EXⅧ 調査
新たな魔人出現。その強さや如何に……
―――――魔界・2番街―――――
「あいつの場所は途中まで掴めたが……。」
「そうですね。ジェキア地方辺りでプッツリと……」
「くっ、何をしたか分からんが、こちら側から大きく動くとかえって危ない。」
とりあえず、エルウェールを現地へ向かわせたがどうなることやら……
「はぁ…」
なんだ?なにかギーヴァ様の様子がおかしい……
そんなに慎重にならなければいけない事があるのだろうか?
すでに、魔法を支配し、我らが優位に立っているというのに
「おい、キルス!お前の出番だ。」
ギーヴァ様が遠くの方を見ながらそう言うので気になって見るとツインテールでアホ毛のある緑色の髪をした少女が走ってきている所だった。
「あいつは誰ですか?」
「こう見えてあいつは魔人ファーストクラスなんだ。お前の1個上だぞ?」
「なっ。そ、そうなんですか……あの子がねぇ。」
ずいぶんと華奢な体系だが1本5㎏以上ある剣なんて持てるのだろうか?
もしくは魔法?とにかく、強そうには見えない。
なのにファーストクラス?
「おじさん私よりも下なの?」
いきなりタメ口か、なんというか礼儀の無い子だな。
「そ、そうみたいだね。凄いんだねぇ君は。あと、おじさんって言うのは―――」
あと、と言い始めた直後に満面の笑みで
「なら、おじさんはこれから私の『舎弟』だね。」
舎弟?こいつ何者なんだよ。
なんか、そこだけ声帯変わったし……
「そういうわけだ。ツァツェ。試しに勝負でもしてみるか?」
ギーヴァは口の端を釣り上げてツァツェに言った。
―――――魔界・一番街―――――
「準備は良いか?ツァツェ」
もちろんです。と魔界剣を2本取り出す。
そしてブゥーンという低音をたてて今か今かと戦いの時を待っている。
こいつに勝ってギーヴァ様に良い所を見せるとするか。
「ツインソードですか。おじさん凄いですね。」
と言いながらもその女の子は腰から2本、肩から2本、空中から2本。計6本を取り出した。
「6本……」
なんなんだこいつ……
「ちなみに剣同士を繋ぎ合わせて……っと」
腰と肩に装備していた剣をそれぞれ繋ぎ合わせ自分の丈と同じ2本の剣を構えた。
「なんだその筋力は……お前、本当に女か?」
「あれぇ。女の子にそんなこと言っちゃっていいのかな?
ちょっとカチンときちゃったんだけ……どっ!!」
話し終わると同時に地面を蹴って駆け出した。
また、そのスピードも尋常では無く、魔人であるツァツェでさえ、
集中していなければ残像と化して目で追うことは不可能となるだろう。
「くっ!!……速いっ!」
「どうしたの?守ってばっかじゃ勝てないよ」
あまりにも速い斬撃が何度も何度も繰り返され、剣を交えるたびに服や皮膚にかすり傷を負う。ツァツェは魔人特性の治癒能力が半端なく高いが、その能力を止める魔法がキルスの剣には掛けられていた。
「『テラマグナフラマ』(大地獄炎)」
相手を囲むようにして炎柱を何本も噴き上げた。
「ふぅーん。魔法はそこそこね。『アニマコンゲラートルーメン』(光纏う氷結風)」
一瞬辺りが点滅した後、激しく燃えていた炎は跡形も無く消えてしまた。
*天超地にいるあの人による知っておきたい大事な事*
当たり前のように詠唱無しで魔法を使っている2人だけど、本来これらの魔法を唱えるのには最低5人の魔導師が数分かけて作り上げる魔法であってそうそう簡単に出せるものではないのよ。例外もいますが……
「っ!?一瞬で俺の最大魔法が消された…だと!?」
「まだ、私の効果は終わってないんだけど?」
時間差で数本の光のロープみたいなものが体を貫く。
「ぐぅはっ!」
ツァツェの体から鮮血が噴き出す。
「なんて美しい光景なのかしら……と、見惚れてる場合じゃない。」
と追い打ちをかけるように目にもとまらぬ速さで相手を切りつける。
「うぐぅっ!………はぁ。はぁ。」
そして、瀕死で弱り果てているツァツェに向かって両手に持つ長剣2本を投げつける
「これで終わりね」
だが既に、ツァツェは息絶えていた。
そこへ2本の剣が突き刺さる。もはや直視出来る光景では無い。
体をバラバラにされ原形を保っていないツァツェを見て
「私の勝ちィ!なんて間抜けな恰好なの。あはははっ」
と、殺すことに何も感じないキルスであった。
「それでいい。その調子でこの老人の首を狩ってこい」
魔法でファンベル爺そっくりな人物を描きキルスに見せる
「このおじいちゃんを?なんだか弱そう。」
「侮るな。精々殺されないよう気をつけることだな」
「私が殺される?そんなことありませんよ。ではっ」
そういって大空高く舞い上がってどこかへ飛び去った。
「さてと、こいつは……」
その頃エルウェールはというと人間界に来ていた。
「ファンベルがどこに行ったかって言われてもねぇ」
ジェキアからガダルナ地方へと移動した。
すでにジェキア地方は隅々まで探したのだが何処にもいなかった。
正直、体力の限界である。
「はぁ~あ。疲れたな。」
ガダルナ地方のゴーナ平原に来たエルウェールは平原の端にある高さ5m位の大木の切り株に座った。そして、この奥へと進めばハーゼル樹林に行ける。そのハーゼル樹林に実ると言われるミチャンの実をもぎってかじる。果物界の中でも1,2番を争う程美味しいと言われている四角い果物だ。オレンジ色の硬い皮をくりぬくと中に赤い色をしたゼリー状の美味しい部分が出てくる。10分くらいてこずった結果何とか食べることが出来た。
「へぇ~人間界の果物って結構おいしい物もあるのね。後でギーヴァ様にも教えてあげないと……それにしてもどこからか話し声が聞こえる。城の方かな?……行ってみよっと」
切り株から華麗に飛び降りると再びミチャンの実を採り城へと飛んで行った。
―――――ヴェセア城・庭―――――
昼間は白で統一されている綺麗な庭は太陽の光でより美しく見えた。
「綺麗……」
ついつい見惚れてしまったエルウェールはいけないと庭の奥で聞こえてくる話し声を聞きに行った。
「そうだな、その時出た刺客は……危険度7。…………7!?」
思わず耳をふさぎたくなるほど大きな声を出された。
「うるさい……」
でも、ふと思う事があった。
刺客って一体なんなんだろうかと……
「その日は例の刺客によりファベスト帝国が勘違いを起こし襲撃の発端となった」
ふぅーん。確かそういうこともあったわね。盗み聞きをしながら思う。
エルウェールは当然魔人な為ファベスト帝国の襲撃なんて数ヶ月前くらいにしか思わない。
でも、あれは酷かったと思う。
「そういえば、緑眼狩りなんて子供だったし、そんな酷いこと一体誰がしたのかな……」
酷いと言えば、あの無心の神悪、烈火の殺人鬼と言われたあの少女はどうしたのかと思う。あんな優しそうな少女が人殺しを重ね、大地が血の色で染まったあの日、私もその光景を見た。誰構わず殺されていた。無差別殺傷、ここまで酷いのは初めて見た。本当にどこを見ても赤、赤、赤……そして、その少女をついに見つけることが出来た。どうやら誰かと話しているようで、私は盗み聞きをしてしまった。
「こんなことして何になるというの!こうなったら私も死んでやる!!」
「ふっ。うるさい女だな……」
「ふざけないで!!」
「全てを忘れさせてやるよ。だから目を閉じろ」
「全てを忘れられる……」
「真実から逃げるか。人間というものは弱いなぁ。
自分の罪を一生引きずっていけ!――――――」
その時、最後に何を言ったのかはよく覚えてなかったけど、物凄い光がその少女に当てられた。何が起こるか分からない私にとって、危険だと判断し、すぐにその場を立ち去ったから正体は分からなかったけど、一体なんだったのやら……
「だから違うって!!」
「だから違うわ!!」
「むぅ~。それにしてもここの男女二人はうるさいな……」
あまりのうるささに鼓膜が破れそうだった。
「この先、どうするか……」
どうやら2人は何かに悩んでいるようだけど、
その悩みが解決します様にと協力は出来ないが願うエルウェールであった。
エルウェールの心の広さは広大である。
「とりあえず、オルリオにでも行きましょうか」
「そうだな。あそこの紅茶は美味しいし、なにか良い提案が思いつくかもしれない」
どうやらカフェにでも行くらしい。
「なんだか、私も行ってみたくなってきちゃったな」
美味しい物もありそうだしと誘惑に負けカフェ・オルリオに行くエルウェールであった。
―――――カフェ・オルリオ―――――
「とりあえず、落ち着いたところで」
「どうしようかしらね。あ。どうせなら同じ強さの刺客と同じ対策をすればいいんじゃない?」
「それはあまりに適当じゃ……」
「こうなった以上この手しかないわよ!」
どうやら何か良い案が思いついたらしい。
安心したエルウェールはすぐ近くのテーブルで紅茶を飲んでいた。
「……美味しい。なんて美味しいのかしら」
人間界にはこんなに美味しい物がたくさんあるのね。
美味しい物巡りのツアーでもないかなぁ?
そう1人浮かれているうちに深い深い眠りについてしまった。
それはもう、どんなでかい音が響こうと絶対に起きることは無い程の熟睡っぷりだった。
エルウェールの熟睡によって後々ものすごくラッキーなことが起こります。