第十章 俺とギフェアと姫様と
――――ヴェセア城・ブレイクの部屋――――
「と…………姫………………ブレイク…………そうだ……」
先ほどから、頭の中で同じ言葉をずぅ~~~~~~っと囁き続かれている……
あまり眠れてないこともあるなかなか言葉を聞き取ることが出来なかったが
次の言葉はハッキリと聞き取ることが出来た
「と言うことで姫様はどうやらブレイクのことが好きだそうだ」
「今、何と?」
いやいやいやいやいやいやいやいやいやそれってヤバくないか?
今、平常心保って言葉を聞けているのは、昨日からの負担ゆえ、
もう精神が逝っちゃってるのかもしれない……
それともあれか?全てが夢?幻覚なのか?
「おぉ、やっと反応したか……。
これはあくまでも俺の推測なんだがな
(と、言っても、昨日や数日前の様子から確定に変わったがな)」
「は、はぁ~」
「そこでなんだが……その~。
姫様と付き合ってはくれないか?」
「ひ、姫様と付き合う!?」
いや~~冗談はほどほどにしないと朝から、頭が混乱します。
もう既に混乱していますが…………
「ここは、姫様側近でいながら小さな頃から面倒を見ていた私からのお願いです」
ヴェセア心
重大な事は、またあとで話せばいい。今はこれだけで……
「お願いとあらば……」
いや、頼みに答えるまでもない。
断る要素などどこにもないからな
「……1つ訊くが、ブレイクは姫様のことを“とても綺麗な人だと思いました”と第五章で言っていたがこれは本当なのか?」
第五章?何を言っているんだ?……って!そういうことよりも
確かにとても綺麗な人だと思ったのは間違ってない。というか誰が見てもそういうであろう。これが答えになるのだが、次にヴェセアはこう言ってきた
「姫様と付き合うということをどう思う」
ど、どう思うって……そりゃあ正直、もう嬉し過ぎて魂が吹っ飛びそうですよ
「それはとても嬉しいことなんですけど」
「そうか……そういうことだそうです姫様」
ひ、姫様!!??
「そうなのですか。ブレイクさんが私のことを」
「こ、これは!?」
ブレイクの部屋の入口からひょっこりと顔を出し近づいてきた
「すまんなブレイク。ちょいと姫様に頼まれたからな」
――――昨晩・ヴェセア城・姫様の部屋――――
(……では、失礼いたしました)
(……待って下さい兄様)
(その呼び方はここでは言わないという約束では?)
(あの。ブレイクさんについて相談があるんです)
(ブレイクについてか?)
ギフェア心
ブレイクについての相談と言えば、そりゃ予想はつくもので……
(はい。ブレイクさんは私のことをどう思いになられているのか、という事なんですけど)
(重々承知のことですな)
(知ってたんですか!?というか兄様は私の心が読めるんですか!?)
(長年一緒にいる兄弟ではないですか、それに心なんて読まずとも姫様の顔に書いてあるも同然)
(わ、私の顔にですか!?)
そういって自分と同じ大きさくらいの鏡の前でわたふたと一生懸命探しだした
(例えですよ、例え。姫様の言動、行動などからしてバレバレです)
(そう、でしたか……あ!それよりも……その…………どうしても知りたいんです。)
(では、明日探ってみましょうか?)
(本当ですか!?ありがとうございますっ兄様!)
姫様の笑顔が見れるならどんな頼み事でも承諾しそうだ……
あの日から姫様が変わってから笑顔なんて一切見せなかったというのに
これも、まったく、ブレイクのおかげだな……
(では改めて。失礼いたしました)
――――昨晩・ヴェセア城・廊下――――
(例え血が繋がっていなくとも力になれることがあるならば全力で……)
――――ヴェセア城・ブレイクの部屋――――
「頼まれたんですか……」
「そういうことだ。これからよろしく頼む」
「……はい」
途端にアイシェス姫が、わふっと抱き着いてきた。それにしてもあんな恥ずかしがり屋なアイシェス姫が抱き着いてくるとはな……。俺の魂は今頃、銀河系目指して吹っ飛んでいることだろうな…………
いや、死後の世界に宇宙ってのはあるのか?
って上を見上げたが城の中だったことに気付いた
てんぱってんなぁ~。俺…………
「私。嬉しいです。お役にたてることがあるならば何でも」
しかし、アイシェス姫の立場上迷惑を掛けるわけにはいかないからなぁ
自信満々の顔を見ると何か頼まないといけないような感じもするが……
「分かりました。アイシェス姫も何かあれば……」
ギフェア心
例えまだ好きと言う感情を抱いていなくともそのうち……
「では早速、私のお願いを聞いて下さい!」
――――ヴェセア城・中庭――――
「それにしてもどこを見ても綺麗だね」
アイシェス心
そ、そんなぁ綺麗だなんて、ブレイクさんったら……
「この庭は誰が手入れをしているの」
「に、庭ですか!?(私。なんという早とちりを……)」
「うん。こんなに綺麗に保つなんてさぞかし掃除が大変なんだろうって思ったんだけど」
アイシェス姫に向かって普通に話す
これがお願いというものなのだが
やっぱり、普通に話すのは大変苦労極まりない……
しかし姫様のお願いだからしょうがない。
「ここの掃除でしたらあちらの方が」
「一人でやってるの?」
「そうみたいですね」
そうみたいですねって!こんなに広い庭を一人で掃除!?
サッカーコートぐらいの大きさはあるぞ!
俺だったら気の遠くなる作業で、仕事ほったらかしにしそうだ
「お名前は……カリアさん……でしたよね?」
「は、はい。カリア・ウェナリーと申します。よろしくお願いします」
と、俺と姫様に向かってお辞儀してきた
「あ、いえいえこちらこそ」
オレンジ色の髪が腰付近まで伸びている頭には白いリボンをつけていて服はなんというか……
とても質素だと思う。こんな城で働いているのだから結構貰ってるのだと思うのだが
しばらくカリアさんを見ていたらアイシェス姫が俺の袖をクイクイ引っ張ってきた
「次行きましょうか」
早くいきませんか?的なオーラをガンガン出してきたので
とりあえず何か言おうと考えて
「そうだな。んじゃ頑張って下さい」
と、応援の言葉をとりあえず……
今は手伝ってあげれないのが残念だけど。ってか手伝っても足を引っ張りそうだし
またの機会にそういうことがあれば……
「わ、分かりました!ありがとうございます」
とカリアは一礼した。
その後、
噴水の近くの花を見たり、どんなプロが作ったんだ!と思わせるくらい上出来なステンドガラスを見たり
ひととおり城の中をアイシェス姫と見て回った
そして現在いるところはアイシェス姫の部屋のテラスで景色を眺めている。
「……そうでしたの!?」
「そうなんだ。俺はこの世界の住人じゃないんだ」
「では、お父様・お母様は?御一緒に暮らしていたのですか?」
「ここの世界とはまた違う世界、つまり俺が暮らしていた世界にいる。っていっても。俺の父さんは6年前に世界旅行に行っちゃって、母は、地元を離れて長い間働いてるから俺だけが家で生活してたって感じかな」
「そうだったのですか……。しかし、なぜこの世界に?」
どうしてこんな話になったかと言うと、アイシェス姫の質問に少し答えて……いや、たくさん答えて……いや、数えきれないほど答えているうちにこうなった。
前の世界で雷に打たれ死んだ……ということは今は伏せておこう
なんとなく嫌な予感がするからだ……
「う~ん……。知らないうちにここにいたんだ」
少し無理があるかな……
まぁなんとかなるか
しかし、生活してきた記憶があるのに自分の名前が分からない……
どういうことだ……?
「戻ることは出来るのですか?」
戻るも何も俺は死んでるからなぁ……ってか死んでることを忘れかけてたし
でも、この世界では今は生きてることになってんだよなぁ。
でも俺のいた世界では死んでることに?……あぁ~~頭が混乱する~。
俺は今どんな立場で立たされてんだ?
第二の人生を選んだことによって命が復活したのか?
こういう疑問はキルティに聞くのが一番だろうと、次に会ったときに聞き忘れないよう
頭にたたきこんだ。
「とりあえず戻り方がわからないから戻れない」
「ではもし、もし戻れたとしたらブレイクさんは元の世界にお戻りになるのですか?」
おっと。そんなうるうるした目で俺を見ないでくれ
今にも泣きだしそうなその目はどんな男でも断れそうになかった
これが泣き落としって奴か?
「そ、そうだな……もし戻れたとしてもこの世界に留まるかな?」
「ほ、ほんとですか!?」
え~っとその笑顔がとっても眩しいです
まぁ元の世界に戻っても面白くないしな
そんなこんなで、なんか充実した一日だった。
――――ヴェセア城・ブレイク部屋前――――
一日こっちで泊まっちゃったけど。ミーレ大丈夫かな……?
「ミーレさんのことで心配事か?」
そう言って肩に手を乗せてきたギフェア……っていきなり現れた!!
「そ、そうなんです。それにしてもいつから……?」
「いや、たまたまここを通りかかったらブレイクがいたものでね」
「たまたま……ですか?」
「そう、たまたま。あ!そうだついでに知らせることがある」
……知らせること?
「明日はS騎士団特別指令会議があるから会議室まで明日の午前9時に来てくれ」
思いつきにしては結構重要な話ですね……
俺と会わなかったらどうするつもりだったか
「それでS騎士団特別指令会議とは?」
「Sランク以上の騎士団だけの集まりでなぁ。特別な指令。任務が任される」
「Sランク以上の騎士団が集まる……。難関ってことですよね、それは」
「まぁ当然のことだな。テラドレスの討伐・ペンジャックの卵の採取・ダーゼル騎士団の監視などといったところだろ」
あははは……どれも凄そうなんだけど、その凄さが分からないのが1番怖い
ってか、ギフェアさんのその余裕そうな表情……
「大丈夫だ。ブレイクなら何の心配もいらない。さっき紹介した任務は全てA~SSのランク程度だ。SSSのブレイクにとっては気抜きも良いところって感じだな。」
気抜きも良いところって言われても
初めての指令?ってのはすごく緊張するわけで……
「んじゃまた明日な」
そういってギフェアは、俺の肩に手をポンっと置くと、頑張れとひとこと言われ
その場を立ちさって……ん? 戻ってきた……
「それから、明日はお偉いさんたちもたくさん来るから時間は厳守にな」
「分かりました。気をつけます」
今度こそ歩いてどこかえ向かうギフェアさんを見送った後
しばらく俺はその場で立ち止まっていた
「どんな指令を受けるのだか……」
次回はEXになります。