地界編5話「変な家」
エイジは、ミシェルが『引力』と『斥力』を知らないと言うことに驚きを隠せなかった。
その為、エイジは簡単にその二つについて説明をした。『引力』に関する説明は、丁度ミシェルが持っていたリンゴを用い、かつて地球にはニュートンという学者がいて、その人がリンゴが木から落ちるのを見て『引力』を発見したという説明もした。ミシェルは物分かりが良かった為、すぐに理解をしていた様子であった。
「ある程度は分かったか?」
「教えてくれてありがとうな!いやあ、地球で学ぶ知識は凄いなぁ」
しれっとミシェルは衝撃的な発言をした。
自分が地球人ではないと言うことを示唆する発言を。
「ん?ミシェルってまさか地球人じゃないのか?」
エイジは疑問に思ったことを真実か否かを確認する為、心の中では仰天していたが、冷静な声で問う。
「ちゃうちゃう。僕はエイジのいた宇宙から見て多元宇宙の惑星の人間や。ここに来たんわもう数年前やな」
「因みにあの異空間にどのくらいの時間いたんだ?俺は体感時間1時間くらいいたけど」
体感時間が正確なエイジは、時計のないあの異空間の中に自分がいた大体の時間を言った。
大体の時間と言っても、それを確認する術がない為、それだけでなく、あの場に一緒に居合わせたのはポセだけだった為、当然の如く正解と答える人物はいないが、それはそれは正確であった。
「そんな長い時間おったん?普通二十分くらいやろ。名前と祝福選ぶだけやし」
普通二十分くらい、その言葉に違和感を感じる。
確かに、エイジは祝福を選ぶのに相当な時間を費やした。だが、ポセがゲートを作るのに、二十分ほどかかっていた。その時点で二十分を超えているはずだ。
その瞬間、エイジの脳裏に一つの考察が浮かび上がった。
(もしかしたら、ポセは敢えてゲートを作るのに時間をかけたのかも知れない。だが、何の為に?という疑問が同時に生じる。俺が『大地の神』と戦ったから?俺が天才物理学者だから?)
そんな憶測がエイジの脳内で飛び交う。その後も、長時間の熟考をしたが、結局結論は出なかった。
真相は闇の中だ。
「おーい、エイジー」
何度も呼びかけられていたようだったが、脳内で熟考をしていたエイジは、ミシェルの声聞こえていなかった。
何か問題について考えている時、その問題に入り浸って周りの声が聞こえなくなってしまう。エイジの悪い癖だ。
「あ、悪い悪い。考え事してた」
「そろそろ行こか~」
ミシェルがそう言うと、二人は先程まで止めていた足をまた動かし、進み始めた。
「因みにさっきまで歩いてたけど、これって今、何処に向かってるんだ?」
何処に向かっているかわからずにとにかく歩いていたという現状を認識し、エイジが尋ねる。
「僕の家や」
どうやら、目的地はミシェルの家のようだ。だが、歩き始めてから既に相当な時間がかかっている。常日頃、大量のリンゴを収穫してからここよりも更に遠い所まで来るのは至難の業であろう。
「どの辺りにあるんだ?」
「うーん、街の外れの辺やな。家の周り何も無いから期待せんといてよ」
その後は、二人で他愛も無い会話をしながら足を進め、ミシェルの家へと向かっていった。
◇◆◇
それから、二十分程度経った頃。遂に二人はミシェルの家に着いた。ミシェルの言っていた通り、本当に何も無い。別に期待をしていた訳では無いが、本当に何も無い。敢えてもう一度言おう。本当に何も無い。殺風景の塊の様な景色だ。
普通、家の周りに何も無いと言えば、田んぼや畑などがあるだろう。だが、ここにあるのは砂、岩、そして草だけであった。
そして、最も肝心であるミシェルの家も想像を絶するものであった。
「着いたで!ここが僕の家や!」
「これが...家?」
エイジは想像を絶する家という名の何かを、瞬きを何度も繰り返しながら凝視し、戸惑いの声を発した。
「家や!」
ミシェルが家だと言い張るこの建造物は、とても家とは言い難い構造をしていた。かつて地球に変な家を題材にした作品があったが、そんなのは優しいものであろう。
その作品では、間取りが変だったり窓が無かったりだったが、これは違う。
誇張なしに、目の前にある建造物を地球の物で例えるとするならば、それは——仮設トイレだ。それだけ、サイズが小さい。
「絶対におかしい」
「いやいや、地界ではこれが普通なんや!多分地球が凄いだけや!知らんけど」
ミシェルは地球人では無いはずなのに、「知らんけど」を使った。関西弁を完璧に使いこなしているといっても過言では無い。
別次元の宇宙にも、関西弁と似た様ななまりで話す人々がいたのかも知れない。知らんけど。
「ここまで来るのに見てきた建物は全部ちょっと昔の地球の物と似た様な構造だったぞ」
「いや、でも、まあ、外見で判断するのは良く無いと思うな~。入ってみ」
ミシェルが入ってみと言ったものの、このサイズでは人一人分しか入れないだろう。何故この様な場所にエイジを連れてきたのか。
「いや、遠慮しとく」
「遠慮せんと、さっさと入り!」
「ちょっ!待てよ!」
エイジが遠慮すると言った刹那、ミシェルがエイジの体を後ろから突き飛ばし、エイジは家の中へ。エイジを突き飛ばした勢いで、ミシェルも家の中へと入っていった。