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14【冒険者たち】

 冒険者の酒場シマムの裏庭。古びた納屋の前で向かい合うは全裸の俺様と常連客の冒険者たち。


 冒険者の一人は既に俺の攻撃で伸びている。ハゲの戦士が白目を剥いてダウンしていた。


 残るは七人。誰もが武器こそ構えていないが全裸の俺とやる気満々だった。


 もしもここで俺が負けたのならば、納屋に隠している貯金が奪われてしまう。なので負けられない。


「こん畜生どもが……」


 一人目の冒険者は神官風の身形だった。一丁前に僧衣を着込んでいる。ただし無精髭を蓄えて髪形もボサボサだった。如何にも酒に溺れて信仰をお粗末にしていそうな風貌である。


「貴様の隠し金は拙僧たちの酒代……。もとい、神へのお伏せとして頂きます!」


「ふざけんな。誰が神に俺の貴重な生活費を納めるか。神様ごと蹴散らしてやる!」


 破戒僧が睨んできた。背を丸めてプロレスラーのように構えている。


「押して参る!」


「上等!」


「りぃぁああああ!!」


 俺は両腕を広げて襲い掛かって来る神官風の冒険者の腋の下をくぐると同時に踏み込んだ足元を払って体勢を崩してやった。


「それっ!」


「あわあわあわ!!」


 俺に足を払われた神官風の冒険者は無精髭面の顔面から地面に勢い良く転倒すると、転倒の勢いに下半身だけが浮き上がり海老反ってから止まった。


 たぶんあれだと顔面は卸し鉄で削られた大根のようにズル剥けだろう。とても痛そうである。


「そぉ〜〜れ〜〜〜」


 念の為に倒れている神官の股間を後ろから蹴飛ばしてやった。キーーーンと股間から金属音が響くと、声にならない悲鳴を上げながら神官は丸まってしまう。そのまま小刻みに震えながら起き上がってこない。


「ぁ……がぁ……が……」


 これで残すは五人になる。


「良くもやったな!」


「行くぞ、兄弟たち!」


「んだ」


 続いて飛び掛かってきたのは軽装備の三人の男たち。それぞれが革鎧を纏い腰には短剣を下げている。三人が三人とも同じ装備を装着していた。しかも三人が三人とも同じ顔で同じ髪形だった。


「三つ子か!」


「そうだ、俺たちはサンバル兄弟!」


「三位一体の変則攻撃が得意な仲良し三兄弟だ!」


「んだ」


 新たな敵に身構える俺は体を斜めに向けると股を開いて踏ん張った。サイドワインダーの構えである。


「ならば仲良く三人揃って地獄に落としてやるぜ!」


「それはこっちのセリフだ!」


「いや、こっちのセリフでいいんだよ!」


「んだ」


 そして、一列に並んだ三兄弟が真っ直ぐ突っ込んで来る。重なり合って後ろの二人が良く見えない。どうやら連携技を仕掛けて来るようだ。


「行くぞ、兄貴!」


「おうよ、弟!」


「んだ」


「「ジェットスクリームアタっ……」」


「言わせるか!」


 俺は先頭を走って来る兄弟の腹部を狙って強烈なサイドキックを繰り出した。その足刀は先頭の兄弟を撃破しただけでなく、後方に続く兄弟二人ごと蹴り付けて吹き飛ばす。三兄弟が重なり合って飛んで行く。


「「ぐぇ……」」


「ん……だぁ……」


 三つ子の三兄弟は重なり合いながら白目を剥いて倒れ込んでいた。動かない。口から泡を吹いている者も居る。


「これで残り三人だ!」


「物理攻撃の対策は完璧のようじゃのお。ならば魔術にはどれだけ抗えるのか試してやるわい」


 次に前に出てきたのは灰色ローブ姿のお爺ちゃん。顔は皺だらけで顎髭が長く威厳があった。手には杖を突き、如何にも魔術師風の身なりである。


「喰らえ、我が秘術。アーススネア!」


 お爺ちゃんが杖を翳すと俺の足元が唐突に輝いた。それは魔法陣の輝き。途端、俺の足が地面に貼り付き動かなくなる。


「なに、動かない!」


「どうじゃ、小僧。移動のみを妨げる魔法だが、この状況下ならば、それだけで十分じゃろ」


「ぬぬぬぬ、足が地面に貼り付いて動かないぞ……」


 どうやら移動を妨害する魔法らしい。


「今のうちに隠し金を探すんじゃあ」


 垂れた長い眉毛の下で鋭い眼光が輝いていた。この爺さんは侮れない。


 そんなこんなで魔法の力に俺が梃子摺っていると巨漢の男と際どい身形の女性が納屋の中に入って行った。このままでは俺の隠し金が奪われてしまう。この拘束魔法をどうにかしなければならない。


「舐めるなよ〜!!」


 俺は気合いを込めて下半身に力を入れた。力任せに貼り付いている足裏を剥がそうと踏ん張って見せる。力技で魔法から脱出を試みる。


「俺なら出来る。たぶん出来る。ぬぬぬぬぬ〜〜!!」


 余裕の表情で顎髭を撫でながら爺さんが言った。


「無駄じゃ。ワシの魔力は上級のレベル。全裸の小童如きに敗れるほど軟じゃあないぞ」


「全裸を舐めるなよ!」


 するとメリメリっと地面から音が轟いた。途端、地面が足の裏に張り付いたまま剥がれてしまう。


「バ、バカな……。地面ごと魔法を剥がしたのか!」


「喰らえ、地面付き踵落としだ!」


 己の頭よりも高く振り上げられた俺の片足。その足裏にはスコップで掘り起こした程度の土がへばりついていた。その土ごと踵をお爺ちゃんの脳天に落としてやる。


「踵落としじゃあ!!」


「ふんぎゃあ!!」


 踵がお爺ちゃんの脳天に炸裂した途端、足裏にへばりついていた土が花火のように破裂して散った。その爆風に吹き飛ばされたお爺ちゃんの頭が真下に落ちて地面に鼻から叩き付けられる。その一撃でお爺ちゃんは動かなくなった。撃破である。


「次っ!」


 俺が狼のような表情で納屋のほうを睨むと際どい服装の女性が冷や汗を流しながら立っていた。


 白いタンクトップの下に革のブラ。へそ出しルックで革のタイトスカート。腰のベルトには数本のナイフが刺さっている。そして、長くて綺麗な脚には踵の高いロングブーツを履いていた。セクシーである。


 年の頃は二十歳ぐらいて薄化粧。髪型はショートヘアーで耳飾りのリングがチャラチャラと煌めいていた。


 美人か美人じゃないかと問われたら美人なのかも知れないが俺のタイプではない。ただ薄着の装備は童貞の青少年に嬉しいサービスだった。微笑んでしまう。


 そんな刺激的な女性は怒りに震える全裸の俺と目が合うと怯えた表情で納屋の前から立ち退いて道を開けた。


「あたいは一抜けするから、見逃してくれないかな〜」


「それじゃあ、酒場に戻りな」


「ありがとうね〜……。バイバ〜イ」


 そそくさとお姉さんは酒場の裏口のほうに逃げて行った。


 懸命な判断だろう。何せ全裸の加護を手に入れた俺は無敵なぐらい強い。熊の頭部を素手で砕き、百戦錬磨の冒険者たちを一撃で伸して回っている。これは完全にチートだろう。か弱いお姉さんが正面切って対戦するべき相手ではない。


「最後の一人!」


 際どいお姉さんを見送った後に俺は納屋の中に飛び込んだ。途端、強烈な衝撃に吹き飛ばされて納屋の外に弾き出された。地面を転がり砂埃を立てて止まる。


「な、なんだ……」


 片膝を着いて体を起こす。その俺に大きな影が掛かる。俺が何事かと見上げてみれば、背高いマッチョマンが俺の前に仁王立ちしていた。こいつが最後の一人だ。




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