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26【人攫い】

 まだ時間帯は午前中である。空は晴天。微風に周囲の草木が心地よい音を奏でながら揺れていた。虫の音色までもが気持ち良い。


 俺は伸び伸びと昭和のアニメ曲を歌いながら草原を進む。


「ゴー、ゴー、マッソウ。リング〜に〜、イ〜ナズマ走り〜、炎の〜」


 今日も喉が冴えて開いてきた。自分で言うのもなんだが、今日も俺のメロディーは絶好調である。


 しかし、その歌声を邪魔する者たちが唐突に現れる。遠くの丘から何かが集団で走ってきていた。


「んん?」


 カンニバルベアが多数生息している森を目指して草原を歩いていたら、唐突に地面が轟き始める。


「なんだぁ〜、あれ〜?」


 遠くの丘から砂埃を上げながら、複数の騎兵が駆け迫ってくる。男たちは武装しており、手にした刃物を翳したまま奇声を上げていた。


 唸る騎馬の蹄音が迫って来る。それは荒くれ者の集団。見るからに堅気ではない強面の風貌。いかにも族っぽい成りである。


 何より全員がイッた顔つきでテンションが高すぎた。まるで薬でもキメているかのような感じである。目が血走り、口から涎を垂らしている者もいた。


 明らかに荒くれ者の野盗だろう。そんな一団が馬に跨り、こちらに爆走して来る。それはまさに世紀末な光景だった。


「「「ひゃっはー!」」」


「何やねん、こいつら……」


 その騎乗状態の野盗たちの背後に、大きな荷馬車が付いてきていた。その荷馬車の荷台は檻である。全裸の加護で視力が向上している俺には、離れていても檻の中の様子が伺えた。


「子供?」


 檻の中には十人以上の子供が膝を抱え込みながら座っている。


 どの子も幼い。まだ十歳にもなっていないだろう。それほどに幼い子供たちが、汚い格好で沈み込むように檻の中で座り込んでいるのだ。


 俯く子供たちの顔は見えないが、その粗末な扱いから奴隷だと悟れた。


 もしこの子供たちが俺の予想通り、本当に奴隷だとするならば、この野盗たちは人攫いの類だろう。奴隷商人かもしれない。


「なんか、胸糞が悪い連中だな」


「「「ヒャッハー!!」」」


 騎乗した野盗たちが俺の元に駆け迫ると、今度はグルグルと俺の周りを回り始めた。俺は野盗たちに包囲される。


「ひゃっはー!」


「誰が捕まえるよ〜!?」


「俺が捕まえてもいいか。投げ縄の練習成果を見せてぇんだ!」


「よっしゃ、ならお前に任せるぜ!」


 すると、一人の野盗がロープで輪を作り、頭上でグルグルと回し始める。それはテキサスのカウボーイが見せる輪投げのようだった。放牧している牛を捕まえる技術である。


「行くぜぇ、そぉ〜れぇっ!」


 その輪投げのロープが俺に向かって飛んで来た。すっぽりと俺の体が輪投げに捕らえられる。


 頭からくぐってロープの輪が胸のあたりまで来ると、グッと引っ張られて上半身を拘束された。


「少し引きずり回してやれよ!」


「おうよ、分かったぜ!」


 ロープを投げて俺を捕らえた騎兵は、仲間たちの輪から離れて馬を直線に走らせた。すると、俺を捕らえていたロープがピンッと張る。このままでは馬の力で俺は引きずり回されるだろう。


 だが、そんなのは嫌だ。だから俺は堪えてみる。体を縛るロープを両手で掴むと、力任せに引っ張った。


 すると、ピンッと張ったロープが突っ張り、俺に力負けした騎兵が落馬する。そして、背中から落ちた騎兵はカエルのような醜い悲鳴を上げていた。馬だけが草原へと走って行ってしまう。


「うぐっぐっ……」


「なぁ〜にやってるんだ、バカ野郎。ならば今度は俺が行くぜぇ!」


 今度は俺を包囲しながら回っていた騎兵の一団から、一騎が飛び出した。その騎兵は木製の棍棒を翳して突っ込んで来る。


「頭をカチ割ってやるぜぇ!」


 棍棒を振り被った騎兵は、すれ違いざまに俺の頭を棍棒で殴りつけようと振るってきた。馬上の高さからアンダースローのスイングで俺の顔面を狙ってくる。


「前歯を数本貰ってやるぞ!」


 しかし、すれ違いざまの一撃を俺は素手で受け止めた。馬の勢いを乗せたまま振られた棍棒を片手で掴み取った俺は、握力だけで騎兵を馬上から引きずり降ろす。


「よっと」


「うわぁ!!」


 馬だけが走り去り、騎兵は落馬して地面に強く叩きつけられた。


「ほれ、棍棒を返すぞ」


 俺は手に残っていた棍棒を、落馬した野盗の顔面に投げつけた。棍棒が重々しく野盗の顔面に食い込み、鼻血を散らす。鼻血だけではなく、前歯も数本舞っていた。そして、それっきり野盗は動かなくなる。気絶でもしたようだ。


 俺は手についた埃をパチパチと払いながら訊いてみる。


「さて、あんたらは何者だ?」


 俺の周りを包囲しながら馬で走り続ける野盗に対して訊いてみた。しかし、仲間を伸されて怒りに満ちた野盗どもは答えてくれない。血走った眼光で睨みつけながら罵倒を飛ばし続けるだけだった。


「このクソガキ、ぶっ殺すぞ!」


「手足を砕いて馬車で引きずり回してやる!」


「チ◯コをもぐぞ!」


「ばーか、ばーか。ざーこ、ざーこ!」


 なんともレベルの低い罵倒であった。幼稚園児かと思ってしまう。


 そんなこんなしていると、俺の質問に対して回り続ける騎馬の群れから一騎が歩み出てきた。その男は独眼のアイパッチ。肩まである長い髪を風になびかせている。


 回り続ける騎馬兵たちとは異なり、冷静でクールな男は怪訝な空気を醸し出していた。危険な香りが漂ってくる。


 俺は独眼の一つ目を睨みつけた。その瞳の奥の悪意を感じ取る。


 分かる――。


 ヤンキーとして喧嘩に明け暮れていた日々から学んだ、輩を測る能力が知らせていた。


 この男が、この一団のリーダーである。そして、この男が、この一団で一番強い野郎だとも悟れた。


 さらに言うなら、この男は危険な男である。外道で邪道で非道である。


 瞳を見ただけで、それが分かった。


 それだけ、この男から漂ってくる悪臭は酷いのである。


 ニヒルに笑いながら、アイパッチの野郎が述べた。


「全裸の小僧っ子、見た目よりもできるじゃあねえか。くっくっくっ」


 余裕が見て取れる。俺が力自慢だと知りながらも、不敵な態度を取り続けていた。


「先に質問したのは俺だぞ。あんたらは何者だ?」


「これはこれは、失礼したな。俺の名前はゲドーラ様だ。野盗など悪事全般を嗜んでいる。今は人攫いがマイブーム中だ。今後ともよろしく頼むぜ、小僧っ子」


「なんだ、ただの悪党か。ところで後ろの馬車はなんだよ。荷台の子供たちは何なんだ?」


 独眼の男は平然と、悪びれずに答える。


「ああ、アレか。アレは商品だ。隣の国まで運んだら、奴隷市で売りさばく予定なんだ。知ってるかい? 子供って高く売れるんだぜ」


「やっぱり奴隷商人か……」


「お前もこれから、あのガキどもの仲間入りをするんだぜ。強い子は兵士や闘士として高く売れるからな。それに、変態は変態に好まれる。だから全裸の小僧っ子でも尻穴が上等ならば、間違いなく売れるってわけよ」


「ゲスが……」


 顔つきだけでなく、思想までクソ野郎のようだ。たぶん、根っからの悪党なのだろう。


「おい、野郎ども。数人がかりで取り押さえろ。ボコボコにして、一人で歩けなくしてやれ。そうしたら大人しくなるだろうさ」


「「「「おうっ!」」」」


 すると、馬で回り続けていた連中の中から四人の族が出てきた。騎乗した状態で俺に歩み寄ってくる。その手には刺股が握られていた。





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