希望の星々
ここは牢獄、我々に自由はない。
ここは砂漠、我々は奴隷である。
足には枷が、窓には格子が、その先には星がある。
ただ綺麗に、ただ美しく、ただそこにある。
その優美さが、その清麗さが、その壮麗さが、私に夢を与えた。
希望を与えたのだ。
また、1人の奴隷が膝をつく、手で頭を守る。
監視役の男は1人の奴隷に鞭を打つ。
監視役の男は何も言わない、彼も言われた通りに仕事をしているのだろう。
「少年、手を動かさんと鞭を打たれるぞい」
痩せこけた老人が少年の肩を叩く、とても優しい顔した老人だ。
「うん、そうだね」
そういって小石が大量に入った籠を持ち上げる。
「おじいちゃん、少し持つよ?」
そう言って少年は老人の籠を指す、すると老人は笑って答えた。
「こう見えて、まだまだ若いものには負けんよ」
また、夜が来た、格子の外を見れば星が登っているのが分かる。
「星が好きなのじゃな」
老人は微笑みながら少年に問いかけた。
「うん、好き」
星を見ながら少年は答える。
「夢なんだ、この星空の下を歩くのが」
少年は笑った、無邪気な笑顔で、純真な夢を語った。
「・・・そうか」
老人は目を細める、とても悲しそうな目で少年を見つめた。
「なら、明日の夜にでも行こうか」
「え?いいの!」
「ああ、もちろん」
少年も老人も笑った、誰もが絶望するこの場所で2人は大いに笑ったのだ。
星は降り、日が昇る、この世は法則に従い永遠に回り続ける。
それは人も同じなのだろう。
「この役立たずが」
監視役の男は鞭を打つ、奴隷は打たれる、何ら不思議でもない、法則に従ったつまらない世界。
「人は生まれて、死ぬだけか」
老人はただただつぶやいた、ただ空を見上げた。
(この星空の下を歩く)
その言葉を思い出した老人は監視役の男に近づいた。
日は隠れ、星が踊る、この世の法則に従い永遠に回り続ける。
「さて、そろそろ行くとするかい」
老人は牢の隅に座る少年の頭を撫でながらそう言った。
「本当に行くの?」
少年は驚きながら聞き返した。
「あぁ、もちろん」
老人は笑いながら牢屋の鍵を大袈裟に見せた。
少年の目は星空のように輝いた。
牢の出口に立ち鍵を開けようとする老人だったが、その手が止まる。
「少年、今から言うことを覚えていてほしい」
振り向きもせず老人は呟く。
「なに?」
今か今かと待ち侘びる少年の声は老人とは対照的にとても明るい。
「人の運命は皆決まっている、それに皆同じ結果になるんじゃ」
老人は振り返らない、ただ檻を見つめて、ただ呟く。
少年は見続けた、老人の小さく、弱々しい背中を。
「ただ、生きる意味を、感動を、君はこれから見つけていってほしい」
その声は強かった。
鍵が開く、牢屋から外の世界へと繋がる。
少年は空を見上げ世界を見た。
ただひたすらに美しかった。
「少年、あの1番光っている星がわかるかい?あれが北極星だ」
少年は静かに頷いた、空を見つめながら。
「それに向かって歩き続けると良い、わしは少しここでやることがあるから、後でここを出る、すぐ追いつくから安心せい」
老人は笑いながら少年の頭を撫で、背中を押す。
「すぐに来てね」
少年は、ただただ笑顔で駆け出した。
老人は、ただただ笑顔で見送った。
星が踊る夜、少年は感動を見つける、砂の上を走る、空を見上げながら。
そして、響いた、乾いた1発の銃声が。
私は走った、涙を流しながら、空を見上げて。