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ラブコメのカスが送る!青春エンターテイメント!  作者: 久荘木ノコ
蒼文春はラブコメの主人公(カス)!
26/32

僕も正直に自分の想いを伝えるんだ

 そして放課後。時間は17時。運命の時がやってきた。


 雲一つない空には、辺り一面グラデーションの濃いオレンジ色の光が地平線から上へ上へと伸びている。夏を感じさせる暖かい風が、屋上の扉を開いた僕の髪をなびくように横をそよぐ。

 

 僕の眼前には、二人の女子が夕差しの射す方から歩み寄ってくる姿が見える。二人とも真っ直ぐな瞳で真剣に、僕の瞳と視線を逸らさず、恐れなど知らない顔つきでこちらへ一歩ずつ足を運ぶ。

 

 僕もそれに同じく、自分の中に(くすぶ)る緊張の糸をピンと伸ばすように姿勢を正して、彼女たちへと向き合った。

 

「文春。今日なんでここに呼ばれたかは分かるよね?」

 

 最初に口を開いたのは有紀の方だった。

 

「うん。分かってるよ。だから僕は二人に対して、今日この場できちんと、僕自身の素直な想いを答えようと思う」

 

「……そう」

 

 彼女が見せる表情はいつもの少年のような無邪気な笑みでなく、物腰柔らかな大人の女性のような微笑みだ。しかし、ほのかに頬が夕日に照らされて茜色に染まっていくさまは、恋する少女のそれを彷彿(ほうふつ)とさせていた。

 

「文春君。私も()()()の約束どおり。今日はありのままの自分で、あなたに想いを伝えて。そしてあなたの想いも聞き入れるわ」

 

 有紀の隣ですらりと立ち構える清水さんは凛とした面持ちで、教室や部活の時に見せていた天真爛漫な(演じていた)女の子の姿はそこになかった。これが彼女の本来の()()()()なんだろうということがうかがえるさまだ。

 そしてその姿はすでに有紀にも見せていたのだろうか。隣で普段と違う表情、声音で話す彼女を前にしても有紀は動揺することなく立ち尽くしていた。


「あたしたちは二人とも、文春が出す答えに恨みっこなし、文句なし、どちらが選ばれても良いように覚悟は決めて来てるよ」


「もちろん承知の上で僕もここに来たよ。二人への返事はもう決まっているからね」

 

 拳を強く握りしめる。今日ここで僕は二人に自分の導き出した答えを言うんだ。


「……まずは私からね」

 

 そう言って清水さんは前へと出る。

 

 いつもの明るい彼女と違いクールな雰囲気を漂わせているが……ハツラツとした自信に満ち溢れた表情をする姿は、僕がこれまでによく見た清水さんそのものの姿だ。

 

「単刀直入に言うわ。私は文春君に一目惚れしたの。あなたは覚えてないでしょうが……アパレルショップの前であなたにぶつかった時から、あなたの顔が私の頭の中に強く印象に残ったことを覚えているわ」


「アパレルショップの前?」


「そうよ。ちょうどこの学校に転入する前の週末だったかしら」

 

 それって、有紀のお会計を待っていた時にぶつかってきた――サングラスを掛けた女性は清水さんだったのか!

 転校してきた時は明るいキャラだったし、そもそもサングラスとマスクで顔がよく見えなかったから気付かなかったよ。

 

「あの時の女性は清水さんだったの!? ご、ごめん。全然気付かなかったよ」

 

「気付かないのは無理もないわ。謝らなくて大丈夫よ。あのときは顔を隠していたし、私はすぐサイン会のために無我夢中で全力で走って行ったんだもの」

 

「……え? 二人ってどこかで会ってたの?」


「うん。前に週末、二人で一緒に出掛けたでしょ?」


「えぇ!? あのとき!?」

 

 有紀も驚いたように口を挟んだ。

 

「あのとき清水さんと会ってたのね……って、え? どこで? ずっとあたしと一緒にいたでしょ?」

 

「有紀が買う服を決めてお会計してるときだよ。ほら、『インパクトが強い人』がいたって話ししたじゃん」


「私、インパクト強かったかしら?」


「だいぶ」

 

「ってか女の子とデートしてるときに、他の女と会ってるなんてサイテー」

 

「偶然のことだったんだからしょーがないでしょ!」

 

 有紀と会話を広げている中、清水さんはずいッと僕に迫ってくる。

 

「それよりも! 私は文春君がどんな服を買ったのか気になるわ。個人的にはプリーツスカートなんて似合うと思うのだけれど」

 

「たしかに」

 

「いや、その前に僕、男だから。服も買ってないし」

 

「絶対似合うと思うのに…………それなら、今度一緒に買いに行きましょう? 安心して。スカートの代金は私が奢るわ」


「行かないよ!? そもそもスカート買うの奢ってもらっても嬉しくないからね!? 僕は男なんだから!」


「スカートに似合うトップス持ってなさそうだもんね? それじゃ、あたしはこの前見てたやつからどれか好きな方奢るよ」


「そういう問題じゃない! 僕はフツーにメンズの服しか着ないから!」


「あんたの着てる私服、ほとんどレディースもんじゃない?」


「私も遊園地のときに思ったけど、レディースもんだわ」


「捨ててやるッ!」

 

「せっかくかわいいのにもったいない」と戯言を吐く二人をよそに、僕はさっきまでの緊張が緩んだのか、深いため息が出た。

 

 有紀はいつもの調子なんだけど……なんだか素の清水さんは今までの態度と緩急があって、話していて少し調子が狂うよ。

 清水さんは「はッ。こんなこと言ってる場合じゃないわ」と我に返ると、改まった表情で再び僕に向き直った。

 

「ごめんなさい。話しが逸れたわ」

 

「すごい逸れ逸れだったよ。別に大丈夫だけどさ」

 

「ふふっ」と彼女は笑い口を開く。

 

「ねえ、文春君。遊園地へ一緒に行って観覧車に乗ったときのこと、覚えてるわよね? 私があなたに『素直なありのままの自分で真剣に向き合って告白する』って言ったあの言葉を」

 

「……うん。もちろん覚えてるよ。だから僕は今日……こんな僕のために、素直な想いを伝えてくれた清水さんに正面から向き合いたくて、覚悟を決めてここへ来たんだ」

 

「ふふっ。私のことを真剣に考えてくれているのね? とっても嬉しいわ」


「君の言葉に動かされたんだよ。それに、ありのままの自分を見せてくれる清水さんの想いを、僕は蔑ろになんてしたくなかったから」

 

 心の底から嬉しそうに清水さんは微笑む。そんな彼女の見せる表情に胸が締め付けられた。

 改めて思うよ。この子は本当に心が真っ直ぐで、綺麗で、とても可愛らしい女の子なんだと。

 

「私はこうして文春君の前でありのままの素の自分でいるのだけれど。今、その姿を目の当たりにした感想はどうかしら?」

 

 彼女は上目遣いで近付き、僕のことをジッと見つめた。

 

「とても素敵な女性だと思うよ。僕には勿体ないくらいに」


「――――ッ」

 

 僕の言葉に、彼女は歓迎の笑みで満足そうに顔をほこぼらせる。そして。

 

「好きよ。文春君。今までの人生の中で一番に、私はあなたのことが大好きだわ。あなたの傍にずっと寄り添っていたいくらいに」

 

 彼女の真っ直ぐな瞳に釘付けとなる僕は、息をすることすら忘れていた。

 

「――私と付き合ってください」

 

「でも――」と言葉を綴る。清水さんは僕に背を向けると、有紀へ視線を送り。

 

「答えは天野さんの後で、ね」

 

 そう言い残して、有紀の後ろへと引き下がって行った。

 

 そうだ。僕は今日、二人から告白をされるんだ。答えを告げるのは二人の言葉を聞いてからだ。

 僕は心を落ち着かせるために胸を撫で下ろした。


「天野さん?」


「うん……次はあたしの番だね」

 

 有紀が僕の前に立ち口を開く。彼女も緊張しているのか、少し潤んだ瞳がまるで祈るようにと僕へ向いた。

 

「…………文春は薄々感じていたと思うけどさ。あたしね、中学三年最後の陸上の大会で、文春たちを応援していたときから――ずっと文春のことが好きだったんだよ」

 

 震えた声で彼女は言葉を紡いでいく。

 

「それまで部活なんて何もやる気のなかった文春がさ。急に陸上部に入部した時はびっくりしたけど。あたし、ちょっと嬉しかったんだっ。文春もあたしと同じように、競技は違くても、一緒に夢中になれるものを見つけられたんだって思ってさ」

 

「たしかに急だったよね? 流星もびっくりしてたよ」


「最初に流星が誘ったときは断ってたもんね」


「そのときは……ね」

 

 でも、それは有紀のおかげなんだよ。有紀が僕に夢中になれるものを教えてくれたんだよ。

 

「練習もさ、流星と遅くまで残って一生懸命にやっていたことも知ってるんだよ? やり過ぎて顧問の先生に怒られたことも。あたしもそんな文春の姿を見ていたらさ『負けてられないな』って、バレーボールにさらに熱中することができたんだ!」

 

「そんなこともあったよね」

 

 懐かしいな。顧問の先生には「休むことも練習!」とか言われて、流星と一緒によく説教されていたっけ。

 

 有紀は当時のことをはにかみながら微笑ましく話す。

 

「三人でよく競争しながら登下校した時もあったよね? それまではあたし、幼馴染として……友人の一人として、文春のことを応援してたんだけどさ」

 

 少し間をおいて、彼女は切ない表情を浮かべた。

 

「最後の大会で、文春が相手に僅差で負けちゃったときさ。これまで見たこともないくらいに文春が悔しがって、泣いてたでしょ…………」

 

「……そうだね。あのときは本当に悔しかったよ。みんなには恥ずかしいとこ見せちゃったけど」

 

 中学最後の大会。その時、僕は短距離走の種目で全国常連の選手も並んだ強豪たる面々と、人生で最後の公式戦を迎えた。

 

 僕が陸上部に入部したのは、バレーボールに真摯に向き合う有紀に惹かれた中学二年の夏の頃だ。ちょうど今日みたいな雲一つない晴れの日から、今まで興味のなかった陸上という競技に僕はのめり込んだ。

 欲を言えば、本当は有紀と同じバレーボールをしたかったんだけどね。

 

 僕は自分の中に抱え込んだ高ぶる気持ちを、全身全霊で()()ことで、今までの退屈な人生を変えるように部活動へとぶつけてきたんだ。

 でも、それじゃ遅すぎたんだ。他の人たちは僕よりもずっと前から血の(にじ)むような努力をしてきた人たちばかりだ。もちろん、僕も彼らに追い付こうと必死に足掻いて練習をした。それでも届かなった。

 あの日負けて流した涙は、僕にとっては最後の悔し涙だったと思う。あれ以来から僕は、陸上に対する熱が冷めてしまったのだから。

 

「――恥ずかしくなんてないよッ!」

 

 有紀は僕の言葉を否定するように声を荒げた。

 

「恥ずかしくなんてないッ。あたしや流星、他の部員の人たちも文春がすごく陸上を頑張っていたことは知ってたし! 知ってたからこそ、文春が涙を流した瞬間、あたしはその光景を見るのが苦しくてッ、ただ遠くから声も掛けることが出来ないで見守ることしかできない自分にムカついてッ――」

 

 苦しそうに言葉を絞り出す有紀は頬に涙をつたらせ、真っ直ぐと僕の顔を見上げる。

 

「でも、そんな時に文春はさ、自分が一番辛いはずなのに。自分が一番泣きたいはずなのに。応援に来ていたあたしのところまで来て『僕は平気だよ。ありがとう』って言ってくれたでしょ?」

 

 あぁ、そうだ。その時僕は応援に来てくれていた有紀のことを思い出して、『こんな時彼女だったら泣かずにきっと周りの人たちの心配をして、そばに寄り添うはずだ』と……そう思って、泣いている有紀のもとへと走って行ったんだ。

 僕なんかのために泣いてくれた、彼女を安心させたかったから。

 

「そのときね、あたし分かったんだ。文春のことを想って泣いちゃうくらいに、あたしはどうしようもないほどに――文春のことが大好きなんだって!」

 

 心臓の鼓動が早くなる。握りしめた拳に汗が滲む。体中が高揚する。

 

「――あたしはあなたのことが大好きです。ずっとず――っと、この気持ちを抑えられないくらいに、文春が大好き。だから……あたしと付き合ってください」

 

 そう(つづ)る有紀の顔は、涙で目を腫らしながらも……バレーボールの試合で熱中している時と同じ、あの勝ち気な笑みを浮かべていた。


「…………有紀」


 二人の想いを胸に、僕は自分の出した答えを告げなくてはならない。

 有紀と清水さんが僕の前へと並ぶ。二人とも真剣な表情で僕の返事を待っているんだ。

 

 お互いどういう結果になったとしても恨みっこなしだと、そんな心意気の混ざった心情が空気を伝染して僕にも伝わってくる。……男だろ。僕は。

 

 息を大きく吸い込み、僕は二人へ告げるんだ。嘘偽りのない気持ちを。

 

「……二人ともありがとう。清水さん。有紀。二人の想いはしっかり受け止めたよ。だから、今度は僕が――自分自身の想いを伝えるね」


 二人がそうしてくれたみたいに、僕も正直に自分の想いを伝えるんだ。

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