」
「知らぬ」
「では教えて差し上げましょう」
突如聞こえた声と共に例の魔人が現れた。
「勝手に話、聞いてたのかよ」
「あ、いえいえ、ちょうど今さっき来たばかりなんですよ。えっと、それでですね、治し方というのを教えて差し上げましょうというわけなんですが、聞きたいですか?」
「治し方って、本当に治るんだろうな?」
「そうですとも。私が作った薬なのですから、狂騎士化した人にはコアと呼ばれるものが体のどこかにあります。それを破壊すればいいのです。たったそれだけ、簡単でしょう?」
この男の言っていることは本当なのかどうか、いまいちよくわからない。
「シルクシャシャ、そのコアっての、あるか?」
「さ、探しておる。少し待っとれ…………」
しばらく体のあちこちを触り、ある部分で手が止まる。
「そこにあるのか?」
「なんとなくそんな気がするだけなんじゃが、たぶんここじゃ」
服の中を確認して再びうなづく。
「んじゃ壊しちゃえよ。それで狂騎士ってのが消えるんだろ?」
しかし、ここでまたあの魔人がしゃべりだす。
「その人自身が壊せるとでも思ったのですか? あなたには無理ですよ。あなた以外の誰か、この場合、ブレイク君が壊さないとならないのです」
「な、なんじゃと!? いくらなんでもここは……」
シルクシャシャがまな板でよかったと心底ほっとしたブレイクであった。
「ブレイク、何か良からぬことを考えたのではあるまいな」
「あー、深く考えすぎだろ。大丈夫だ。小さくても」
「そ、そっちか! というかじゃな、それは私が一番気にしているというのに……」
「まあ、俺が壊してそれでどうにかなるなら早速」
一歩踏み出したところで足元に紫色の雷が落ちる。
「すみませんが、そう簡単にやらせるわけにはいかないんですね。私的にも面白くありませんので」
「ふざけるな。邪魔するならお前から倒す!!」
剣を構え魔人ジュビアに斬りかかる。
終始にこやかなジュビアは避ける様子もなくまともに攻撃を受けた。
その途端、煙のように姿を消し、反響するジュビアの声が聞こえてくる。
「今の私は実体ではありませんのでいくら斬りかかったとしてもどうにもできませんよ。……では一時的な魔法を解きますね、まあこれで少しは楽しめそうです。せいぜい頑張ってくださいブレイク君、感動的なショーを期待していますよ」
姿も声も消えたとき、急にシルクシャシャが激しく咳き込み始めた。
「おい! 大丈夫か!?」
急いで駆け寄るが、死角からの気配に思わず後方に飛びず去る。
「シルク……シャシャ?」
突如現れた弧を描くように回転している剣をいとも簡単に受け取ったシルクシャシャ。
赤く目を光らせ両手に持つ剣の刀身は真っ赤に光っていた。
「ブ…ブレ…イク……そこ…に…いる…の……か?」
どうやらまだ意識はあるようだが、目が見えていないらしい
かなり息苦しそうで聞いているだけであの魔人への怒りがこみ上げてくる。
「いるぞ! 待ってろよ、俺が今助けてやるから」
「私の…最後の……約束…叶えて…くれ…ぬか?」
その約束に思わず戸惑う、なんとなくわかってしまったからだ。
「殺してくれなんて約束なら叶えられない」
「……私は…いや、私に勝てるのか? フフ…案外強いんじゃぞ?」
シルクシャシャは笑っていた。緊迫した状況を和らげるためなのかどうなのか
苦し紛れにしゃべるシルクシャシャを一刻も早く楽にさせなければと思いっきり叫ぶ。
「思い切ってかかってこい! 全て俺が受け止めてみせるっ!!」
早く終わらせないと……
「ましてや…コア……の破壊…など…不可能…なこと……なのじゃぞ?」
「たとえ雲を掴むような可能性だとしてもどうにかしてみせる! いくぞ! シルクシャシャ」
こんなところで死なせてたまるか。
「こんなん…だ…ら……ス…に…って…しま…のじゃ…………手加減は…出来んぞ……」
両手には剣がしっかりと握られ、頬を伝う涙がその剣にポタポタと垂れる。
次第に目の光彩が消えていき、まだ抗っているのかぎこちない動きとともに徐々にこちらに向かってくる。
「シルクシャシャ……必ず助けてやるからな。その苦しみからすぐに開放してやるからな」
第一撃は真空波のようなものを飛ばしてきたのを受け止めたとき、まるで怪力の男に体当たりでも喰らったかのような衝撃が襲ったがなんとかこらえた。
そして、次にお互いの剣が交わった。
――――その時
『………死ぬのは怖い……助けて………』
助けを求める呼び声が聞こえたのと同時にブレイクの顔に冷たい水がかかった。
それは紛れもなくシルクシャシャの涙だった。冷たく冷えた涙はブレイクの心に深く響いた。
目に生気が無くただひたすら剣を振ってくるシルクシャシャ、魔法の業火すら冷たく感じた。
目の前にいるのはいつも一緒にいたシルクシャシャではない。少しでも油断すれば一貫の終わりだ……
隙を模索しながら戦うが、その集中を少し散らしただけで自分に危機が襲いかかる。
防戦一方の勝負に相手と少し距離を取るため後方に飛ぶ。
「本当に、手加減無しなんだな……でも、必ず助ける! 絶対に助けてやるからなっ!! シルクシャシャ!!」
シルクシャシャの胸のコアに狙いを定め再び剣を構える。
次回はEX『宣告』
次次回は本編『貴方に会えて……』