episode12.5 片思いの相手がラブコメの主人公(カス)な件について
――人生で初めて好きな人に告白をした。
知らかなった。好きな人を想うことがこんなにも苦しいことだなんて。自分の想いを口に出すことがこんなにも怖いことだなんて。
知りたくなかった。あたしは臆病者で弱虫なんだなんて。
放課後、屋上で意を決して文春に告白したあたしと清水さんは文春の予想だにしなかった返事に呆れ、お仕置きをした後にファミレスで二人一緒に女子会をしていた。
本来であればセーラー服を着せるだけの生易しい罰なんかでなく、その場で顔面にスパイクを叩き込みたいところでもあったけど、惚れた弱みか、はたまた告白直後の気恥ずかしさであいつの顔をあまり見れなかったせいか今回はセーラー服着用姿の撮影と着ていた男子用の制服没収で許すことにした。
あたしもまだまだ甘いところがあるなと思う。
清水さんは文春の制服を大きなジップロックに入れて持ち帰ろうしたけど、さすがにそれは変態が過ぎるので奇行を控えてもらった。
素の自分? をあたしたちにも見せてくれるようになった彼女だけど。あたしの目には時折、彼女がただの変態なのではないかという疑念が過ってしまう。
そんな中身はちょっとアレなところがある彼女だけど、女のあたしから見ても『美人』だといえるほどに彼女の容姿はとても整ったものだった。まず髪は艶のある桃色の髪を背中まで伸ばし、毛先は少しウェーブがかかったようにうねりを帯びて上品な印象を感じる。肌も文春同様に透き通るような白い肌で、薄いピンクの唇が存在感を際立たせていた。瞳も大きく、整ったまつ毛は彼女の自信を表すかのように上へ控えめに長く伸びていて、大きな胸を強調するかのようなスタイルは雑誌のモデルにも引けを取らないと思う。
みんなからよく『ちんちくりん』と言われるあたしからしてみれば、彼女の容姿には嫉妬を覚えると同時に強く憧れを抱くものでもあった。
今、ファミレスで清水さんと向かい合うように座っているあたしはそんなことばかりを考えている。
彼女はというと、あたしの前で自由気ままに大きなサイズのパフェを流れるような所作で口に運んでいた。美味しそうにパフェを一口食べる度にうっとりとした表情を浮かべる彼女の姿を見て、ふと自分でも驚くほど自然に微笑んでいた。ついさっきまで恋敵として認識していた彼女を。
「……清水さんってさ」
「名前呼びでいいわよ。一緒に告白した仲じゃない。有紀?」
彼女は手を止めてあたしに微笑みかける。今までけん制するつもりでわざと苗字呼びを続けていたけれど、同じ好きな人に告白し、ましてやそれが(文春を)共通の敵として互いに認識した仲だ。もう堅苦しく苗字で呼ぶ必要もないか。
よし、そうと決まれば。
「うんっ、そうだね! 六花!」
彼女を名前で呼ぶことになんだか照れくさい感じがしながらも、自分自身も彼女に名前で呼んでもらうことをとても嬉しく思っていた。
文春の前で一緒になって告白したあたしたちの絆は戦友に似たものを感じる。
「ところで有紀は今日の部活どうしたの?」
「あー、先輩に五体投地して明日練習量を倍に増やす代わりに休ませてもらったんだ」
「……五体投地しても練習量は倍になるのね」
「先輩厳しくてさ」
そう、あたしは今日の告白を行うため湊先輩に最上級の土下座で必死に頼み込んで時間を確保したんだ。夏の大会を前にバレーボール部は今、日々猛激動のスケジュールで練習に臨んでいる。そんな中プライベートな事情で休みたいと話した時の先輩の顔は、魑魅魍魎の主ともいえるほど恐れおののく形相だった。
あの時の情景を思い出すと今でも身震いが止まらない。
まあ、そんな努力も虚しく、あたしの、あたしたちの想いはあのラブコメの主人公に踏みにじられたんですけどね。
「それよりもさ、六花は文春に対して怒ってないの?」
「藪から棒ね。惚れた男の娘の弱み、と言いたいところだけど内心は穏やかじゃないわ」
六花は目を見開くとハイペースでパフェを口の中に搔き込んでいく。
そうだよね。許せるわけないよね。男の娘って言ってた部分はメンドクサイから流すね。
「あたしたち二人、かなり頑張って勇気出して告白したのにひどいよね?!」
「ええ。簡単に許されることではないわ。でも――」
真面目な顔で彼女は言葉を続ける。
「――服を脱がされている時の文春君はえっち過ぎてばなづがでぞうになっだわね」
「……出てるよ、鼻血」
だからあの時目を血走らせていたのかな。あたしはてっきり、涙をこらえているのかなと思っていたけど。
六花は息を漏らしながら鼻にティッシュを詰め込む。この子すごく興奮している。
最初に見た時は綺麗な桃色の髪をした子だなと思っていたけれど、正直今のあたしには彼女の脳内がピンク色で染まっているから髪にまで影響したようにしか思えない。
「それよりも私は有紀が落ち着いているのが不思議だわ。もう少し癇癪を起して暴れまわる負け幼馴染ムーブをかますものだと思っていたわ」
「六花は普段のあたしがどういう風に見えてるの?」
「最初に戦いを挑む四天王の一人?」
「最弱ってこと!?」
あたしって周りからもそんな風に思われてたのかな? たしかに文春とはずっと一緒にいたのに今までロクなアプローチも出来ず、転校生の六花が来てから焦りだして…………やっぱり、あたし最弱かもしれない。
「そういう六花こそ、だいぶ冷静じゃん? 素の自分まで出したのにあんな告白の返事されても」
あたしが少し意地悪な訊き方をすると、彼女はそんなことなど意に返さないといった自信ありげな笑みで口を開いた。
「ふふっ。だって美少女転校生はなんだかんだいって最後に主人公と結ばれる運命にあるからよ!」
「すっげ――自己評価高いんだね。てか、この場合の主人公がラブコメの主人公でもいいの?」
「顔だけは良いからプラマイゼロよ!」
「たしかに顔だけはいいもんね。文春は」
あいつはいつもそんな素振り見せないように振舞っているけど、あたしと流星は文春が自分の顔に自信を持っていて、しかもちょっとナルシスト入ってるのもお見通しだ。よく鏡の前で髪の具合を気にしたりするし、女子かよって思う。てか、見た目が美少女だから女子にしか見えん。
いっそ女子でいてくれたらな。
今日に限ってはどうしてもそんなことを願ってしまう。だって女子だったら、そのまま友達としてずっと一緒にいることが出来たのに。
こんな苦しい思いをしているのがあたしたち女子だけってのは、ものすごく気に食わないし、考えただけで腹が立つ。でも。
「……でも、あたしはあんな主人公でも、まだ好きな気持ちは変わらないから。文春の気持ちがあたしに向くまでアプローチを続けるよ」
好きになってしまったものはしょうがないんだ。あたしはまだ振られたわけじゃない。これから先、いくらでも挽回の余地はある。
「ふふっ。私も同じよ。顔だけしか取り柄のない男の娘だったとしても、私とあなただけはそれぞれお互いに彼の良いところを知っているものね」
「今は悪いところが目立っちゃってるけどね」
そう。だからあたしたちはまだ、これから先もお互いが恋敵として前に立ちはだかるんだ。
「これからもよろしくね。六花」
「こちらこそよ。有紀」
あたしたちは握手を交わす。それは友達としてであり、戦友としてであり、恋敵としての契り。
文春に恋心を抱いてしまった女子たちの固い絆の表れだ。




