第五話:火花散らすライバル
「はぁ……」
気が進まないどころか、正直言ってこの場から逃げ出したくて仕方ない。
普段、足を運んでいる騎士団の詰所に比べればこうして、座っている椅子はふかふかでずっと座っていてもお尻が痛くならないし、焚かれてるアロマのお陰でラベンダーの良い匂いが気を少しでも休めようとしてくれてはいるけど、鉄仮面の様に無表情なメイドや執事に、取り囲まれて息苦しい思いをするくらいなら、多少汗臭くても活気があって、賑やかな詰所の方がボクにとっては、居心地の良い空間なんだよなぁ。
「もう少しで出番なのですから、辛気臭い顔をなさらないでください王子」
「分かってるよ。分かってるけど、少しくらい良いだろう?」
「顔合わせの時にはシャキッとしてくださいね」
「分かってるよメイド長」
相変わらず、ボクの事があんまり好きじゃないみたいだねメイド長。
まぁ、普段のボクは政に参加せず、さりとて勉強もせず、色んな階級の者達が入り乱れる騎士団で騎士の真似事をしてる様にしか見えないもんね。
でも、この国の現状を民の様子を見ておくってのは、大事だとボクは思うんだけど……大臣やメイド長みたいに反対する人は割と多いんだよね。
「そう言えばどれくらいの人が来たの?」
「国内外問わず、身分が確約された方々が三十名、市井の者達が十名合計、四十名ですね。顔合わせ後に、リストアップした三十名の者達の詳細をまとめたものをお渡しするので、そちらをよくお読みになってください」
「……国王からは格差なき参加だと聞いているけど?」
貴族や名のある商人の娘達が、三十名、リストアップしたのも三十名、ボクも馬鹿じゃない。
この数値の一致が、意図的なものである事ぐらい見抜ける。
「はい。参加出来ているでしょう?」
何も反論は許さないと言った態度の文官に、思わず頭を抱えそうになるのを我慢して、そうだねと愛想笑いで誤魔化す。
ボクが生まれるより前、この国の経済状況は瀕死だった事は父からよく聞かされていたけど、そこから奇跡の様な復活をしたせいかかつては、自分達だってそうだったのにこの国の政治に関わる者達いや、城仕えの者達は己こそが勝者だと微塵も疑っていない……だからきっと、彼らは『下賤の血など王族に入れる訳がない』と、父の命令を曲解して受け取っているのだと思う。
「時間ですね。準備はよろしいですか?」
「うん、良いよ」
まぁ、事の選択権はボクにあるから適当に、貴族の方々を相手しつつ彼らを怒らせない程度に、市井の人々を残し最後には、誰も選びませんをすれば大方、父の望み通りになるだろうから、そうしよう……はぁ、政治的な考えが染み付いてるのって嫌だなほんと。
「王子様、ご入場!!」
待機場所から、会場まで歩き扉の前に立つと、衛兵が大声を出して扉を開く。
いつもの様に笑顔を貼り付け、愛想を振り撒く様に来てくれた娘さん達に手を振って──あ
「……まさか居るとは思わなかったよ」
当たり前だけど、あの時出会った時より、綺麗に着飾った君はとても美しいねマリナ。
ふふっ、その驚いた顔はボクが王子だと思っていなかったのかな?やっぱり、ボクの演技は中々に上手いらしい。
「王子?」
「っと、ごめんごめん。足を止めちゃったね」
兵の言葉で、ボクが変わらずに彼女に見惚れていた事実に気がついたけど、精一杯の虚勢で彼女を見ながら、微笑みボクは再び歩き始め、用意された椅子に座って、再び彼女を見る。
……あら、今度はプイッと逸らされてしまった、でもボクが君を見ている事に気がついてくれて嬉しいよマリナ。
「ふふっ」
「ンンッ、王子。シャルロッテ第三皇女を見るのは良いですが、あまり露骨になり過ぎませんようご注意を」
「え?あー、うん、そうだね気をつけるよ」
言われて初めて気がついたけど、彼女の隣にはアスモ帝国の第四皇女にして、大女優のシャルロッテが立っていて、ボクとマリナを交互に見て、ニヤッとした笑みを浮かべている……あれ?もしかして、ボクって相当、マリナに入れ込んでる?出会ったばかりの彼女に??
「あらあらまぁまぁ……王子とはどういうご関係で?」
「路地裏で絡まれる時に、助けて貰っただけです」
「なるほど……ワタクシの新しいお友達は、随分と罪作りなお方ですのねぇ」
シャルロッテの楽しげな視線がすっごい、刺さるんだけど、なんなら周囲からは更に嫉妬の視線が刺さるんですけど。
エイダンのやつ、俺を見た瞬間、分かりやすく笑顔を浮かべて手を振ってきやがって……一目惚れか?まぁ、アイツ本当に男か?ってぐらい綺麗な顔立ちと紳士的な性格してるから、好かれて嫌って訳じゃ……って待て待て、俺は男でアイツも男だ!!冷静になれ俺。
「エイダン様も緊張してるご様子でしたし、きっと顔見知りを見て嬉しくなっただけでしょう」
「そうでしょうか?それにしては随分と嬉しそうでしたが……まぁ、マリナがそう言うならそういう事にしてあげますね」
「イイ性格してますね、シャルロッテ様」
「ふふっ」
嫉妬ばかりの視線を向けられるよりはマシだけど……って、またエイダンの奴、俺の方見て笑ってるよ……頼むから辞めてくれ……視線が物理的なものに変わりそうで怖いんだ。
「お集まりいただいた皆様、大変、お待たせいたしました。これより、夢の国アリス、第一王子であられるエイダン様のお見合いを始めさせていただきます。まずは、順番に王子と軽い会話を楽しんでいただきます」
司会進行の言う通りなら、先ずは軽い顔合わせって事か。
第一印象はとても大切だから、本気で王子を落としたい連中は必死にアピールをするだろうな。
「その後、立食にて食事を行い、王子が気になったお相手のところへ直接、向かわれますのでそこでもお話をしていただき、夜になりましたら皆様に調理場を貸し出しますので、何か一品を共同でも構いません、王子へと差し上げ、最後にダンスを行い、お相手の決定とさせていただきます!!」
顔合わせの後の会話で選ばれるって、時点である程度フルイにかけられるって訳だ。
第一印象で、王子の心の中に居場所を作れなかった奴が、その後の料理やダンスで頑張っても、その分野が上手いんだね程度で終わるだろうな、王子の好みの比重が偏ってるなら分からんけど。
「それでは早速ですが、顔合わせの方を始めさせていただきます。早いもの順にお並びください」
「そこは雑なんだって、うわっ!?」
早い者勝ちと言われて、我れ先にと駆け出した奴に後ろからぶつかられ、体格で負ける俺は前に倒れそうになる……油断してたわ、まさかバーゲンセール中の主婦みたいに突撃してくる令嬢が居るとは……
「全くもう、仕方のないお友達ですねマリナ?」
「──あはは、すみませんシャルロッテ様」
凄いな大女優、一瞬、めちゃくちゃイケメンに抱き止められてるんじゃないかって錯覚するぐらい違和感なかったぞ、このお姫様抱っこに似た状態。
「こんなところでライバルに脱落して欲しくありませんし。それに、わざわざ勢いよくぶつかる様な小物に、お友達の美しい顔が傷つけられるのは嫌ですもの」
「シャルロッテ様、お顔が怖くなっていますよ。私如きの為に、減点になりそうな顔はやめてくださいな」
「ふふっ、お優しいのねマリナ」
笑顔は威嚇とはよく言ったもの……怖くて至近距離で見たくないから、辞めて?って言っただけなのでお気になさらずはい。
シャルロッテに降ろして貰い、彼女の方が俺より後に王子と会話するらしく、俺の後ろに並んだ。
「よろしいのですか?私が先で」
そう問いかけるとシャルロッテは、楽しそうに笑って続ける。
「えぇ。だって、貴女の後で王子様に覚えていただければ、それ相応の価値があるって事でしょう?」
「なるほど……やっぱり、格好いいですねシャルロッテ様は」
「あら、ありがとう」
もしも、これが仕事に関係のない出来事なら俺は、きっとシャルロッテを応援しただろうってぐらいには、かっこいいと思う。
でも、マルガの奴から正式に回された仕事……悪いが、失敗する訳にはいかないんだ。
「──でも」
「ん?」
「私も譲れない理由があるから負けないよ」
「えぇ。そうこなくては張り合いがないもの」
俺とシャルロッテの間で、火花が散る……この戦い、負けられない!




