あなたのその表情を見て確信したわ feat六花
夕立昇る放課後。校内はいつにも増して静けさを帯びた雰囲気で、茜色の光が濃く校舎を照り付けていた。夏の始まりを告げる暖かい風が屋上まで吹き抜けている。
今朝、有紀に屋上まで来るようにと告げられた六花は、彼女が自分に何を言いたいか理解した上で、階段を一段一段踏みしめて、夕差しに導かれるように前へと進む。
なぜこのタイミングで私を呼び出したのかしら。私が文春君へ先走って、告白まがいのことをしたというのをどこかで知った?
でもあの現場には文春君を除いて、瑠璃川さんしかいなかったはず。あの子が周りに言いふらすようなことをするだなんて考えつかないわ。それに観覧車の中でした告白(未遂)については、私と文春君の二人だけしか知らないはず。彼も周りにそのことを言いふらすとは思えない。
「女の勘、というやつかしらね」
六花は週末からすぐのタイミングで有紀に呼び出しを受けたことに驚きつつも、自分の信念は揺るぎがなく、同じ相手を好きになった人間として、彼女にも素の自分自身をさらけ出すかを迷っていた。
おそらく天野さんは私に対して『告白すること』を宣言しようとしているのだわ。少女漫画で読んだから、こういう展開も織り込み済みだわ。だったら尚更、私は彼女に対しても素の自分を見せるのが筋ってものだと思うの。でも。
六花が有紀に素の自分を見せるか迷う理由、それは彼女がどれほどの覚悟で告白に臨もうとしているのか、その一点であった。
正直、今までの天野さんの言動を見た感じだと、積極的に文春君にアプローチをしているような雰囲気ではなかった。むしろ一線を引いて、関係を壊さないように臆病にしているイメージだったわ。
彼女がそんな態度をまだ見せるようなら、私の敵ではないわね。
「といっても、それこれも――」
六花が屋上へと続く扉を開けると、そこには覚悟を決めたように真剣な眼差しで、真っ直ぐに自分を見据える有紀が待っていた。
「――あなたのその表情を見て確信したわ」
私は幼馴染なんかに負けないわよ。
「来てくれてありがとう。清水さん」
「いいえ。話したいことは分かっているわ。天野さん」
二人は互いに認め合い、静かに笑みを浮かべた。ぶつかり合う目線の先で、窓ガラスに反射した夕日が火花のように飛び散る。
「……やっぱり清水さんはキャラ作っていたんだね?」
「気付いてたのね? 他の学校でも、ほとんど気付かれたことなんてなかったのに」
「今時、あんな漫画みたいな天真爛漫な転校生キャラなんて違和感しか感じないよ?」
え? お兄ちゃんはあのキャラで大丈夫って言ってくれたのに。
「フッ。高飛車お嬢様キャラくらいの方がよかったかしら?」
「それはもっとありえない」
そうなると、あとはドジっ子転校生キャラしかないわね。どうしようかしら。
「はあー。なんか気が抜けてきた。正直、あたしはいつもの明るいキャラよりも、今の清水さんみたいなクール系? の方が接しやすいけどね」
「同感よ。私もいつものポンコツ先走り幼馴染キャラよりも、今の天野さんみたいな戦いに燃えるスポーツ系女子の方が話しやすいわ」
「あたしはキャラ作ってないんだけど!?」
序盤は負け幼馴染みたいなムーブかましてたのに、意外と漢気あるのね。見直したわ。
「なんか今、失礼なこと考えてなかった?」
「そんなことないわよ。ただ負けヒロインムーブが漢気を見せてきたことに感心していたのよ」
「まだ負けてないわッ!」
有紀は普段と真逆のリアクションを見せる六花に半ば呆れつつも、本命の話しへと切り替える。
「いつまで経っても話しが進まないから単刀直入に言うよ。……あたしは文春のことを――一人の異性として本気で好きだよ。清水さんは?」
少し震えた声で語気を強めて話す有紀に対して、六花も同じように力強く答える。
「私も文春君のことを異性として本気で好きよ。毎晩ベッドを濡らすくらいにね」
「最後のいる?」
「あ、もちろん安心して。ベッドを濡らすのはまだ私一人よ」
「そこ心配してないから」
「あら、そうなの?」
「……なんかもうペース狂わされる。ていうか、清水さんって結構さ、あの、言動がアホッぽいんだね?」
私がアホですって。心外ね。キャラ作りでアホの子になることはあっても、素の私自身はこんなにクールビューティーな真面目キャラだというのに。
「私は至って真面目な人間よ? 真面目に毎晩ベッドを――」
「だー! 話が逸れる!」
有紀は話しが進まないことに苛立ちを覚えつつ、再び六花へと向き直り言葉を続けた。対する彼女は、そんな有紀を前に余裕の表情を浮かべる。これこそが有紀が苛立つ原因ともいえよう。
「とにかく! あたしは文春が好きだから告白するの! だから――」
少し言いよどんだ有紀は、覚悟を決めて口を大きく開いた。
「――清水さんもあたしと同じ時間、同じ場所で文春と告白しよう! そして、どっちが選ばれても恨みっこなし! 文句なし! これを提案したかったの!」
彼女の声が屋上で静かにこだましていく。六花はその言葉を聞き、勝ち気な表情で笑顔を見せた。
「いいわねッ。その提案乗ったわ! 正直、私も自分一人で告白するよりも、彼に思いを寄せている幼馴染のあなたと、一緒に告白した方が良いと思ってたのよ」
周りの目を気にする文春君だからこそ、この提案は受け入れるに他ならないわ!
『どっちが振られても恨みっこなし』という名目のもと同じ時間、同じ場所で両者から告白が行われるんですもの。
私と天野さんがいかなる結果に対しても互いに和解する姿勢を見せ、彼が最も壊したくない関係に含まれるであろう、彼女の隣で告白することによって、私は自分自身の勝率を底上げするッ。
互いに別の日に告白をして、変にそれぞれ時間を置かれて考えこまれるよりも遥かにこっちの方がいいわッ!
おそらく、天野さんも私と同じ考えのはず。
「い、勢いでこんなこと言っちゃったけど、あたし大丈夫かな?」
ポツリと呟く有紀をよそに六花は思った。
天野さんってやっぱりバカなのね。応援したくなるわ。この場のテンションだけで、こんな提案を思い切って出来るその胆力には感服するけど、そこから先は一切考えていなかったのね。
そうやってパニくって判断力鈍らせて暴走するから、負け幼馴染感が出てるんだわ。……ああはなるまい。
「天野さん? 告白の日時はどうするの?」
「――ん。それならもう決めてるよ。明日のこの時間に、この屋上で告白するよ」
「急ね」
ホントに何も考えてないわね。大丈夫かしらこの子。
「そうと決まれば、今から二人で文春にメッセージを送るけど。準備はいい?」
背に腹は代えられないわ。告白未遂をやらかした以上、私も長い期間を空けて本命の告白に挑むのは避けたいものね。
「……ええ。問題ないわ」
二人はそれぞれスマホでメッセージ文を打ち合うと、送信ボタンへと指を掛ける。ここまで来たらもう後戻りは出来ない。言いようのない緊張が二人にじわじわと迫る。
「そ、それじゃあ、いくよ? せーのっ」
同時にメッセージを送信した二人は、自身の肩にのしかかる不安と緊張に押しつぶされそうにとなりながらも、燦然と光り輝く夕日を背に互いを見据えていた。
二人にとっての決戦はついに明日へと迫りくる。
彼女たちの負けられない戦いが今、火ぶたを切るのであった。そして、二人が送ったメッセージの通知は文春のスマホへと届く。
『明日、あたしと清水さんの二人から文春に話しがあるから、17時までに屋上へ一人で来て!』
『明日、天野さんと一緒に、文春君にお話ししたいことがあるので17時までに屋上へ来てほしいわ』




