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ラブコメのカスが送る!青春エンターテイメント!  作者: 久荘木ノコ
蒼文春はラブコメの主人公(カス)!
15/32

速い女はモテるのよ

 午前11時頃。駅のステグラ前に集合した僕たち三人は、地下鉄に乗って遊園地まで足を運んだ。


 今日取材をする羊山メリーランドは地元の遊園地で、僕が幼少のころから度々校内イベントで友達や家族と一緒に行っていた場所だ。

 昔訪れた頃と比べると建物や乗り物は新しくなっていたけれど、それでも懐かしさを感じさせる。

 

 遊園地に到着した後、門前のゲートで僕らはチケットを引き換えするための行列に並んでいた。清水(しみず)さんは隣で身を乗り出して、ゲートの奥から見えるアトラクションに目を輝かせている。


 「今日、晴れててよかったね!」

 

 彼女の服装はタイトなミニスカートと少し露出が多い気もするが、持ち前のスタイルも相まって品の良さを感じる。都会の女性のような出で立ちで、さっきから周囲の男性陣の注目を浴びていた。


 制服と違って、ニットで胸が強調されているのもあるからかな。お、おおきい。

 

「はい! 取材楽しみですねっ」

 

 瑠璃川(るりかわ)さんの方はというと、清水さんと正反対で露出の少ないナチュラル系の花柄ワンピースを基調とした服装だ。まさしく『清楚』という言葉がピッタリ当てはまる。

 

 さすがは瑠璃川さん、私服姿からも教養の高さを読み取れるとは。

 

「それにしても――」

 

 清水さんは僕の方を見つめると。

 

「文春君の私服かわいすぎ! 最初見たとき文春君と思わなかったよ!」

 

「た、たしかに私も、私服姿を見るのは初めてですが……帽子を被っていたとはいえ、蒼君が声をかけてくれるまで本人だと気付きませんでしたっ」

 

 素直に褒められているんだと思うけど嬉しくない。だって男子に言うセリフじゃないもの!

 

「あ、あははー。二人ともありがとう…………ありがたくはないけど」

 

 なんか周囲で「あそこの女子三人グループレベル高くない!?」とか「やばっ! え? あの子めっちゃモデルみたいじゃん! 隣の子たちもかわいすぎでしょ!」とか「学生かな? あんな美少女たちがいる学校に通いたい人生だった」とか聞こえるけど気にしない気にしない。

 

「さて、今日回るアトラクションだけど。取材で来てるわけだし、何かテーマを決めて回って行こうか?」

 

 そう、僕らはただ休日に遊園地で遊ぶために来ているのではなく――あくまでもメディア部として校内新聞の夏休み前特集という、記事の取材をするために来ているんだ。横島先輩は「取材は二の次でいい」とか言ってたけど、しっかりメディア部としての活動はしなくちゃね。

 

「そうですねっ……何かテーマがあった方が効率よく取材を進められそうですしね?」

 

 僕と瑠璃川さんがテーマについて頭を悩ませていると。

 

「そんなの『遊園地デート』に決まってるよ!」

 

「遊園地デート、ですか?」

 

「そうそう!」

 

 夏姉ちゃんと同じことを。でも確かに夏休みともなれば、カップルでデートに出掛ける学生は多いだろうし妥当なテーマではあるよね。

 

「けど、それだとカップル限定にならない?」

 

「それでいいんだよ! 学生の夏休みなんてほとんどはカップルと過ごす時間になるんだから!」

 

「部活や塾とか、習い事とかもある人もいると思うよ……単純に一人で過ごす人とかも」

 

「そんなの学生じゃないよ!」

 

 そうなるとインドア派な僕の今までの学生生活全否定になるんだけど。世知辛すぎじゃない?

 

「ちょっと極端な気がしますけど……私も清水さんのテーマには賛成ですっ。デートってカップル以外にもこれから付き合う人たちが、好きな人と一緒に、ということもあると思いますし?」

 

「でしょ!? 瑠璃川さんも同じ乙女だから話しが早いね!」


「じゃ、じゃあ、『遊園地デート』っていうテーマで回って行こうか」


「はいっ」


「りょーかい!」

 

 となると、今日のこれはやっぱり夏姉ちゃんたちの言うとおりデートっていうことになるのかな? ようは『遊園地デート』を取材のテーマに二人とアトラクションを回っていくってことだもんね。

 

 そう考えるとちょっとやりづらい気もするけど。

 清水さんはともかく、瑠璃川さんはメディア部の取材として休みの日に協力してくれているわけだし――僕もまじめにデートと思って過ごすしかないのか。…………でもなぁ。

 

「とりあえず入園したら何に乗ろうか? 僕のおすすめはゴーカートだけど」

 

「私はジェットコースターがいいかな!」

 

「私はメリーゴーランドがいいですっ」

 

 意見が別れたな。よし。

 

「とりあえず三人で別れて――」


「「ダメ(だよ!)ですよ」」


 食い気味で断られてしまった。単独行動で実質、デートの設定回避ができると思ったのに。

 

「えー。取材を効率よく回るなら、それぞれ別れて行ったほうが良いと思ったんだけど」

 

「それじゃダメだよ! 私のさくせ――じゃなくてっ! 初めての場所だから迷子になっちゃうと思うし!」

 

「そうですよ蒼君? それにこういうときは同じ体験をした人たちが、三者三様に感想をまとめて記事として書くのが一番いいと思いますっ。そうでなければ、せっかく三人で来た意味がなくなっちゃいますよ?」

 

「ぐっ……正論です」

 

 このメンツでは瑠璃川さんに軍配が上がる。だってストレートに正論言うんだもん。覚悟を決めるしかないか……。

 

 そんな会話を続けつつ、チケットを引き換えして遊園地のゲートをくぐった僕たちは。

 

「んー、分かったよ。じゃあまずはゴーカートに行こう!」

 

「やったー! ゴーカートなんて久しぶりだな~」


「蒼君、ゴーカート好きなんですね?」

 

 まずは、僕のおすすめしたゴーカートの広場へと向かうことにした。


「昔から家族や友達とここに遊びへ来ると、まずはゴーカートってルーティンが抜けなくて」

 

「そうなんですかっ。ちなみに私は初めてですっ」

 

「え? そうなの?」

 

「はいっ。遊園地は小さい頃に何度か行ってましたが、私はゆっくり動く乗り物にしか乗っていなかったので……ちょっと不安です」

 

 なるほど。だからさっきメリーゴーランドを推していたのか。

 

「ゴーカートは一人乗りタイプだけど、そんなに操作も難しくないし、思ってるほどスピードも出ないから大丈夫だと思うよ!」

 

「そうなんですねっ」

 

「は~、私も楽しみ! 昔住んでた場所の遊園地にお母さんと行ったときは二人乗りだったんだけど、スピード出し過ぎて怖くて泣いちゃったんだよね~…………お母さんが」

 

「へ~って、え? 今なんて?」

 

 おいおい、大丈夫かな? 今回は一人乗りだから、ゴーカート初体験の瑠璃川さんが直接被害を被るようなことはないと思うけど。

 清水さん、そんな初っ端からぶっちぎる気じゃないだろうな。

 

「あの……清水さん? 安全運転でお願いね」

 

「まかせてよ!」

 

 そう元気よく答える彼女の目に、ギラギラとした闘志が宿っていたことを僕は知っているようで知らない、フリをした。

 

 そして目的の場所に到着した僕たちは、それぞれゴーカートに乗車してハンドルを握っていた。

 

「うぅ、なんだか緊張しますっ……」

 

 瑠璃川さんは僕の隣で、初めてのアトラクションに緊張して肩を震わせているようだ。

 頭の中で、今の彼女の姿に小動物を重ねてしまう。あれだ、怯えたハリネズミの赤ちゃんに見える。テンレックって名前の。

 

「大丈夫だよ。そんなにスピード出ないから」

 

「そ、そうですか? でも私、初めてで……」

 

「ペダルを強く踏まなきゃ大丈夫だよ。安全運転で行こうね」

 

「は、はい」

 

 そんな彼女の横で真逆のリアクションを取る清水さんは。

 

「マ〇カーで磨き上げた私のテクを披露する時がきたわ!」

 

 意気揚々と声を上げていた。

 

「清水さん? 瑠璃川さんは初めてで緊張しているんだから安全運転だよ?」

 

「初めてってなんかエッチね!」

 

「清水さん?」

 

 たまに清水さんはよく分からないことを口走るよな。

 

 そんなやり取りをしていたら、ゴーカートのエンジン音が徐々に高鳴り始める。

 こういう乗り物は男の専売特許とよく秋兄ちゃんが言っていたし。ここは僕の男らしい姿を見せて、二人から学校のみんなへ普段の僕とのギャップを伝えてもらおう! 蒼文春は今日、(オトコ)になるんだ!

 

「よーし! 二人とも僕に続いてね!」

 

「はーい!」

 

「が、がんばりますっ」

 

『それではみなさん! 安全運転を心がけて楽しんできてくださいね!』

 

 そんなスタッフさんのアナウンスとともにゴーカートが発進した!

 

「わわっ! もう動き出しましたよ! 蒼君!」

 

「大丈夫! 最初はゆっくりだから落ち着いて瑠璃川さん!」

 

「は、はい……ッ!」

 

 ゆっくりと加速していく瑠璃川さんのゴーカート。そしてやがて僕と距離が空いていき……。

 

「あ! なんかスピードが上がってきてます!」

 

「え? うそ!?」

 

「おかしいです! ペダルをいっぱい踏んでるのに!」

 

「それそれそれ! 原因それ!」

 

 どんどん加速していく瑠璃川さんの後を追って、僕もペダルをべた踏みしてスピードを上げていく。

 

 あれ? そういえば清水さんはどこに。

 

「カートは僕たち三台だけなのに。一体どこへ」

 

 ふと僕があたりを見回すと、先頭で爆走するカートが一台見えてくる。


 ビュンッ!!

 

「文春君! 私! 今! 風になってるよ!」

 

「清水さん!? ちょッ、これ同じ性能の乗り物だよね!? 何でそんな距離が離れているの!?」


「ヘアピンカーブ! 悪く思わないでよね! インベタのさらにインというのは空中に描くライン! 高低差の無い遊園地特有の地形だからこそ実現()可能な――――オキテ破りの地元走り!!」


『先頭を突き進む彼女は一体何を言っているんだ――っ! ショートカット行為は危険なのでやめていただきたい!』

 

「ホント何言ってんの!? ここヘアピンカーブなんて無いんだけど!? それと清水さん引っ越してきたばっかじゃん!?」

 

 清水さんは卓越したドライビング技術で次々とコーナーをドリフトしていき、圧倒的スピードで僕たちとの距離を広げていた。

 マ〇カーでそこまでのテクニックを習得できたというのかッ!? 湾岸でミッドナイトもしてそうだけど!

 

『おお――――っと! これは今日の最速記録が出た――――っ!』


「ゴールだぜ!」


「キャラぶれぶれだよ! 清水さん!」

 

 これもう、ゴーカートは取材うんぬん以前に最速RTAの話しを載せればいいんじゃね? 見出しは『爆走転校生! ~最速RTAへの軌跡~』これにしよう。

 

「文春く――――ん! 瑠璃川さ――――ん! はやく――――っ!」

 

 元気よく手を広げて僕らを呼ぶ清水さん。

 

「なんであんなに早いの!?」

 

「すごいです! あっ」

 

「瑠璃川さん前! て、うお!」

 

 よそ見をしていた瑠璃川さんは、そのままコーナーを曲がり切れずコースアウトしてしまった。そして、それに気を取られて前を見ていなかった僕も続けてコースから外れてしまう。

 

『お友達の二人はコースアウト! これは最速ゴールの子に魅せられたか――――!?』

 

 瑠璃川さんは「私たちだけゴールできませんでしたね……」とちょっと悲しそうに乱れた髪をまとめていた。

 僕はというと。

 

「……こんな人前で恥ずかしいところをッ」

 

 羞恥に駆られていた。漢気ギャップ作戦、失敗。

 

「だ、大丈夫ですよ蒼君っ。私も次に乗るときはちゃんと気をつけますねっ」

 

 そんな僕を励ましてくれる瑠璃川さん。余計にさっきまで先輩面感出してた自分が恥ずかしくなる。

 そしてしばらくして、僕たちは清水さんのいる場所まで戻って来た。

 

「あ、戻ってきたね! もうッ、コースアウトなんてしちゃだめだよ二人とも!」

 

「う、うん。清水さんはドライブテクすごくうまかったね。まさか、最速記録を出す瞬間を見れるとは思いもしなかったよ」

 

「かっこよかったです!」

 

「ふふん! すごいでしょ! よく小学生のころにお母さんから『速い女はモテるのよ』って言われて特訓したからね!」

 

「そういうのって普通は短距離走とかのこと言わない?」

 

 清水さんって結構わんぱくなところが多いよな。きっと賑やかな家庭で育てられたんだろうな。

 

「ちょっとはしゃぎすぎて喉乾いちゃったかも」

 

「たしかに今日ちょっと暑いし、ちょうど僕も飲み物飲みたくなってたんだよね。自販機で飲み物でも買って、あっちのベンチで休もうか?」

 

 僕が休憩を提案すると、二人ともムッとした表情で。

 

「文春君、そこは自販機で買った飲み物じゃなくて、もっとオシャレな映えそうなやつを選ばないとデートにならないよ!」

 

「そうですよっ。デートだったら今のは減点になっちゃいますっ」

 

「ねー?」と二人で示し合わせたかのように顔を見合わせて頷く。

 

「えー? ただの飲み物に映えとか意識する? すぐ飲んじゃうんだよ?」

 

「ちがいますよっ。飲む前に一緒に写真を撮って、思い出に残すまでがワンセットなんです!」

 

 同じ女子の有紀と出掛けた時は写真を撮るなんてことはほぼなく、それぞれ食べたり飲んだりを単純に楽しむことがほとんどだったので、そう言われると今までの僕の人生の価値観が他の同年代とズレていたのか疑わしく思う。

 有紀には失礼だけど……。

 

「そうそう! 女子はこういう何気ない一瞬一瞬にこだわるものなの! どこでも買える自販機の缶ジュース持って写真撮っても、ただの日常の一枚にしかならないでしょ? でもその場所でしか買えないものを持って写真を撮れば、それはその場所でしか思い出にすることのできない特別なものになるの! それが映えだよ!」

 

「そ、そうなのかな?」


「「そうな(んです)の!」」


 そういえば、僕が有紀以外の同年代の女子と休日に出掛けたのって初めてだったな。

 なるほど、女子の中には写真映えを意識する子もいるのか。

 

「まあ、二人がそういうなら向こうのカフェで休憩でもする?」

 

 僕の言葉に納得した様子の二人は大きく頷くと、清水さんを主導に三人で園内のカフェのあるコーナーへと足を運ぶことにした。

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