第三十三章 夢と牢獄
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「はぁ~。いくら魔法が使えたって教える側って結構難しいよなぁ~」
「ブレイクさんおはようございます」
「どこかへいくのか」
「はい。ヘゼラル地方の友達の所へ少しだけ」
「デュナメイス国にミヴィの友達?…え、だって、封印解いたのつい最近のことだったし俺とずっと一緒だったろ?いつそんな場所に行く暇があったんだ?」
「剣仲間と言うべきでしょうか?私が剣に宿っていた時、主人はもう1つ剣を持っていました。とてもおしゃべりで話に付き合うととても疲れてしまう子でした。」
「ミヴィはあんまり喋らないからな」
「それでもってあの子はとても感情が豊かで、泣いたり笑ったり怒ったり心配したり私とは違って喜怒哀楽がしっかりとあります。とくに寂しがり屋で数時間私と離れただけで泣きじゃくっていました」
「いろいろと大変なんだな」
「はい。でも私と私の友達は離れ離れになってしまいました。」
「心配なんだな。そこで十字架の奴に会ったのか?」
「そうですね。あの子はもう泣かないと約束はしていましたが久しぶりに見に行こうかと」
「そうか、気を付けてな」
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「あの、外に行かれるのですか?」
「えっと……確か、カリナ・ミィリアさんでしたよね」
「え、あ、はい。私のことはミィリアと呼んでくださって結構ですよ」
「わかった。俺はこれから魔法の授業するからその前に練習でも、って感じだ」
「そうなんですか、流石ですね。刺客を倒すほどの力をお持ちですのに練習だなんて」
「まぁ、まだまだ不十分なところも多いしな。あとひとつ気になってたこと聞いてもいいか?」
「あ、どうぞ。何でも答えますよ」
「こんな広い城なのに一人で掃除なんて大変じゃないのか?」
「掃除…ですか。そうですね、大変なんかじゃありませんよ。だって私……」
「ミィリアがどうしたって?」
「え、いやなんでもありません気にしないでください。それより最初に私に声をかけてくださった時は驚きました」
「最初に声をかけたとき? あぁ。アイシェス姫と一緒だった時の事か」
「はいそうです。私、影が薄い方なのであまり声とかかけてもらえないんです。目の前を素通りされることも結構あって……」
「そうだったのか、時間さえあればまた来るよ」
「あ、この後練習しに行かれるんでしたよね。すいません貴重なお時間を……」
「いやいや、ミィリアはいつもどこにいるんだ?」
「いえ、私のことはそのうち忘れてしまいますよ」
「そのうち忘れる?どうしてだ?」
「いいんです。そういうのは慣れているので、どうしても場所が知りたくて私のことを覚えてくれているのであればアイシェス姫に直接聞いてください。あの時の様子からすると嫉妬してしまっていたような気もしたので簡単には教えてくれそうにもありませんけど、それではまた」
「アイシェス姫に訊けば分かるんだな……ってあれ? ミィリア? 消えた?」
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「アイシェスにブレイクの気を引かせる前に私がうまい具合に言っておかなければ」
「シルクシャシャじゃないか?」
「―――っ! どっどうしたんじゃブレイク? なっ何か悩み事か?」
「悩み事?んまぁ、確かにそうかな……。ちょっとこっちに来てくれ」
「なっなんじゃ?何用じゃ?」
「なぁシルクシャシャ。俺、死んでるのかな」
「な、なんじゃいきなり…やけにしんみりしておるの、というか死んでたらここにおらんじゃろう」
「確かにな、でも俺はここの世界に来る前に一度死んでるだよ。死んでるからここにいるってわけでってよくわからないな。別に元の世界に未練があるってわけじゃないからいつまでもこの世界にいるのもいいかもな」
『この子はあなたの妹』
『そんな子をあなたは助けることが出来ますか?』
『守ってあげることは出来ますか?』
『記憶を思い出すことが出来ますか?』
「いや、戻らなきゃいけない気もするけど……シルクシャシャはどう思う?」
「私か? 結婚相手であるブレイクが私のもとから去ってしまうのは何としても食い止めねばならないの」
「おいおい、だから結婚相手でもなんでも――――」
「んじゃが。私はブレイクの幸せを一番に考えておる。元の世界に戻れることを祈ることも妻としての役目」
「シルクシャシャ……まぁ妻じゃねぇけどな」
「そのためにはもしブレイクが危機に陥った時は私が命を張ってでもその危機から救わねばならんの」
「何言ってんだよ。そういう縁起の悪いことは言うなって……話変わるけど、シルクシャシャの小さいころってどんなだった?」
「私か? 私は過去のことはあまり覚えておらんのじゃ、姫だったことしか思い出せん。んでもってじゃ、2年前より昔のことはわからんのじゃ。こういう小さいころの話をして盛り上がるというのは恋人同士では欠かせないものじゃないのかと思うと彼女失格じゃな」
「妻がだめなら彼女かよっ…ったく。あっこら腕に絡みついてくるなって!っていうかそれ記憶喪失とかってやつじゃないのか?」
「記憶喪失か…私にとって昔の思い出なんかより今この瞬間が続けばよいな。つまりブレイクとの時間じゃ」
「昔のことは忘れたまんまでも良いってことか」
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目が覚めたら冷たい牢屋の中に閉じ込められていた。
部屋の気温がやけに低く水の滴る音が聞こえるほどあたりは静かだった。
周りを見渡すとアイシェス姫はまだ寝ていて同じくエクシアも寝ていた。
「あれ…夢か……なんだってあの時のことを夢で見たんだ?……そういえばシルクシャシャはどうしてるかな、助けに行くとか言って無茶しなきゃいいけど」
でも、どうしてこんなとこにいるんだ?
そんなことを考えながらゆっくりと起き上がる。
自分たちのほかにも何人か人が居たが正気が無い、誰もがぐったりとしていた。
ある程度見渡したところであることに気づく
「ギフェアさんがいない……」
どれほど探してもいない、この檻の中を探してもいないならどこか違う場所にでも居るのだろうか
『お前たちを魔人の疑いで牢獄に連行する!大人しくついて来なければここで魔人とみなし即刻殺す』
そういえば、あの時そう言ってこの牢屋にいれたのは確かリエラだったな。
冷たく見下すようなあの目は、まるで誰か別人のように思わせる感じがしたが確かにそうだった。
でもなんでそんなことを……
いや、考えても解るはずが無い。今はここから出る方法を考えないとそして魔人じゃないことを証明しなければ
ブレイクはとりあえずぐったりとしているひげや髪で顔ほぼ見えない男に声をかけた。
「ここは一体どこなんだ?」
「ここ?ここはヘルヴァージュ牢獄だ。罪を犯したものが連れて来られる場所」
その男の容姿からして4,50代だと予想していたブレイクはやけに若い声に驚いた。
ヘルヴァージュ監獄?
聞いたことが無い。
というかデュナメイス国にこんなところがあったとは……
ブレイクがいろいろと考えているとその男はまた口を開いた
「お前見ない顔だが新入りか?」
「はい。目が覚めたらここにいました」
その男は男の中でもかなり低い声で話を続けた。
「特に貧乏のようにも見えないが金がなくなったのか?それとも国に反抗したとか」
貧乏?国に反抗?
一体何のことだ
「いえ、どちらかといえば裕福ですし国に反抗なんてこともしていません」
「ではなぜここにきた、ここに入ったら最後、出ることは絶対に出来ない場所だぞ」
絶対に出れない場所か、何がなんだか分からないけどそれでもここから出ないと駄目なんだ
「とにかくデュナメイス国にこんな監獄があるとは思いませんでした」
ブレイクがそういうとその男は眉間にしわを寄せはここはキュリオテテス国だと告げた。
「キュリオテテス? 俺、さっきまでデュナメイスに居たんですよ」
その男は何か考えるような素振りを見せ黙り込んでしまった。
「あの……どうしたんですか?」
「………お前、もしかしてm」
「ブレイクさん!ここは一体どこなのでしょうか!?」
急に背中に突進してきたアイシェス姫にその男は口を告ぐんでしまった。
気になるところだったがこの場所におびえきっているアイシェス姫を見たブレイクはとにかく落ち着かせようと
なるべく優しい声で落ち着かせるように顔を見ながらゆっくりとしゃべった。
「アイシェス姫。ここはどうやらキュリオテテスにある牢獄だそうです。手違いで入れられてしまったのでしょうけれどすぐに出れますよ。なのでご安心ください」
瞳をうるうるさせながらもしっかりとしがみつきながら頭を縦に振った。
「言っておくがここからは」
「分かっています、なので言わなくても大丈夫です」
少なくともアイシェス姫を不安にさせるような言葉だめだ。
ここから出られないと言われようがもとより脱出する以外に選択肢はない
「たった一時の安心はさらにどん底に突き落とすぞ」
そういうとその男は目を瞑ってしまった。
「あの人は誰なのですか?」
「ここに閉じ込められていた人だと思いますよ」
ブレイクがそういうとアイシェス姫はブレイクの服をくいくいと引っ張り
「みんな寝ていますよ、今は二人きりも同然です」
寝ているというのは盛大な勘違いだとは思うけど、特に目の前の男は絶対に起きてるだろ。
でもって、この言葉がどういう意味を示すものなのかは分かっていた。
「そう…だな。てぃーながそういうなら」
「ふふっ。話し方が片言ですよ?ブレイクさん」
そのとき、にっこりと微笑んだアイシェス姫の顔は妙に艶かしかった。
――――――――――ヘルヴェージュ監獄・拷問室―――――――――――――
「あいつは魔人じゃない!」
「そうですか…残念ですね、あなたは正直に言ってくれる嘘のつかない人だと思っていたのですが」
上半身裸のギフェアは体の向きが反対のせいで顔が見えない少女に
質問をされつつ拷問官に背中を鞭で叩かれていた。
「ぐぁっ!!」
既に傷だらけの背中にさらに鞭を受けた結果
皮膚は裂けそこからは血が流れていた。
そしてその傷にさらに鞭を受ける。
「私たちだって訊けるものなら本人に直接訊きますよ、でももしあの人が魔人なら何をしでかしてくるか分かりません。あなたが一言魔人だといってくれればすぐさま殺すことが出来るんですよ。しかし変な約束事のせいで証言が無ければなりません」
「…だからといって……無理やり…ありもしないことを……言えと?」
「そういうことです。もちろん私は嘘だなんて信じませんが……まぁ早めに返事をお願いしますね。傷ついた体ほどあの軟な姫は心配するでしょうし、とにかく私は変なやからが入ってこないか見張ってきますので」
そういうと少女は外に出て行ってしまった。
その少女と入れ違いに今度はやけに偉そうな男ぶつくさ言いながらが入ってきた
「ったくこのイライラをどうしろってんだよ」
正直豚鼻としか思えない見たことの無い鼻だと思ったギフェアは
その下にあるほくろやびっくりするほどのあぶら顔、言葉の悪さからしてとにかく可哀想な奴だと思った。
「何のようだ?」
「何のようだぁ?俺に向かってそんな口を利くとは馬鹿なやつ――だっ!」
『だっ』の部分で思いっきり背中に蹴りを喰らわせた
「うぐっ!?」
あまりに強烈な蹴りに意識が飛びそうになったギフェアは何とか持ちこたえた。
「ちっ、耐えたか……まぁいい。さぁはやく吐いちまえってあいつは魔人なんだろ?」
「だから違うといっている」
「そうか……今ここで起きていることは外の誰にも分からねー。だから王である俺が何をしたって構わない。それが何を言おうとしているかは分かるよな?だからお前は、さっさとあいつが魔人だということを認めろ!俺はその魔人を殺し民を守った……そんな名誉が欲しいんだ。みんな俺を見る目をすぐにでも変えるだろーな」
「過去に何があったか…知らないが……そんなに…偽りの…名誉が……欲しいのか」
「うるさい黙れ!!ほら、拷問官休んでないでしっかり叩け!」
静かな部屋に鞭打ちだけの痛々しい音が鳴り響く
「くそっ!せっかくの計画が台無しじゃないか……あの小僧らがせっかく情報提供をしてくれたというのに」
「あの子供?」
「そうだ、それにあいつら、奇妙なことに全員眼の色が緑だったんだ、気持ち悪いったらありゃしない」
「何の情報を提供したんだ?」
「ん?訊きたいかぁ~。訊きたいなら訊きたいなりの態度ってもんがあんだろぉ~?」
その男はまたしてもギフェアに蹴りを喰らわした
「うぐっ!?」
鈍い音とともに何かが折れる音がした
ギフェアは背骨が折れた音だろうと重いながらその痛みに耐えた。
「はははっ。どうだ痛いだろう?さぁ知りたければ敬意を払った頼み方しろよ?」
意識が朦朧としているなか心の奥底に怒りの炎を燃やしながら肩膝を地面に付けた。
「どうか教えてくださいお願いします」
「ルプッシュ様を付けてもう一回」
「どうか教えてくださいお願いしますルプッシュ様」
「ひゃっはっはっはー。あー面白い面白い。んじゃ教えてやろう。あいつらこそがあの男を魔人だと言ってくれたのだよ」
なんだと?
まさかあの子らがそんなことを…まさか……
「はははっ。その顔、笑えるな」
そのとき、硬く閉ざされた鉄製の扉が重々しく開く音がした。
「ルプッシュ・サフォーネス様、どこにいるか特定できました」
「やっとか、ったく遅いぞ……んで、どこにいるんだ?」
「ガダルナ地方のヴェセア城です」
ヴェセア城?……一体何がどうなっているんだ?
あまりの痛みに思考が回らなかったギフェアは状況整理に混乱した。
「そんな遠くまでっ!せっかく拷問部屋まで作ってゆっくりと甚振ってやろうと思っていたのに」
「どうされますか?」
「ん~……なにより名誉が先だ。あの女なんかいつでも捕らえることも出来る。いや、でもあれだ、手が空いているやつらが居た場合は捕まえにいかせろ」
「分かりました」
「何を……しようとしている」
「少し前にな、ずいぶんとイラつく女が居たんだよ。…だからそいつを捕まえて気の済むまで遊んでやろうと思っていたのさ」
「その人の名前は?」
「知らん。でもびっくりするほどのスタイルの良さだったな清楚な顔立ち真っ白な肌、金色の髪は肩ぐらいまで伸びていた。あの女を…グヒヒヒヒヒッ」
まったくもって下衆な男だ。
でもそれだけのヒントでもだいたいわかる、たぶんミヴィアスだろう。
出かける前から姿を見ないと思ったらどこかにでも出かけていたのだろうか
「まぁとりあえず俺は飯を食ってくる。お前には残飯をくれてやるからまってろよ、ははっ」
ルプッシュはにやにや笑うと拷問室から出て行った。
「早くここから出なければ……」
重い扉が閉ざされた後、ギフェアは部屋の周りを見渡した。






