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ラブコメのカスが送る!青春エンターテイメント!  作者: 久荘木ノコ
カスと茈雷みはりの恋愛大作戦!
32/32

彼女が何を言っているのか分からない件について

 例の手紙を受け取った翌日、僕は悶々とした気持ちで学校生活を送っていた。

 

 幸いにも、有紀が昨日の出来事について追及してくることがなかったのはせめてもの救いだ。あのことを話題に出されては、流星や清水さんにも疑いの目を向けられかねないからね。脅迫状をもらっていたなんてこと、友人には絶対知られたくない。だってラブレターと勘違いして、浮足立っていたんだから。天国から地獄だよ。


 それにしても、誰が一体何の目的でこんなひどい仕打ちをしたんだろう。僕の純情を弄ぶような真似を。


 差出人は分からないけど、中身から見ても一応『脅迫状』だし……約束通り指定された場所に行かないと何かされるかもしれない。本当なら誰かのイタズラだと思って、放っておくのが一番なんだろうけど。「逃げられると思うな」とか書いてあるし……念のため、少し顔を出して様子見くらいはした方がよさそうかな?

 

 脅迫の内容に従った方が良いか、と頭を悩ませるのも束の間。普段は遅く感じる時間の流れが、僕をあざ笑うかのごとく刻々と進んで行き――気付けば指定された時刻と場所までやって来てしまっていた。


 指定されていた先は本来、非常用として使われる屋外の階段だ。基本的に避難訓練や災害などの緊急時を除いて、屋上へと続くこの非常階段を利用する生徒は誰一人いない。

 

 悩みに悩んだ結果、僕は脅迫状の脅しに屈して、こんな場所まで足を運んでしまっていた。


「……時間どおり来たけど。誰もいないし。やっぱりイタズラかな?」


 階段の踊り場に来てみたけど、人の気配は感じられない。

 呼び出した本人が現場にいないってことはイタズラだよね? それならそれで安心出来るから良いんだけどさ……僕の純情は傷つけられたけど。


「にしても誰がこんなひどいイタズラを仕掛けたんだか。とっちめてやりたい気分だよ!」

 

 多少怒りを覚えつつも、ほっと胸を撫でおろし、(きびす)を返して階段を降りようとした――その時。


「ここまで来たんだから逃げられると思わないでよね!」


「うわああああああッ!?」


 驚きのあまり大声をあげた僕の目の前には、黒いパーカーを顔に深々と被った女子生徒が堂々と立っていた。表情は分からないが、左右から赤毛の髪をしたツインテールと思しきものがはみ出していることだけは目視出来る。


「え……えと……君が、あの手紙の差出人かな?」


「そうに決まってるでしょ!! ってか、何でアンタはノコノコとここに来ちゃったのよ!?」


「えぇ!? 来ちゃダメだったの!? あれ脅迫状だよね!? 『逃げられると思うな』とか書いてたよね!? 普通なら差出人の君は僕にここへ来てほしいもんなんじゃないの!? どういう感情で僕のロッカーに入れたのさ!?」


「勢いで入れちゃったんだから、しょうがないでしょ?! それに本当に来ると思わなかったんだもん! てかあんな怪しげな内容なのに来るなんてバカなの!? アンタの感性どうなってんの?!」


「何で僕、脅迫状出した人に感性疑われてんの? しかも、シンプルに悪口言われてるし」


 勢いで脅迫状を出す人の方がどういう感性してんのって思うんだけど。何で被害者の僕の方が責められてるわけ? こういう趣味趣向の嫌がらせってこと? ラブコメの主人公(カス)だからこういうプレイもイケるだろ、と思われてるってこと?


「…………」

 

「……なに黙ってるの?」


「ごめん。僕こういうプレイは勝手が分からなくて……他に理解のある人を見つけてもらえるかな?」


「わたしは別に『プレイ』をしたくてここに呼んだわけじゃないんだけど。ってか『プレイ』って、何を勘違いしたらそういう思考になるわけ?」


「え? てっきり『ラブレターだと思ったら脅迫状でした! からの待ち合わせ場所に行ったら罵倒プレイ!』って感じに相手を(おとし)めるハードな趣味趣向を持ってるのかと思ったよ」


「……わたしは今アンタにあの手紙を出したことを猛烈に後悔してるわ」


「僕はここへ来たことを後悔しているけどね」


「チョロ過ぎるのが悪いっ!」


「仕方ないじゃん。何されるか分かんないし。様子見だけでもって気持ちで来たんだからさ」


 最初こそ恐怖心もあったけれど、今のところ安全そうなので普通に会話を続けることにした。

 同じ学校の生徒だし、何かこちらに危害を加える様子も無さそうだから、ひとまずは安心かな? 顔が見えなくて口調は荒い感じだけど、こんな小柄な女の子が危ないことをするような人とは思えないし。


「だとしても! もっと警戒するでしょ! こんな怪しい呼び出しで来る方がおかしいから!」


「自分でそれ言っちゃう?」


「うるさい!」


 確かにあんな手紙の指示に従って来る方もおかしいけど。出す方が一番おかしいからね。言わないけど。


「…………勢いあまって出しちゃったのに……まさか本当に来るなんて」


 ぶつぶつと小言をささやいた彼女は意を決したのか、深呼吸をしてフードから顔を出した。赤毛のツインテールがふわりと広がり、大きな瞳が露わになる。まるで獲物を逃がさまいとするトラみたいな目。目力がすごくて意志の強さを感じさせる女の子だ。


「……んん?」


 この子、どこかで見たことがあるような……。この赤毛のツインテール…………ッ!


「あっ! もしかして、昨日のお昼に廊下を走り去って行った子!?」


「なっ?!」


 となると、あの時感じていた視線の正体はこの子だったのか!

 

「だ、誰の話してるの!? わたし、知らないもん! ぜんっぜん知らないもんっ!」


「視線感じてたし……その赤毛のツインテールを揺らして走り去るとこも見てるし。君だよね?」


「違う人だもん! わたし昨日のお昼は2年4組の近く通ってただけだしぃ?」


「それ僕のいる教室だよね? アリバイになってないよ。現行犯だよ」


「あっ! そ、そのわたしは違うわたしだから! ドッペルゲンガーだから! わたしじゃないもん!」


 赤毛ツインテールの女の子は僕から視線を逸らし、キョロキョロと周囲を見渡しながら挙動不審に嘘を吐く。いや、顔晒してるし。何よりもその振り乱してるツインテールが証拠なんだって。


「…………」


 黙ってしまった。彼女の沈黙に気まずい空気が漂う。

 沈黙が流れたあと、彼女は大きくため息をついて呆れたように口を開いた。


「……もうバレてるみたいだし。観念するわ。そうよ。昨日の昼休みにアンタたちを見てたのはわたし。ずっと、アンタたちのことを探っていたのよ」


「僕たちを探っていた? な、なんで?」


「わたしの計画のためだもん! 別にアンタのことが好きで探ってたわけじゃないんだから!」


「君、ステレオタイプのツンデレ過ぎない?」


「とにかく! わたしはアンタにあることをお願いしたくて色々と調べてたんだから!」


 そう言って彼女は「ふふんっ」と自信ありげに胸を張った。


「正直、アンタが……(あおい)()()二人のどっちかと付き合っていたら、こんなこと頼めなかったかもだけど……」


 あの二人って有紀と清水さんのこと? 「付き合ってたら頼めなかったかも」って……まさかそういうこと!? 告白されたばかりのところに、また他の女子から告白をされるってこと!?

 いやいやいやいや! 自惚れるな! 「僕のことは好きじゃない」って言ってたし! ツンデレって可能性もあるけど! でも、もしそうだとしても僕は誰かと付き合うなんて――――。


 彼女は顔を俯け、唇を噛み締める。なんだろうこの不穏な気配は。まさか本当に!?


「……蒼には、わたしのために付き合ってもらうわ!」


 やっぱり! これは!


「このわたしが、茈電(じらい)みはりが真宵寛太(まよい かんた)君の彼女になるためにッ!」


 はい。自惚れー。


「撤収、撤収ー」


「……何言ってんの?」


 僕の発言を聞いていた()()()()がキレ気味に声をかける。やべ、声に出てた。

 まあ? 別に? 告白されても、僕は今誰かと付き合うつもりなんて考えてないからショックなんて全然受けてないけどね?


「撤収って。ここまで来て逃がすわけないじゃない」


「あ、あはは。逃げるわけないじゃないですかぁ? ただ、茈電さん? が僕にどんなご用件があって、お声をかけていただいたのかと存じましてぇ?」


「……なんで敬語?」


 その眼力から放たれる殺気に怖気づいて、とは口が裂けても言えぬ。こんな人を睨み殺せそうな目つきをした人を前にして。


「逃げないでよね! こっちだって、本当に来るとは思ってなかったけど……一応、来たときの交渉用にって用意してたものもあるもん!」


「交渉?」


 そう言って彼女は自慢げに写真を数枚取り出し、僕に手渡してきた。なんだろう? ってこれは!


「ごはあぁッ!?」


 衝撃のあまり吐血した! そこに写っていたのは紛れもない、僕がセーラー服を着せられている写真ッ! それもご丁寧にアンダーのところからッ! こんなものが校内に出回ってしまったら、漫研部(ハイエナ)どもの餌食になることは避けられない。何より僕の今後の人生に関わる!


「私の恋、手伝ってくれる?」


 そんな潤んだ眼差しを向けられてるけど、僕の目にはハッキリと君の背後に卑しい笑みをした赤い悪魔が映ってるよ。


「真宵君って僕と同じメディア部の、だよね? だとしたら別にこんな回りくどいやり方しないで、普通に声をかけてもらえば良かったのに」


 こんな悪趣味な写真を盾にお願いされなくても、僕たち部員に頼めば協力すると思うんだけどな。色恋沙汰なんてゴシップネタでしかないから。


「そんなことも分からないわけ!?」


「分かるワケないだろ」なんて言葉をあの写真を握りしめた彼女の前では、口が裂けても言えぬ。ホントに。

 

「なんで私がわざわざこんな呼び出し方したと思ってるの? こうでもしないと、蒼といつも一緒にいるあの二人が勘違いして絶対邪魔するに決まってるからよ!」


「あー。だから脅迫状テイストにしたと?」


「そうよ!」


「…………でも写真使って脅してるから、脅迫状に変わりなくない?」


「なんか文句あるの?」


「ナイデス」


 それにしても、有紀と清水さんと僕の関係性も把握されているのか。……といっても校内に僕がラブコメの主人公(カス)ってことは広められているんだから、わざわざ調べる必要もないか。


「脅迫状っぽくなっちゃったのは仕方ないでしょ。スタンダードな手紙出して、蒼を経由してあの二人にこのことが知れたら、勘違いして邪魔してくると思うし?」


「それは否定できない」


 あの二人が邪魔するだって? ぐうの音も出ないね!

 有紀だったらきっと、「こんなカスと二人でいたら何されるか分かったもんじゃないでしょ? あたしも付いて行くから」とか言いだすだろうし。

 清水さんはおそらく、「あら、二人きりなんて危険が危ないから私も付いて行くわ? 大丈夫よ。私、漢検2級持ってるから」とか言って場を搔き乱すだろうな。


「行動力の化身みたいな人たちだからね……」


「アンタも大変なのね……」


 こんなことで同情を得たくはないけど、二人に振り回される僕の身にもなってほしいよ。


「それで、どうして僕が君の恋の手伝いをすることに? メディア部の女子部員に頼んでもよかったんじゃ? 同性の方が話しやすそうだし」


「ダメなの! 好きな人の周りに異性を近づけさせたくないもん!」


「え~? そんな無茶な……」


 男女共学校なんだから、日常生活において女子と関わることなんて必然じゃん。


「同じ女性の方が恋心とかそういうの? 分かる気がすると思うけど……僕が今どんな扱い受けてるか知ってるでしょ? ラブコメの主人公(カス)だよ?」


「そこは期待してないから大丈夫」


 まくし立てるように早口で言ったな? 傷ついたぞ。


「男の僕に出来ることなんて大して無いと思うけど……」


 僕に出来ることといったら、せいぜい真宵君への橋渡し役になることぐらいだろう。全面的な恋愛サポートは難しいと思う。


「蒼にはわたしと一緒に寛太君と遊びに行く約束を取り付けてもらいたいの!」


 なるほど。茈電さんは僕を介して、真宵君とデートへ行きたいということか。ラブコメの友人ポジションでよくある『三人で出掛けてる最中に友人Aがいつの間にかいなくなって、主人公とヒロインが二人きりでデートすることになっちゃった!』作戦ってことだね!

 正直、部活以外の普段の学校生活ではあまり彼と話す仲ではないんだけど、それくらいのお願いなんだったら僕にも簡単にサポートは出来るかな。


「うん。まあ、そんな簡単なお願いなら引き受けても良いか――」


「――そう、わたしと()()()()蒼と寛太君の三人でね」


 彼女が何を言っているのか分からない件について。


「待って! なんで僕が女装することになってるの?! そしてあまつさえ二人のデートに同行だって!? 罰ゲームか!?」


「わたしがいきなり寛太君と二人でデートに行けるわけないでしょ!?」


「そこはまだ分かる! だから間に僕が入って、良い感じになったところで二人きりにすればいいんでしょ!」


「ちっがうわよ! 蒼は女装したまま、三人で一日過ごさないとダメなの!」


「何でだよ!? 僕が女装する意味ないだろ!? それに仲介役の男子が約束の当日に女装して来たら常軌を逸した変態にしか見られない!」


「そこは当日に別の予定が入って代役を呼んだってことにして変装すればいいでしょ!?」


「女装をしない選択肢は無いのかよ!?」


「女装しないとダメに決まってるでしょ!? 男子がいたら寛太君はずっと男子のそばに固定されて、わたしがアプローチしづらくなるもん!」


「女装した僕に興味が傾いたらどうするんだよ!?」


「そんときは真実を伝えなさいよ!」


「僕を社会的に殺す気か!?」


 女装した写真で脅されて、女装することになるってどんな奇妙な話だよ!


「はぁ……はぁ……とにかく! 蒼はわたしの()()()として三人で遊びに行くの!」


「なんでそんな歪んだ考えに至ったのさ!?」


「うるさいッ! これ以上の案なんて無いんだから! それに……」


 茈雷さんは、途端にしおらしく俯く。何か思い出したくない記憶でも掘り返されているのか、とても苦しそうな顔で震えながらぽつりと呟いた。


「……わたしには友達なんて」


 過去、もしくは現在進行形で何かあったんだろうか。複雑な事情がありそうだけど。

 今はそれよりこの状況を脱するために、断固として女装を拒否しなければッ!


「茈雷さん! 僕は女装なんてッ」


「――――写真」


「…………おん?」


「写真」


「……なんの話を」


「写真」


「あの~」


「写真」


「……はい。協力させていただきます」


 一言、一言、殺意を込めて吐かれた言葉に屈した僕には、首を縦に振る以外の選択肢は与えられていなかった。あんな僕の恥の集大成が集約されて煮詰まった写真を引き合いに出されては、それ以外の選択肢なんてあってないようなものだ。


「…………蒼」


「……はい」


「ありがとうっ! これから仲良くしてねっ!」


 先ほどまでの暗いトーンとは真逆に今度はハキハキとした明るい声で、立ち直った彼女は得意げに笑顔を見せる。感情の起伏が激しすぎるんよ。茈雷さんは。


「あ、仲良くといっても……わたし好きな人以外は名前で呼ばないって決めてるから、アンタのことは今後も『蒼』って呼ぶね」


 瞬間、冷ややかなトーンで諭す彼女の瞳は…………まさに猛獣そのものだった。


「……そうですか。よろしくお願いします。茈雷さん」


「……なんで敬語?」


 そんなこんなで、僕は半ば無理矢理、茈雷さんの恋路を手助けすることになってしまった。しかも女装を伴って。

 一難去ってまた一難とはこういうことを言うんだろうね。先が思いやられるよ。

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