ちなみにそれはラブの方ですかっ?
飲食コーナーが立ち並ぶ場所へ来た僕たちは、カフェレストランへと歩みを進めていた。お昼時ということもあり、並ぶほどではないにしろ、どのお店も大勢の人で溢れかえっていた。
レストランへ入店すると、スッとキッチンの奥から歩いてきた店員さんに「いらっしゃいませ。3名様ですね? こちら奥のテーブルにご案内します」とスムーズに先導されて席へ移動した。
店内は子供連れの家族やカップルが多く、どこのテーブル席を見渡しても賑やかな様子がうかがえる。
日当たりの良い窓際のテーブルに案内されると、清水さんと瑠璃川さんが隣同士、その向かい側の席が僕といった配置で座る。
僕は自然に中央へ配置されたメニュー表を手に取り、二人がよく見える形になるよう開いてみせた。
「はい! ここで文春君はデートだったら、どれを選ぶのが正解かわかるかな!?」
「えっ! いきなりどうしたの?」
「いいからいいから! メニューから選んでみて!」
清水さんは僕からメニュー表を取り上げると、瑠璃川さんと肩を並べてスイーツがメインのページを開き、それを二人で指差す。
僕は一番上に大きく載っている看板商品の写真へと目を配る。そこにはストロー型のクッキーが2つ刺さったパフェの画像が大きく載っていた。いかにもカップルが注文しそうな見た目をしている。これは答えが出てるようなものじゃないか。
「えーっと……デートなら『スペシャルストロベリーWチョコレートマウンテンパフェ』……かな?」
こういうスイーツって長い名前のものが多いよね。『特盛イチゴチョコパフェ』とかじゃダメなのかな?
「正解! よくできました! さすが文春君! ――じゃあこれ注文しようか」
「ちょっと待って清水さん! 僕たちジュースを飲みに来たたけでは!?」
価値観の違いというやつだろうか。僕は彼女の『そうだけど?』とでも言いたげな瞳に動揺を隠しきれない。
しかもこのパフェ、カップルとか複数人で食べることを想定しているから写真で見た感じでもデカい!
「え? パフェは飲み物でしょ? それにお腹空いてたし」
「『カレーは飲み物』って言ってるようなもんだよ、それ!」
しかも自分一人で食べるらしい。え? 女の子にとって、パフェは飲み物なの!? まさか瑠璃川さんも!?
「瑠璃川さんもパフェは食べ物だと思うよね?」
「ストローが刺さってるので飲み物だと思いますよ?」
「僕の感覚がおかしいの?」
それはストローの形をしたクッキーなだけであって、普通パフェは飲み物に含まれないと思うよ。
「二人は何を頼むの? パフェ?」
「そのパフェ人数分頼んだら、僕ら大食い系の集団だと思われるよ」
「私はあまりお腹が空いていないので、ルイボスティーをアイスで頼もうと思いますっ」
「僕はアイスコーヒーにしようかな? ミルク多めで」
「私はレモネードソーダで!」
「清水さん、よくそんなに胃袋に入るね?」
パフェは飲み物じゃなかったのかい? 結局、別で飲み物も頼むのね。
清水さんはメニュー表を自分の手元へ戻すと、店員さんを呼んで皆の分まで注文をしてくれた。
「ドリンクは先にお持ちしましょうか?」
「はい、お願いします。あと、お水を1つもらえますか?」
僕がそう伝えると「かしこまりました! すぐにお持ちしますね!」と言って店員さんは一旦下がっていった。
「お水? 文春君、アイスコーヒー頼んだじゃん?」
「これは清水さんの分だよ。あのパフェにレモンソーダ一杯だけじゃ、また喉乾いちゃうでしょ?」
正直、レモンソーダって後半逆に喉が渇いてくるし、水を飲まないとキツイと思う。
「文春君って気が利くよね!」
「飲み物だけならいらないかなと思ったけど、清水さんがパフェも頼んでるからね。写真で見た感じ、あの大きさだとお水もあった方がよくない?」
「見てるだけでおなかが膨れちゃいそうですよねっ」
瑠璃川さんの言葉に呼応するように僕は頷く。
「かわいくて気も利くなんて女子力高いよね! 文春君のこともっと好きになっちゃうよ!」
「気のせいかな? その『好き』ってセリフ、僕には女友達へ言うトーンのセリフに聞こえるんだけど?」
「女の子的にポイント高いですよねっ!」
「……ほんと嬉しくないよ」
それは女の子としてのポイントが高いという意味だろうか? 別に異性として『好き』と言われたいわけではないけど、だからといって女友達扱いされて喜ぶわけでもないんだよ。
そんな話をしていると、店員さんが注文した飲み物とお水をテーブルまで運んできてくれた。僕はそれを受け取ると、いつの間にか来ていたおしぼりで手を拭く。
そして、いよいよ巨大パフェが来るとのことで、二人がスマホを取り出してカメラモードにすると、テーブルの中央に置きながら準備万端の構えをとっていた。
僕はそんな二人を見ながらアイスコーヒーを一口飲み、清水さんと瑠璃川さんの飲み物へと視線を移す。
二人とも喉乾いてないのかな? それとも写真を撮り終えるまで口をつけてはいけない、なんて暗黙の了解でもあるのかな?
「文春君もちゃんと写真撮らなきゃダメだよ!」
「そうですよっ。思い出をお互い写真に残さないと共有できないんですからっ」
「えー。別に誰かが写真撮ってるなら、みんなで撮る必要なんてないと思うけど?」
「みんなが同じ撮り方になるわけじゃないんですからっ。それぞれ違った写真を共有してこその思い出作りなんですっ」
「そうだそうだ! 瑠璃川さんの言うとおりだっ!」
「よく分からないけど……二人がそこまで言うなら僕も撮るかぁ」
デートではこれが基本なのかな? 男女の価値観の違いってやつなのか。はたまた僕がただインドアでこういうイベントを経験してこなかったゆえなのか。世の中のカップルの認識にはついていけないとこがあるよね。
流れるように、続けて店員さんが運んできたパフェをテーブルに配置すると、「ごゆっくりお楽しみくださいね!」とまるで仲睦まじい女子グループに対して微笑むように会釈をして僕らの席を後にした。
そうだよね。他人から見たら単なる女子会の光景だよね。そのパフェを一人で食べようとする女子がいるとは思わないよね。
それと店員さんが下がったさっきキッチンの奥から、「あそこの3人女子グループ顔面偏差値高くて眼福なんだけど!?」とか聞こえてきたけど。僕が女子じゃなくて男子だということは夢にも思わないだろうな。
「これ……結構大きいよね? 本当に食べきれるの?」
「食べるよ! 当然でしょ!」
「三人でなら大丈夫かもですね?」
「え!? 瑠璃川さんも食べるの!? てか清水さん一人でパフェ食べるんじゃないの!?」
そんな僕の言葉に二人は再びムッとした表情を見せると。
「当たり前でしょ! 今日は遊園地デートの取材なんだから!」
「そうですよ蒼君っ。それにこんな大きいサイズ――清水さん一人で食べきれないじゃないですかっ」
「え? 私はイケるよ?」
「「え?」」
清水さんて意外と大食感キャラだったんだ。桃色の髪に明るくて、かわいくて、大食感って某大手ゲーム会社のまん丸なあのキャラに似ているな。
「……なんか文春君、失礼なこと考えてない?」
気取られたかッ。
「いや、清水さんは何というか……ポピュラーな愛されキャラだなって」
「それ褒め言葉だよね? まあ、うれしいけどさっ」
僕は「そだよ」とだけ言って再びアイスコーヒーを口に含む。
清水さんもそれ以上追及しては来なかったので、三人で目の前のパフェを撮り始めると、瑠璃川さんが突然。
「そういえばですねっ」
「ん? どうしたの?」
「蒼君と清水さんって最近すごく距離が近いというか……仲良しですよねっ」
「んー、そうかな?」
言わずもがな、アプローチを受けている僕は、何となく清水さんの気持ち的なところは察しているつもりだけど。ここで変に意識をされてもと思ったので曖昧に返事をした。
「……そー見える?」
清水さんは嬉しそうに口元を緩めて僕を凝視する。恋愛に興味が無いとはいえ、この流れで美少女である彼女にそういう振る舞いをされると少し照れそうになる。
「はいっ。同じ部活の部員として、転校生の清水さんが馴染んできたのも蒼君と一緒にいたからかなっと思ってましたが……」
そこから先の言葉に悩んでいるのか、瑠璃川さんは僕を一瞥するとルイボスティーを一口飲む。
「――だって私、文春君のこと好きだからね」
「ぶほっ!」
突然の清水さんの爆弾発言に、僕は思わず口に含んでいたアイスコーヒーを吹きこぼしてしまった。
そんな僕を前に、瑠璃川さんは両手を口元に添えて少女漫画を読む乙女のような恍惚の表情を浮かべた。
「……えっと? 急にそんなこと言われても……」
「急だった?」
「き、急やねん」
「なんで関西弁?」
清水さんは少し頬を赤らめ、いたずらな笑みで頬をつく。
「ちっ、ちなみにそれはラブの方ですかっ?」
目の前の恋愛イベントに驚きを隠せないのか、瑠璃川さんは食い下がるように質問を続けた。
ちょっ、いきなりこんなとこでこの話し続ける!? 僕の気持ちも考えて! めっちゃ顔熱い! 心臓がドラミング状態だよ!?
「んー! 友人としてライクなのはあたりまえだけど……そっちは内緒!」
そう言って清水さんは人差し指を口元に当てる。
いや、『内緒』って……もう答え言ってるようなもんじゃん! まだこの後も三人で遊園地回るのに!
瑠璃川さんも顔を真っ赤にしながら僕と清水さんを交互に見る。
「わ、私、応援しますよっ!」
「ありがとう!」
「え、これ僕はなんて……」
「別になにもないでしょ! 告白したわけじゃいんだからっ」
「そ、そうだよね? なにも、ないもんね……」
僕の反応がよっぽど面白いのか清水さんは「ふふっ」と微笑み「さて! ジョーダンはここまでにして、みんなでパフェを食べよう!」といつものように天真爛漫な少女に戻った。
瑠璃川さんはそれ以上質問を続けることはなく、俊敏な動きで何やらノートにメモを書き込んだかと思えば、清水さんと二人で仲良くパフェを食べ始めた。
まさかさっきの一連の流れも取材のネタにする、とかじゃないよね!? 横島先輩ほどの下衆みは無いにしても、瑠璃川さんもジャーナリズム魂が血気盛んなところあるからね。怖い。
突然の出来事に脳が追い付かない状態の僕は、ただアイスコーヒーで喉を潤すことに徹した。………………あ、もう無いや。
その後三人でパフェを食べながら、ぎこちなくも他愛のない会話をした後、他のアトラクションを順に回り、あっという間に時間が過ぎていった。




