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第六話:美しき青春かな?

「レイジョ・モブよ。覚えてくれるかしら?」


「さすがに名前だけだと。何か、他にはないのかい?」


「そうね……バイオリンが得意よ。機会があればぜひ聴いてほしいわ」


「ん。分かったよ」


 始まったエイダン王子との顔合わせは、大きく分けて二つの反応に分類される。

 今の様に貴族出身の娘達は、王子に対してなに一つ緊張していないのか各々、慣れた挨拶を熟していくが、彼女達にとって慣れているという事は、王子にとっても同じで挨拶をした殆どが印象に残っていない。


「えっと、その、キリ・イチドです!あの、ほ、本日はお日柄もよく!えと」


「ふふっ、落ち着いて。俺は何処にも逃げないから」


「は、はひっ!」


 もう一つの反応は、この様な場に不慣れな市井の者達の緊張で上擦り、目が泳いでいるものである。

 周りで控えている城勤めの者達からの評価は、当然の如く、低いが王子は微笑ましいと思える新鮮さで、彼女達の名前と顔を覚えていく。

 そんな、周囲の思惑と王子自身の意思が全く、噛み合わない状況で二人は再び、顔を合わせる。


「お久しぶりですねエイダン様。まさか、この様な場で再び、お会いする事になるとは思いませんでしたよ?」


「それは俺もだよ。中々、詰所に来てくれないなーって悲しくなっていたけど、こんなにも綺麗で美しい姿を見れたのなら許してあげようかな」


「まぁ……ふふっ、ありがとうございますエイダン様。貴方様もあの時とは違う格好、大変お似合いですよ」


「そう?君にそう言って貰えるなら嬉しいよ」


 明らかに今までの空気が違うと、誰もが感じ取り、相手は誰だと視線を向ければそこには、僅かに残る幼さが感じられるものの、誰もが羨む美貌に、見惚れる様なふわりとした優しい笑顔を浮かべ、エイダン王子を愛おしそうに見るマリナの姿があり、思わず遠目でも見惚れてしまった者以外が慌てて彼女の家を探ろうとし、市井の生まれである事に驚愕する。

 首元を隠しつつ、美しい白い肩を惜しみなく露出させた赤いドレスの上に、薄く透けた黒いシースルーを羽織る事で下品ではないが、思わず視線が移ってしまう色気を演出しつつ、スラリと伸びたスカートからは僅かに程よい肉付きの太腿が肌を覗かせているマリナのドレスは、貴族達が着るものよりは安いがそれを感じさせぬほどに質の良いものという事実が、その証だ。


「すでに私達は顔合わせている様なものですし、なにを話せば良いでしょうか?」


 そんな空気など露知らず、コトンっと小首を傾げる動作は、幼さの残る顔立ちを更に引き立てる可愛らしいもので、見張りの兵が思わず、生唾を飲み込んだのも仕方のない事だろう。


「そう、だね……マリナ、君に趣味や得意なことはある?」


 どうやら、王子もその可愛らしさに心臓をやられたのか言葉に一瞬、詰まりつつもどうにか質問を投げかける。


「そうですねぇ……あ、手先が器用なので裁縫とか得意ですよ。余分な物は持ち込めなかったので、作ったぬいぐるみとかは見せられませんけど」


 暗殺の警戒として、必要最低限の物しか所持を許さなかったため、マリナの持ち物は小さな鞄に入っている化粧品などの生理用品だけだった。

 

「そっか……それは残念だ。もし良ければ今度、見せて欲しいな?」


「良いですよ。詰所に立ち寄った時にでも持ってきます」


 極々自然に、当たり前の様に次の日程を決める二人。

 お互い、そこになにも疑問を抱いていないようでエイダン王子は、嬉しそうに微笑みそんな王子を微笑ましそうにマリナは見つめ、また二人だけの世界が構築されようとしていたが、砂糖を吐き出したい気分をグッと堪えていた側付きの兵が、二人の間に割って入る。


「時間です。マリナ様、次の方に譲ってください」


「あ、はい。分かりました、では、王子。また」


「うん、またねマリナ」


 互いに手を振り合う二人は、笑顔のまま別れるというもはや、相手は決まっただろうという空気が場を支配し始めた、次の瞬間──


「王子様?ワタクシの事も見てくれないと嫌よ?」


「ん?んんっ!?」


「あはは、さすがはシャルロッテ様……」


 ──マリナの次に控えていたシャルロッテは、止める兵を振り切り王子に近づくと、座っている為に自然と見上げる形になっている王子の顎をクイっと持ち上げ、物理的にマリナを見れなくし自分しか見えない様にするという光景に、マリナは乾いた笑みを溢す。


「ワタクシの名前はシャルロッテ。アスモ帝国の第四皇女ですが、今はそんな事はどうでも良い。ワタクシの名前を覚えて王子」


「う、うん。分かったよシャルロッテ皇女」


「ノン。シャルロッテ、ワタクシのお友達は下の名で呼べるのにワタクシは無理?」


「マリナの友達なの?シャルロッテ」


「もぅ、あの子の名前を出したら大人しく従ってくださるとか……ふふっ、楽しくなってきましたね」


 遠目で見ていたマリナは、後にこの時のシャルロッテを蛇みたいと語るくらいには、彼女は捕食者の目付きをしており、何処となくエイダン王子には怯えの様な表情を浮かべていたが、構わずシャルロッテは顎クイのまま続ける。


「ワタクシは女優をしているから、もしお暇な時があればチケットを送りますのでぜひ、見に来てくださいね」


「う、うん」


「あとは……そうですね、聞くまでもないかもしれませんが、エイダン王子のお好きなタイプをお聞きしても?」


 ニコニコと微笑むシャルロッテの圧は、凄まじく彼女の特徴を言わなければ殺されるんじゃないかと思えてきたエイダン王子は、彼女の特徴を言おうとし、しかし口が上手く動かない事に気がつく。


「口を開いてどうしたの?」


「……ううん、どうやら俺は偽りたくないらしい」


「ほぅ?」


 ──この気持ちが恋心なのか、単に美しい人に惹かれているのかは分からないけど、それでもボクは多分、この気持ちだけは偽っちゃいけないんだと思ったんだ──


「美しく、何処か危うい。けど、笑った顔が可愛くて礼には礼を返す誠実な人、かな?」


「──ふふっ、あはは!なるほどね。ナヨナヨした王子様かと思ったけど、芯があるのね。大事よソレ」


 面白おかしく笑った後に、顎クイを解除しまだ、側付きの兵からの呼び声はかかっていないが、シャルロッテは王子のもとを去り、先に捌けていたマリナへと合流すると肩を抱き寄せる。


「い、いきなりどうしたのですか?シャルロッテ様?」


「んー?良い友人が出来たなーって」

 

 困惑するマリナを可愛いなと思いながら、シャルロッテは楽しげに笑うのだった。

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