地界編4話「遭逢」
エイジは、ゲートを越えて地界『アンネルファーズ』に到着した。
エイジが周りを見渡すと、栄慈の見てきた地球とは少し違った風景の街並みが広がっていた。それもそのはず、ポセから聞いた話によると、地界『アンネルファーズ』は地球でいうと二〇六〇年程の技術しかないからだ。
「わぁお」
見慣れない景色に、エイジは自然と、そう言葉を口にする。
あくまでもここは、地球ではないというだけで、地界という名の現実だ。ゲームのように己のステータスが出てくるわけではない。
そのため、エイジは自分が能力を持っているという実感が湧かなかった。
「ちょっと使ってみるか」
能力が使えるかを確かめようと、エイジは能力を行使しようとする。能力の使い方は分からないが、能力を使おうと強く念じてみる。
街中ということもあって、『斥力操作』は危険かも知れないと危惧したエイジは、『引力操作』を使用した。
エイジが『引力操作』を使用した刹那、エイジの手に一つのリンゴが収まっていることに気づいた。しかし、そのことに気づいたのは、『引力操作』を使用して約二秒し、手を見た瞬間であった。何故か見るまで気づかなかった。リンゴが手に収まっていたのは、更に短い間での出来事だった。
「何でリンゴが?」
手に持っているリンゴを数秒眺めた後、エイジが前を向くと、白髪で澄んだ青い瞳を持った一人の少年が大量のリンゴを地に落とし、籠へ拾い上げている姿を見た。リンゴの数はとても多く、パッと見で少なくとも二十個あるのが見えた。
エイジは、手に持ったリンゴを持ち主に返そうと、その少年に近づいた。
「あ、リンゴ!拾ってくれたんですか?」
少年がそう、エイジに話しかける。
気づいたら掌に収まっていたなんて言ったって、信じてくれるわけもない。むしろ、泥棒と思われるかも知れないと危惧したエイジは、リンゴは拾ったという程で話を進めた。
「ええ。さっき転がってきて。はい、どうぞ」
「拾っていただき、ありがとうございます!ちょっと作り過ぎちゃいまして、持てなかったんですよ」
なにかぎこちない言い方をしながら、エイジは少年にリンゴを渡した。
少年は礼儀正しく礼を言い、エイジから渡されたリンゴを籠へ入れた。そして一つ、また一つと地に落ちているリンゴを籠へと運ぶ少年。
「作り過ぎたってことは、このリンゴ、あなたが作ったんですか?」
エイジは気になったことを少年に訊いてみた。
「そうです!僕が作ったんです!能力っていうのは便利なものですね」
その少年の発言から推測できることは、リンゴは何かしらの能力を使って作ったということだ。
「そういえば、名乗り遅れました。僕は、ミシェル・クラディスです」
その少年——ミシェル・クラディスは、満面の笑みでエイジに名を名乗った。
それに対して、エイジもまた、名を名乗ることにした。
「俺は、エイジ・アインシュタインだ。よろしく」
「こちらこそよろしく」
二人は互いに自己紹介を終え、見慣れない街を歩きながら喋りだした。
「エイジさんは地界に来てどれくらいなんですか?」
「俺はついさっきこっちに来たんだ。来た瞬間、足元にリンゴがあったから拾って、そこでミシェルと話したってわけ。ちなみに敬語使わなくていいからな。俺十九だし」
エイジは、まだ成人して間も無い歳だということをミシェルへ伝えた。
「エイジ十九歳なんやな~!ちなみに僕は二十三歳やで!でもエイジ、十九歳とは思えないぐらい貫禄があるな~」
ミシェルは敬語を使わなくても良いと言われた後、すぐに外して、関西弁で会話を続けた。凄い切り替えようだ。
ミシェルはエイジが十九歳と思えないくらいの貫禄があると言ったが、それは正しい。
さっきまであの時間の流れが八万倍の異空間で過ごしていたからだ。ポセの言った通り肉体は成長しなかったが、精神面は成長していた。エイジからして、あまり実感がある訳では無いが。
精神面の成長を外見で判断したミシェルは只者ではないのかも知れない。
「さっきまで地界よりも時間の速さが八万倍の異空間でここに来る準備してたからな」
「ああ、あそこな。僕も行ったことあるな。僕の見立てではエイジは二十八歳くらいの人と同じくらいの貫禄があるな~」
ミシェルの見立てはあまりにも的確過ぎる。さっきの異空間にエイジは約一時間いた。
しかし、いた時間までは言っていない。約一時間の八万倍ということは、約九年であり、エイジの精神年齢は二十八歳ということになる。
祝福による見立ての良さかも知れないと思ったエイジは、ミシェルに対して尋ねることにした。
「ところで、ミシェルの祝福は何なんだ?」
「僕の祝福?祝福は、『時間操作』と『去来視』の二つやで!」
ミシェルの発言から、『時間操作』を使ってリンゴを育てたとエイジは判断。『去来視』というのは、過去と未来を見ることができる力のことだろう。
ただ、見立てが的確すぎる理由がわからない。ただの勘か。それとも、イメージをして『去来視』の能力の解釈を広げて見たのか。答えはミシェルのみぞ知る。
「中々良さそうな能力だな。因みに、俺の祝福は『引力操作』と『斥力操作』だ」
聞くだけ聞いて自分の祝福を言わないのは失礼だと思い、エイジは自分の祝福を開示した。
「あの、こんなこと聞くのはあれなんやけどな...」
そう、ミシェルがエイジに何かを告げようとしてその場に立ち止まった。
「『引力』とか『斥力』って何や?」
それはエイジにとって、否、少しでも物理学に教養がある人間からすれば、衝撃の言葉だった。