今、何か隠さなかった?
放課後、いつもより早くメディア部での活動を終えた僕は昇降口のロッカーへと来ていた。外はまだ夕日が立ち上り始めたばかりで、オレンジ色の光が静かに校舎を照らしている。
夕差しに目を細めながら、僕は自分の靴が入ったロッカーを開けた。
「…………ん?」
本来なら外靴のシューズしか入っていないはずのそこに、白い便箋みたいなものがあった。
手紙?! スマートフォンが普及したこの時代に手紙ッ?! しかもこれは……今やこの時代では都市伝説並みの扱いとされる、ラブレターってやつ?!
異性や同性に告白されたことあれど、ほとんどはSNSでの連絡や特定の場所への呼び出しなどで、実際にラブレターなんてものは貰ったことがなかった。ちょっと嬉しくなる自分に気恥ずかしさを感じる。
「でもなー? 別に恋愛なんて興味ないしなー? それに今の僕には有紀と清水さんとのことがあるからなー?」
弾む声で独り言を呟きつつも、僕は周囲を見渡し人気がないかを確認した。
「でも? 最近はせっかく勇気を出してくれた人の気持ちを蔑ろにしないって反省したばかりだし? ちょっとここで確認してみるくらいいいよね?」
突然のイベントに照れながらも、いそいそとラブレターらしき手紙の中身を確認してみる。
そこに入っていたのは、雑誌や新聞の文字をツギハギして貼り付けたと思われる一枚の紙で、その内容は……。
『ズッとおマエを見てイタぞ。明日、午後16時30分ニ外ノ非常カイだん三カイニ来イ。話ガアる。ニゲラレルト思うナ』
「……ラブレターじゃ、なくね? 脅迫状かな? これ」
別に落ち込んでなんかないけど? 別にラブレターだと思ったら脅迫じみた内容の手紙が入ってて落ち込んだとかじゃないけど?
あれ? おかしいな? 手が震えるや。武者震いかしら?
「何してるの? 文春」
背後からの声に、僕は咄嗟に手紙を後ろへ隠し振り向く。
「おわっ! 有紀? こ、こんなところで奇遇だねっ」
「……奇遇もなにも、帰りなんだからこっち来るでしょ?」
びっくりしたぁ。まさか手紙の渡し主かと思ったけど、有紀で良かったぁ。
胸をなでおろす僕に有紀は目を細めて口を開く。
「今、何か隠さなかった?」
「そ、そそそそそそんなことないよっ! ほら!」
手紙を後ろのポケットに忍ばせ、僕は両手のひらを広げるポーズを見せる。
「…………怪しいなぁ?」
「ソンナコトナイデスヨ?」
「カタコトになってる時点で怪しさ100%なんだけど?」
「フルーツジュースの果汁100%だって実際には100%じゃないんだからさ! 僕の怪しさだって100%じゃないはずだよ?!」
「それはそうだけど……ってそれって何%かは怪しいってことじゃん! やっぱり、あたしに何か隠してる?」
「ㇲワァァァヲッ! OH有紀! 今のはおしゃまな僕の口が滑らした荒唐無稽な詭弁ってやつさ! HAHAHA!」
「何その話し方? 怪しさ120%まで跳ね上がったんだけど」
勘が鋭いッ。でも、ごめん。あんな脅迫文をおいそれと他人に見せるわけにはいかないんだっ。差出人が不明な以上、どんな人物かも分からないやつに、有紀まで狙われてしまったら危ないからねッ。決して脅迫状をラブレターと勘違いして、ウキウキしていたことを悟られたくないからではないよッ! 断じて!
有紀は疑いの眼差しを僕にぶつけ、後ろの方を覗き込むように体を左右へ揺らす。対する僕は潔白を証明するために、大振りに両手をバッバッと上げ下げしてみせた。
「ほら! 何もないって! 有紀の思い違いだよ!」
「ふーん?」
すると有紀はようやく納得したのか、優しく微笑み。
「文春? あたしは別に疑ってるわけじゃないの」
「そ、そうなの?」
「うん。ただ――」
そう笑って彼女は僕の両手を優しく握りしめた。
「ただ、正直に白状しないと折るよ。指」
「嘘つき! 疑ってるじゃん!」
いだっ! いだだだっ! 力入ってるって! 今まさに両手の指を折ろうとしてるって! ドメスティックバイオレンスは今時流行らないよ!
「あだだだだっ! な、なんもないって! 本当になんもないんだって!」
「ホントに? 挙動が怪しすぎんのよ、あんた」
「ちょっとしたジョークじゃないか!」
実力行使に出ても口を割ろうとしない僕に諦めたのか。有紀は力強く握っていた手をパッとほどいた。毎度思うけど、よくこの小さな体でこんな力出るよね。
「はぁっ。誤解招くような行動しないでよね」
「うぅ、は、はい。善処します」
「バカなことやってないで帰るわよ」
「……はい」
それにしてもこの手紙は一体なんなんだ? 僕に何の用事があってこんなことを。
謎の脅迫文に頭を悩ませつつも、僕は有紀と二人で昇降口を出て校門までの通路を歩く。
「ラブコメの主人公が何堂々と道の真ん中通ってんの? 脇を歩け、脇を。そして校門に一礼しろ」
「…………参拝?」
さっきの僕の行動が腑に落ちていないのか。有紀の当たりを強く感じた。というか、ここ最近の僕に対する有紀の言動ってちょっと厳しくない?
夕暮れに沈む景色を一望しながら、僕は明日、脅迫状に書いてあった文に従うべきなのか否かと頭を抱える。
ちょっと前まで何気ない日常を平穏に過ごせた、過去の自分を羨みつつも、僕たちは家路に向かって歩いて行った。




