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天地の円舞曲  作者: 成瀬くま
地界編 第一幕「終焉の世界と空白の異空間」
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地界編3話「静寂の異空間」

 エイジは、二つ目の能力を『斥力操作』に選んだ。前話でも述べた問題があるように、この選択が吉と出るか凶と出るかは、その使い手であるエイジ次第。


「色々考えてみたんだけど、同時発動できるならこの二つが一番かなって」


 エイジは、既に脳内で能力を行使するイメージトレーニングを何度も済ませてある。

 だが、このイメージトレーニングが意味を成すか。それは、分からない。二つの祝福(ギフト)を決め終えて、もう時期この空間を去るであろう今際の際まで、たった一つの問題を忘れていたからだ。

 エイジがその問題に気づいたのはたった今、この瞬間であった。


「あ」


 その問題に気づき、エイジは「あ」と言葉にならないほど弱々しい音を口から溢した。


「どうしましたか?」


 そのエイジの間抜けた声、——否、声にもならない音に対して、ポセが訊く。


「能力の出力に上限ってあるのか?」


 エイジは今まで能力の出力は上限なし、すなわち無限に『引力』や『斥力』の操作が出来るものだと考えて話を進めていた。

 ただ、もし出力に上限があるとすれば、それはエイジにとって大きな誤算となり得る。


「ああ。そのことですか。それなら、多分問題無いですよ。能力の効果、範囲とか強度はイメージ力やその能力に対する個人の解釈などで強くなりますので、上限とかはないです」


 そのポセの言葉に、今までの心配は杞憂であったとエイジは安堵する。

 この地球や地界の八万倍の速度で過ぎゆく時間の中でイメージトレーニングを既に何度も繰り返しているエイジにとって、都合の良すぎることであった。それはもはや、三つ目の祝福(ギフト)と言っても過言ではない、——否、それは誇張しすぎか。

 エイジの能力の熟練度は、現状他人よりも高くなっているだろう。序盤から差をつけておく。これが、天才のやり方だ。


「それなら良かった」


「どうやら疑問は解決したようですね」

 

 ポセは知る由もない疑問であったが、知らず知らずのうちにそのエイジの杞憂であった問題を解決したことに気づいた。


「疑問で思い出したけどさ。なんで俺達地球人は地界に連れて行かれるんだ?」


 祝福(ギフト)を選ぶのに集中していたエイジは完全に忘れていた。

 先程ポセが説明したのは悪人を除く地球人全員が、地界に行くという話であった。しかし、その理由を説明されていない。


「説明する事が多くて、僕も説明するの忘れていました。簡単に説明するとですね、地球はもう時期滅びていたんですよ」


 ポセの口から聞かされるのは、地球がもう時期滅びていたという、驚くべき事実。


「昔、地球で『ノストラダムスの大予言』っていうのがあったでしょ?本来はあの時滅びる予定だったんですけど、なんか知りませんが百年ずれて今回の『インデックスの大予言』として地球が滅びるところだったんですよ。それで、地球人を守る為に『神』がこの空間に皆さんを転送させたんですよ。因みに『神』は全部で三人いて、さっきのは『大地の神』です」


 次々と重要そうな情報を開示してくるポセ。常人なら理解不能な情報かも知れないが、天才と謳われたエイジは、その莫大な情報をも瞬時に処理する事が出来た。


「そういうことだったんだな。なら、もし次『大地の神』と会ったら、急に勝負しかけたこと謝らないといけないな」


 エイジは『大地の神』に悪いことをしたと思い、顔を顰めた。それも仕方ない。

 本来あの状況で立ち向かったことは賞賛に値する行為かも知れない。だが、仮にあの状況で栄慈が『大地の神』を倒していれば——。

 


 そんなことは考えたくもない。



「そんな、謝ろうとしなくても良いですよ。僕も少し楽——。『大地の神』も楽しそうにしていましたし!」


 ポセがそう言いかけた瞬間、何かを誤魔化すように言葉を言い換えた。しかし、幸いにもエイジはそのことに気づかなかった。


「そう、なのか?なら良かったけど」


 エイジはポセの誤魔化しには気づかなかったものの、少し違和感を覚えた。

 だが、少し考えた結果『大地の神』の関係者であろうポセがそう言うのだから、恐らく大丈夫だろう。という判断に至った。


 その後、ポセが地界へ行くためのゲートを作っている間、エイジとポセは地界について少し話をした。

 

 能力は対人にも使えて、能力大会なるものも開かれていること。地界で死ねば、どうなるかは分からないということ。重力は地球と同じということ。地界で生まれた赤子の祝福(ギフト)は親が決めるということ。ご飯は結構美味しいということ。脳の情報が書き換えられて、みんな同じ言語を話せるようになるた為、コミュニケーションには困らないということ。etc. etc. ———。そのような話を沢山聞いた。

 


 時は刻一刻と過ぎて行き、遂にエイジが地界へ向かうゲートが完成した。


「エイジさん、ゲートが出来ましたよ」


 ポセがそのことをエイジに告げる。その刹那、エイジの表情が変わった。エイジの表情から様々な考えが伝わってくる。ただ、その中でも最も伝わってくるのは、興味であった。

 目の前にあるゲートを数秒眺め、エイジは足を踏み出す。そして、一歩、また一歩と足を進める。


「それじゃあ、またな。短い時間だったけど、楽しかった。もし縁があれば、また会おうぜ」


 それが、二人のこの場での最後の会話であった。ポセは、無言で自分の短い手を振り、エイジの出発を見送った。

 

 その瞬間、この異空間に静寂が訪れた。


                    ◇◆◇


「エイジさんはもう地界に着きましたかね?」


 エイジが地界へのゲートを越えた数秒後。ポセが自分以外の誰もいない静寂の中で独り言を呟く。


「いやあ、口を滑らすところでした。まさか、僕がさっき戦った『大地の神』なんて思うわけ無いですからね」


 ポセの現在進行形で使用していると言ったが概要を黙秘したもう一つの能力。

 それは、『状態変化』だ。何故この能力なのか。答えは単純明白。ついさっき自分を殺そうとしてきた相手、すなわち『大地の神』であることを知られたら、この異空間に重たい空気が続き、気安く話すことが出来ないと考えたからだ。

 それは、ポセ——否、『大地の神』なりの気遣いである。

 

 『大地の神』ポセイドン。それが、ポセの正体であった。

第一幕は短かったですが、ここまでです。第二幕はもうすぐ書き終わるので、書き終わり次第一気に投稿します。

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