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天地の円舞曲  作者: 成瀬くま
地界編 第二幕「暗躍する星」
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地界編7話「更星作戦」

 先程までの空気が虚であったかのように感じる、少し重い空気が漂う中、ミシェルは話を切り出す。


「エイジをここに連れて来た理由はいくつかあるんやけど、その根幹の理由は、一人の地球人を改心させてほしんや」


 ここにエイジを連れて来た理由は、一人の地球人を改心させるというものであった。


「そいつは、俺の知っている人か?」


「それは分からんな。でも、そいつは自分の事をムルジムって名乗っとるんや。なんか分かるか?」


 ムルジム。それは、ミルザムとも呼ばれる、おおいぬ座ベータ星のことである。


「もしかして、そのムルジムは何かを予告して、それを実行してるんじゃ無いのか?何かの概要は分からないが」


 エイジは昔、星に興味を持っていた時期があって、その時に色んな星について調べていた。その時見た記録の一部に、ムルジムのことが書いていた事を思い出し、そう尋ねた。


「そうやけど、なんで分かったんや?」


 案の定エイジの予想は当たっていた。星の意味などを覚えてるのは、星が好きだからだろうと推測。よって、ムルジムは星が好きな人だと勝手に結論づける。


「俺のいた宇宙には、ムルジムっていう星があって、その星はアラビア語っていう言語で『予告するもの』っていう意味があるんだ」


「そうなんや~。その『あらびあご』がなんなんか分からんくて難しいけど、エイジは頭ええだけやなくて記憶力もええってことは分かったで」


 地球には何千個もの言語があり、その内エイジは約五十個の言語を網羅しているのだが、それをミシェルに話すのはまた別の機会として、話を続ける。


「それで、ムルジムは何をしてるんだ?」


「あいつは、約五年前にこの地界に転移されて、祝福犯罪者(ギフタウト)を捕まえる予告をその日の昼に出して、夜に続々と捕まえとんや。祝福犯罪者(ギフタウト)って言うのは、賞金首のことな。まあ、そこだけ聞けば悪いやつでは無いと思うけどやな...」


 ミシェルは最後の言葉を言う前に、少し間を空けた。その続きに来る言葉は、何か良く無い言葉になるだろう。と、何となくエイジは想像出来た。

 と言うか、エイジは悪人を除いた人全員が来るとポセから聞いていたのだが、そのミシェルの話の様子だと、祝福犯罪者(ギフタウト)と言う悪人は、中々の数居るのではないか?と感じられた。


「——全員殺して連れてくんねん」


「———」


 エイジの予想通り、良く無い言葉が耳に入った。

 それでもエイジは、息を呑み、無言で話を聞き続ける。

 それにしても、エイジと同じ地球人でも、エイジと地界に転移される時間が約五年も違うということは、やはりエイジがあの異空間にいる時間が長かったのだろう。


「やから、ムルジムがもう人を殺さんように改心させてほしんや。多分根は善人やから、いける筈。知らんけど」


 最悪のタイミングで、関西弁の「知らんけど」が炸裂する。


「やっぱり不安だな。でも、何で俺に頼むんだ?」


 それは、純粋な疑問である。地界に来たばかりのエイジよりも、地界に来て何年も経っている人や、地界出身の人に頼めばいいのに、何故エイジに頼むのか。


「だって、エイジはムルジムと同じ地球人やし、まあ戦えそうな祝福(ギフト)持っとうから、もしなんかあった時安全やん」


「でも、俺戦ったことなんて無...あんまり無いし」


 エイジは、『大地の神』と戦った時のことを思い出し、言葉を訂正した。


「まあ、ほんまは地球人とか戦えそうな祝福(ギフト)持っとるとかいうのは建前で、僕の『去来視』でエイジがムルジムを改心させんのに成功しとうルートが見えるからやねんけどな」


 ミシェルが右手を右目に当てる動作をすると、ミシェルの左目の色が澄んだ青色から少し濁った赤色に変わった。


「俺以外にも改心させれるやついるんじゃねえのか?」


「もしかしたらおるかも知れんけど、エイジが成功する確率が高そうやからな」


「その『去来視』ってどんな感じで見えるんだ?」


「見たい過去や未来の題目を定義したら、過去は全部見えて、未来はいくつかのルートが見えるねん。今回やったらエイジとムルジムが話し合いだけで進むルート、戦うルートとかが見える。詳しくは言えんけど」


 ミシェルは右手を右目に当てながら言った「過去は全部見えて」と言った時は透き通った綺麗な緑色に、「未来はいくつかのルートが見える」と言った時は少し濁った赤色にと左目の色が変化した。ミシェルの左目を見れば、過去と未来のどちらを見ているかが分かるようだ。


「戦うルートって、多分根は善人って言ってたじゃねえか。しかもそれって、もしかしたら俺死ぬんじゃねえか?」


「その可能性は...普通にありえるな。なんせ、祝福犯罪者(ギフタウト)を何人も殺せるレベルには強いからな」


「だったら、俺以外の人を探した方が...」


 そう、エイジが話している途中にミシェルが言葉を被せるように割って入ってくる。


「残念やけど、もう『運命』は動き出してんねん。もし、エイジがこの厚星作戦に乗らんかったら、神の寵愛(ディオギフト)について知った『認識寵愛者』として、『運命』に抗ったら『神の呪縛』によって消える。更星作戦に乗ったら、ムルジムとの戦闘で死ぬかも知れんけど、『神の呪縛』は発動せん。エイジに選択肢は、一つしかないんや」


 ムルジムという星を名乗る者を更生させる作戦、それで更星計画と名付けられたこの作戦。

 エイジが現在置かれている状況は、非情なものだ。一つの選択肢は、確実に己の存在が消滅。もう一つの選択肢は、割と高確率で死亡。

 この絶望的状況を打破する方法を、エイジは模索して模索して模索して模索した。

 だが、今までの人生になかった非現実的な状況を打破する方法は、流石に天才であるエイジにも見つからない。そして残念なことに、そのような非現実的なことは、地界では当然の如く起こる。

 地球では天才でも、地界では凡人なのかもしれない。地界にきて早々にも八方塞がりな状況に追い込まれたエイジ。


「せやから、今から修行始めるで」

 

 そして、この状況になることを想定し、ミシェルはこれを言うことを決めていたのか、それとも『去来視』により最初から分かっていたということによるものかは知らないが、そう発言した。

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