第三十二章 目覚める狂騎士
―――――――――サフェン地方・ユジェクト城――――――――
「…私…何を……って!敵はどうしたの!?」
倒れていた体を起こしたアイナは周りを見渡したが敵兵と思われる者たちも倒れていた。
「これは一体…どうなってるの?」
倒れる前までの記憶を思い出そうとしたがおぼろげではっきりしない……
そして、さっきまでここに立って剣を構えて待っていたのに気づけば何もかもが終わってる。
何が起きたのか全く理解できない……
「アイナ隊長、一体これは何がどうなって……」
同じく状況に混乱しているメラネルが話しかけてきた。
メラネルはとりあえず近くに倒れている敵兵を揺さぶり起こした。
「おい!…おい!大丈夫か?」
倒れていた男は目を覚ましポカンとしていた。
「あなたは誰ですか? それよりもここは一体どこなんです? 私は大工の仕事をしていてそれから……あれ?そのあとのことは全く思い出せない」
頭を押さえ必死に思い出そうとするがどうやら少しも思い出すことは出来なかったらしい。
それから次々に目を覚ました人たちもさっきの大工と同じような反応を示した。
「やっぱり操られていたのね……ふぅ。……死者を出さずに助かったわ。一体どこの誰がこんなことを」
「本当ですね。オブリビオンではこんな広範囲、たとえ強化したとしても不可能ですし、よっぽど強力な魔法使いなのかそれとも……」
「それとも?」
そう訊き返したアイナだったが「いえ、ありえないことですし気にしないでください。それよりこれからどうします?」と話をそらされてしまった。
気になることだったが、今はとにかくこの混乱した現状をどうにかしないとと思い、アイナは操られていた人にどうしてこうなったのかという理由を、分かるところまで説明し自分たちが武器を無意識に持っていたこともあってかある程度納得させることができた。
それから城に戻ったアイナはレーチェル姫に会いに行った。
みんなの話によればレーチェル姫は私たちと同じ場所にいたそうだけど目が覚めた時にはいなかったそうだ。
―――――――ユジェクト城・レーチェル姫部屋前―――――――
「レーチェル姫?」
レーチェル姫の部屋の扉は開けっ放しでその部屋の中でレーチェル姫は何やら考え事をしているようだった。
「あー、アイナか。どうした?」
「どうした、じゃありませんよ。これは一体どうなっているのです?」
「あいつはまた無茶な真似を……」
無茶な真似? あれ…もしかして私の話聞いてない?
「あの…レーチェル姫?」
「自分の余命も知らずに魔法を使ったな…いや、わかったうえで使ったのか……とにかく無事かどうか連絡を入れて……ってどうしたアイナ?」
「質問に答えてください!!」
「っ!……いきなり大声を出すな、驚いたではないか。それで質問とはなんだ?」
とはいいつつも片手で何かの情報をやり取りしていた。
たぶん私の話は耳に入っていない…でも、何を考えているのだろうか
「ですから、これは一体どうなっているのですと……ってレーチェル姫!?」
「あー悪い、アイナ。急用を思い出した。すぐ戻ってくるから留守番頼んだぞ!」
印を結ぶとレーチェル姫の姿はあっという間に消えてしまった。
「え、急用?…それってどういう……というか待ってくださいレーチェル姫!……はぁ~城を勝手に任せるなんてあの人は……」
「それだけ信頼されているってことですよ。アイナ隊長」
「メラネル? どうしたのこんなところに来て、姫様に何か用だったの?…というか私に城を任せるのは人選ミスだって」
「いえ、レーチェル姫はよく解っていらっしゃると思いますよ。私がここにきた理由はアイナ隊長に話があって来ました……これから重要な話をしますがお時間いただけますか?」
「大丈夫よ、重要な話って何?」
「マロハスから魔人が現れたから注意しろという魔報が飛んできました」
「魔人!? そっか、今は結界が薄くなっちゃって地上に魔人が来れちゃうのか……」
「そうはいってもまだ完璧に魔法が消えたわけじゃないのでやすやすとは来れないみたいですけど、RWSもまだ機能しているそうですし……そしてどうやらその魔人が民間人を操っていたらしいんです」
「確かに魔人ならあの人数を操ることも難しくはないよね」
「はい。それでダケストル・フォナン老師が、もう一度魔法を復活させるために騎士団全員を集めるらしいんですよ」
「騎士団全員を?」
「全員といっても前に魔法破壊計画に参加したメンバーだけらしいですけど」
壊すことは簡単だけど元通りにするのはかなりの時間がかかるはず、一体どうするつもりなのだろうか?
☆☆☆☆☆☆☆☆誰かの手記☆☆☆☆☆☆☆☆
探索経過日数98日
やっとここに辿り着くことが出来た。
金色に近い黄色の花はそこらじゅうにたくさん生えている。
さっそく私はその花を観察した。
花弁の枚数は全部で5枚、とてもいい香りがした。
実はあまりに探索に熱が入ってしまいここ何日も食べ物も飲み物もまったく口にしていなかった。
空腹と好奇心に駆られた私はその花びらを一枚食べてみた。
味は無味しかも体に変化はなかった。
これが幻のカイフェニアの花だとしたら残念極まりないのだがもうしばらくここにいて調べなければ
今までの苦労が水の泡だ。
私は瓶に入った水を飲んだ。
この水はエクスシア国すべての噴水の水を混ぜたものであり
全ての水を混ぜ終えた私はここに連れてこられた。
噴水には精霊が宿ると聞くがまさかその精霊とやらが私をここに連れてきたのだろうか……
他にも珍しい実がたくさんなっていて私はそれらを食べ腹を満たした。
それから目標を達成した疲労感からかものすごい睡魔に襲われ私は眠りについた。
探索経過日数99日
私は驚いた。
昨日ま龑たくさんあった花はどこかへ消えてしまった。
幸い昨日摘み龖った花は手元にあったがそれでも摘み取ってしまった以上いつかは枯れてしまう。
枯れてしまう前に私は出口を探した。と鬐かくここを出て研籲をしなければと
追記:多少だが手に痺れを感じた。
探索経過日数100日
どの顢らい歩髈ただろ騰か、しかし、あ騭花の咲い鰔鬪た場所以外はちゃん鰉鰔麗に花が咲い鰌いた。
やはり特騸な花=カイ勹ェニア厂花な黤だろ黧か
追記:視力が落藿字が蘚ゃんと書け藿いるかが分からな蘀なってし蘰った。
・乂弋・
娘二人蘙弟、そ瀼に彼女を驊つ蘑でも待黧せて黤悪い
騧や、娘や弟は私鑱こと騨忘れて鑱るか鑃韉れない。
それ攘蘑彼女の病気攓治す蘎はこの花が蘗要だ。
『戁蠵蘎病』韉色の血藿持つ種族がまれ鰯かか韉病気
瀼の病騨は空気鑱触れ騨だけ鑱命を削っ騨し蠒い少騢ずつだ鱒体をむ颸ばん藿い驋病欑だ。
現蠵の欑療技術では蠼治が不瓐能と言瀟瀴孁んの少黷死を遅らせ孀ことが精一欑だそう韤。
しか蘗、それ驋治すた黨の医学を于ー丅儿夕・丁十ミ魔戁師から教鰯り必要材籕を集め竇た飜に旅蘯出た。
も韉もこの鱒記騖見て鬟蘎者がい囏ば彼女戁助けてほ轟いそ鰚彼女龕名は驊蘎颸
瓌瓏:ど犨やら毒が纂繽回っ攘い酃らし犨だる癤感襤襤熱もな簪籕に手足纂痺れ視罌が落耀た。
―――――――――――【デュナメイス国】ムスラム地方・パダルコドル――――――――――
「この手記を書いた人は日本人か……竜崎幸次」
『日本人』その言葉にあの時拾った名刺を思い出した。
「にしても、日がたつにつれ汚れとか字の汚さが目立ってるな、追記による症状が原因なのか」
しかし、この手記自体に名前の記載は無く内容によると妹が二人弟が一人いたらしい
名刺の竜崎つながりで俺が前に見た夢には竜崎稲美、そして漆黒の少女に限りなく似ていたあの女の子が
俺の妹だと言った。そして自分の苗字は竜崎。たびたび見る夢で何回もその名前を呼ばれたこの意味は俺の名が竜崎だから、いるとしたら俺に妹は一人。二人ではない。推測だが、少なくともこの手記は竜崎幸次のものではないということになる。そうなるとまだこの世界に日本人がいるのだろうか……
「はぁ~。それにしても読めない……」
「食があまり進んでないぞブレイク。大丈夫か?」
ルゾ豪華客船から降りた俺たちはオクマーサさんから渡された入国許可書の役割をするコインのようなものを
提示してデュナメイス国の大門を通してもらった。
それから時間帯も昼になっていたため昼食を取ろうと街、パダルコドルにある飲食店に入ってそれぞれがおなかを満たしていた。俺はある程度食べ終えたところで、ルゾの船に乗っていたときに読んだ本の続きを読もうと最後のページを見たときにこのような日本文の手記を見ることになった。
「大事なところに限って読めないんだよなぁ……。あ、もちろん残りの分はちゃんと食べますよ」
「私にわかりますでしょうか?」
席を立ってトコトコ歩いてきたアイシェス姫がその手記を覗いた。
それから目を凝らしてじぃ~~~っと見つめてはいたが特に理解できない様子で
というか字、読めないだろ。と思いながらもしばらく見守った。
「わかりましたか?」
「うぅ~、わかりません。ブレイクさんの力になれないなんて姫失格です」
何もそこまで言わなくても……
そう言おうとしたところに今度はエクシアが覗いてきた。
「私なら必ずしもブレイク様の力になりましょう……………この字、なんて読むんですか?」
読めなくて当然だけど最初の一文字目からそれじゃ先が思いやられる。
結局ブレイク一人が考えることになった。
しかしこの世界の知識がない以上この文が読めたとしても意味がわからないということでその本を例の魔法箱にしまった。
いまでは魔法箱は便利な収納箱と化していた。
「これは後でオクマーサさんに伝えに行かないとダメだな」
全員が食べ終えたところで早速目的地の合成やに行くために再び位置を確認。
あのオクマーサさんの知り合いでオクマーサさんよりレベルの高い人、一体どんな人なのだうか
―――――――――パダルコドル・合成屋―――――――――
「よ、よろしくおねがいしまふっ!――イタッ、舌噛みましたぁ~」
目の前に居るのはここの主人の娘か誰かだろうか……
でも、よろしくお願いしますとか言ってたし、ということは
「あなたがオクマーサ・テゴレスの知り合いであるアエリナさんですか?」
みんながその少女をまじまじと見る中ギフェアさんが質問した。
「はい。えっと、私はそのアエリナれす。アエリナ・ピルヒーと申します。すいません、舌はんはって上手くはべれまへん」
どうやらアエリナ・ピルヴィー(ピルヒーは舌を噛んでたせいでそうなっていた)というらしいその少女はここ合成屋の主人だった。
こんな子がオクマーサさんよりも技術力が高いとは到底思えないし本当に大丈夫なんだろうか?
「ところで今日はみなさん、一体どんな御用でいらっしゃったのですか?」
「実はここに来る前に一度オクマーサに頼んだことがあったんだがこれこれこういう事情で……」
これこれこういう事情でなんて言って相手にちゃんと伝わるんだと痛感させられた。
「では合成に使う武器と薬品をしばらくの間貸してください、精一杯頑張らせていただきますっ」
ヴェーアをアエリナさんに渡し
ギフェアさんがオクマーサさんに作ってもらったシールドブレイクを渡し
必要な材料がそろった。これで魔人の魔法障壁を壊すことができる。
工房に入っていったアエリナさんの姿をしばらく見ていると
すぐに終わるようではなく腰をかけてお待ちくださいと言われてしまった。
といっても、何もすることがない。
腰をかけてからどれくらいの時間がたっただろうか、ただ金属をたたくような音と魔法特有の音を聞きながら時間を過ごす。
オクマーサさんから渡してもらった本はもう読んじゃったしなどと考えていると急に右肩に重さを感じた。
何かと思い隣を向いてみるとすっかり熟睡したアイシェス姫の姿があった。
「どうやら疲れて寝ちゃったようですね。姫といっても私より年下ですもんね」
左側に腰をかけていたエクシアがにこやかな表情でそういった。
それにしてもアイシェス姫の寝顔は見ているだけで癒しの効果を与えてくれる。
とにかくそんな表情で和んだ俺たちも寝ることにした。
寝ると決めてから工房のほうも少し休憩でもするのか音が鳴り止んだ。
その静寂はまるで嵐の前の静けさでもあるかのように……
――――――――――???地域・研究室――――――――――
「……ここは…一体?」
薄暗い部屋の中、鉄製のベッドに横たわっていた。
立ち上がろうとするが手足が鉄の器具で抑えられているせいで動かすことが出来ない。
周りを見渡すと薄暗い中でぼんやりと怪しく光る入れ物の数々を見つけた。
赤や青、紫などの液体が混ざり合い緑っぽい煙が出てきている。
如何にも怪しいけど異臭はしない、とても臭いをかぎたいとは思わないけど
「お目覚めですか、気分はどうです?」
誰かが部屋に入ってきた。顔は見づらいけど予想はつく
「最悪じゃ。それよりお前は誰なんじゃ、私に何をする気なのじゃ!」
「私の名はジュビアそしてあなたは魔人をも脅かす存在となり私の力となるのです」
「何を言っておる……」
その魔人は含み笑いをすると「おとなしく待っていてください」といい部屋の外に出て行った。
先ほどの薬品を眺めているとその奥に青色の液体が入った筒型のガラスケースがいくつもあり
そこにはぎりぎり人間の形状にとどまっている…いや、人間かどうかもわからない恐ろしく醜い姿の怪物が何体も保管されていた。
自分もあのようになってしまうのかと体を震わせ脱出を試みたが魔法での脱出はシオラ石が無いから不可能だった。
それにこの部屋じたいに何か仕掛けが張られている。
魔法が使えたとしてここから脱出できたのかと聞かれれば、それはたぶん無理だっただろう。
「どうです、私のコレクションは?」
気配を完璧に消した魔人が後ろから声をかけてきた。
もとから近寄られる気配には気づく方だった彼女は、高度な魔法技術に続き驚かせられた。
「悪趣味じゃな。私もあのような怪物にする気か?」
「クククッ。それもいいですが、今はそういう実験につき合わせてる暇はありません。そしてあなたにはこれを飲んでいただきたい」
手の平の上に出てきた器に何かが注がれた
色は真っ赤な…まるで血のようにドロドロした液体。
いつか見たようなそんな記憶を浮かべたが、頭の片隅に浮かぶぐらいのほんの一瞬のことだった。
そしてその液体が彼女の口に注がれていく。
「な、何をする!!」
とっさに口に含んだ液体をなんとか吐きだし口を閉じる。
「これを飲んでもらわないことには何も始まりません」
魔人は再び飲ませようと手で口を開けようとしたが、固く閉じられた口は微動だにしなかった。
そして深いため息をつくと人差し指で彼女の唇に触れ小さな声で素早く呪文を唱える。
「アペリオ(開け)」
するとさっきまで閉じていた口が徐々に開き始め閉じることが出来なくなってしまった。
にやりと笑い先程の液体を一気に注ぎ魔法で今度は口を閉じた。
―――ごくりっ
「けほっけほっ……なんじゃこの液体はまるで」
「まるで血の味ですか? まぁ心配する必要はありません、死ぬことはありませんので……まぁ、今はですがね。それにしてもこれだけ飲んでくれれば十分です。しばらく寝ていてください」
起きた時が楽しみだというとその魔人は姿を消してしまった。
そしてあの液体には睡眠薬が含まれていたのか急に瞼が重くなった。
「ブ、ブレ…イ…ク……」
平常時の彼女が口にした最後の言葉だった。
その日の夜、鋭い何かで体を引っかかれるような痛さを感じたが声を出すことが出来ず、
それが収まり深い眠りにつくとともに鮮明でとても不快な夢を見せられた彼女が起きた朝。
彼女は高笑いとともに暴れだし鉄の器具を破壊し、体から溢れ出る魔力の衝撃波で瓶やガラスなどを粉砕した。