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ラブコメのカスが送る!青春エンターテイメント!  作者: 久荘木ノコ
蒼文春はラブコメの主人公(カス)!
27/32

お前はラブコメの主人公(カス)だ

 僕を前に、彼女たちは口を閉じたままこくりと頷く。祈るような視線に互い目を合わせた。

 

「清水さん。僕に素直な気持ちを、ありのままの自分を見せてくれて、僕を好きになってくれてありがとう。清水さんのおかげで、僕は自分が今までしてきたことを反省することができた。前に進んで、きちんと相手と正面から向き合う覚悟を決めることができた。こんな僕が……変わることが出来たのは清水さんのおかげなんだ。本当にありがとう」

 

 清水さんと出会うことがなければ、僕は自分が最低なことをしていることに気付かないまま、この先も誰かを傷つけていただろう。そんな僕に変わる機会を与えてくれた彼女には、とても感謝している。

 

「有紀。僕に正直な想いを伝えてくれて、こんな僕のことを好きと言ってくれてありがとう。僕が今まで、陸上部で頑張って走り切ることができたのは、有紀の存在があったからなんだ。有紀がバレーボール部でいつも真剣に向き合う姿を見て、尊敬して、憧れて、だからこそ僕は自分自身を鼓舞することができた。僕は初めて、熱中出来るものを見つけたんだ」

 

 僕にとって、有紀の存在はなくてはならないものなんだ。だって彼女がいなければ、僕はいつまでも退屈な日々を送り続けていただろうから。それを打ち破るキッカケを作ってくれた有紀に、僕は一人の友人として尊敬の念を抱いている。

 

 二人とも僕には勿体ないくらいに、とても魅力的な女性たちだ。だからこそ今、僕が()()()()()言えることは決まっている。

 

「僕も二人のことが大好きだ。だから、僕は――」


「文春君……」


「文春……」

 

 大好きだからこそ、()()()()始めるんだ。

 

 彼女たちはそれぞれに、次の僕の言葉に備えて身構える。誰が『付き合う』のか。その言葉を聞くために。

 

 そして僕は()()に純粋な今の自分の気持ちを伝える。

 

「――――友達から再スタートを始めようと思うんだ」

 

 意を決して伝えた僕の覚悟が乗った想いは、彼女たちの心の中に響いて……。

 


「「は?」」

 


 響いたかと思ったけど、そうでもなさそうだった。殺気を感じる。とても鋭い殺気を。

 

「いや、いやいや……『友達から再スタート』って。は? 何言ってんの?」

 

「文春君。私も意味が分からないわ」

 

 先ほどまで真剣な眼差しを向けていた彼女たちは今、汚物でも見るかのような敵意むき出しの表情で僕に迫り来る。

 

 あれ? 僕結構悩んで、今の自分にとっての最適解に行き着いたと思ったんだけど。もしかして二人にとっては最適解じゃなかった感じ?

 

「あたしらって友達だよね?」

 

「うん。そうだよ」

 

「私もただの部活仲間ってわけじゃくて、友達よね?」

 

「うん。そうだよ」

 

 僕は二人の問いかけに頷きながら相槌(あいづち)を打つ。

 

「で? 友達から再スタートするの?」

 

「うん」

 

「なんで?」


「えっ」

 

 さっきから有紀が部活で強烈なサーブを狙う時の眼と同じものを僕にぶつけてくる。すごく怖い。

 

「いや、その、正直僕は今、二人のことを同じくらいに好き、で。その、今の自分にはそんな二人の中から誰か一人をなんて選べなくて……」

 

「文春君? 『前に進んで、きちんと相手と正面から向き合う覚悟を決めることができた』んじゃないのかしら?」

 

 さっき僕が言ったセリフを声真似で話す清水さんは、ずっと微笑んでいるように見えて目が笑っていない。

 

「そう! だから向き合った結果が『友達から再スタート』ってことで!」

 

「納得出来るワケねーだろ」

 

「ごめんなさい。さすがにこれは擁護(ようご)できないわ」

 

 なんてことだ! 僕は二人が今、納得いく形の答えを導き出せたと思ったんだけど!?

 

 尚、迫り来る彼女たちは次第にじわりじわりと僕を壁際まで追い込んでいく。そんな二人に太刀打ちできない僕はされるがままに、後ずさりするように引き下がることしか出来ない。じーざす。

 

 あ! そうか! そういえば()()()()を言ってなかった! そりゃ誤解するよね! 急いで伝えないと!

 

「ち、違うんだ! 『友達』という言葉には語弊があるんだよ!」

 

「ほう? 言い訳があると? 言ってみて?」

 

「ひとまず聞いてみようかしら?」

 

 よし! 二人とも動きを止めてくれた!

 僕は必死に二人をなだめ、恐怖でガチガチと震える口を動かす。

 

「ぼ、僕は二人と()()()()()()()()の関係で再スタートを切りたいんだッ!!」

 

 そう口に出した僕の言葉を訊いた彼女たちは、お互いに目を合わせてニッコリと微笑む。

 納得してくれたようで良かったッ。やっぱり学校生活はみんなで仲良く平和に送りたいよね!

 

「バカかオメーは。そんな戯言(ざれごと)で納得するワケないだろーが」

 

「一世一代の高校生活の告白イベントで、その返事はあまりにも傲慢(ごうまん)だわ。大罪よ」

 

 全くもって納得されていないご様子で。

 

「は――。あたしけっこー勇気を振り絞って気持ちを伝えたんだけどなぁ」

 

「ふ――。私も一度告白未遂をしているとはいえ、改めてありのままの自分をさらけ出して告白したのにねぇ」

 


「「このラブコメの主人公(カス)(君)はまったくもう」」


 

「ひどいよ! 僕が一生懸命に悩んで二人のために考えたのにッ!」

 

「ひどいのはどっちだよ。全然()()になってないから。独りよがりの自論だから」

 

「文春君、いけないわ。このままじゃ存在が顔だけの()()()キャラになってしまうわ。私は一向にかまわないのだけれど」

 

「あたしもそれはかまわない、というかなってほしい(願望)……なれ」

 

「総受けって何?! また、あの部長(堂島先輩)の入れ知恵?! やめてよッ! また漫研部によって僕の学校での存在が薄い本の悪影響を受けるでしょ!?」

 


「「受け以外の存在意義ある(のかしら)?」」

 


「人権問題について話し合おうか!?」

 

 昼休みはけん制し合っていた二人が今、僕の返事を機に結託している。

 

 そして背中が壁と密着するくらいに追い詰められてもう逃げ場がないッ。

 

「文春? あたしさ、明日の練習でサーブを重点的にやるんだけど。(まと)、なれるよね?」

 

 当てる気だ。僕の股間にボールを当てる気だッ。

 

「文春君? 私実は趣味で同人誌を描いているのだけれど。明後日の放課後に一緒に漫研部に来れるわよね?」

 

 描く気だ。僕をネタにした薄い本を描く気だッ。

 

「ふっ、二人ともぉ、い、一旦冷静になろうよッ。ね?」

 

「あたしは十分に冷静だよ? もう文春しか見れないくらいに」

 

「私も冷静よ? 文春君以外は目に入らないわ」


「普通なら情熱的なはずのセリフが今は怖いよ!」

 

 二人とも満面の笑みなのに目が笑っていないんだよ。怖いんだよ。

 僕の顔がどんどん青ざめていく中、屋上の物陰から誰かの気配がした。

 

「よくやったな、フミ。お前はラブコメの主人公(カス)だ」

 

 流星が憐みの込もった眼差しで二人の女子に詰められる僕を覗いてきた。

 

「流星?! 何でこんなとこに!?」

 

「有紀に見守りとフォローを頼まれてた。けど、その必要もなくなったので出てきたんだわ」

 

 有紀が流星に頼んだの?! てことは一部始終をずっと物陰から見ていたってこと!? 何か恥ずかしいッ。

 

「ごめんね、流星。こいつやっぱ主人公(カス)だったわ」

 

「知ってたぜ。フミは根っからの顔だけの主人公(カス)だってこと」

 

「カスカスうるさいよッ!」

 

 でも顔だけでも良く生まれてきてよかった。じゃなくてッ、この状況をどうにかせねば!

 

「とりあえずどうする? 清水さん、こいつ流星に掘らせる?」

 

「掘るってなんだ? 俺が地面を掘って埋めればいいのか?」

 

「違うわ北斗君。掘るのはそっちじゃないわ。穴よ」

 

「穴?」

 

 女子二人の会話に噛み合わない流星は、ひとりでに疑問を浮かべた表情で「地面以外に掘るものってあるっけ?」と頭を悩ませている。

 

 違うんだ流星。そのまま思い出さなくていいけど。二人が言ってることは、流星が記憶障害を起こす発端(ほったん)となったことなんだ。思い出さなくていいけど。

 

「そういえば、天野さん。掘るのもいいけど、今日は私、都合よくセーラー服を持ち歩いていたのよ。これを着せちゃおうかしら?」

 

「ちょっと待って清水さん! 何で君はセーラー服を常備して持ち歩いてるのかな?! うちの高校はブレザー制服じゃないか!」

 

「あっ、いいね! そしたら文春の身包(みぐる)み剥いじゃおうかッ!」

 

「賛成ね」

 

「女子高生が身包み剥ぐとか言うなよ?!」

 

 有紀が僕を羽交(はが)い絞めにして、清水さんが僕の制服を脱がせようとしてくる。それに対して僕は必死に抵抗を続けるのだが、さすがは現役運動部ッ! 男の中でも小さい方の僕よりもさらに身長が低い小柄な体格の癖して、無駄に力が強いじゃないかッ。

 

「流星、助けてッ! 僕お婿に行けなくなっちゃうッ!」

 

「自業自得だ。大バカヤローが」

 

 流星の呆れた声を最後に、僕の抵抗も(むな)しく、荒れ狂う二人の女子によって、あられもない姿を写真に収められるのであった。

 ……僕だって勇気を振り絞ったというのに。

 

 恥辱と羞恥心で薄れゆく意識の中、ふと僕の瞳に映った夏の空は真っ赤な色模様へと変わっていった。

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